七大天使と神々の系譜
古代イタリアにおける神々の系譜-5
トロイアからの民の移動
ギリシャ史では、ドーリア人の侵入はペレポネソス半島を席巻し、さらに、ギリシャ半島の対岸の小アジアにまで、及ぶようになります。その時、アイオリス人(エオリア人、アカイア人)の都市トロイアも滅びたとされています。
これが、ホメロスのトロイア戦争叙事詩「イーリアス」や「オデュッセイア」にみられるトロイアの滅亡であります。
そして、このトロイア人の生き残った人々にの一部に神々が関与し助力を与え、イタリアへの移住を促したのであり、その時の中心となった人物が、伝説の英雄アイネイアス(ラテン名アイネーイス)であります。
トロイア十年戦争は、前12世紀、または13世紀ともされており、諸説あって一致をみないと云われています。
イタリアの伝説では、アイネイアスがトロイア市を出発したのは、トロイア陥落後のこととされています。
伝説の英雄アイネイアス
ホメロスの記述によれば、「アイネイアスは、常に神の保護を蒙り、その命に敬虔に従う英雄」として表され、「トロイア方の中ただ一人彼のみがトロイア市の陥落後にも有望な未来をもっていた人物」とされており、ヴェルギリウスでも同じく、「父祖、国家、神々に忠実な英雄」として表現されています。
神話にもそれが反映され、ホメロスでは「アイネイアスは最初はトロイア戦争に加わらなかったが、アキレウスがこの市をも攻略するに及んで参加、トロイア方の勇将として、常にヘクトールと並び称せられ、屡々ギリシャ方を破ったが、ディオメデスに傷つけられた時にはアプロディテーに、アキレウスに追われた時にはポセイドーンに救われた。神は彼及びその子孫がいつかトロイアを支配するであろうと告げた」。(『ギリシャ・ローマ神話辞典』から)とあります。ここでは、保護の神々の神名として、ギリシャでの仮名が充てられています。
そして、アイネイアスの常日頃からの、神に対する関心が、神々の啓示を仲介する霊媒と出会うことになったのでありましょう。
霊媒ローマ
その霊媒は、ローマという名の女性で、彼女に関する様々な伝説が錯綜する中で、神々の仮名群との照合から、おおよそ得られたものは、彼女はトロイア人で、アイネイアスと共にイタリア半島へやって来た人です。彼女は神々の言葉を仲介した霊媒であったにも関らず、女神やニンフとして、神格化されなかった人で、その名は、後世、民族名、国、地名として残ることになったのであります。
トロイア人を導いた時期の神々の仮名群
神々による霊媒ローマを通しての名乗り出は、種々の伝説の照合から、移住後ではなく、移住前のトロイアの地で行われたと推察されます。これは、ダナエーやエウアンドロスの場合と異なる点ですが、それぞれの流れにおける諸々の状況の違い、二人が王家の肝いりであったのに対し、アイネイアスはいわば、落武者の立場でしかなかったことが、そうさせたとも云えましょう。
| 双子の神 | (兄)ヤーウェ | 双子の神 | (兄)フェレートリウス |
| (弟)ダビデ | (弟)プルーウィウス | ||
| 神々 | ペナテース(複数) | ||
| ミカエル | メルクリウス(商業の神) | ||
| ガブリエル | フェブルウス(月の神) | ||
| ラグエル | フィデース(信義の女神) | ||
| パヌエル | ペナテース(単数)(戸棚の神) | ||
| ラファエル | ルフェルクス(豊穣の神?) | ||
| ウリエル | ウルカーヌス(火の神) | ||
| サリエル | アンゲローナ | ||
| 神名群を世に出した霊媒 | ローマ | ||
| 神々とその霊媒への協力者 | アイネイアス | ||
トロイア人達は移住前に、霊媒ローマを通して神々の励まし、戒めを受け、力添えを得て、移住の準備を始めたことでしょう。いきなり指導者となったアイネイアスにとっては、荷の重い仕事であったにせよ、心は軽かったに違いありません。滅亡に瀕している民達が神々によって、新たな機会を与えられたのですから。
ヴェルギリウスは、次のように表現しています。
