3.ハネとモジリ

 

 昔から、釣人がポイントを決める要素として、ハネやモジリがあったとか無かったとか良く言われますが、果たしてそれは実際どの程度役に立つのでしょうか。
私のつたない経験の中からそれを分析して見たいと思います

では、ハネやモジリとはどんな行動を指していうのでしょうか?
 ハネとは、魚が水中から水しぶきを挙げながら、魚体の全部もしくは一部を見せながら水面に勢いよく飛び出す行為の事をいい、モジリとは、ハネをおとなしくしたような感じで、魚が頭の先端や尾鰭の一部を水面から出し、水面の水を掻き回す行為をいいます。
 ハネの場合はバシャッとかドボンというような大きな音が伴い、モジリの場合はザバッという程度の小さな音もしくは全然音をさせない場合が多いようです。
 何れにしても、魚が水面に姿や気配を見せる行為の事をいうようです。
 したがって、このハネやモジリを見れば、どんな魚が生息しているかどうかは解ります。
すなわち、魚種や大きさ等です。たとえ、ハネの姿を直接見なくても、その後の泡付けを見れば魚体の大きさが推測できます。泡付けの粒の大きさが大きく量が多いほど大型の場合が多く、小型ほど小さい場合が多いからです。もし、そうしたハネやモジリの後に大きな泡付けが多く見られるポイントに出会ったなら、そこは大型の多く生息しているポイントです。心して掛かりましょう。
 特に野鯉は、ハネやモジリを非常に良く見せる魚です。釣り人の中には、ポイントを探す条件としてこれを目安としている人が少なくありません。
 それでは、ハネやモジリにはどんな意味があるのでしょうか。
それを知るためには、どんな場合にハネやモジリが起きるかを知れば、大きな手掛かりとなるはずです。
ハネやモジリが起きるとき
 朝夕に良く見られる
  魚の活性が高くなる時間帯で、エサを探して移動しているコースで見られる場合が多く、比較的ポイントの目安になり易い。
 天候の変わり目に良く見られる
  活性の高くなる条件に変わる場合に多く、風が吹いたり雨が降り始めた時などに良く見られる。魚の活性が上がり始めた事を現す場合が多く、竿を出すチャンスといえるでしょう。
 干潮満潮時に良く見られる
   汽水域の流れのある場所で良く見られる現象で、潮止まりの頃に良く見られる。
 急激な水温の変わり目に良く見られる
   低水温の時期は水温が上がる場合に多く、高水温の場合は水温が下がる場合に良く見られる。魚の活性が高くなってきた事を示す場合が多い。
障害物の上で良く見られる
   いつも同じポイントで良く跳ねるので、仕掛けを投入した所、根掛りして釣りにならないという場合は、マーキングの場合が多く、鯉が犬のようにテリトリーを示す行為として障害物に身体を擦りつけ、勢いあまって水面に跳び出す場合が多く、そんな所は餌場にはなり難い。
    以前に三重県の櫛田川に釣行した時に目撃したのが、まさにこれでした。櫛田川は水質がとても良く、2mほどの水深だと底まで見える程で、ポイントの散策をしていたときにあまりにも良く鯉の跳ねるポイントがあるので、近寄っていくと1m程の浅場に2m程の流木が1本水底に埋もれていて、それに1尾の鯉が身体を擦りつけていたのです。そして、時折勢い余って水面に飛び出すのが、ハネやモジリに見えたのです。そして、驚いたのは、それより沖合い20m程の所に鯉の群れが待機していて、流木に身体を擦り付けていた鯉が離れると、交代に同じように身体を擦り付けて行くのです。この行為は、朝と夕方に見られ、対岸のブッシュの陰から朝に遣って来て身体を擦りつけ、浅場のテトラのあるワンドで日向ぼっこをして過ごし、夕方に対岸へ戻る途中で又流木に身体を擦り付けていくのです。その行為は1尾ずつ行われ、1尾が終わるまで別の鯉たちは少し離れた所で待機しているのです。釣場で、水中に立ててある竹杭が良く揺れている事がありますが、それは鯉が身体を擦り付けているからなのです。
 釣り人が釣りを終えてから良く見られる
