_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 二章 三話 飛べない人は、ただの人!? _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ハァハァ、ちょ、ちょっと何でボクが追いかけられないといけないんだ? ただ砂漠歩いてただけじゃないか。君達早とちりしすぎだよ! あ〜、もう鬱陶しい。こんな時飛べたらすぐに振り切れるんだけどなぁ…… ま、無い物をうらやましがってもしょうがないけど…ってそんなこと考えてる場合じゃない! グラジアとミランドルの国境付近、三体のウェポンが何かを追っているのをケインは見つけた。 よく見ると、追いかけられているのは人であることがわかった。 こんなところになぜ人がいるかはよくわからないが、黙って見過ごすほど非道ではない。 だが、相手はウェポンである。サンドバギーで何ができようか。 「コラそこの坊主、とって食うなんて言わないからおとなしく止まりなさいよ!」 「誰が坊主だ!ボクは女だよ!」 「え〜、嘘でしょ!?」 聞き取っている言葉からすると、とりわけ危険な状況ではなさそうだった。 そもそもこんなところに配置されてるウェポンなんて、そんじょそこらの軍用ウェポンとは違って すでにスクラップ一歩手前の物であり、当然乗っているのも窓際族であることはわかっていた。 しかし、いくらスクラップウェポンだとしても、捕獲専用なのでいまいち手が出せないでいた。 追いかけられている少女(らしい)は器用にウェポンの伸縮アームから逃げている。 伸縮アームは文字通りウェポンのアーム部分が伸びる。 そのため関節部分も多く、人より器用な動きが可能なのである。(あくまで腕だけを見ればだが) ウェポンの方も、殺すつもりはないので動きが鈍いのも関係してるだろうが。 ここは砂漠である。暑さが著しく体力を奪う、命を飲み込む黄顎<ケルベロス>なのだ。 追いかけられるという緊張と、走っているという体力減少を続けていると、あっという間に死に至る。 心の中ではそう思いつつも、実行に移すことができないケインだった。 帽子を深くかぶるケイン。考え事をしている時にする癖である。(きちんと前は見ている) いつもカリスに言われていることを思い出している。 『相手の短所を早く見抜くことが大事』 「相手の長所を見抜くことが大事」 『相手の死角を利用しろ』 『長所は短所でもある』 この四つである。 一つ目、相手の短所…殺す気がないため、動きは非常に堅い。論理行動型には思えない。 二つ目、相手の長所…伸縮アームのため、捕獲距離は非常に長い。 三つ目、相手の死角…ウェポンの死角は人と同じ後ろ及び上。上の場合捕獲されるし、行動できない。 四つ目、さすがにまだわからない。 簡単に整理していると、ふともう一つ思い出した。 『悩むくらいなら行動しろ』 それがカリスの口癖だった。 『悩みは動きを鈍くする。イタズラに物事を考えるくらいなら、先に行動してから臨機応変に対応しろ』 カリスが発掘屋として長く続けていられたのは、こういう状況での判断力が優れていたからだ、とケインは思う。 深くかぶった帽子を上げる。 そして勢いよくアクセルを踏み、スピードを一気に上げていった。 「っそぉ、キリがないなぁ。これならどうだ!」 そういうと少女は止まると、振り返って両手を胸の前に構える。 両手の間に赤い光が灯る。 「飛んでけ、炎!」 エーテル界から物質化させた炎がウェポンに向かって放たれる。 「ちょ、ちょっと聞いてないよ!」 突然の出来事に驚いている。 「聞かなかったからではないですか?」 驚いているのとは別のウェポンから、冷静なツッコミが帰ってくる。 「……リカルド、あんた今日の晩飯抜き」 ウェポン同士の通信なので、外には聞こえてはいない…… 炎がウェポンに接触すると、以外にもかわいらしい音を立てて消えた。 「あれ?おかしいなぁ」 気まずそうに苦笑いをする。 そんなことをしているうちに、瞬く間に三体のウェポンに囲まれてしまった。 少しずつその間隔は小さくなっていた。 「こりゃまずいかな?アハハ……」 「観念するのよ、あんた」 今度はきちんと外に向けて、発している。 「アネさん、一気にやった方がいいと思わざるを得ないことは絶対にないと思います」 「急がば回れ。今逃すともう捕らえられません」 「リカルド、言いたい事はわかるけど、ことわざの使い場所間違ってない?」 