《トロイアの英雄アイネイアスは父アンキセスを背負い、息子アスカニオスの手をひき、母ウェヌスにささえられて、陥落したトロイアの戦火をのがれ、イデー山麓の小さな港町アンタンドロスにたどりついた。老若男女、多くの避難民がここでアイネイアスのまわりに集まり、彼の統率の下に、新しい故国を求めることに決めた。避難民達はかろうじて持ってきた財貨を投じて、船隊の建造をはじめ、春が訪れる頃には、出航の準備が整った。トロイアの最長老、英雄アンキセースが船出の合図をした。船がいよいよ故国の岸辺を離れようとする時、どの船からも泣き叫ぶ声、嘆く声が響いた。彼らに残されたものは、ペナテース(国家の保護の神々)だけであった。》(G.シュヴァープ著「アイネイアス」から)
ここでのペナテースとは、当然、前掲の神々の仮名群を指す事になります。まだ、神像も神殿も作られたことのない聖霊の群れであり、アイネイアス達と共に航海を伴にしたことでありましょう。
イタリアの伝承では、国家の保護神達、即ち、この場合複数を意味するペナテースは、アイネイアスがトロイアからイタリアへ捧持し、最初ラウィーニウム、ついでアルバ・ロンガを経てローマに齎されたとされています。この伝承から、ペナテースはトロイアで発したことが窺がわれます。
ヤーウェ=ユピテル・フェレートリウス
後のローマでは忘れ去られましたが、この時の主神の名がフェレートリウス、ヤーウェ様のことであり、これが、古代イタリアで、ユピテル・フェレートリウスと呼ばれた理由であります。
ユピテルとは、天なる父の意であるディエス・ピテールからきています。
偽誓者を打つ(fer?re)神、平和を齎す(ferre)神としてのユピテルの呼称とされています。ヤーウェ様は、古代ではよく「打つ」という意味を、仮名に充てておられます。スラブの主神ペルーンも、スラブ語で「打つ者」という意味でありますが、今日では、雷が打つ、と解され、ペルーンは「雷神」とされています。「打つ者」の本来の意味は「批判する者」の意で、フェレートリウスも、この意味が込められたものとみられます。
ユピテル・フェレートリウス神殿は、ユピテル・カピトゥリヌス神殿より古いとされていますので、共に同じヤーウェ様の仮名であっても、フェレートリウスの方が古い神名であることが判ります。
ダビデ=プルーウィウス
「雨を降らす者」の意味であるプルーウィウスは、ユピテルの別の呼称とされていますが誤りで、ダビデの仮名であります。
これも双子の神が同一神に見られた一例であります。
ミカエル=メルクリウス
メルクリウスは、ローマの商業の神とされています。メルキュレ、マーキュリーとも表記され、ギリシャ化によって、ヘルメスと同一視されるようになりましたが、本来はそれぞれ独立した神格であります。
メルクリウス(Mercurius)は、後に商品(merx)、商人(merc?tor)、報酬(merc?s)、等のラテン語の語彙を生むことになったでありましょう。
使神メルクリウスは、古今の詩人や劇作家達が好んで、よく題材として用いているのでありますが、どれもみな大変美しく表現されているのであります。
「凛々しい立ち姿、天を摩する山頂に今降り立ったばかりの使神メルクリウス。」(シェークスピア『ハムレット』から)
《メルクリウスは、こうして、不敬な女の言葉と心を罰すると、ミネルヴァの名をとったこの都をあとにして、天界へ飛び帰った。すると父親のユピテルが彼をわきへ呼び、色恋がからんだ話であることは伏せたうえで、こんなことをいう。「息子よ、私の命令を伝える忠実な使者よ、ぐずぐずはしないで欲しい。いつものように素早く、ここから天降ってもらいたいのだ。そら、この右手の方に、星となったお前の母親を仰ぐ地がある。土地の者はシドンの国と呼んでいるが、ともかく、そこへ行ってもらうとしよう。少し離れた山手のあたりに、王家の家畜たちが草を食んでいるのが見られようから、その獣らを海岸の方へ追い立ててくれるのだ!」。これを聞いたメルクリウスは、早くも牛の群を山から追い出し、命じられた海岸へと進ませていた。》(オウィディウス『変身談』から)
次の『アイネイアス』からの抜粋は、前出一部の稿同様、グスターフ・シュヴァープ(独、1792〜1850)監修によるものですが、アイネイアスに関する部分は、かなり事実の一端を捉まえているように感じられます。
