_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 二章 四話 自然の驚異 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ じめじめじめじめ…… この森の中は湿度が高い。特に砂漠と接してるので、その効果は抜群である。 袖の長い服を着ていると、汗と湿気で雨に打たれたような感じになる。 道というものがないに等しいので、車やウェポンの使用は無理だ。 そんな中を二人の人間が歩いている。 「暑いよ〜、ケイン。何とかならない?」 歩き出してから、何回目かすでにわからない言葉である。 額に浮かんだ汗を拭いながら、ミークはケインに問う。 その度にケインのする反応といえば毎回同じ、我慢しろ、だった。 森の大きさはそう驚くほどのものではない。 あくまで大陸の比率からして見てだが… 歩くと数時間かかるもので、今二時間に達したところだ。 「あと半分だ。もうすぐしたら涼しくなる」 ケインの口数も少ない。 元々口数の多い方ではないが、やはり暑さに参っているのだろう。 入るときに来ていたジャケットも今は彼の腕に抱かれている。 持ってきたボトルの中に入っていた水も、もう三分の一に減っている。 グラジアから出たことのないケインは少し自然をあまく見ていたらしい。 ミークもまたミランドルには海から入って出たため、この森は知らなかった。 しかし、このまま行けば、何事もなく予定通りに着けるはずだった。 その時ミークは不思議な音を耳にした。 「ケイン、なにか聞こえない?」 ケインも一緒になって耳を澄ます。 「なにも聞こえないぞ」 「で、でもあっちから足音のような音がするよ。小さいけど多い」 そういってミランドル方面を指差す。 ケインはハッとなって、地面に耳をつける。 すると人の物ではないが、確かに足音は耳に届く。 音からすると小さいが、その数は把握できないほと多かった。 人間の足音ではないので、とりあえずケインは安心した。 「人じゃあないな。だが、この数は厄介だ。どこか身を隠すところはないか?」 と言ったケインだったが、言った後自分の馬鹿さに頭を悩ませた。 「隠れるところって言っても、沢山あるよ」 そうなのである。この森は普段から入る人間なんていなく、あるのは獣道だけで、 他は高い雑草が生えていて、見を隠すには持って来いのところだったからだ。 しかし、ケインはなにかいやな予感がしてたまらなかった。 底知れぬ不安と言うか、いまこの場にいてはならないという思いで一杯だった。 「ミーク、木に登るぞ。何かいやな予感がする」 「はぁ?」 突然の事で何を言ってるのか理解ができないミーク。 後になって、このいやな予感がとてもいいことに思えていたという…… よく理解はできなかったが、それでも言われたとおりに木に登る。 それから数分たっただろうか…… 地面が少しずつ揺れてきたのに気がついた。 「?」 ケインとミークはじっと何が起こるのか息を潜めていた。 万が一の事を考えて、戦闘準備はできていた。 森の奥で土煙が上がる。それは次第に大きくなる。 そして二人は自分の目を疑った。 それは何千何万もいると思われるワイルドラットの群体だったからだ。 それも驚くほどのスピードであり、周りにある草にも気にせずただひたすら真っ直ぐ進んでいく。 それから数分間、ワイルドラットの大行進が行われていた…… 今ここに、滅多に見ることのできないケイン・セイガードの点目があった。 ミークの方は、あまりのことに体がひくひくと痙攣している。 二人がその後、自分を取り戻すのに数時間必要とした…… 「あ、あのさ、あれっていったい何だったの…?」 木から降りた、いまだ調子の戻ってないミーク。 「お、俺が知るわけないだろう…」 同じく調子を取り戻してないケイン。 「つまり、自然は恐ろしいということだろう……」 そう言いながら焦点の定まらないまま歩き出した………… 数時間後、ケイン達の目に明るい日差しが映る。 あれからのケイン達の行動は奇妙であった。 いつなん時さっきのようなことが起こるか不安で、一歩歩くごとに後ろを振り返ったり、 耳を澄ましたりして、妙におどおどしていた。 実際その甲斐あって二回ほど似たようなことにも対処できたのであったが。 「ケ、ケイン、やっと出れるよ…」 実に疲れた声をしている。 「安心するな。最後に油断したために死んだ奴もいる…」 これが戦争だ、といわんばかりの口調である。 結局何も起こらなかったが……… 森の中にいたときは気がつかなかったが、実際外はすでに夕日が照っていた。 もう砂漠ではないのでサンドバギーのような特別な物はいらないが、ミランドルまでまだ距離がある。 このままでは野宿をするハメになってしまうため、どこか一晩でも止まれるところを探そうとする。 少なくとも目に見える範囲には何も見えない。 仕方ないので東の山に沿って歩くことにした。 ミランドル領土、ミランドル本国の北から南西にかけて連なる山脈がある。 それはそっくりレードとの境目にもなっている。 この大陸の北部に位置するミランドルは、南部と違って草原に囲まれている。 それゆえ砂漠のように守りになるようなものはないが、この山脈と 南西にある森によって外部からの進入を阻止している。 そして、ミランドルの南部に、マリンという小さな村があった。 「いい、みんな!今日は、今日こそはこの山を登り切るのよ!気合は十分かな!?」 手にした鉄の棒を勢いよく地面にたたきつけて、仁王立ちのような格好をしている。 