生命の歴史
そもそも、生物とは

 地球の生物の体は何でできていますか?…細胞ですね。その細胞は何でできていますか?…水と有機物です。有機物の中でも特にタンパク質が重要な役割を果たしています。有機物の袋に有機物の水溶液が入っていて、その中で複雑な化学反応が起きている、というのが、化学の側面から見たときの「生命」の正体です。
 有機物というのは、炭素原子が鎖のようにつながり、それに水素や酸素、窒素などが結びついた分子で、つながり方の違いによって実に多様な有機物がありますが、自然界ではいずれも植物が光合成で作った炭水化物をもとにして、生物の体内(細胞内)で作られています(*1)。つまり、すべての生物の体を作っている物質は、元をたどれば空気中の二酸化炭素、根から吸い上げた水や無機養分(肥料)ということになります。
 もうひとつ、頭の片隅で注目しておいて欲しいことは、水溶液の中で化学反応が起きているということです。つまり、液体の水が存在することが、生物が存在しうる重要な条件になります。

 (*1)ウシは牧草を食べるが、牛肉と牧草は違う味がする。これはウシの体内で有機物が作り替えられているから。


地球の誕生

 その材料がどこから来たかというところから、生物の歴史の話を始めましょう。つまり、地球を作る物質の出所です。
 ほとんど何もないような宇宙空間ですが、砂粒や石ころのようなもの、各種の気体(ほとんどが水素です)が少ないながら存在しています(*2)。そういったチリやガスが重力で集まって新しい天体ができるものと考えられています。
 今から46億年ぐらい前、太陽系もそのようにして誕生しました。中心に大きなカタマリができてこれが太陽になり、そのまわりに小さなカタマリがいくつかできて惑星になったと考えられます。つまり、太陽と惑星は同じ材料で同時にできたということです。
 木星や土星など(木星型惑星)は、気体のカタマリのような天体で、主成分は水素でしたね。太陽も水素です。
 木星型惑星も、中心部には岩石の芯があるだろうと考えられています。この芯だけ残ったものが地球型惑星です。太陽に近いところでは温度が高いために気体の分子の運動が激しく、重力で引きつけておくことが困難なのです。
 (*2)水素は宇宙開びゃくのときにできた。その他の元素は、恒星の中の核反応でつくられ、恒星の一生の終わりに宇宙空間にばらまかれたもの。つまり、過去に存在した星の一部が、現在私たちの体をつくっている。


原始大気

 そうして一旦丸裸になった地球に、あらためて大気ができました。火山活動が繰り返され、その火山ガスが地球を覆ったのです。現在の火山ガスの成分は、90%以上が水、次に多いのが二酸化炭素、そのほかにメタン、アンモニア、塩化水素、硫化水素などです。昔の火山もきっと同じようなガスを噴出したことでしょう。
 このガスが現在の大気のもとになっています。これを「原始大気」と読んでいます。
 なお、小さくて重力が小さい水星や火星は、このガスも引き留めておくことがでませんでした。現在の水星には全く大気がありません。また、火星には二酸化炭素を主成分とするごく薄い大気が存在しますが、これは原始大気がわずかに残ったものです。


海の誕生

 できたばかりの地球は熱かったと考えられています。だんだん冷えるにつれ、原始大気に含まれていた水は液体になり、地球表面に巨大な水たまりを作りました。海です。
 水はいろいろな物質をよく溶かします。大気中からとけ込んだ二酸化炭素やアンモニア、塩化水素、硫化水素、岩石から溶け出した金属などで、当時の海水は「あやしい水溶液」の様相を呈していたはずです。
 原始大気中に大量に存在した二酸化炭素も海水にとけ込んでゆきました。さらに金属イオンなどと結合して沈殿し、そのぶん新しく二酸化炭素がとけ込み、というようにして、地球の大気から二酸化炭素が取り除かれてゆきました。現在では地球の大気のわずか0.03%にすぎません。
 ところが金星では、太陽に少し近いために温度が高く、海ができませんでした。そのため今でも大気の主成分は二酸化炭素で、温室効果が強く働いて大変な高温になってしまっています(水は、強い太陽の光で分解されてしまったと考えられています)。
 ホンのちょっとした初期条件の違いから、金星にも火星にも、生物が存在する条件はできなかったということです。