《ユピテルは早速神々の使者である息子メルクリウスをカルタゴに遣わして、トロイア人達の為に居心地のよい宿泊所を用意させた。ー略―ユピテルはイアルバスのこの訴えを聞くと、オリュンポス山上からカルタゴに目をやった。そして、息子のメルクリウスを呼び寄せた。「アイネイアスは敵対している国で、何をしようというのか?」立腹して言った。「わしがあの男を二度もギリシャの軍勢から救い出し、またたびたびの嵐から逃れさせたのは、こんなことをさせる為ではない、ローマを創設させる為だったのだ!あれをすぐに立ち去らせよ。それがわしの命令だ!おまえはこのことをアイネイアスに伝えてくれ!」メルクリウスは有翼のサンダルを履くと、鳥のように空を飛んで行った。そしてやがて、カルタゴに着いたが、英雄アイネイアスはちょうど宮殿の新築を監督しているところであった。彼の剣は宝石で輝き、ディドが手ずから作ったその外套は緋色に映えていた。つまり、頭のてっぺんから足の爪先まで、テュロスの王侯になりすましていて、トロイア人とは見えなかった。メルクリウスは、他の者には見えないように、アイネイアスの側へ寄り、小声で叱責した。「女の奴隷めが!おまえはこんなところにいて、自分の使命も国のことも忘れ、異国人の為に町づくりなどしているのか。息子のアスカニオスのことや、おまえが建設しなければならぬローマのことを、もう忘れてしまったのか?私はユピテルに言いつかって、おまえを追い立てる為に、オリュムポスから来たのだぞ!」。アイネイアスが驚いて呆然としている間に、メルクリウスは飛び去った。しかし、神の命令はいつまでも彼の心にこびりつき、急いでこの国から逃げ出すこと以外は、もう何も考えることが出来なかった。そして、あらゆる面からその計画を考えた後、アイネイアスは最も信頼のおける仲間達を人目につかぬ場所に呼び集めて、こう命じた。秘密裏に船隊を準備し、仲間を海岸に集め、いつでも使えるように武器を用意しておくこと。しかし、このことが漏れないように、用心のうえにも用心するように。》(ヴェルギリウス『アイネイアス』から)
翼の付いたサンダルを履いた使神メルクリウスが、天空を飛翔する様は、多くの詩人達の想像力を掻き立てたに違いありません。この話が創作であるにせよ、使命を与えられた民達がなかなか動かないので、神々が業を煮やしてそれを急き立てるということは、古代ではよくあったことなのであります。古代日本では、ミカエル様は、民を促がす神でありました。天使の翼が、何故、サンダルに付いているのか?この有翼のサンダルと旅行帽、杖は、ギリシャのヘルメスからの借り物です。オウィディウス(前43〜後17?)は、そのところを次のように表現しています。
《だが、神々の王ユピテルは、イオのこんな苦しみを捨てておけなくなると、きらめくプレイアスとの間にもうけた息子メルクリウスを呼び、アルゴスを殺すようにと命じた。またたくうちに、メルクリウスは、両の足に翼を装備する。逞しい手に取ったのは、眠りを齎す魔法の杖だ。頭には、旅行帽を乗せる。この身ごしらえをした上で、ユピテルのこの息子は、父親の天空から大地へ飛び降りた。地上に着くと、帽子を脱ぎ、翼をとり外した。ただ、杖だけは手にしたままだ。この杖で、羊飼いよろしく、へんぴな田園に山羊を追い立てた。途中で寄せ集めた獣たちだ。そうしながら、葦笛(シュリンクス)を吹き鳴らす。》(オウィディウス『変身談』から)
前掲の抜粋と併せて、メルクリウスの「星となった母親プレイアス」とは、プレイアデス星団を示唆したものであり、神々の出身母星を示しています。
《一方、アイネイアスは出航が決まったので、船の後甲板でうとうとと眠っていた。するとメルクリウスが再び夢の中に現れて、警告を与えた。「女神ウェヌスの息子よ、こんな危険な状態にありながら、どうして眠ってなどいるのだ。おまえがどんなに多くの危険に取りまかれているかが分からないのか?西の順風がひゅうひゅう鳴っているのが聞こえないのか?捨てられた女王の胸には、欺瞞と、復讐に燃える恐ろしい悪行がのた打ちまわっているのだ!今のうちに逃げ出す気はないのか?」。アイネイアスは驚いてとび起きると、仲間をせきたて、ただちに出航した。》(ヴェルギリウス『アイネイアス』から)
西の順風とは、メルクリウスが西風の神ファウォーニウスと同神であることを仄めかしているのであります。(9.8.)