へそにまで届かない黄色い半袖のシャツ、黒い短パンをはいている。 緑色の髪を首の辺りで結び、髪と同じ緑の瞳を持って。 彼女の目の前には年の頃8〜12才くらいの少年少女が6人ほど並んでいる。 「おー!!」 勢いの良い返事が返ってくる。 「ねえ、ファシーお姉ちゃん……」 その中の一人の少年が遮るように、小声で目の前の女性に声をかける。 「なに、ケルビン」 ファシーと呼ばれた女性は、声をかけてきた人物、その女性の弟のケルビンに目を向ける。 ケルビンは妙におどおどしている。 「今日は、やめた方がいいんじゃないかな……?」 「なんで?」 「えっと…今日はなんか天気悪いしさ、また地震が起こったら大変だし…」 ちなみに今日は雲一つない天気だった。 確かに最近はよく地震が起こる。それもファシー達が山に登ろうとした時によく起こる。 しかしそれを恐れていては真の登山家にはなれない、というのがファシーの考えである。 実際、真の登山家はそう言うことを真っ先に考えるものであるが。 「ケルビン、そんな弱気じゃ私みたいに強くなれないわよ」 なれなくていいよ…と心の奥底で思うケルビンだった。実際に口に出すことはできない。 「それじゃあ、出発!みんな私についてきなさい!」 6人は勢いよく、1人はうなだれながら山を征服しに行った…… それから数時間後、目指した頂上まであと半分という所に来ていた。 数日前に来たときもこの辺りに来たが、今日はそれ以上いけそうだった。 「よ〜し、ひとまず休憩。きちんと水分補給と栄養をとっておくように」 そう言うと持っていたバッグからボトルと食物を取り出した。 それはそこにいるみんなも同じである。 ただ一人をのぞいて。 「どうしたの?ケルビン。きちんとしてないと途中で倒れるわよ」 ケルビンは口を開くこともしなく、うつむいたままである。 「ケルビン?体の具合が悪いの?」 頭を左右に振る。 「それだったら何?姉ちゃんに言ってみなさい。ほらドンと来なさい」 「な、なんかイヤな予感がするんだ。このままファシーお姉ちゃんがいなくなるんじゃないかって」 「?」 「ファシーお姉ちゃんはいつまでもボクと一緒だよね?いなくならないよね?」 「………当たり前じゃない。何言ってるの?」 優しく頭をなでるファシー。 その風景を見ていたほかの子供達がやってくる。 「ケルビンずるいぞ。俺だってファシー姉ちゃんが好きなんだぞ」 「あたしだって」 「ボクもだよ」 「アタシもなでなでして欲しい!」 「あははは、私ってモテるのね〜。モテる女ってのはつらいわね」 グラ…… 「?」 ファシーは今何かが起こったのに気がついた。 グラグラ…… 「地震!?」 そう認知した瞬間! ドォォン! 地面が一気に揺れる。今いる場所は平らなところにいるので、下に落ちると心配はない。 「みんな、立っちゃダメ!頭を低くしてしゃがみなさい!」 子供達は急な事で動揺していたが、これがはじめてではないので行動に移す。 ドドォォン!! もう一度大きく地面が揺れる。 「うわ!」 その時ケルビンの体が一瞬浮く。地震はその一瞬を見逃さなかったかのように、ケルビンの体の自由を奪う。 ケルビンの体は崖方面に移動させられる。 「ケルビン!」 ファシーが手を伸ばす。だが、空しくもそのては空を切る。ケルビンの体がファシーの視界から消える。 「ケルビン!!!」 揺れはまだ収まっていない。それにも関わらずファシーは立ち上がる。 崖の所にケルビンと思われる手が見えたからだ。 「お姉ちゃん、助けて……」 案の定手を掛けていたケルビンにゆっくり近づく。 「しっかりしなさい、ケルビン」 ファシーはケルビンの手を掴む。 ゆっくりと引き上げはじめる。 運の悪いことにその時もう一度大きな揺れが起こる。 今度ばかりはファシーも体勢を崩す。 前屈みになっていたので、余計に前に傾く。 後は重力に引かれるままである。 (このままじゃ二人とも落ちる。こうなったら) ファシーはケルビンの手を強く掴む。 そして、ケルビンの手を思いっきり引っ張る。 自分を中心にして、遠心力でケルビンを引き戻した。 しかし、当然ファシーはその反作用のために、無条件で崖に向かわなければならなかった。 「ファシーお姉ちゃん!」 「来ちゃダメ!私はだいじょうぶだから!」 そう言いながら、ファシーの姿は谷底に消えていった。 「ファシーお姉ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」 ケルビンの声はいつまでも響いていた。 「どうだった……」 大きないすに腰掛けた、黒いマント姿の男の発した低い声が部屋にこだまする。 その部屋には二人の人物がいるだけである。 もう一人は見た感じでは人ではある。だが亜人のようにとがった耳、瞳はディープブルー。 鮮やかな色をした緑色の髪をもち、女性と見間違えそうで、 バンダナを付けているため、かろうじて男とわかるような西端な顔立ちだった。 「仰せの通りにやりました。あのままですとあれに命はないかと……」 発した言葉はイヤに低く、冷たい声だった。 その言葉を聞くと、黒マントの男は口元をつり上げた。 「行動の邪魔になる者は消せ。そしてあいつを早くここにつれてこい。我慢の限界だ……」 「御意に……」 黒マントの男に一礼をするともう一人の男は素早くその場から立ち去った。 「……もうすぐだ。ロキよ、期待しているぞ……  クク…フフ、ハァッハッハッハッハッハ!」 一人になったその部屋で、黒マントの男は高笑いを上げていた……………