「百害あって一利なし。気にすることはありません」 もうツッコむ気にもならなかった。 じわじわと幅を狭めてくる。 凡庸捕獲用ウェポン<ホールド>は複数で目標を捕らえるときに、一番効果を発揮する。 伸縮アームを繋げ、目標を囲むことができるからだ。 今、まさにその瞬間、ウェポンの足元から一台のサンドバギーが突っ込んできた。 少女の手前でうまく止まると、「乗れ」の一言を発した。 この場をどうしても逃げたかった少女は、言葉の通りに従った。 そして、凡庸捕獲用ウェポン<ホールド>の足下を抜けてその場から早急に去っていった。 「……………………………………………」 「…………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………」 後に残させた三人は、何が起こったのか理解できなかった…… ぽつりと(ぽつりか?)凡庸捕獲用ウェポン<ホールド>の一体が言葉を発した。 「いなくなっちゃった感じが、しないこともないこともないような気がするんだけど……」 「お前達、今晩の飯抜き……」 とりあえず追跡はされてないようだが、幾度と無く後方を振り返って確認をする。 完全に巻いたと確信したケインは、速度をゆるめる。 「それにしても、あっさりと事が済んだな……」 今まで自分が悩んでいたことが馬鹿らしく思えてきたケインだった。 ケインの隣には、先ほど乗せた少女が黙って座っている。 長い髪をいくつもに束ね、亜人特有の黄色の目をしている。 多少古い靴を履いているのが、どれだけ使っていたかが物語っている。 その場の勢いで乗ったが、今度はなにやら安易過ぎたのではないかと不安になっていた。 「そんなに怖がるな。別に下心があったんじゃない。気が向いただけだ」 少女の不安に気づいたケインは安心させようと声をかけた。 だが愛想のない声に、余計に緊張させてしまったらしく、さらに体を縮ませた。 「で、向かう方向はこっちでいいのか?違うなら言え。下ろすから」 「………い、いえこっちでいいです」 ちょっと声を震えさせながら、答える少女。 「まあ、どうでもいいが礼くらい言ってもバチは当たらないと思うがな」 「あ、ありがとうございます……」 ケインは何か話そうと思ったが、余計に緊張させると思い黙っておいた。 長い沈黙…… 「あ、あの…」 「なんだ?」 「い、いえ、何でもないです…」 「………」 こういうとき、リースかカリスがいたら、と思うケインだった。 「言いたいことがあったらさっさと言え」 少し間があったが、少女は少し話した。 「どうして助けてくれたんですか?危険かもしれないのに」 「人を助けるのに、わざわざ理由なんてあるか。言っただろ、気が向いただけだとな」 「いい人なんですね」 ほんの少しだけ空気が和んだような気がした。 「……悪い人と思ってたのか?」 「す、すこしだけ……」 「………」 少女は少し照れくさそうに言った。 ケインは特に気にする様子もなく、逆に正直な子だなと思った。 今の会話を気に、少女も緊張が解けたのだろうか、少しずつ口数が多くなってきた。 自分が今何をしているのか、どういういきさつで追いかけられたのか。 そういったことを話していた。 会話と言うより、少女が一方的に話して、ケインはそうか、とか、ああとか言うだけだった。 「あ、言い忘れてた。自己紹介がまだだったね。  ボク、ミーク。有翼人種<バード>だよ。と言っても『元』だけどね」 「有翼人種<バード>?あの自由に空を飛べたという?」 昔、カリスに聞かされたことを思い出した。 有翼人種<バード>:文字通り翼の生えた人種である。機械などに頼らずに自分の力だけで空を飛べたという。 だが、かなり昔に人間が人種改良をしていたために羽が退化してしまい、 今では普通の人間とはほとんど変わるところはないらしい。 が、昔大虐殺があり、その数は皆無だと言われている。 ケインが子供の時には、あこがれの一つであった。 「俺はケインだ。軍人だったが今は追われる身さ」 ミークも特に気にした様子はない。 「同じ追われる身だね。ま、仲良くしようよ」 長い間はなしていて気がついたが、このミークはかなりにぎやかな子だった。 女であるのに自分のことをボクと呼ぶらしい。 身近にいないタイプだったため、なぜか新鮮に感じてしまうケインだった…… ケインの向かう方向はミランドル方面。