_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 第一幕 二章 五話 なにがなんだか…… _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/            ―――前回までのあらすじ――― ミランドル領のマリン村に住むファシーという女性は、村の子供達を連れて南の山に登る。 丁度中間地点に差し掛かって、休憩をしていたときに急に地震が起こってしまい、 弟のケルビンを助けるために、自らを犠牲にして変わりに谷底へ落ちていった。            ――――――――――――――― その時、ケイン達も当然その地震の影響を受けていた。 「わ、わ、わ……」 ケインは何とか立てたが、ミークにいたっては立っていられない状態だった。 山のふもとにいるため、落石に注意をしなければならない。 幸い小さな石が落ちてきているだけであった。 しかし見上げたケインの目に、二つの大きな影が映った。 落石かと思ったが、よく見るとその一つの影には四肢と思われる影も映っていた。 それが人とわかったのは、その落ちてきている物体が叫び声を上げながら落ちてきていたからだ。 「ミーク、お前があわててどうする……」 そう言うと手にしたバッグから何かを取り出すと、少しずつ急な坂を上った。 ケインの目は確実にその影をとらえていた。 体に無数の落石がぶつかっても、その目をそらすことはなかった。 ケインは人と思われる影に大声で叫んだ。 「そのままじっとしていろ!絶対に騒ぐなよ!」 その声に気が付いたのだろうか、騒ぎながら落ちてきていた影は動かなくなった。 そしてケインの少し上に来たとき、その影に向かって飛び上がった。 影は静止した状態だったので、うまく掴むことができた。 こういったとき一番まずい状態が、あわてて騒いでしまい、掴んでも自分までバランスを崩すことだった。 今回は相手が静止の状態だったためうまくいった。 だが、まだ助かったわけではない。あと、地面に着地したときの衝撃に耐えなければならない。 ケイン・セイガードはその場の勢いだけで行動する人間ではない。 もう一つの大きな落石を利用しようと思っていた。 その落石はケイン達の少し上にあり、今もなお落下しているケインにそこまで上がる力はない。 だが、落石を利用するためには自分がその場所まで上る必要はない。 落石が自分より下に来ればいいだけである。 ケインは素早く、先ほど持ってきた物を力一杯上部にある落石に向かって投げつけた。 その投げつけた物の先にはナイフが取り付けられており、ナイフとケインの手を繋げているのは強固な鎖だった…… 「どうもありがとう、助けてくれて。実際どうしようかと思ってたのよ」 「いやいや、ボクは何もしてないよ」 実際にミークは何もしてなかったのだが。と口に出して言えないケインだった。 三人はその場で簡単な自己紹介をした。 彼女の名前は、ファスレーン・サシリーズ。すぐ側の村に住んでいて、ちょっと遊びに山に来たといっていた。 その時偶然、地震に遭ってしまいこうなったと言った。 「ところで今からうちにこない?助けてもらった礼もあるし、何よりそのけがの治療しないといけないでしょ?」 そう言うとファシーはケインの額を指さした。 ケインの額からは、ファシーを助けるときにできた傷から血が出ていた。 「ありがたいが、俺達はちょっと追われている立場にある。そっちの村に世話になったら後々迷惑をかけることになる。  それに助けたことが、礼を当てにしてたような気がするしな」 そう言いながら、額から流れている血を拭った。 「相変わらずよくわかんない性格だね、ケインは……  でもさボク達は今夜の寝床を探さないといけないんだよ?」 「……じゃあ、村の近くに雨風が防げるところがあるから、そこに案内してあげるわ。  いろいろ改造してるから野宿するよりはとてもましだと思うけど」 改造?ちょっと気になる言葉が出てきたが、この際気にするのはやめた。 ミークの言うとおり、寝床を見つけなければならないケイン達にとって迷うことではない。 