過去の扉 ーそのTー
「ケルビナ、最近の閣下は前より立派になられたな」
声はいつものドミニアだが、優しさが含まれている。
飛空挺ユグドラシルの一室、窓の外を見ながら同質のケルビナに言う。
「そうですわね、あの件以来、閣下は変わられたわ」
ケルビナも同じ事を言う。
閣下・・・神聖ソラリス帝室特設外務省,通称ゲプラーの総統閣下、カーラン・ラムサスのことである。
ラムサスは愛に飢えていた。元々造られた物なので父、母と呼べる者もいなかった。
ただ・・・捨てられただけだ。
「以前の閣下はつらい過去を引きずってきた。それを私達で救いたかった。ヒュウガに救われたな。閣下も私達も・・・」
ドミニア、ケルビナ、あと二人いるが、その四人はゲプラー直属の総統親衛隊、エレメンツのメンバーである。
ラムサスの力になることが仕事であった。彼女達はそれを生き甲斐としていた。皮肉なことにラムサスは彼女達の気持ちに気がつかなかった。
その仲立ちをしたのがシタン・ウズキことヒュウガ・リクドゥだった。
「閣下もつらい過去をお持ちだったけど、あなたはどうなの?閣下はもうそれをつらいとは思ってないでしょう。
でも、あなたにもあるでしょう?それともあったのかしら?」
「つらい・・過去か・・・」
ここはイグニス大陸の辺境にある村、エルル。
だが、誰もこの村の場所を知らない。
そしてここに、いまでは珍しい、一面草原の中に人が二人。
「何やってんだよ、早くこいよ!」
「うわ〜ん、待ってよ〜〜」
急かせる少年の後ろには泣いている少女がいる。
その二人は飽きることなく走り回った。当たりが暗くなるまで。
「おい、もうこんな時間だぞ。早く帰ろうぜ」
「えっく、えっく・・・」
少女はまた泣いている。
「全く何やってんだか・・・ほら、背中に乗れ」
少年は少女の前で腰を落とし、背中を差し出す。
「うん・・・」
少女はおずおずを少年の背中に乗る。
「あんまり遅くなったら、お前のばあちゃん心配するだろ?それにしても今日はまたよく泣いたな」
・・・返事は返ってこない。
少年が後を見ると、それからなにも言わなかった。
「それじゃ、ばあちゃん。あとはよろしくな。おばちゃんたちにもよろしく言っといてくれよな」
少女の祖母であろう。あれか十五分後に少女の家に辿り着いた。
「いつもすまないね、迷惑じゃないかい?」
「別に。誘ってるのは俺だし。それにもう慣れたよ。それじゃ」
そう言って少年は少女の家を後にした。
「・・・今日はいつもより冷えるわね」
少女を腕に抱いて、いそいそと奥の部屋に行く。
そして少女を床に敷いていた布団の上に寝かせる。
すでに敷いてある所を見るとこうなることがわかっていたらしい。
・・・それから数分後、少女が目を覚ます。
といっても起きたというより、ふと目が覚めたらしい。
「どうしたの?ドミニア。今日はもう寝ておきなさい」
「ん〜、ミーナおばあちゃん?・・・今日ね、ドミニアね、また泣いちゃったの」
「おやまあ、それはそれは。悲しかったの?それともうれしかったの?でも、それはまた明日ね」
ミーナと呼ばれた老婆は優しくなだめる。
「・・う・・ん・・・・・・」
そして、またドミニアと呼ばれた少女は眠りについた。
朝、鳥の泣く声と朝日でドミニアは目を覚ます。
布団は四つあるが一つはドミニア、もう一つはミーナが使っていた物。残り二つは誰のものであろうか。当然ドミニアの両親のものだろう。だが、その姿は見当たらない。
ドミニアの目先にはミーナが座っている。
ドミニアはそっと近寄る。そして思いっきり後から飛びつく。
「おっはよ〜、おばあちゃん!」
「おや?」
「あ〜〜!」
どし〜〜ん・・・
勢いが強すぎたのだろう。ドミニアとミーナは前に倒れ込んでしまった。
「ごめん、おばあちゃん!」
ドミニアはすぐさまミーなの背中から飛びのく。
「あはは、朝から元気ね、ドミニア」
「うん!ドミニア、朝大好き。ドミニアの『ア』は朝の『あ』だもん」
実に子供らしい考えである。とりわけ自分の名前に何かこじつける。
最近の子供はそんなことないが・・・
「お父さんたちは?また道場?」
「そう。また今日も朝早かったみたい」
「大変だね、疲れてないかな?お父さん達」
ドミニアの心配が顔によく現れている。
「そうだ!ねえ、おばあちゃん、今日お父さんたちのところに行ってもいい?」
意を決したようにドミニアがミーナに言う。
ミーナは少し考えたがドミニアなら大丈夫だろうと言って許可を出した。
するとすぐにドミニアが出かけたのは言うまでもなかった。
しかしミーナは知らなかった。ドミニアがいつも父親のところに行っている事を。
そのT・・・終了