話によるとミークは世界中を回っているから どこへ行っても構わないそうだ。 グラジアに行こうと思ったが、ちょうどサンドバギーがあるので それにしたがっていくというのがミークの考えらしい。 ミランドルに行くためには森の中を通らなければならない。 が、そこにたどり着くころには日も十分に暮れたので、 森の中には入らずにサンドバギーの中で夜を明かすことにした。 パチ、パチパチ…森の木を折り、火をつけた木からはじく音がする。 サンドバギーの中にはいろいろな物が入ってたようで、食べ物にも困らなかった。 カリスが前もって準備していたらしい。 ちょうど夕食をとったあとだった。 「ねえ、ケイン。どうして軍人なのに追われてるの?」 ミークとしても聞いてはならないことだとは思ったが、どうしても聞きたかった。 さっきは気にしてない様子だったが、何というか好奇心に勝てなかったのだ。 ケインは静かにたき火の火を見ていた。いつも以上に帽子を深くかぶって…… 「あ、いいんだ。言いたくないなら無理にとは言わないから、あははは……はぁ」 気まずい雰囲気が辺りを包み込む。どうしよう、とミークが思っているとケインが口を開いた。 「……仲間を、見殺しにしたんだ」 「え?」 突然ケインが話し出したので、ミークは驚いた。特にその内容に…… 「だから軍議で処刑が決まった。俺はそこからも逃げ出した。だから追われてるんだ」 ケインは起こった出来事を全て話した。 会ってまだ一日もたっていない他人に…… 不思議と言葉が出てきていた。 「そっか、そんなことがあったんだね。ボクもよくわかるよ、その気持ち。  ボクもね、昔同じようなことがあったんだ。記憶には薄いけどね。  さっきボクは有翼人種<バード>だっていったよね。  今の僕たちは、昔の人の残した汚点だって言われてね、種族全体が殺戮されたんだ。  その時ボクは六歳で、何が起こったかわからなかったけど、気がついたら家族も、友達もみんな死んでたんだ。  死んだとわかったのは、かなり後になってだけどね。動転してたようで…  その時お父さんとお母さんが、ボクを守るように覆い被さっててね。  今ボクが旅をしてるのは、まだボクのように生き残っている同種族を探すことなんだよ。  こう言うことは忘れちゃいけないけど、いつまでもそれにしがみついてても体に毒だしね」 ミークは体を小さくしていた。 「悪かったな。昔のいやなこと言わせて」 「何いってんだよ。ボクが言いたかったから言っただけだよ」 ケインは同じようなことがあったミークを見て、それでもくじけることなく前向きに生きてるのに なんて自分は小さいんだろう、後ろしか見ないんだろう、そう思う。 年齢も自分より若いはずなのに、ミークを自分より大人と感じた。 「ありがとう」 「ん?なにが?」 ケインの考えてることがミークにわかるはずもなく、頭をひねっている。 「見たときからおかしいね、ケインは。あはははは」 「悪かったな……」 それからまもなく、二人床についた。 眠い…かなり眠い。起きたくない。起こすなよ。久しぶりに長話したからな。 誰と?誰?俺?俺は誰だ? ……スレイン、スレイン起きてよ…… そうだ俺はスレインだ。大工の頭領のスレインだ。 昨日は遅くまで飲んでて寝てないんだ。起こさないでくれよ。 ……自業自得でしょ。いいから早く起きてってば。 今日は仕事入ってないだろ。だからゆっくり寝させてくれ。 ……いいから起きろってば。掃除の邪魔なんだよ。ほれ、どいたどいた。 ちっ、しょうがない。またあとで寝るか。 うっすらと目を開ける。光がまぶしい。うっすらと開けた目をまた閉じる。 帽子を深くかぶると、ゆっくりと目を開く。 今何時だ?ここは……? 「あ、ケイン起きたんだ。おはよう」 明るい声。さっきの声とは違う。別人みたいな声だ。 ケイン?俺はスレインじゃなかったのか? いや、俺はケイン・セイガードだ。 「起きてたのか、ミーク」 光に何とか慣れたらしく、帽子を元に戻した。 「少し前だけどね」 ミークは光の方を向いて背伸びをしている。 ケインも体を伸ばす。あまりしない格好で寝たので体が痛かった。 ゆっくりしているわけにはいかず、サンドバギーから荷物を取り出すと、それを背負い森に向かって歩き出した。 「行くぞミーク。目的地までまだある。森の中で夜は過ごしたくないからな」 「は〜い、わかってるよ〜」 ケインの後についてミークがついていく。 目指す場所はミランドル……