_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 一章 四話 狂い始めた歯車 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 鳴り響く銃の音…… 自分の仲間が撃たれる銃の音…… 今まで何回聞いた事だろう…… いつも思う、俺についてきたばかりに……と。 「マ、マラッサ……?」 銃声は後方からした。 ゆっくりと、ゆっくりとケインは振り向いた。 ケインの目の前には数え切れないほどのウェポンがいた。 そしてそれは、死神の集まりに見えた。 見間違いではあったであろうが、あながち間違いでもなかった。 今もなお、ウェポンが銃を構えていて、黒いウェポンだったからである。 その部隊の中の一体が数歩前に出てきた。 他のウェポンと同様に黒い凡庸ウェポンではある。 造りからすると、グラジアのものではない。 とすると、ミランドルか、レードのどちらかである。 だが、答は一つしかなかった。レードのウェポン部隊なのだと…… ミランドルがこんな事をするはずがない。 ケインの思考は二度目の銃声で遮断された。 そして横にはマラッサ同様、地面を赤く染めて倒れているファイナンがいた。 「ファイナン!」 ケインはウェポンから飛び降りた。 倒れているファイナンに近づき、抱き上げる。 「ファイナン!しっかりしろ!」 「そいつはさすがに無理な話だ……な。俺の事より……」 言葉を言い終わる前に、力無く首が折れる。 静かにファイナンを砂上に置くとゆっくり振り向く。 「何故…何故こんな事をする!お前達は何を望んでいる!  このウェポンか!それならくれてやるからさっさと去れ!」 ところが、帰ってきたセリフはケインの思っていた事とは、大きくかけ離れたものだった。 「そんなものは欲しくない。我等が欲しいのはお前達の命、そのものだ」 「な、なんだと!?」 「お前達は我等がミランドルにとって大きな癌になる」 (ミランドル!?そんな馬鹿な…) 絶対に違うと思っていた事こそが違うとは思わなかった。 「ちょっといいかい?そこの旦那さんよ」 ロバンスが一歩ほど前に出る。 「嘘言っちゃいけないな。お前達がミランドルの兵士だと?  俺は元ミランドルの兵士だ。五年前だがな。  でもお前達がミランドルの者じゃない事はわかるぞ。  ミランドルはそんなに規律の正しいとこじゃないいでな。  兵士はみんな並びたいようにならぶんだよ」 すごい事を言い放つロバンス。 「そ、それはだな。三年前に軍議で決まったのだ」 「馬鹿かお前。あっさり騙されるなよ。そんなボケた国が、どこに存在するんだよ。  軍人のくせにそんな事もわからないのか?」 「あ…」 多分、ケインとあの軍人の言葉は重なっただろう。 ケインは動揺で、軍人は言い逃れるために考えてなかったらしい。 だが、それがまずかったのだろうか。 軍人は合図をすると一斉に他のウェポンが前に出てきた。 ロバンス達、残った発掘屋がケインに近づく。 「旦那、ここは俺達が何とかして食い止める。その間に逃げてくれ」 「馬鹿な事を言うな。お前達を犠牲にして逃げれるか!」 「ここは一人でも逃げて、本国に連絡しないといけない。適任はあんたなんだよ」 ウェポン部隊の照準がケイン達に向けられる。 「そんな事はどうでもいい。私の使命はお前達を殺す事なのだからな。  恨むなら自分達の腕のよさにするんだな」 「まずい、間に合わない!」 「撃て!」 ウェポン部隊の一斉射撃! ケインに襲ってくる銃弾の前に、三つの影が立ちふさがる。 そして、覆い被さるようにケインを包む。 誰なのかは考えなくてもすぐにわかった。 ロバンス、ストレッサー、ミナロイドの三人だった。 「ロバンス、ストレッサー、ミナロイドォ!どくんだ、馬鹿野郎!」 なりふり構わず続く射撃。だが、ケインには銃弾の一つも届かなかった。 ケインに銃弾が届かないのは、常時装備している装甲板のおかげである。 いくらそれがあるとしても、他の三人は背中から受けているので、銃弾を受けている。 体と、装甲板でわずかでも弾の勢いをなくそうとしている考えである。 やはりストレッサー、ミナロイドはすでに力尽きているが、いつまでもケインを庇っている。 ほんのわずか、息のあるロバンス。 「ケインさん…俺はあんた、いや貴方に逢えてよかったですよ。  本当ならここにはいるはずがないんですがね。  俺の命は、貴方の命を守るために今まで大事に預かってきました。  今ここで、この命お返しします。どうか、自暴自棄にならないように…」 それを言うだけのために生を保っていたのだろうか。 言い終わると力なくロバンスもケインを覆い被さるように倒れた。 「ロバンス!!」 覆い被さっている三人を体から離す。 いつのまにか射撃は終わっていたが、そんな事はどうでもよかった。 「ロバンス、ストレッサー、ミナロイド!しっかりしろ!」 当然返事か帰ってくる事はなく、空しく声だけが木霊する。 「なんだ、まだ生きておったのか。仲間を犠牲にして生きるとは、とんだリーダーだな。  まあ、いい。