ガブリエル=フェブルウス
古代イタリアでフェブルウスは、月の神とされています。死者を慰める為の祭りフェブルアーリアが行われ、フェブルウスは、この祭りの擬人化神とも言われておりますが、本末転倒でありましょう。フェブルウスが、月の神とされたのは、月の女神ルーナと同一神と考えられたためでしょうか?
ディース・パテルと同一視され、ギリシャ化によって、プルートーン・ハーデース(冥界の王)と同一視されることになります。
フェブルウス(Februus)は、後に二月、february(英)、februar(独)、fevrier(仏)、febbraio(伊)、febrero(西)、の語源となりました。
ラグエル=フィデース
フィデースは、ローマの信義の女神とされています。
信義を擬人化した女神と、今日、考えられているようですが、誤りといえます。
移住には、多くの困難や苦難が予想されていた為に、人の神に対する信義、人の人に対する信義が、フィデース神によって強調されたことでありましょう。
この日本においても、ラグエル様として、信義について説いておられました。信頼を培う上で、信義が如何に大事か。そして、古代においては信仰でもよかったのですが、現代では、信義がより重要であることが強調されました。今や、神々にとって、信仰は重きを置くべき対象ではないのです。神に対する信仰よりも、神々に対する信義の方がより重要視されているのです。
伝説によれば、トロイア人が後にローマとなる地を征服した時、女予言者ローマは、パラティーヌス丘上にフィデースの神殿を建立し、かくて彼女の名により、この地はローマと呼ばれるようになったとされています。
神々を仲介する霊媒であったローマは、神から預言を託されもしたのでありましょう。フィデース神殿を建てたとする伝説は、フィデース神名とローマが同時代であったことを示したものであることを、私達はここから受け止めればよいのであります。神殿の建立ということからして、彼女の晩年は、あまり幸福なものとはいえなかったようです。神々がご自身の神殿の建立を要求するなどということは、まず無いからです。
フィデース(Fides)は、信義のほかに、信頼、信仰の意味が込められ、ラテン語の語彙として入り、「忠実な」(fid?lis)、「信ずべき」(f?dus)、といった語彙が、Fidesから生れたでありましょう。
パヌエル=ペナテース
ペナテースには、国家を保護する神々としての複数と、食料品を入れる戸棚の神としての単数の神の、二通りがあり、単数がパヌエル様の仮名であります。
伝説によれば、国家の神々ペナテースは、アイネイアスがトロイアからイタリア半島へ捧持し、最初ラウィーニウムから、次いでアルバ・ロンガを経て、ローマに齎されたと信じられていました。アルバ・ロンガを興したのが、アイネイアスら、トロイア人と云われていますので、この伝説は、ペナテース(神々)が、トロイアの地で名乗り上げたことを示したもの、といえましょうか。
伝承で、ペナテースは、ラレース(後出)と共に、古くからローマの家の守り神であったと云われています。個人の家のペナテースは、竃とテーブルを支配し、竃には神々の為に、常に火が燃やされたと伝えられています。
現代と違って、ガス・ライターもない古代では、火が非常に大事にされたであろうにしても、ヤーウェ様は古代から、神の霊を、火と表現してこられましたので、この霊の火は、火fireと一体化され、神々に関する由来が忘れ去られるにつれ、人々のfireへの信仰へと、繋がっていったのだと考えられます。ウェスタ女神殿に灯され続けられた火、同様に。
ラファエル=ルペルクス
ルペルクスは、ローマの農作、家畜、人間の多産を祈る祭り、ルペルカーリアの主神とされています。その一方で、ルペルカーリアは、ファウヌス神の祭りとも云われているのです。共にラファエル様の仮名であるその由来が、そこにはあるわけですが、恐らく、それは今日忘れられているでしょう。
ウリエル=ウルカーヌス
ウルカーヌスは、ローマの火の神とされています。これは、ヘブライ語でウリエルの意味「神の火、神の光」と同一神であることを示唆したものです。
伝説では、ウルカーヌスの妻は、ウェヌスであり、その孫は、ユールスとされていますが、この三つはいずれもウリエル様の仮名です。このことから、ラファエル様の仮名群同様、或る時期に、ラティーヌスに始まる神々の仮名群の全てが集められ、検討され、そして、神話が作られ、神名に付加されたことが窺がい知れます。それが行われたのは、古代イタリアにおける最後の霊媒ヴィクトーリアの時代でした。(「神々の仮名群一覧表」参照)
