_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 二章 一話 ランダムマインド _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「さて、これでいいわね」 手についた汚れを軽く払うフェンリース。 ケイン達の目の前には、五つの小さな砂の山ができあがっていた。 ラグーン遺跡の建物の影に作られたその山は、自分の命をかけて他人の命を守った勇者の墓であった。 ケインはその墓をじっと見つめている。 「………ホントにお前達は馬鹿だ。自分を犠牲にして俺を助けるなんてな。  ……数年前のことだったのにな、お前達と出会ったのは。  今となっては生まれた時から、いやもっと昔から一緒だったように感じるよ。  俺としては、こんな別れはしたくなかった。争いがなくなって、改めてそれぞれの道を進む時に、笑って別れが言いたかった。  一寸先は闇、とは良く言ったものだ。  …………っ、くそっ、レードの奴らめ!このカリは必ず返す!」 そして、五つの墓に感謝の礼を込めて、敬礼をした。 その後、フェンリースを一緒にコクピットに乗せ、グラジアに向かって歩き出した。 場所は変わって、グラジアの、とあるバーに一人の来客が、扉を開けた時に鳴るベルと共に入ってきた。 まだ昼間な所為か、その客以外の客はいなく、ワイングラスをひたすら黙って拭くマスターらしき人物がいるだけである。 実際はマスターなのだが、そんな感じのしない、整った顔だった。 こう言うと誤解があるかもしれないが、グラジアのバーは大抵乱暴な者が来るので、がっしりとした者でないとただ酒などされて、商売ができないのだ。 マスターは、来客が来たのに気がついたらしく、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。 「ん?クレイか。どうした、こんな時間に。とうとうクビになったか?」 かなり親しくあるようで、客に対する態度ではない。 「そんなわけないだろう。ただ近くに来たから寄ってみただけだよ。そうでないとわざわざこんな寂しいバーには来ないよ」 クレイと呼ばれたその人物は、初めて会った人にも、好感の持てる笑いをしながらながら、マスターの前の椅子に座る。 「言ってくれるじゃないか。少なくとも、夜には繁盛してるんだからな。  それにしても、グラジアと敵対するミランドルの人間が『ただ近くに来た』、ねぇ…。何しに来たかわからなくもないけど。  まあ、いくらイヤミな奴だろうが、誰だろうが客だからね。追い出す事もできない。…で、なにか飲むかい?」 なにか飲むか、と言いながら有無を言わさず差し出したのはこのバーで人気の高いカクテル、『エアリアスブルー』だった。 それを一つもおかしく思わず、さっきと変わらない笑顔で飲む。いわゆる、『いつものやつ』というものだろう。 「やっぱりわかるかい?はじめは少しビックリしたけど、すぐに収まったから被害も少なかったみたいだね。期待はしてたのに」 「古くからの友人に、それはないんじゃないか?  それに、あんな事が頻繁に起こってもらったら、この世界は一瞬でつぶれるだろうさ」 「またまた、ご謙遜を。どうせあれに対する対策がはあるんだろう。例えば……っとそれどころじゃなかった。  外、見たかい?言っておくけど、さっきの地震の有様じゃないよ。  驚く事に、ケイン君に指名手配がされてるんだよ。詳しく見てないからよくわからないけど、何かしたのかい、彼」 わずかにマスターの動きが止まる。だがまた普通に動き出す。 「さあね。こっちは放任主義なんだ。あいつが何をしても自分には関係ないさ」 「冷たいねぇ。ホントは心配なくせに……っと」 一気にカクテルを飲み干すと、椅子から立ちあがり、エアリアスブルーの代金をテーブルに置いた。 「まあ、それだけだよ。ご馳走さん。