<野鯉餌−基本からの考察>
第一章では、野鯉の身体構造こそが、野鯉釣りの基礎であると書きました。そこで、今回は野鯉釣りの要素の中で、最初に野鯉と触れ合うものについて述べてみたいと思います。 それは、すなわちエサです。
<雑食の王者−野鯉>
釣り人に、大物が釣れたよと言うと、まづ最初に聞いてくるのがどこで釣れたのかという事です。そして次に聞いてくるのが、釣れたエサは何かという事です。そのくらい、釣り人にとって餌というのは重大であり、関心を引く的なのですが、野鯉釣りでもそれは同じ事で、場所と餌さえ解れば、あとはもう大物を釣ったような気分の釣り人も少なくありません。
昔の釣り人は、『餌に鍵を掛ける』という言葉を産み出すほど、釣り餌については大切に思い、苦心していたようです。今でも、釣り人の中にはマル秘のエサだといって、自分の餌を隠そうとする人もいるようですが、それほど野鯉釣りにおいてはどんな餌を使うかという事が重要視されてきました。
そして今でも野鯉ほど、釣り人をエサについて悩ませる魚種は、他に無いのではないでしょうか。
いわゆる亜熱帯性の淡水魚とされながら、日本全国の至る所に住み着いて、真冬には結氷するような水温の低い高地の湖から、海水の混じる汽水域、また、とても魚が住めるとは思えない汚水にまで順応して生息しています。
そこでは当然、環境に応じて餌の種類も変化し、野鯉はそれに順応してさまざまな餌を食べています。その食べられるものなら何でも食べるという食性が、野鯉の強靭な順応性を育てたと言っても過言ではないと思います。
水底に生息する貝類・環虫類・甲殻類の動物性のものから、地上から落下した稲・麦・木の実等の果実や雑穀類、そして人間の垂れ流す残飯等、まさしく野鯉は雑食の王様とも言えます。
釣り人の最大の関心事は、この無限に近い多種多様の餌の中からいかに選択し、いかに使うかという事にあります。
それでは、野鯉の餌にはどんな種類の餌があるのでしょうか。ここでは、その種類と性質を分析して、野鯉の食性から釣り餌としての可能性を探ってみたいと思います。
<野鯉の食性>
そのためには、野鯉の食性における基本を理解する必要があります。基本というと、あまり重視しないで末端の応用論ばかり目を向ける人が多いようですが、基本がしっかりしていないと正しい思考ができず、応用もできません。
具体的な餌の選択や使い方につきましては、ポイント別に各地の釣り人が解説していますので、ここではどのような場合にどのような餌を選択しどのような使い方をすれば良いのかという、基本的な考え方を解説してみたいと思います。
基本は原点ですが、また無限へと繋がる扉でもあるのです。
さて、すべて生物はどの時代にあっても生きるためにその環境に順応するための努力を繰り返し、それに適応したものだけがその時代を生き延びて後世へと繋がってきた訳です。 したがって、その肉体構造を見ればその進化の過程が解り、また生態も推測できます。考古学者や生物学者は、歯や顎の骨の一部を見ただけで、その動物の食性や姿形が解ると言われますが、それにはそうした理由があるからです。すなわち、それぞれの形には長い年月を掛けて自然に順応して進化して来た結果が現れているからなのです。
例えば、同じ鯉科の咽頭歯でも、レンギョ、ソウギョ、アオアオ、コイを較べると、各々独自の形をしています。それぞれを単独で見ていると解らなかったことが、比較することで食性における違いを明確に推察することができます。
では、野鯉の食性を決定するものは何かというと、野鯉と環境との対比によると言えるでしょう。野鯉の側から見れば、野鯉の肉体構造及びそれに起因する本能的欲求であり、各種感覚をコントロ−ルする知能であるのです。 以下に野鯉の食性に影響を及ぼす肉体的構造とそれに起因する生態を上げてみます。
