夏休み。富士山に登ろう。
 
日本で一番高い地面に、一度は立ってみるものよいものです。
(いや、富士山より銀座の一等地だ、という人はそれでもよいですが…)

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どこから登る?

 富士山には登り口がたくさんあります。ここでは、東京方面からのアクセスが容易な山梨側の「吉田口」からの登山の案内をすることにします。
 吉田口の登山道入り口は、麓の吉田神社の近くにあります。が、体力と根性がありあまっている人以外は「スバルライン」終点の「五合目」から登るのがよいでしょう。
 五合目から山頂まで登るのが、大休止を除いて5時間。山頂を一周する「お鉢めぐり」が1時間。山頂から五合目まで降りるのが3時間。時間の目安はだいたいそのぐらいです。

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登山口への道

 五合目までのアクセスを紹介します。
1・新宿からバス利用

 これが一番おすすめです。
 新宿西口から中央自動車道経由、「五合目」行きのバスが出ています。バスの時刻等については富士急のページ(http://www.fujikyu.co.jp/)をご覧ください。

2・電車で河口湖、そこからバス
 このルートを利用する場合、東京方面からでは中央線の電車で大月、富士急の電車に乗り換えて河口湖駅、バスで五合目、ということになります。新宿からバス利用の「1」よりも便数は多いのですがお金も時間もかかります。
 河口湖駅からタクシーを利用するとバス待ちの時間をなくすことができます。河口湖駅から五合目までの料金は、人数がまとまっていればバスと大差ないはずです。

3・マイカー利用
 バスや電車の都合に縛られず、自分の都合に合わせて動けるメリットがありますし、荷物を抱えて乗り換える面倒もありません。が、騒音と排気ガスをまき散らすことになるのであまりお奨めしたくありません(といいつつ、私はコレなんですけどね ^^;;;;;;;;;;)。スバルラインの利用料金も安くありませんが、人数がまとまっているとバスよりむしろ安くなるかもしれません。
 中央自動車道の河口湖I.C.から五合目まで、渋滞がなければ1時間ぐらいです。(40分とか45分とかで着いてしまう人は、飛ばしすぎです)
 東名高速道路沿線の人は、御殿場I.C.から東富士五湖道路利用で河口湖I.C.に行くことができます。

 数年前から、ハイシーズンにスバルラインへのマイカー乗り入れが規制されています。富士急のページで確認してください。

4・マイカー+バス
 スバルライン入り口周辺には駐車場がたくさんつくられています。ここにマイカーを置いて路線バスで五合目へ登る、いわゆる「パーク・アンド・ライド」のためです。正直なところ、バス代が高いので、意識の高い人以外には選びづらい選択肢です。

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計画を立てよう

・昼か夜か
 「夜登り」をお奨めします。
 晴れた日の昼間は日差しが強く、その中を登るのは大変消耗します。夜は逆に寒いのですが、体を動かしている限りはそれほど寒くはありません。休憩時には寒くなるので、後述の通り、防寒の用意を怠らないようにしましょう。

・季節はいつ
 7月の後半をお奨めします。
 「梅雨明け十日」なんてことを言いまして、梅雨明け直後は天候が安定していることが多いのです。夏休みも終わりに近づいたころになると、天候が急変して雨が降り出したり、強風が吹いたりすることが多くなります。

・ほかに、日程について
 月夜をお奨めします。
 都会で暮らしていると意外に思うかもしれませんが、半月程度の月が出ていれば、懐中電灯等を持たなくても夜中に十分行動できます。逆に月のない夜は懐中電灯持参ということになりますが、これが意外としんどいものです。ヘッドランプのようなものならば手はあきますが、電池切れの心配をしながら…というのはあまり気分が良くありません。
 今年(2002年)は、7月10日、8月9日が新月です。なるべくその前後以外の日で計画を立てることをお奨めします。満月は7月24日、8月23日です。