   さっぱり釣れなくて、諦めて竿をしまい終えた途端に、そのポイントで鯉が姿を現すことが良くあります。まるで、鯉に馬鹿にされているようで、鯉の賢さに感心したりするのですが、そんなケースはスレタポイントに多いようです。諦めて直ぐに帰りましょう。
 静かな時に良く見られる
   釣人の多い場所では、釣人の居ない時や、釣人の気配の少ない夜間や早朝にハネやモジリが良く見られます。
 産卵時に良く見られる
   これは、浅場で鯉の群れが産卵に夢中で追い駆け合いをしている行動が、水面に出る事が多く、こんな場合はそこに仕掛けを投入しても無駄というものです。
 浅い場所
   浅いポイントでは、どうしても鯉の動きが水面に出やすく、それがハネやモジリに見えて、思わず狙いたくなりますが、中々難しい事が多いようです。
 大きな音や振動のあったとき
   花火や工事でいきなり大きな音や振動が有った時も、鯉は驚いてハネを見せます。また、大きな仕掛けを投入した時にも同じようにハネル事があります。
   こんな時は、直ぐには釣れませんが、納まって暫くすると意外と良く釣れます。花火の終わった後に大型が釣れたという事を聞くのは、騒音のプレッシャーから解放されて大型の警戒心が緩むからかもしれません。
 地震の前後
地震の来る直前は、さっぱり釣れないという事を良く耳にします。実際、私も正月休みに寒鯉狙いで名古屋の庄内川で竿を出していた時の事です。さっぱりアタリが無いのに、真冬というのに鯉が異常に多くハネやモジリを見せるのです。それは、沖に連なっている石の沈床の上でした。周りにいた釣人達もさっぱり釣れないので、そこを目掛けて仕掛けを投げるのですが、全然アタリはありません。結局、一日中何のアタリも無く帰宅すると、翌朝震度3の地震が起きました。おそらく、人間には気付かない微細な振動を、水底の魚達は気付いて水面近くまで浮上していたのでしょう。すなわち、おじけて姿を見せていたのです。
リリースした後
 大会の時の検量の後に会場で多くの鯉をリリースすると、そこでは暫く頻繁にハネやモジリが見られる場合が多くあります。これは、弱って苦しさのあまり、酸素を求めて水面に顔を出すものと思われます。夏場に魚が水面で口をパクパクさせるのと同じ現象だと思われます。もちろん、そんな所で竿を出しても釣れるはずは無いでしょう。
ハネやモジリが起きないとき
 魚の居ないところ
  魚の居ないところにハネやモジリが見られないのは当たり前ですが、逆に釣人はハネやモジリが見られないと、魚が居ないと考えがちですが、この場合、逆もまた真なりとはなりませんので、早合点しないことです。
 冬季などの水温の低いとき
   低水温で活性の低い時はどうしても動きが鈍く、ハネやもじりはずっと少なくなります。それでも、見られるポイントは活性が高いポイントといえ、狙い目となります。
 真夏などの水温の高い時
   高水温の場合は、酸素の溶存率が下がりどうしても酸欠気味になりやすく、鯉の活性も低くなります。そんな時は、夜間や早朝の水温の下がる時にハネやモジリが見られる場合が多いようです。また、風や雷雨が急に来て酸素が入ると、活性が上がりハネやモジリが見られる場合があります。こんな時は狙い目です。
 釣人の多い場所・スレタ場所
  釣人が多いところでは、どうしても人の気配が水中にも伝わり、魚に警戒心を与えて、ハネやモジリが少なくなります。そんな所では、ハネやモジリはとても届かないような遠くで見られる場合が多いようです。それに釣られて遠投しても、あまり効果はありません。地形や天候等を重視してポイントを取る事です。 
 釣人の全く入っていないところ
   全然釣人の入っていない場所では、エサも当然打ち込まれていないため、あまり群れが集まっていないところが多く、最初は全然ハネもモジリも無いという場所が少なくありません。
   しかし、エサが効いてくれば段々とハネやモジリも見られるようになります。その場合、沖から見られる事が多く、それに釣られて迎えにいってはいけません。あくまで、条件に合った餌場で待つことです。