ローマの神々がギリシャの神々と一体化された、所謂ギリシャ化が行われたのもこの時期でしょう。ウルカーヌスは、ヘーパイストスと同一視されるようになります。
尚、ウルカーヌスは、「火除けの神」とされるムルキベルと同一視され、同神とされていることもありますが、明らかに誤りです。ミルトン(1608~74、英)は、『失楽園』の中で、ムルキベルをサタンとしていますので、ダビデが天使の肩書きを与えた堕落天使の一人でしょう。ムルキベルの意味には、神話学的に定説がないといわれています。
また、セラフィムという天使の階層があって、ウリエル様の名がその階層の天使の一人に数えられていることもありますが、実際のウリエル様とセラフィムとは何の関りもないということも書き添えておきましょう。
セラフィムとは、ダビデの造名によるものであって、どの天使が真の神であるのか、人々の目を眩ますことを目的とした攪乱の為のものでしかないからです。
悪魔崇拝に繋がるようなカバラの秘儀書には、多くの堕落天使、サタンの名が連ねられている中に、ウリエル様やミカエル様、ラファエル様の名が一緒に連ねられているものがありますが、神々はそのような秘密の儀式とは何の関りもないということです。そうした秘儀書には、神々を侮辱してサタンの歓心を買いその力を借りる、という狙いがもともとあるのであります。
サリエル=アンゲローナ
アンゲローナに関しては、資料らしきものに、まだ巡り合っておりません。この仮名は、後のサリエル様の仮名、病気治療の女神アンギティアの造名に繋がったであろうと考えられます。(9.22.)
アイネイアスと霊媒ローマ
ヴェルギリウスによると、アイネイアスはトロイア陥落後、7年間、流浪の生活を送りました。
そして、トロイア出発後、トラーキア、マケドニア、と各地を転々とした後、イタリアのシシリア島に上陸し、ドレパノンで父を失ったとあります。そこからさらに、シシリア島を出てラティウムへ向かう途中、海上で嵐に流されてカルタゴに着き、女王ディドに歓待され、誘惑されてかまけてしまう、そこで前出の、ユピテルによって使神メルクリウスがアイネイアスに遣わされる話(メルクリウスの項参照)となるのであります。
ただ、物語と事実が異なる点は、ユピテルやメルクリウスを始めとする神々は、オリュンポス山上に在ったのではなく、アイネイアスらと行動を伴にしたであろうことです。ローマの神話を作るのにギリシャの神話を導入したために、ユピテルはオリュンポス山に居ることになったのですが、イタリアの神もギリシャの神も、元はと言えば同じ神なのですから、つじつまは合っています。
ヴェルギリウスには、ローマはただの一度も登場して来ないのですが、アイネイアスとオデュッセウスの二人が一緒にモロッソス人の地よりイタリアに漂着した時に、ローマは船を焼き払うように勧告したとする、別の伝承があります。
ローマはアイネイアスの妻、或いはアイネイアスの息子のアスカニオスの妻、或いはアスカニオスの娘、と説が幾つかあって、この辺りの伝承は錯綜していて、どれが事実と決めかねるのが実状でありましょう。ただ、トロイア人であるという伝承と合わせ、アイネイアスの身近にあった女性で、彼によく助言を与えていた人であったというように思われます。
エウアンドロスの住んでいた(死去後?)パラティーヌス丘に、トロイア人達が移住して来た。そして、ローマの地の命名は、後のロムルスの誕生と建国によって確実なものとなる。移住トロイア人達はローマ人と呼ばれるようになる。このことは、ユピテル・フェレートリウスが、ユピテル・ヤーヌスとして、現れたその時に、神がその約束を霊媒ローマに対して果たした、ということではないかと思われます。(9.27.)
前回のアルカディアからの移住の項で述べたカイクルスが、伝説でウルカーヌスの子とされているのは、次の霊媒ローマの時代にやや入っていることを示しています。。このことは、次に述べるリュディアからの移住と同様に、このギリシャ動乱期における神々による民への導きの時期が非常に近接していたことにあるでしょう。神々の仮名群一覧表にある古代イタリアにおけるそれは、判り易く理解する為に、便宜上100年ごとに区切ってあります。が、あくまで目安として捉えて下さい。(9.29.)
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