「わかった。ありがたく好意を受けさせてもらう」 「そうこなくっちゃね」 そうして、ケイン達は運良く寝床を確保することができた。 ケイン達が案内されたころには、もう日は沈み辺りは暗くなりかけてた。 その場所は山をそのままくり抜いたようになっていた。 広さは二人が寝るには十分すぎるほどの大きさだった。たぶん大人五人が寝ることができるくらいの大きさだ。 そして昔からあった物ではなく、ここ数年のうちに作られた物だと思われた。 案の定、ファシーが一年ほど前に自分だけで掘ったと言っていた。 「暗いかもしれないけどいいわね?まあそんなに狭くはないし、寝るだけだったらなんの問題もないでしょ」 手にしたランプに明かりを灯しながら言った。 そして、彼女の後ろには食べ物を持っている子供達もいる。 子供達は笑顔で寄ってくる。 「あんがとな、にぃちゃん。ねぇちゃんを助けてくれたんだって?これは俺の気持ちだ。受け取ってくれよ」 「これ、お兄ちゃん達にあげる。ファシーお姉ちゃんを助けてくれたお礼ね」 おもむろにそう言いながら手にした物を渡す。 中にはお守りなどを持ってくる子供までいた。 こんな子供達でさえ、他人を助けたことに感謝をしている。 なのに、なぜ大人達は自分たちのためだけに、全てを巻き込んだ戦いをするのだろう。 そう思ったが、自分も同じ穴のムジナなのだと再確認してしまった。 「それじゃあケインさん、こっちに来て」 「ん?」 「ん?じゃないでしょ。額の怪我、そのままじゃまずいでしょ。きちんと消毒するから外に来て。  ちょっとここじゃあ満足に光が届かないから」 「別にいい……」 そんなに大けがでもないしな、という前に外に引っ張り出された。 そして岩肌に押さえつけられた。 「何が、別にいい……、よ。そこから破傷風にでもなったら大事よ。だからおとなしくいうことを聞きなさい」 ケインに選択の余地はなかった。 ファシーはランプと一緒に持ってきた消毒液を手に取ると、ふたを開け、綿に十分液をしみこませた。 「ちょっとしみるかもしれないから、痛かったら痛いと言ってね。  まあ、そうは言っても、痛くてもやめる気はないけどね」 けらけらと軽く笑うファシー。 「うっ」 ケインはかなりの痛さに思わず声が漏れた。 ちょっとしみる程度の物ではなかったからだ。 「あらごめんなさい。まあ、いい薬はそれだけしみるから。勘弁してね」 それでも容赦なく薬を塗る。悪気がないだけ余計に苦痛だった。 悪意があってもそれはそれで困るだろうが…… 「それじゃあ、おやすみ。出かけるときでも何も言わなくてもいいから。  夜が明けたら私が勝手に片付けするから」 あの後、カリスとの殴り合いでできた怪我もついでに処理してもらった。 「ファシーさん、どうもありがとう」 ケインの怪我の処理と寝床などのことをまとめて礼を言うミーク。 「こっちこそ助かったわ。ほんとにありがとね」 そう言うとファシーは子供達を連れて、自分の村に帰っていった。 「今日もいろいろあったね。……もうあの森には一生入らないからね。  まあとにかく、ボクはもう疲れたから寝るよ」 そして、ミークはファシーが持ってきた毛布の上に早々と寝転がった。 ミークは寝転がると、一瞬で寝息を立て始めた。 「……寝るか」 実際はやることがないため、いつもより早い睡眠をとることにした。 なにより今日は大変疲れたのため、瞬く間に睡魔がおそってきた。 ケインはその睡魔に逆らうことなく、睡眠をとることにした。 ファシーがケイン達の元から帰って来ると、すでに夕食の準備が出来ていた。 テーブルにはおいしそうな食べ物が湯気を立てていた。 それに引き込まれるかのように、イスに着く。 ファシーの姿を確認した父親らしき人物が声をかける。 「何してたんだ?帰ってきたと思ったら、急に出ていって。まあ、父さんには関係ないから良いけど」 「ちょっとお父さん。そんなのんきなこと言ってないできっちり言ってくださいよ……」 母親らしき人物が、困った様子で父親に言う。 そこで祖母がまあいいじゃないか、となだめる。 ファシーの家では、毎回コレの連続であった。 いつもファシーは朝早く出かけて、夜遅くに帰ってきていた。 