以上が良く見られる時のケ−スですが、それを分析しますと以下のようになります。

活性の高い時はハネが多く、活性の低い時はモジリが多い。
  これは、魚が水面に出る勢いの差が関係しているものと思われます。
 大型ほどモジリが多く、小型ほどハネが多い。
   これは、魚体の重さが影響しているものと思われますが、スレていない場所では、びっくりするような大物がジャンプする事もあります。八郎潟の初期の大型ブームの時には、そんな大物が次々とジャンプするのに驚かされた覚えがあります。
 活性の高いとき
  朝夕や、気温・水温が上昇した時、風の吹き始め
驚いた時
 苦しい時
 テリトリ−を示す時
 産卵時
ハネやモジリで何が解るか
 魚種
 サイズ
ハネやモジリによるポイントの選び方
 さて、鯉は本来底層を泳層とする魚です。それでいながら水面に姿を現すというのは、それなりの理由があります。その理由を考えないで、やみくもに鯉のハネタ場所をポイントに選ぶのは、あまり良くありません。
 釣りに好影響を与える場合のハネは、活性の高い時に見せるハネやモジリです。
多くの釣人は魚が跳ねたりもじったりすると、そこへダイレクトにエサを投入する場合が多いようです。それで、釣れる場合もありますから、次にそうしたものを見た場合同じようにしがちですが、そうそう釣れることはありません。
 そういうハネのことを見せバネと呼ばれるようですが、では、釣れるハネと釣れないハネとは区別がつくのでしょうか?
 私に初めて鯉が釣れたのは、実は、この鯉のハネを見たポイントだったのです。それは学生時代の夏休みの夕方に、偶然、鯉の群れを目撃したことから始まりました。
揖斐川のある淵で泳ぎ疲れて岸辺で休んでいたところ、カーブの最深部から足元の浅場に1尾の鯉が上がってきたのです。そして、その後から何尾もの鯉がついてきて岸辺に群れをなしてじっと佇んでいるのでした。
子供の頃から憧れだった野鯉が、目の前に群れを成しているのを見て、私は何時までも日が暮れるまでじっと見とれていました。
翌日から、私は、その群れを目撃した深場めがけて毎日竿を出しましたが、行けども行けどもさっぱり釣れず、釣れるのはウグイやシラハエといったジャミばかり。たまに掛かる鯉といえば、20cmにも満たない小鯉ばかりでした。
そして、夏休みも過ぎ9月も終りに近付いた頃です、いつもの深場で竿を出していた所、上流の浅場で鯉が跳ねたのです。あまりにも釣れない日が続いたので、とりあえず1本の竿を移動してそのポイントに投げ込みました。すると、元の場所に戻る間もなく竿が大きく引き込まれたのです。慌てて竿に飛びつくと、凄い引きに竿をのされ、糸を切られてしまいました。そこで、残る竿も移動したところ、またもや1回切られた後、何とか47cmの鯉が釣れました。今から思えばたいしたサイズではありませんが、当時は垂涎の大物に思え、ハリを外すのにも手が震えて中々上手くいかない程でした。その後、そのポイントへは釣れなくなった10月の末まで通い、15尾程の野鯉が上がりました。
この時の体験はハネがポイントを教えてくれた例ですが、今から思えば、そのポイントは淵の始まりの落ち込みで、一番のエサ場だったのです。鯉を目撃したポイントは、カーブの頂点にあたる深場で、流れの逆流するようなあまり水通しの良くない場所で、ポイントの順位からいくと最後に攻めるような所だったのです。全くの初心者であった当事の私に、そんな事が解る訳も無く、只、見えた鯉に振り回されて、たまたま釣れたという事だったのです。