…また来るよ」 「それは遠慮したいな」 また来るよ、ともう一度言って、そのまま外に出ていった。 客がいなくなったため、マスターはさっきの続きをし始めだした。 すぐに手を止めて、ポツリと『あの馬鹿が』とつぶやくと、またワイングラスを拭き始めた。 いつもの通り、門を潜り抜けようとすると、二人の門番がその直前でスピアをクロスした。 「どうした。どうでもいいから通せ」 「わかっています。ご無礼お許し下さい。ですが、急ぎの伝言がありまして、こうして無理のお止めした次第にございます。  ネル・ガイア様が、至急お呼びしています」 「ネル・ガイア様が?」 ネル・ガイアとは人の名前ではなく、役職名である。つまるところ国王である。 現ネル・ガイアは23世である。が、〜世をつける者は誰もいない… (一体なんのようだろうか。というかまだ生きていたのか) ケインの思いもあながち間違っていない。現ネル・ガイアは楽に200歳を越えているからだ。 ウソかホントか知らないが、きちんと書物が残っているのだから不思議である。 ここ数年、床に伏せているという情報があるのも後押ししているが。 「わかった。それではネル・ガイア様のところに向かうとする。勤め、ご苦労であった」 門番に向けて敬礼をすると、そのまま門を通った。 (そう言えば、たしかネル・ガイア様の伝言係がいたな) とは言うものの、今実際にケインが向かっている方向は、ネル・ガイアのいるところではない。 「ケインって、いつも帰って来たら、自分の家じゃなくて『椿』に向かうのね」 「あたりまえだ。あそこが俺の家だからな。今住んでいるとろはただの寮に過ぎない」 ケインの両親はすでに他界していて、マスターが親代わりであるのだ。 いつものように、扉を押して椿に入っていく二人。 だが、いつもこの時間には客で込み合い始めるはずだが、誰もいなかった。 マスターの姿さえもない。 何度かマスターを呼ぶが、テーブルにある手紙に目がついた。 『おい馬鹿野郎。俺はちょっと出かけてくる。多分深夜には帰ってくる。  それまで、きちんとやる事やってろよ。でないと金貰うからな』 ふう、とため息をついて、手に持った手紙を丸めて、ダストボックスに投げ捨てる。 「何が書いてあったの?」 後ろからフェンリースが声をかける。 そして、もう一度ため息をついて、ケインが答える。 「別に。いつもの放浪癖だ。………さて、俺はネル・ガイア様のところに行かないといけない。お前ももう帰るんだ」 そういいながら、ケインは奥の部屋に入っていく。 それじゃあね、と言うとフェンリースも椿から出る。 外に出たフェンリースは赤くなった夕日を見ながら、ぼそっとつぶやく。 「さて、帰ろうかな…」 「こちらです。しばらくお待ち下さい。くれぐれもご無礼のないように」 門番の一人に連れられて、接待室に案内される。 あの後少し休憩を取った後、ケインはまっすぐネル・ガイアのいるところに向かった。 手紙の通り、出かけるまでにマスターは帰ってこなかったが。 接待室で待たされる事十数分、カチャリという音と共に一人のスーツに身を包んだ人が入ってきた。 それはケインもよく知った顔だった。そして、あまり見たくない顔でもあった。 入ってきたのは、グラジア特殊外交官長官クリッシュ・イングランドであった。 かなりの美形で、青く長い髪をしたケインと同じ位の年齢の男だ。 「待たせたかな?」 待たせた事に待ったく気にかけてないような話し方をする。 「これはこれは外交官長官殿ではないですか。まさか貴公が伝言を伝えに来たとは驚きました」 それに対してケインもイヤミをこめたいい方をしている。 実はこの二人、やっている仕事は全く逆ではあるが、なぜかお互いをライバル視している。 同期で軍に入った事もあるだろうが、同じマスターに拾われた者同士だからだ。 クリッシュは政治方面、ケインは軍事方面にその才能を発揮している。 