<野鯉の身体構造と生態>
@口唇
鯉の唇は、上が長く下が短い形をしていて、前方下へ良く伸縮し、水底の餌を採るのに適した形をしています。口先に歯は無く、前方下へ良く伸縮し、吸い込んで餌を取ります。この生態が野鯉を釣る上で大きな意味を持ち、吸い込み仕掛けは、この習性を利用して考えられた仕掛けの傑作と言えるでしょう。
A口腔
口腔内に味覚を感じる器官を持ち、それによりエサを見分ける事ができます。味覚は人間の何倍も優れていると言われます。また触覚も秀れ、温度や硬さも識別することができます。
そのため、餌とおぼしきものは、とりあえず口の中に入れ、吸い込んだり吐き出したりという動作を何回も繰り返して餌を食べる習性をもちます。
Bサイハ
餌を選り分けるサイハは短く粗密です。そのため、プランクトンなどの微細なものには適していません。そのことは逆に、比較的大きなものを良く食べるという事を現しています。この事は、釣り餌を考える上で重要な意味を示唆しています。
C歯
鯉科の魚の歯は、咽頭歯と呼ばれ、喉の奥に位置し、上顎の円筒状の臼と下顎の歯から成り、それを噛み合わせる事により餌を食べます。
野鯉の歯の形から食性を推察しますには、同じ鯉科の魚種と比較しますとより明確となりますので以下にそれを上げてみます。
まずレンギョを見ますと、その歯は薄くペラペラで、微細なプランクトンばかりを食べているうちに、退化して歯としての機能を失ったように思われます。
ソウギョの歯は、臼歯状になった先端部分が鋸状になり、藻やアシなどの繊維を細かくかみ砕くのに適した形をしています。
アオウオの歯は、ソラマメのように平たく巨大で表面はツルツルです。これは、貝類や甲殻類などの表面が固い殻に覆われているものをかみ砕くのに適しており、アオウオの好物がタニシであると言われるのも頷けます。
さて、鯉の歯は草魚とアオウオの中間とでも言った方がよいような形をしており、頑丈な臼歯状の先端部分が少しギザギザになっています。これは、固い草の実や穀物類をかみ砕き擦り潰すのに適した形となっています。アオウオの歯の先端部分はツルツルで穀物を擦り潰すには不適で、あまり擦り潰さなくても消化のよい活き餌が好物であると推察できます。
D胃
鯉には胃がありません。そのため、人間のような空腹感は無いと思われ、血液中のある成分が欠乏すると摂餌を促すと言われています。逆にこの事は、満腹感も無い訳で、餌に夢中になると狂ったように餌を取り、餌を尻から垂れ流す状態でも餌を食べるという理由にもなる訳です。
E腸
鯉の腸の長さは、レンギョやソウギョより短くアオウオより長いと思われます。と言うのは、同じ大きさの魚種を比較したデ−タが無いからで、もし同じ大きさの魚種で比較して上記の推察が証明されたとすれば、これは鯉が淡水大魚の中で最も雑食であるという事の証明とも成る訳です。
F鼻
鯉の鼻は口と目の間に位置し、一対の穴と蓋を持ち、口とは独立して存在します。嗅覚を受け持ち、その能力は犬以上と言われ、餌を探すのに大きな役割を持ちます。水中では匂いは空中よりもはるかに強い刺激を持ち、集魚力に大きな影響を持っています。
G耳
鯉には外耳は無く、体に受けた音圧を浮袋で感じ、内耳に伝えると言われます。水中で音の伝わる速度は空中の5倍程と速く、視覚よりも聴覚の方が発達し、餌を探すのにも大きな役割を果たしています。
H側線
低周波の波動を感じ、レ−ダ−の役割を持つと言われ、これにより濁った水や暗闇の中でも餌を探し出す事ができます。