最初の生命

 さて、その海、すなわち「あやしい水溶液」のなかで化学反応が進み、やがて有機物、さらに生物になったと考えられています。
 水溶液の中では溶質の分子が自由に動き回り、出会って反応を起こします。混ぜただけで進む反応もありますが、何かのきっかけを与えてやると進む反応もあります。たとえば加熱するとか。
 昔の海の中で海底火山が噴火して、その熱がきっかけで反応が進んだかもしれません。また、雷の電気がきっかけなったかもしれません。太陽の光がきっかけになったかもしれません。太陽の光は、いろいろな色(虹色)の光が集まったものですが、そのほかにもヒトの目に見えない「赤外線(IR)(*3)」「紫外線(UV)(*3)」と呼ばれる光も出ています。特に紫外線は化学反応を起こさせる性質が強いので、化学反応の有力なきっかけになったことでしょう。
 そうしてできたタンパク質の中に、自分と同じものを作る性質を持ったものがあったのでしょう。そしてそれが最初の生物になったのでしょう。
 というような考えは、旧ソ連のオパーリンによって1920年代に出されました。1950年代になって、アメリカのユーレー、ミラーの二人が実験を行ったところ、数日後にアミノ酸ができていることがわかりました。アミノ酸はタンパク質の部品です。もっと時間をかければ、あるいは何かの条件があればタンパク質ができたかもしれません。そんなわけで、概ねこのようにして生命が誕生したという考えが広く受け入れられています。
 今からおよそ40億年まえごろのことと考えられています。
 (*3)それぞれ、英語のInfra Red、Ultra Violetの頭文字。


植物の登場

 初期の生物は、まわりの海水の中にある、自然に化学反応でできた有機物を取り入れて生きていたことでしょう。しかしあるとき、自分に必要な有機物を自分で作る生物があらわれました。つまり、光合成をする植物です。
 自分で要るだけ作れば、どんどん体を大きくしたり、仲間を増やしたりできます(あとの方で出てくる、人類が農業を始めて人口が増加したことにも似ています)。植物が登場したことで、地球上の生物量は急激に増えました。
 その増えた生物(というか植物)をエサとして利用する生物もあらわれました。植物の登場は、生物の多様性を増すことにもつながったのです。
 一方で、大絶滅のきっかけにもなりました。光合成の副産物として酸素ができます。それまで、地球上に酸素(酸素分子すなわちO2)はありませんでした。生物も、酸素を必要としない生物ばかりでした。というより酸素は危険な物質です。酸素は他の物質と結びつきやすい性質があります。生物の体を作っているタンパク質を壊してしまうのです。
 植物の登場以後、酸素があっても平気な生物だけが生き残ることができるようになりました。逆に酸素をうまく利用する生物はどんどん栄えるようになりました(我々もそうですね)。そういう生物を「好気性生物」と言います(それに対し、酸素を必要としない生物を「嫌気性生物」と言います)。植物の登場は、嫌気性生物の時代から好気性生物の時代へという大変化のきっかけにもなったのでした。今から27億年ぐらい前のことと考えられています。