クリッシュはどんどん出世しているのに対してケインはまだ下のほうである。 それはケインの望んだ事でもあるが。 「君と違って私は忙しい身でね。単刀直入に言うよ」 ふう、と一回ため息をついた。 「まさか君がこんな事をしでかすなんてねぇ。サクリファイス様に申し訳ないと思わないのかい?  恩を仇で返すとはこのことだ。ホントに私と違って落ちこぼれだよ」 ふっ、いいながらと髪をかきあげながら言う。 ちなみにマスターの本名はカリス・サクリファイスと言う。 「単刀直入で言うんじゃなかったのか?」 「犯罪者に口答えされるいわれはない」 一瞬部屋が沈黙が走る。と同時に騒がしくなる。 「なんだと!?誰が犯罪者だと?」 スッっと人差し指をケインに向ける。飽きれた顔をしながら。 「君以外誰がいると言うんだい。ちなみに超A級犯罪者だ。過去にさかのぼっても数人しかいない。  別の意味で名誉だ。誇りに思い給え。ついでに言うが、あっさり死刑の宣告を受けるから気にしなくてもいい」 「な、何故だ。何故俺が犯罪者なんだ!」 対するクリッシュは腰に両手を当てて、やれやれといったしぐさをする。 「わからないかい?これだから野蛮人はダメだよ。自分はなにも悪くないとしか思わないからね。  まあいい。教えてあげよう。ラグーン遺跡の破壊及び遺跡周辺での戦闘、殺害。これが君のした犯罪だ」 以前も言ったが、元々ウェポンは神の遺産として崇められていた。今では戦争の道具だが、遺跡に対する思いは今も変わっていない。 遺跡を神の家と言うようにで、それを壊したり、その付近で争いをし、人を殺したりするのは神に対する冒涜とされている。 当然、ケインにもよくわかっていることだが。 「あ、あれはレードの連中が仕掛けてきたんだ。それで…気がついたら皆死んでいた」 言葉を言うにつれて、少しずつ声が小さくなっていく。 「どっちが仕掛けようが関係はない。どうせ両成敗だからね。それに君と違って優秀なロバンス君達を盾にした  その償いも兼ねてね」 「…………」 もうケインの口から言葉が出てくる事はなかった。 部屋の外がなにやら騒がしい事にクリッシュは気がついた。 その騒ぎが少しずつ大きくなっていき、銃声まで聞こえ出した。 「な、なにがおこったのだ?」 予想外の出来事にどう対処していいか、わからなくなってるらしく、おろおろとしている。 扉の前から銃に撃たれて、唸り声が聞こえたと同時に、扉が勢い良く開き、黒い人影が入ってくる。 その人影は部屋を一目して、目的の物を見つけると、それに近づいていった。 「ケイン!何してるの!?」 ケインは自分に声をかけてきた方に目をやると、そこにはフェンリースが立っていた。 戦闘用の黒い服を着て、片手には銃が握られていた。服からは硝煙の匂いがした。 そして、もう片手にはケインの胸倉を掴んでいる。 「うぐぅっあ!」 事もあろうか、フェンリースがいきなりケインを殴り飛ばした。 無防備状態で食らったパンチで壁際まで吹き飛ばされたケイン… 「だぁかぁら!何してんのっていってんのよ。下でマスターが待ってるから早くいくわよ!」 「…帰って、きたのか?」 すぐ側にあった窓を開ける。この接客室は十階に位置する。下から涼しい風が上がってくる。 「ここまでやったんだから、私もあんたも同じ手配になるだろうから、さっさと降りる!」 襟首を掴んで、窓の下まで移動させた後、フェンリースが行動に出た。 「はい、さっさと降りてね〜」 言い終わるのが先か、行動するのが先かどっちか良くわからないが、ケインを窓の外に放り出した。 「え?」 何が起こったかわからないまま落ちていくケイン。 きちんと落ちていく事を確認すると、フェンリースはくるりと振り向いた。 クリッシュに向けて、にやっと妖しく笑うと親指を下に向けた。 そして、とうっ、といいながら同じく窓から飛び降りた。 後に残されたクリッシュはただ、ぼぉっとする以外になかった…………………………