講演ノート
タンパク質が作り出す生命の世界
東京薬科大学生命科学部 山岸明彦 先生
2002年12月17日 於 町田高校
このページの内容は講演を聴いて今橋がとったメモをもとにしたものであり、
今橋に原因のある間違いを含んでいる可能性があります。ご承知おきください。


栄養素として馴染みのあるタンパク質だが、生命科学者は「精密機械」と考えている。
タンパク質はスゴイ…かもしれない。
これからの内容は大学3年生ぐらいの内容も一部含んでいる。また、まだ誰にも解明されていない内容も含んでいる。

タンパク質の話に入る前に、まずDNAのハナシ
・DNAは長い鎖で、2本鎖になっている
・2本の鎖の間にA,T,G,C…これが遺伝暗号になっている。
 この2点を頭に入れておいてクダサイ。

DNA複製のしくみ

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 A T G C C G T A A 
 T A C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

元のDNA

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 A T G C C G T A A 

 T A C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

2本に分かれる

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 A T G C C G T A A 
 T A C G G C       
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 ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄      
 A T G C C G       

 T T C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

新しいDNAができる

 ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄
 A T G C C G T A A 
 T A C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

 ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄| ̄
 A T G C C G T A A 

 T A C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

同じものが2組できる

 AとT、GとCが常にペアになるところがミソ。

この情報が具体化するしくみ

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 A T G C C G T A A 
 U A C G G C       
_|_|_|_|_|_|_      


 T T C G G C A T T 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

DNAからmRNAがつくられる。
(TがUに変わってたりするが、細かいことは気にしなくてよろしい。「大事な設計図はしまっておくために、コピーをとる」と考えるべし)

 (チロシン)(グリシン)(    ) 
 +−+−+ +−+−+ +−+−+
 
 U A C G G C A U U 
_|_|_|_|_|_|_|_|_|_

コピーをもとに機械がつくられる。
3文字ひと組でアミノ酸を指定し、次々とつなげてゆく。(「暗号を解読する」「暗号を翻訳する」という)

遺伝暗号はすっかり解読されている。

今橋補足
タンパク質はアミノ酸がつながったもの。すなわち、アミノ酸をつなげるとタンパク質になる。


アミノ酸が並んでタンパク質になると、勝手に、特定のカタチになる!←これ重要
(なぜその形になるか、よくわかっていない。しかし、どんな形になるかはわかっている)

  COO
  |   
H−C−R 
  |   
  NH3+ 

…COO-−C−NH3+…COO-−C−NH3+…COO-−C−NH3+

アミノ酸に共通の構造

タンパク質の主鎖
(「α−ヘリックス」と呼ぶ。基本の形は螺旋形。)
α−ヘリックスがぐにゃぐにゃっとなって、それぞれ特定の形になる。その形がなにかにビシッとはまって、何かすごいことをする。たとえばある特定のタンパク質を切るとか。

つまり
遺伝子の指令によって、決まった順序でアミノ酸が並ぶ
その結果
タンパク質は決まった形になる
さらにその結果
ある特定の機能をもつようになる


というわけで、タンパク質は栄養になるだけではない
タンパク質のさまざまな機能
・細胞の中で化学反応を行う
  「唾液の酵素がでんぷんを分解する」などというのは細胞の外で行う化学反応。
   細胞の中ではもっとすごいことをやっている。
・DNA、RNA、タンパク質をつくる
  必要なときに必要なところで、必要なだけ
・細胞を分裂させ、細胞の形を変える
  分裂のときにはDNAをつくらないといけない。細胞質のタンパク質もつくらないと
  いけない。そういうものをつくるのもタンパク質の役目。
・外界のシグナル(ホルモンの指令など)を細胞内に伝える

ひとつの細胞内には2万〜5万種類のタンパク質がある。
つまり、それだけの遺伝子がある。
→ほとんどすべての生命活動はタンパク質がやっている。

いいことばかりではない。病気を起こしたりもする
O−157 菌が出す毒素が病気を起こす。毒素はタンパク質。
ウイルス  本体はDNAだが、カラはタンパク質。
遺伝病   たとえば鎌状赤血球貧血
        (ヘモグロビンは普通は水溶性で、それが赤血球の中に入っている。
         ヘモグロビンに関するDNAが一つだけ(「バリン6」というヤツ)が
         違うために非水溶性の針状結晶になり、赤血球を壊して流出してしまう)