 また、金曜の夜や土曜の夜は、バスで乗り込んでくる団体で登山道が渋滞するかもしれません。できれば平日がよいでしょう。

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「どんな支度をしたらいいの?」

・服装など
 まず靴ですが、登山靴がベストです。
 ふつうの運動靴でも登れますが、その場合、バスケットシューズのような足首の上まで覆うものがお奨めです。短い靴の場合は捻挫しないように気をつけてください。また、ジョギングシューズなどによくある、底がスポンジのような柔らかい材質のものは、一回登って降りるとボロボロになります。
 服装は、トレパンとTシャツを基本に、重ね着してゆけるように準備しましょう。
 登りはじめはトレパンとTシャツで十分でしょう。登るにつれて標高が高くなり、また深夜になって冷え込んでゆきます。それでも体を動かしているあいだはさほど寒くないのですが、休憩に入ると冷えます。
 たとえば、Tシャツとジャージで登り始め、トレーナー、セーターと順に着込み、最後はスキーウェア上下ぐらいまで用意しておけばよいでしょう。
 抜かりがちなのが、末端部分の冷えです。スキー手袋やバイク手袋(または行動中は軍手、休憩中は毛糸手袋)、耳が隠れる帽子などが必要でしょう。首についてはマフラーでもよいのですが、タオルを巻くことをお奨めします。防寒と汗の吸収両方の役目をしてくれます。

・雨具
 登山用の合羽でもあれば最強なんでしょうね。私は持っていませんが。
 一番上に着るものに防水スプレーをしっかりかけておきましょう。傘が役に立つ場面はあまりないと思います。むしろブルーシート(ホームセンターなどで売っています)のほうが役に立つことでしょう。

・荷物
 大切なものは上述の衣服と雨具、それに水と食料です。
 体質にもよるのでしょうが、汗っかきの私は3Pぐらいの水分を下界で買い込んで持ってゆきます。食料は、よく言われるように甘いものとかビスケットなどを少々。(山小屋に寄って、600円もするおしるこを有り難くいただくというのも一興ではあります。)
 これらをザックひとつに詰めて背負うようにします。

・出かける前に。
 天候のチェックをしましょう。荒れる可能性があるようだったら中止しましょう。富士山に登る機会は、来週でも、来年でも、またあるはずです(いや、噴火したり崩れたりしている可能性もなくはないですが)
 テレビの天気予報や、ネット上の情報で天気図を見て、当日から翌日、関東から近畿あたりまで高気圧に覆われているようならまあ大丈夫でしょう。さらに、ひまわり画像でそのあたりが真っ黒に抜けている(=雲がない)ようなら予定決行です。

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さあ登ろう。

・五合目で
 無料休憩所として解放されているスペースがあります。後述の通り、あまり朝早く頂上に着いてもつまらないので、夜10時ぐらいまで時間をつぶすのがよいでしょう。居眠りするもよし、弁当を食べるもよし。出発前には簡単に準備体操をしましょう。

・五合目〜六合目
 五合目のバス溜まりから奥へ続く道に入ってゆきます。雲がなければ、眼下に町の明かりが見えます。富士急ハイランドの花火が見えるかもしれません。
 ほとんど平らな道がしばらく続きますが、これは富士山中腹を一周する (*)「お中道(おちゅうどう)」の一部です。お中道からそれて少し登るともう六合目です。
 六合目までは馬方さんに牽かれた馬が行き来するので、「落とし物」が落ちています。あまり神経質に気にするのはつまらないことですが、転んで尻餅をついたりしないように注意しましょう。
(*)現在は、「大沢崩れ」が通行止めになっており、ここでお中道が分断されています。

・六合目〜八合目
 吉田口の登山道ははっきり道がつけられていますし、人も多いので迷子になることはないでしょう。足もとは砂地だったり砂利だったり、岩場だったりします。焦って速く歩こうとすると無駄に疲れますからゆっくり進みましょう。
 道なりに登ってゆくと、30分ごとぐらいに山小屋があります。山小屋前で休憩して持参の食料と水分をとりましょう。たいていの山小屋では終夜営業で甘酒やお汁粉を売っていますし、いよいよとなれば泊まることもできます就寝スペースの混雑は覚悟してください
 でも次の山小屋の明かりが上の方に見えるはずです。明かりをめざして登山を続けましょう。ディーゼル発電器の音とにおいがし始めたらもうすぐ山小屋です。