食べては出かけて、帰ってきては食べての連続である。 父親と祖母は子供は遊ぶのが仕事だ、というが。 そして、いつものように弟の分まで夕食をたいらげるた。 「ふ〜、お腹一杯〜。じゃあ私寝るから。おやすみなさ〜い」 どたどたと自分の部屋に走っていく。ファシーは隠れて本を読んでいるのである。 しかし、皆は不思議に思っていた。本を読むのは知っているが、わざわざ隠れることもないと。 ファシーが部屋にこもると同時に、入り口のドアを叩く音がした…… <ファシーの拷問部屋>と書かれたプレートが付いた扉を開ける。 そして、裏側から鍵をかけた。 誰も見ていないことを確認しながら、棚の奥に隠してあった本「世界の誕生と破壊」を手に取った。 実はこの本は、ミランドルの倉庫にあった物を取ってきた物で、超重要絵巻の一つである。 ベッドに横たわりながら本を開き、声に出しながら読み始めた。 「ええと、今日はここからだったわね。  ……神々は自分たちを裏切った神「アダムとイブ」を自分たちの世界から追放した。  その時裏切らせたのがルシファー。しかしルシファーもまた追放となった。  ルシファーはサタンと名を変えて神々に復讐を考えた。  サタンの力で他の神々は壊滅状態になった。もはや自分たちの力だけではどうしようもなくなった神々は  別次元の力を呼び寄せた。サタンと同等の力を持ち、また逆の力を持つ者救世主<メシア>だった。  救世主<メシア>に敗れたサタンは………」 ファシーの読書はそこでうち切られた。 扉の向こうで父親が呼んでいるからだ。 「ファシー、ちょっと出てきなさい」 寝る、と言ったにもかかわらず呼ぶのはなぜ?と思ったファシーだった。 このまま寝たふりしようかと思ったが、扉を開けて父親が入ってきた。 「……ねえ、鍵しめてたのにどうやって開けたの?」 「まあ、それは蛇の道は蛇だ。気にすると大人になれないぞ?」 包丁職人と鍵を開けるのと、どういった繋がりがあるのかは理解できなかった。 「そんなことはどうでもいいが、村長が呼んでるぞ。また何かしでかしたか?」 ファシーは首を傾げた。何か悪いことしたっけ?と。 「ん、わかった。すぐ行く」 ファシーにはもう慣れた出来事だった。 村で起こす九割がファシがーだ原因ったからだ。 今回もまたどうでもいいことだと思っていた。 だが、今回はとてつもなくヘビーなことだった。 「ファシーや、お前犯罪者をかくまっておろう。そ奴はどこにいる?」 頭の毛はないに等しいが、それの代わりに長いひげを持った老人がファシーに言った。 どこの世界にでもいる、見るだけで村長とわかる人相をしている。 以前、そのことを言ったらこっぴどく怒られたことがあった。 犯罪者?ファシーには身に覚えがなかった。一昨日、昨日、今日はいつもと同じく山へ探索をしただけだ。 以前からあの山は危ないと言われていたが、犯罪者達の巣窟でも何でもないはずだ。 「報告によると犯罪者は蒼いジャケットとキャップをかぶっているとある。身に覚えがあるだろう」 (う〜ん、ケインさんの事かしら。でもケインさんともう一人、ミークさんもいたし。  犯罪者というくらいだから一人なんだと思うけど) 「さあ!」 「ちょっとそんなに顔近づけないでよ!」 「むう…」 むう、じゃないでしょ、と言おうと思ったがこれ以上話をややこしくしたくなかった。 「隠しても無駄じゃ。ケルビンがそれらしい人物について話した。さあ、どこにおる!」 ケルビンが?……そう言えば家を出るときにケルビンの姿が見えなかった。 するとケルビンが奥の部屋から出てきた。 「ごめんなさい、お姉ちゃん」 「いや、ごめんと言われてもよく理解できないんだけど……何かした、私」 何もしてないのに謝られてもねぇ、そう思わざるを得なかった。 「じゃから犯罪者をかくまっとるだろう、といっとんじゃ!」 「どうでもいいけど、そんなに叫ぶと寿命が縮むよ?」 村長の額には青筋が…… 「ふぅ、一体何が言いたいんだか……」 ファシーはやれやれ、といった仕草をした。 「そりゃこっちのセリフじゃぁ!」 歳で高血圧なんだから怒ったら死ぬよ、と言ったらげんこつをかまされた。 