どうせお前も後を追うんだからな」 そういう事は全くケインの耳には届いてなかった。 頭の中にあるのはロバンス達のことだけだった。 「ロバンス!ストレッサー!ミナロイド!ファイナン!マラッサ!」 ケインにはただ叫ぶしかできなかった。 「ロバンス!ストレッサー!ミナロイド!ファイナン!マラッサ!  おおぉぉおおおぉぉぉぉおおぉぉおぉおおぉぉおおおぉおおぉぉ!!!!!」 そして、さらに十数分後、遺跡から出てきたフェンリースはその場の光景に驚いた。 ウェポンの射出口にいるはずのケイン達が、血を流して倒れており、 すでにそれがウェポンであったのも不思議なくらいに壊れた凡庸ウェポンらしき物。 そして、何もなかったかのように堂々とたたずんでいる黒いウェポン『ルシェイフ』。 一体何が起こったのか、全く想像できないフェンリースだった。 まず先にフェンリースは、ケインに近づいていった。 その時はじめてケインの体にある血が、返り血であることに気づく。 「ケイン!……ケイン!どうしたの!?一体何が起こったの!?」 激しくケインを揺さぶる。 するとそのうちケインが意識を取り戻す。 「………フェンリースか?………っつ!」 手を頭に当てる。 外傷はない。気だるさはあるが、動けないほどじゃない。 一つずつ自分の状況を把握していく。 「ねぇ、ここで一体何があったの?やっとの思いで、出てきたら今度はみんな倒れてるし」 みんな倒れてる……その言葉に異常に反応する。 そして、恐る恐る辺りを見回す。 『少し離れたところ』にロバンス、ストレッサー、ミナロイドが、 さらにもう少し離れたところに、マラッサ、ファイナンが倒れているのを見つけた。 「ロバ……ス…ミナロ…イナン………?」 地面を這いながら、倒れているロバンス達の元に行くケイン。 「ちょ、ちょっとケイン?」 ケインの目には光がなかった。吸い寄せられるように這って行く。 「ロ…バンス?、スト…レッサー?、ミナ…ロイド?……マラッサ、ファイナン…?  なんでそんなところで寝てるんだ?早くしないと日が暮れるし?」 ゆっくりと、ゆっくりと這って行く。痛々しさを感じさせながら…。 そして、ようやくロバンス達三人のところに辿り着く。 ゆっくりと、倒れているロバンスを抱き上げる。 「うそだろ?ロバンス………目を開けてくれ…。…………頼む、目を…目を開けてくれよ。ロバンス!」 強くロバンスを抱きしめるケイン。 フェンリースはそれを黙って見てるしかなかった… 「なぜ、なぜこんな事に……こんな事が許されてもいいのか…」 フェンリースには見えなかったが、明らかにケインは泣いていた。 「ケイン…」 「触るな!俺に触るな!触るなぁぁぁ!」 ケインの肩にフェンリースが手を置いたとたん、叫び出した。 「ケイン!……つらいのはわかるわ。でも…」 「つらいのはわかるだと?……お前に何がわかる!?わかるものか!  地上に出たと思ったらすでに一人仲間が死んでいた。また一人死に、  残った奴らも自分より俺を選んだ!自分の目の前で次々と仲間が死んでいくのを目にして……  俺はあいつらを信頼して、あいつらも俺を信頼して、いつも共に行動した仲間が目の前で…  このつらさがわかるか!わかるものかぁ!」 「いい加減に……しなさいよ!」 勢いよくケインの胸倉を掴む。 「ええそうよ、私はいなかったんだからわかるはずないわよ!  確かにロバンスとあなたとの付き合いは私より長いわ。  だからといって、いつまでそんなことしてるつもりなの!?」 そして静かに手を離すフェンリース。 「今ならこの状況見れば少しはわかるわ。何が起こったのかはね。  でも、今しないといけない事はロバンス達の死を哀しむだけじゃないの。  ……本来、こういう言い方は絶対にしたくはないけど……これが戦争なの。あなたもわかるでしょ?  そんな顔しないで。私はそんなあなたは見たくないの…」 「……あいつらは、はじめから俺達を狙ってきていた。俺たちを殺しにな。  最初はミランドルの兵士だと言っていた。だが本当はレードの兵士だった。  ……なぜ嘘をついたんだろうな」 「それはバレないようにでしょ。確か遺跡での戦闘はしちゃいけないってことになってるし」 「だが、はじめから殺すつもりで来たんだ。だったら嘘をつく必要なんてないだろう。  俺達が死んだら誰も証人がいなくなるんだからな」 「あ、でもほら、私がいるでしょ?」 「どっちにしろお前もそうだ。そもそも奇襲なのになぜ名乗るんだ?それが一番気になっている」 クスッ、っと小さく微笑むフェンリース。 それを見たケインは不思議そうな顔をする。 「何がおかしい?」 「なんでもないわ。ようやくいつものケインに戻ったな、と思って」 「………………」 「気にしてはダメ、なんて言わないわ。彼等が死んで一番悲しいのはあなたって知ってるから。  でも、その悲しさを体に溜めないで。あなたは人一倍こう言う事に敏感だから」 「わかっている。………グラジアに戻るぞ。……っとその前にしておかないとな」 この時期を境に、ケインに与えられた人生の歯車が、少しずつズレ始めた。 そしてその小さなズレが、少しずつ、少しずつ大きくなっていくのであった……