・八合目付近
 六合目、六合五勺、七合目、七号五勺、八合目、と登ってきました。さて次は八号五勺、と思うとまた八合目なんですねえ。これは狐に化かされたか、と思ってしまいますが、それでいいんです。
 五合目から八合目まで、3時間ぐらいかかったでしょうか。疲れてきましたね。このあたりは空気も薄く、動くのがつらいことでしょう。小刻みに休憩しながら登ってゆきましょう。休憩するときは、歩いている人のじゃまにならないように道の端によけるのを忘れないようにしましょうね。(空気が薄いので、それすらもおっくうになりがちですけど)
 夜明けが近くなると、山頂から吹き下ろす風が強くなります。山頂はたぶん暴風です。適当なところで、風当たりの弱い場所を探して大休止(ないし仮眠)しましょう。

・山頂へ
 3時ごろから空が明るくなり始めます。そして待ちくたびれたころに太陽が姿を現します。太陽があらわれると、てきめんに暖かくなり、山頂からの風がおさまります。太陽の偉大さを感じるひとときです。
 さて、上を見上げてみましょう。山小屋が点々とならび、そのうえに石垣が見えますね。あそこが山頂です。すぐ近くに見えますが、八合目からだと2時間ぐらいかかるでしょうか。がんばって登るもよし、あきらめるもよし(無理に登らなくても、また来年の楽しみにしておいてもよいではないですか)。
 登山道の最後は階段です。石垣の上に出ると3軒の山小屋があります。その後ろが火口です。

・お鉢めぐり
 火口の向こうに、気象庁の測候所が見えますね。少し前までは丸いレーダードームがあったのですが今は撤去されてしまいました。あそこが日本一の地点です。火口の縁をぐるっと巡るのに約1時間です。空気が薄いですね。展望を楽しみながら、と言いたいところですが、その余裕があるでしょうか。

・下山
 吉田口は、登山道と下山道が完全に分離されています。標識に従って下山しましょう。途中で須走口(御殿場方面)の下山道と分かれますから、そちらへ行かないように気をつけてください。降りるべきは吉田口(河口湖方面)です。
 下山道は、お中道に出るまでほとんど砂地です。ついつい走ってしまいがちですが、膝や足首を痛めますから、ブレーキを利かせてゆっくり降りることを心がけましょう。山頂から五合目まで3時間ぐらいでしょうか。

・温泉
 お疲れさま。
 砂埃まみれになったことでしょう。そんなあなたに河口湖温泉。
 河口湖大橋の南詰あたり(河口湖駅から徒歩15分ぐらい)に「河口湖ロイヤルホテル」系列の日帰り入浴施設がいくつかあるのでタオルと着替えを持って行ってみましょう。また、ホテルのフロントで交渉すれば、入浴させてくれるところもあります。入浴料はいずれも1000円ぐらいです。

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中断する勇気

 一番大事なことは、元気に帰ってくることです。
 筋肉痛など多少のことはともかく、どこかを傷めたり、体調を悪くしたりしてまで登るのは馬鹿げています。「せっかくここまで来たのだから」という気持ちはわかりますが、また来週でも来年でも登山の機会はあるのですから、無理をせず中断しましょう。(*)
 もちろん、その判断は随時することになるのですが、チェックポイントにしやすいのは七合目と八合目でしょうか。
 五合目から六合目はほとんど平らなので、ここでヘバる人はまずいません。六合目から本格的な登りが始まったところでヘバるようだったら、その先は考えた方がいいでしょう。夏のあいだ、七合目には救護所が開設されています。
 八号目のところで登山道と下山道が接近し、行き来できるようになっています。ここでリタイヤすれば、簡単に下山道に移れます。グループ内でアタック組と断念組に分かれることになった場合、断念組はここで待機して下山時に再び合流、ということもできます。
 山頂まで登ったところで、お鉢めぐりだけ断念、という選択もありますね。
 いずれにしても、けがをしたり風邪をひいたり高山病になったりしないよう、十分注意しましょう。まずいかな、と思ったらとりあえず休憩して、次の行動を考えるようにしましょう。
(*)噴火や山体崩壊で登れなくなる可能性もないわけではありませんが。