肩で息をしながら村長は口を開いた。 「そんなに隠すのならしょうがない。お前にはここを出ていってもらう!」 いまいちよく分からないファシーだった。 完全に話が食い違っていることは分かったがそれ以上のことはわからなかった。 それにしてもそんな理不尽な話があるかい、と思っていたら、ファシーの父親が村長の家にやってきた。 「まあ村長、落ち着いてくださいよ。後の話は私が付けますので……  さあファシー、帰るぞ」 まったくをもって理由がわからないファシーだった。 ファシーには、あと何年村長は生きるんだろうと言う考えで頭が一杯だった。 家に帰ると家族が全員揃っていた。食卓に皆が揃っている。 話によると、つい先日、遺跡の破壊及び遺跡周辺で戦闘をしたケイン・セイガードに第一級犯罪の容疑がかけられた。 そこで、本人は逃亡、ミランドル方面に向かっているというのである。 時間からすると、この村辺りに来ていることは間違いないと言うことはわかっていた。 レードの兵士からの情報だったという。 「………というわけだが、ファシーは知ってるんだろう?」 「………」 ファシーは何も話さない。 数秒の間、静かな空間に支配されていたが、その空間を砕くかのように母親が口を開いた。 それも冷たい言葉ではなく、逆に暖かい気持ちが入っていた。 「ケルビンから聞いたわ。命を救われたらしいわね」 「私は別に悪いことをしていないわ。だから出ていく言われもないわ。それに…」 ファシーの話を遮るように母親が口を出す。 「誰もあなたを責めたりはしないわよ。あなたが気を許すくらいだもの。悪い人じゃないんでしょう。  そうそう、それにちょうどいい機会だから、外の世界に出ていってみたら?」 思いがけない言葉にファシーは一瞬言葉を失った。 「もう十八なんだから外に出てもいい年頃よ。あらそうね、そのケインさんといっしょに行ったら?」 別にファシーを追い出そうと思っているわけではなさそうだった。 むしろ外の世界に出ることを勧めているようだ。 以前からファシーは村を出て、世界を回ってみたいと両親に言っていた。 まさに今回の件はファシーにとって願ってもない事だったのだ。 村長のあと何年生きられるか、という事で頭が一杯になっていたため、そこまで考えられなかった。 「じゃあ、いいの?」 ガタン、とイスから立ち上がる。 無意識に顔がほころびる。 誰もダメだとは言わなかった。 「ただし、一人じゃダメだ。他に一緒に行ってくれる人がいないとな。  というわけでケイン君には悪いが、ファシーと一緒に行ってもらおう」 とんでもない家族だった。ケインは知らないところで、きっちり巻き込まれているとは知らずに、今は夢の中だ。 「よし、そうと決まったら明日は早いかもしれないからもう寝なさい。彼らはいつ出るかわからないんだからな」 「うん!」 まるで子供が旅行に行くかのような振る舞いだった。 足音でもうれしさが伝わってくるような感じで部屋に戻った。 ファシーが自分の部屋に戻ったのを確認すると、父親はケルビンに言った。 「そんな顔するな。ファシーはこんな村でくすぶっているような奴じゃない。  あいつのことを思うなら、行かせてやれ……」 ケルビンは口を閉じたままだった………… 結局何がどうだったのか、そんなことはもう頭になかったファシーだった。 翌朝、早くにファシーと両親はケインの元に向かった。 「はぁ?」 寝起きということもあってか、全く理解ができなかった。 ケインは朝には強い。だがそれでも頭が回らなかった。 ケインだけじゃなく、ミークも同じだった。 「迷惑かもしれませんが、よろしくお願いします。あ、これお詫びということで」 深々と頭を下げるファシーの両親。そしてなにやら食べ物を差し出す。 「はぁ………」 空返事で返すケイン。 「というわけだから、これからよろしくねケインさん。いや、もうケインって呼ぶからね」 Vサインを出すファシー。 「………………………」 一体何がどうなってるんだ?そう思わざるを得ないケインとミークだった…… この出逢いは、まさに神のイタズラであることに気が付くものは誰一人としていなかった。