◆ハネ・モジリを確認してから投餌点を決めるまで、どのような方法を取るか
ポイントの決め方は、基本的には地形や季節・天候を考慮して行います。ハネやモジリがいつも見られるとは限らないからです。特に、エサの入っていない新ポイントでは、ハネやモジリは見られない事が多いからです。
ただ、運よくハネやモジリが見られた時は、次に何処でどのように出るか確認します。サイズや姿勢・位置などに注意します。例えば、水面に裏返しや横向きに出るようなハネの場合は、マーキングや身体が痒い時そして産卵期の行動が多く、あまり食い気には関係ありません。
正常の姿勢で水面に頭を出し、尾鰭で水面をかき回すようなハネが位置を変えて見られる場合は、回遊コースに沿って動いている場合が多く、そのコースを覚えておくと良いでしょう。

◆実際に釣っていて、ハネ・モジリを見てエサを打ち返す場合
一昨年の夏、大江川の古琴寿司ワンドの出口へ2回目に入った時の事です。岸辺から10m程の所に水深1mから4mへと急に落ちるカケサガリがあり、日中は下のラインでアタリが良く見られていたのですが、夕方になり向かい風が吹き出して暫くすると、上の浅場でモジリが見られるようになりました。そこで、浅場に狙いを変えたところ、日が暮れてたち続けにアタリが出て、1mを頭に3尾の野鯉をゲットする事ができました。これは、日中は沖目を夜間は手前を攻めろ、というセオリー通りの結果を示した好例です。
しかし、前回このポイントに入った時も、夜間はこの浅場を攻めていたのでしたが、1回のアタリも無く終わっていたのです。今回、モジリを見ていなければ、同じ浅場を攻めていたかどうかは疑問です。
さて、このようにハネやモジリは、魚の位置や動きを知らせるアンテナの役目をする場合があり、セオリーにかなったケースでは、良い指針となります。

◆泡づけについて
泡づけも、ハネやモジリと同じく昔からポイントを知る手掛りとして、釣人の多くに語られてきました。泡づけとは、水中から水面に上がってくる空気の泡の事を言いますが、これにも色々種類があり、我々の釣りに影響する鯉のものと、そうでないものとがあります。
地泡…地底から出るガスの泡で、水温上昇や気圧や水位の変化で現れます。大小色々ありますが、多くはいつも同じ所から出るので見分け方は簡単です。
魚の泡づけ…ハネやモジリの後に見られる泡づけと水底を突いている場合の泡づけそして魚が直接出す泡づけがあります。どちらも、泡の大きさと魚の大きさが比例する事が多いので、大体判断する事ができます。
 問題は、沢山の泡づけが一帯に出ている時です。この時は、ガスが一帯に吹き出ている場合か、沢山の魚の群れがエサを漁っている場合です。
昔、名古屋市の庄内川で大釣りをした時の事でした。大潮の満潮時に竿を出し、下げ潮に変わると大量の泡付けが付近一帯に見られるようになりました。庄内川はヘドロが多く堆積している川なので、水圧の変化でガスが噴出しているものと思っていた所、アタリが出始め、干潮までに二桁の釣果を得た事がありました。もし、大量の泡づけを見た時、それが野鯉の群れのものだとしたら、それは大釣りのチャンスです。是非、トライしてみて下さい。

最後に、ハネやモジリは釣人をワクワクさせてくれます。昔の人は一ハネ百貫と云いましたが、ハネは魚が居る確かな証拠となります。それは、希望と期待を釣人に与えてくれます。それはまた、ポイントへの自信ももたらす事となるでしょう。
しかし、ポイントの選定は、あくまでも地形や季節・天候の推移を見て決めることが基本です。
ハネやモジリは、修正の手段の一つとして参考にすると良いでしょう。
 秋は春と並んで野鯉の活性が高まる季節です。豪快なハネや大きなモジリがポイントの各所で見られることでしょう。その主が、期待を込めて打ち込んだエサに掛かる事を信じて、アタリを待ちましょう。

第2章タックルと仕掛け     目次