癌     完全にはわかっていないが、遺伝子が少しだけ変わってしまって細胞分裂の
      調整がおかしくなる病気。
狂牛病   「タンパク質が感染」しておきる病気。
        誰もがもっている「プリオン」…なにをやっているタンパク質かはよくわからない…の異常。
        本来螺旋形のヘリックスが伸びてしまうと狂牛病になるらしい(なぜ伸びるかはわからない)。
        伸びたヤツが体に入ってくると、他の正常なヤツも伸びてしまうらしい。それがさらに他の
        ヘリックスを伸ばしててしまう。脳に達すると発病。(脳に達するまで数年かかる)

利用
酵素    洗濯洗剤に入れて、汚れのタンパク質や脂肪を分解する
      プラスチックをつくる
       アクリルの原料をつくる(すでに実用化)
       塩素を使わずに神を白くする(ぼちぼち実用化)
         黄色みの元「キシラン」を壊す酵素をつかう
      抗ガン剤がつくれるかも(動物実験段階)
         癌細胞にあつまる「スーパーオキサイド ディスミューターゼ」というタンパク質がある。
         また「スーパーオキサイド…」のところへあつまり、活性酸素を発生する薬がある。
         この2つを組み合わせると、ガン細胞だけを効果的に壊せるはずだ


研究の方法…遺伝子操作
 DNAを切って、貼って、増やす。
DNAを切る
 「制限酵素」で切る。どこで切るかは制限酵素の種類で指定できる。
 一方、「プラズミド」という環状のDNAも切る。
DNAを貼る
 切ってつくった断片と、切れたプラズミドを混ぜ、酵素をはたらかせてつなぐ
DNAを増やす
 つないだものを大腸菌に入れ、増やさせる。
     (大腸菌のことはよくわかっているので実験に使いやすいのだ)
DNAをはたらかせる
 大腸菌の中で遺伝子をはたらかせ、タンパク質をつくらせる
タンパク質を取り出す
 大腸菌をすりつぶす
タンパク質を分離する
 クロマトグラフィーで分離する
     (クロマトグラフフィーは、カラムの中を流れる速さの違いで試料を分離する装置)
タンパク質を分析する
 結晶をつくり、X線を当てて回折パターンを見ることでタンパク質の形を知ることができる。
 反応性を調べる。
 耐熱性を調べる 等々。


わかっていないこと
なぜ決まった形をとるのか。
 それがわかれば、目的の性質をもつ酵素を作れるかもしれない。
 現在はいわば「狩猟」の時代。「栽培」の時代がくるかもしれない。

山岸先生の最近の研究
1・40億年前のタンパク質をつくってみよう
  いろんな生物の遺伝子は似ている(先祖が同じだったからだろう)。
  共通点をあぶりだせば遠い先祖に近いものができるだろう。
  →少しやってみたら、耐熱性の高いタンパク質ができた!
2・コンピューターで計算してみよう
  大量の水分子の中にタンパク質分子を入れて高温にしたときの分子の振る舞いを計算してみた
  →タンパク質の形が崩れて機能を失うことがわかった。
  →逆に、形をつくる仕組みのヒントがつかめるかも。


質問タイム
田中さんの研究について
 田中さんはタンパク質の分析装置をつくってくれた。これはうれしい。
 取り出したタンパク質をひとつ選んで田中さんの装置にかけると
 1・タンパク質の大きさがわかる
 2・タンパク質をレーザーで壊して装置にかけると、その断片の正体が同定できる
大腸菌に増やさせる方法は?
 「ラクトース」を分解する酵素をつくる遺伝子に、実験用の断片を組み込む。
 ラクトースを食わせてやると、大腸菌はその遺伝子を一生懸命はたらかせてくれる。