オゾン層の発生

 さらに植物の登場は、大気の成分を変えることにもつながりました。酸素ははじめ海水にとけ込み(*4)、溶けきれなくなると大気中に出てゆきました。20億年前ごろから大気中の酸素が急激に増えたことがわかっています。(教科書P116)
 この酸素に太陽からの紫外線があたり、オゾン(O3)ができました。オゾンには紫外線をよく吸収する性質があります。
 さきに出てきた通り、紫外線は化学変化をおこす性質が強い光です。生物をつくるきっかけになった紫外線ですが、生物の体を作っている物質を壊し、生物を殺してしまうはたらきもします。それまで陸上や、水中でも浅いところは紫外線が強くて大変危険だったのですが、これ以後、植物は海の浅いところで豊富な太陽の光を利用することができるようになりました。また、のちに陸上生活をする生物があらわれるための重要な条件が整えられたことになります。
 (*4)現在世界中で採掘されている大規模な鉄鉱床の大部分は、水中にとけ込んでいた鉄がこの時代に酸素と結びついて酸化鉄になり、沈殿してできたもの。


古生代の始まり

 さらに長い時間が経過したあと。今から6億年前ごろ、化石を残す生物がたくさんあらわれました。古生代の始まりです。それまでは、たとえばクラゲのような、柔らかい体の生物ばかりでしたが、かたい部分のある生物が現れたのです。
 どうやらこのころ、他の動物を襲って食べる動物があらわれたようです。生物の多様化がさらに進んだということです(*5)。
 例えば節足動物の三葉虫は、関節のある足ですばやく走って逃げ回ったと考えられています。また、貝などはかたい殻で身を守りました。攻撃する肉食動物も、すばやい動きや強力な歯が必要です。
 古生代の初めには、セキツイ動物はまだ現れていませんでした。セキツイ動物の先祖は、現生のナメクジウオに似た、神経の束を持った「原索動物」がやっと現れたところです。
 (*5)彼らの多くは現在子孫が残っておらず、現生の生物を見慣れた目でみると非常に奇妙なものが多い。カナダのバージェスで化石が多く産出するので、彼らはまとめて「バージェス・モンスター」などと呼ばれる。


生物の上陸

 いまから4億年前ごろ、古生代の半ばになって、陸上で生活する生物があらわれました。オゾン層ができてから10億年以上もたっています。陸上で生活するためには乾燥に耐えるしくみや、体重を支える仕組みが必要なため、紫外線の危険がなくなってもすぐには上陸できなかったのでしょう。
 まず最初に植物が上陸して豊富な日光を利用するようになり、その後草食動物、肉食動物の順序で上陸したと考えられます。また、セキツイ動物よりもさきに昆虫などの無脊椎動物が上陸していたようです(*6)。
 (*6)羽を広げると60cmという巨大なトンボの化石が見つかっている。


中生代

 今から2.5億年前ごろ、ハチュウ類が栄える時代が始まりました。この時代の大型ハチュウ類は「恐竜」と呼ばれています(*7)。中生代です。ハチュウ類は乾燥に耐える皮膚をもち、卵も陸上で生むなど、完全に陸上だけで生活できる生物です。
 中生代は気候が温暖な時代だったようです。
 (*7)専門的な分類では、「大きいは虫類=恐竜」というわけではないらしい。


恐竜の絶滅・新生代

 いまから6500万年前ごろ、恐竜の大絶滅が起こりました。
 原因はまだはっきりしませんが、大きな隕石が落ち、舞上げられた埃や山火事の煙で日光が遮られ、気候が寒くなったためという説が有力です。現生のハチュウ類は変温動物です。恐竜についてはある程度体温を調節する仕組みが備わっていたという説もありますが、それにしても恒温動物と呼べるほどのものではなかったようです。体温が下がってしまったために恐竜は死んでしまったのでしょう(*8)。
 われわれホニュウ類の先祖は恒温動物になっていました。体温調節の能力を持っていることは温暖な中生代にはそれほど重要なことではなかったはずですが、この能力のおかげでほ乳類は生き残ることができました。そして恐竜がいなくなった地球上で主役の座をしめるようになってゆきます。
 (*8)直接寒さにやられたのではなく、植生が変わってエサに困ったという説などもあります。


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