_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 二章 二話 悔恨×決意×旅立ち _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 太陽がサンサンと輝く中を、一台のサンドバギーが走っている。 乗っているのは一人、ケイン・セイガードだけだ。 話す者がいない為、口を開く事はない。 向かっている方向は北、ミランドル方面。実際は気が向かなかったが… (全く、どうなっているんだ。昨日までは普通に、いつも通りの生活をしていたのに、今ではなんだ。  いろんな事が起こって、何が何やら全然わからない。まあ、今考えても仕方がない。後からゆっくり考えよう。  それにしても気がついたら落下してるし…) (ロバンス、ミナロイド、みんなすまない。俺が不甲斐ないばかりに) とは思っているものの、今自分が見ている光景は、よく理解できない。 涼しい風が何とも心地よい。…風?部屋にいたはずなのになぜ風が? そして、落下しているという事に気がついたのはその数秒後であった。 「ケ〜イン〜〜!」 自分の名前が呼ばれた方向、すなわち上であるが、見ると一人の女性が同じように落下している。 黒服、黒髪の女性…フェンリース・アドミラルである。 自分に起こっていることが理解できてないのか、なぜか笑っている。(後に張本人とわかったが) 「一体何が起こった?なぜ落ちている?」 「簡単よ。私が落としたから。で、時間がないから単刀直入で言うわ。  下にマスターが車用意してる。それに乗って急いでミランドルに向かってね。  あ、そうそう、私はきちんとパラシュート持ってるけど、あなたはないわね?  こればっかりはどうしようもないから、自力で何とかしてね」 そう言い終わると、フェンリースは、えいっ、とひもを引っ張ると、パラシュートを開いた。 その時はじめて、ケインは自分が地面に正面衝突するであろうと気づき、 そして同時に、地面が目の前十数メートルに近づいているのに気づいた。 フェンリースはパラシュートを開いたまま、風に流されて、すでに遠くに見えた。 普通の人間だったら、その後何もできずに正面衝突していただろうが、ケインは普通の人間ではなかった。 ため息をつくと同時に、腰につけていたナイフを抜き、建物に突き刺した。 摩擦でナイフから火花が散るが、それに構っているまもなく両足を建物につける。 何とかして止まろうとしているが、それまでに速度がつきすぎてるので、容易にはスピードは遅くならない。 地上五メートル付近に達すると、急に腕に力を入れて、ナイフを支点にし、全力で建物の壁を蹴り上げ回転した。 落下方向と逆に力を入れて、少しでも落下スピードを抑えるという考えだ。 ナイフは過剰な下方向への力に耐えられず折れたが、ケインは思った通りの動作ができた。 そうして自分の体が逆さになったと同時に、折れたナイフを離す。 慣性の法則により、さらに回転し、背中に隠してあった別の二本のナイフを手に持ち、再び壁に突き刺し、 地面に到達する直前に腕に力を入れて、再び壁を思いきり蹴り上げ、飛び上がった。 幾分かスピードが衰えてたようで、大きな音を立てて地面に降り立ったが、体はその衝撃に耐えた。 しかしそのつかの間、目の前にはライトをつけた一台のサンドバギーがあった。 すかさず構えたが、バギーから見知った顔と声が現れたので構えを解いた。 「ケイン、話しは後だ。さっさと乗れ!」 見知った顔というのは椿のマスター、カリス・サクリファイスだった。 すでに暗くなった道を場違いであるサンドバギーが走る。 「マスター、どこ行ってたんだ?」 いつもは無愛想なケインだが、カリスの前では柔らかい態度になる。 カリスは運転してるため、視線を一瞬ケインに向け、すぐ目を前に向け、そのまま話し出した。 「おい馬鹿、お前何してんだ。  俺が帰ってきたらリースがいる。慌てて近づいてきたと思ったら、『ケインが危ない』だとさ」 「……あんたには関係のないことだ」 急にまたいつものように無愛想になる。 長い沈黙の後、ケイン達はグラジアの城門に辿り着いた。 そして、そのままグラジアから出た。門番はいない。あらかじめ、カリスが処理していたのだろう。 グラジアから出て、少し離れたところでカリスはバギーを止め、話し出した。 「とにかくお前は今追われる身だ。このままグラジアに残ったら、ただ捕らわれるだけだ。  このままミランドルに行け。クレイには言ってある」 キーはさしたまま、バギーを降りた。 だが、ケインは助手席から一向に動こうとはしない。うつむいたままである。 「どうした、早く行け」 それでも動かない。 カリスは頭をかきながら深い深いため息をついた。 「いきさつはリースから聞いた。今のお前が何考えてるかもわかる。だが、お前の気持ちは俺にはわからん。俺はお前じゃないからな。  だが、これだけは言えるぞ。お前は馬鹿だ。それもどうしようもないくらいな。  今、お前が処刑なんてされたら、ロバンス達は何の為に命をとしてまでお前を守ったんだ。  今まではお前の命はお前だけの物だった。死のうがどうしようがお前の勝手だった。  …だが、今は違う。お前の命はお前だけの物じゃなくなった。お前はもう生き続けなけりゃいけない義務がある。  それがロバンス達にできる唯一の償いだと俺は思うが……  ロバンス達を思うなら生きろ、ケイン。あいつらの分まで。  だが、それでもなお死にたいなら、あいつらの戦友、そして敵同士だった俺が……………おまえを殺す!」 カリスの言動が本気であるのは、発する殺気からもわかる。 腰につけてあった銃をゆっくりと抜き、銃口をケインに向ける。いつでもケインを撃つことができる。 数秒後、うつむいていたケインは、ゆっくりと空を見上げる。 「…今日は星がきれいだ。今までは星を見上げる余裕なんてなかった。  ……なあ、マスター。俺は他人の命を貰ってまで生きるべきに人間なのか?  ロバンスは俺に『あんたは死んじゃいけない人だ』と言ったんだ」 「んなこと俺に聞いて、俺がわかるか。だが、そう言ったんならそうなんだろうな。  いや、そう信じてみればいい。少なくとも死ぬべき人はいないと俺は思うからな。  それからな、あいつが最後になんて言ったか当ててやろうか。  俺達の死を気にすんな、とか、自暴自棄におちいるなといっただろ」 ケインは思いきったようにバギーから降りる。そして、自分に銃口を向けているカリスの方を向き、一言いった。 「俺を殴れ」 カリスは笑いながら銃をしまった。 そして、ケインに近づいた。 「歯を食いしばれ。…いくぞ!」 ガッシィ… カリス渾身のパンチがケインを打つ。 威力は派手に飛んだケインを見れば一目瞭然である。 そしてカリスはケインに追い討ちをかける。 「おりゃぁ!」 二発目、三発目もヒットする。 今度の二発は何とかこらえることができた。 「こう…いう時は……一発にするもんだ。くそマスターぁ!」 よろけながら言うと、ケインも応戦し始めた。 もはや、友情の拳合せではなく、二人とも本気でやり始めた。 長い間のケンカ末、二人とも地面に横たわっている。 顔の腫れから、どのくらいやっていたかがわかるくらい痛々しかった。 「おい馬鹿、吹っ切れたか?」 荒い息をつきながらカリスがいう。 「ああ、おかげさまで」 ケインも同じように荒い息をついている。 ゆっくりカリスは起き上がると、グラジアに向かって歩き出した。 「あ〜、いってぇ。それとな、俺はまだやる事が残ってるからまだグラジア残る。お前はクレイを尋ねろ。俺の知り合いといえばわかる」 それだけ言うと、後は何も言わずに去っていった。 ケインはそのまま横たわっていた。 冷たい夜風が気持ちよかった。 「そう言えば、あいつと会った次の日に、今と同じように殴り合いしたな……  それだけじゃない。何かあるたびにやってたよな」 ケインは自分の目を腕で覆い隠す。 「そういえば、昨日も、やった、ばかりだ。……多分、酒に酔って、今日も、やってた、だろうな……  明日も、明後日も……そして、そしてずっと……で、も…もう、できないんだ……  俺は、まだ、お前達に、言ってない事が、あった、のに……」 ケインの言葉に嗚咽が混ざり始めていた。 「だが、今は、まだ、言わない…すべ、てが、全てが、終わるまで、は……  終わったら、全てが終わったら、お前達の、お前達の墓前で、言う、から、待ってろ……  …………っぐ、くそ、くそぉ、…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 その夜、両親がいなくなったとき以来の涙を流した。 一度流れ出した涙は、枯れるまで流れ続けた……………… 砂を巻き上げてサンドバギーが走る。 ミランドルに着くにはかなり時間がかかる。 その間は暇なので、今のうちにケインは今までの状況をまとめ始めた。 (俺達は軍部<うえ>に言われて、ラグーンの何度目かの探索を命じられた。  多少気になる事はあったが、無事にウェポン発見。そして帰還しようとした。そこまではいい。  その後、レードのウェポン部隊と遭遇。…遭遇?いや違う。奴らは待っていた。  そこから出てくるのがわかってたように。本来の出口はあそこではないはずだ。  百歩譲ってわかっててもいい。が、問題は奴らの言ってた言葉だ。  『目的はお前達の殺害にある』  確かに俺達はいくつもの遺跡を巡ってきた。だが、マークされるほどだとは思わない。  俺達を殺しても、かわりなんていくらでもある。  そして、俺とリースが帰った頃にはすでに容疑がかかっていた。  奴らの中に生き残ったのがいたとしても、グラジアに向かうはずはない。  だとしたら一体誰が?  ……これだけから結論を出すのは早いかもしれないが、この状況で考えられる事は一つ) と、ケインの思考はそこでストップした。いや、ストップさせられた。 目の前に数体のウェポンが、何かを追っているからである。 見覚えのあるウェポンだった。なにせグラジア製の凡庸捕獲用ウェポン<ホールド>だったからだ。 だが、彼等の目的は少なくともケインではなかった。追っている方向がケインと逆方向だったからだ。 ケイン自身もグラジアに追われる立場だったから、出ていったら自分自身が困ることになるだろうが、 その時は、なぜか助けないといけない気がしたため、スピードを上げて始めた…………