・雨が降ってきたら。
 小雨だったらかまわずに登山を続行する、という手もあります。体が冷えると体力を消耗するので、合羽など防水した上着を着ましょう。
 もう少し強い雨のときは、近くの山小屋までがんばって歩き、そこで休憩する、という手もあります。
 大雨になってしまったときは、その場でブルーシートにくるまって耐えることになるでしょうか。自分がそんな目に遭ったことがないのでよくわからないんですが。そして雨が上がるか、夜があけて明るくなるのを待って行動再開(登山or下山)ということになるでしょう。とにかく無理はしないことです。
 風が強いことが多いので、傘はあまり役に立たないでしょう。雷が鳴りだしたりするとますます落ちつきません(実際雷が落ちる可能性は、金属の傘がある方が「いくらか高い」ぐらいだとおもいますが)。

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散歩道

 山頂を往復してなお歩き足りない人、または山頂往復を断念して歩き足りない人のために、気持ちのいい散歩道を紹介します。

・お中道(五合目〜奥庭)
 上で紹介した、五合目から山頂往復の道は、ほとんど植生のない荒れ地の中です。これは噴火後じゅうぶん時間がたっていないため、まだ植物が生えられないでいるためです。(上部では気候が厳しいため、将来も生えることはないでしょう)
 五合目から、山頂方面と逆にお中道をたどると、森と荒れ地を出たり入ったりする道になります。気持ちの良い木陰と見晴らしのよい荒野が繰り返しあらわれる道を1時間ほど歩き、標識に従って石段を降りると奥庭のバス停です。
 石段を下りずに進むと、大沢崩れの右岸までお中道をたどることができます。また、バス停のところで道路をわたり、駐車場の奥の坂を下り、奥庭山荘の前を左へ進むと奥庭自然公園の展望台へ出ます。

・吉田口登山道(奥庭〜三合目)
 奥庭バス停のところから坂を下り、奥庭山荘の脇を抜けると、静かな森の中の道が三合目まで続きます。

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富士山についてお勉強しよう

 せっかく来たのだから、富士山についていろいろ知っておくとよいのではないかと。私が地学屋だもんで、そっち方面に偏ってしまうのはご勘弁を。

・富士山ビジターセンター
 スバルライン入り口にある。富士山の地形・地質・生物など全般にわたり紹介しているので、一度は寄ってみるとよいでしょう。
 数年前に改装して、実物の展示が少なくなってしまったのは残念です。入場無料。

・河口湖フィールドセンター
 という名前だったと思うんですが(汗)。
 「船津胎内」の前。ビジターセンターからはみ出した実物展示がここに来ています。館内は主に生物関連。受け付けでマップを買って外の散歩道を歩くと、溶岩の造形いろいろが見られます。入場無料。
 「船津胎内」は、森の木を溶岩が飲み込んでできた「溶岩樹形」。有料ですが、公園維持費の一部と考えてケチらずに払いましょう。100円だったっけな。

・こうもり穴
 西湖近くにある洞窟。溶岩が流れるときに表面が先に冷え固まり、内部が流れ去ってできた「溶岩トンネル」です。観光客が入れる溶岩トンネルはいくつかありますが、そのなかでは原型をよくとどめているものです。
 こうもり穴はバス利用では不便なところにあります。バス便がよく、入洞可能な溶岩トンネルとしては「富岳風穴」「鳴沢氷穴」があります。

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もっと知りたい人は

ここらへんを見ていただくとよかろうかと。

富士急のページ
(http://www.fujikyu.co.jp/)
 富士山や、富士五湖周辺の観光情報はまずここを見るべし。

奥庭山荘のページ(http://www.sawada.dyn.to/~okuniwa/)
 富士山五合目に近い奥庭山荘の非公式ページ。

・富士山自然ハンドブック(富士自然動物園協会 編・自由国民社 刊)
 登山道の紹介、地質、動植物など、富士山のあらゆる情報が詰め込まれた一冊。

・富士山の植物(清水清 著・東海大学出版会)
 私が高校のときの先生が書かれた本。絶版で入手困難。

うさくま館教材写真集(http://www.interq.or.jp/earth/usa-kuma/geophoto/)
 富士山の写真もあります。

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小ネタをひとつ。

 河口湖I.C.に近い「富士急ハイランド」入り口に、目が左右に動く巨大なオブジェがあります。あれは岡本太郎氏の作品だそうです。

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じゃ、お気をつけて。(^^)/