I目
鯉の目は、頭部の前方上部の両側に一対を持ち、両方で360度の視野を持ちます。他の魚種と同様に近眼で、鼻や耳ほどあまり敏感ではありませんが、視覚を受け持ち、色や形を識別する能力を持っています。そのため、餌の色や形なども当然識別する事ができ、それが経験となって餌を識別する役割を果たします。
J亜熱帯性の変温動物である
これは一見、食性とは関係ないように思われますが、季節による食性の変化に関係してくるのです。それは、適水温を下回った時、消化できない餌を取らなくなるという事なのです。すなわち、体温調節のできない変温動物の鯉は、体温が低下すると消化機能も衰え、消化の悪い固い餌や繊維質の餌を食べる事ができなくなるという訳です。
また、変温動物であるため体温を維持するためのエネルギ−を必要としないので、エサの量は同じ大きさの恒温動物と比較して非常に少なくすみ、これが釣りを難しくする要因の一つとなっている。
K脳
各種感覚が発達し、それを識別・記憶する能力を持ちます。それはまた、経験学習の能力にも繋がり、長年を生き延びるだけの高い知能を有します。ただし言語を持たないため、経験はそれぞれ個々の経験の羅列として記憶されるだけで、経験と経験を結び付けて考える事ができません。そのため餌と針との区別ができず、針の付いた餌を食べてしまう訳です。この鯉の知能の限界を知るという事が、後で解説する餌のロ−テ−ションが効果を発揮する根拠となっています。
結局、鯉は生きるための最も大きな要素である食物を得るために、各種感覚を発達させ餌に対する識別能力が非常に高い事が理解できます。音や匂いで感知し、目で見て口で触って味をみて食べるのです。
<環境の変化と野鯉の食性>
野鯉を取り巻く環境には、野鯉の生息する場所及び、季節などの時間的要因があり、それらはダイナミックに変化するもので、それに応じて野鯉の食性も変化します。
<季節による食性の変化>
野鯉は亜熱帯性の変温動物である為に、当然、季節による水温の変化に食性も影響を受けて変化する。
<水温による食性の変化>
<場所による食性の変化>
<野鯉と他魚の食性の違い>
<餌の種類>
今まで多く使われてきたエサを分類しますと、応用範囲の広いネリエサと、ジャミに強い固形エサの2種類に分ける事が出来ます。
野鯉釣りに使われるエサを分類すると、自然の餌と加工した餌に大きく分ける事ができます。
(1)自然の餌
自然の餌は、また動物性と植物性に分ける事ができ、それぞれ水生のものと、陸生のものに分ける事ができます。
動物性の餌
@水生の餌
ミジンコなどのプランクトン。赤虫、ボウフラ、糸ミミズ、ゴカイ、イトメなどの環虫類。トビゲラ、カワゲラなどの川虫。エビ、カニ、ザリガニなどの甲殻類。タニシ、シジミ、カラス貝などの貝類。魚卵、小魚など。
A陸生の餌
セミ、チョウ、トンボなど昆虫の成虫ならびにサナギや幼虫。ウジ、ミミズ、ドバミミズなどの環虫類。
植物性の餌
@水生の餌
藍藻などの植物性プランクトン、水草、水藻の芽や実
A陸生の餌
イチジク、イチゴ、桑の実などの木の実、草の実。
米、麦、トウモロコシ、大豆、豆、ヒエ、アワなどの雑穀類。
サツマイモ、ジャガイモ、トマト、カボチャ、ニンジンなどの野菜類。
(2)加工エサ
加工した餌は、パンやソ−セ−ジなどのようにそのまま切って使えるものと、イモや豆などのように煮て使うもの、また粉末にして水で練って使うものなどがあります。
パン、麩、ソ−セ−ジ、チクワ、カマボコ、ハンペイ、油揚げ、チ−ズ、ジャガイモ、 サツマイモ、大豆、ネリエサ類
<性質による分類>
さらに、これらの餌は次のような性質によっても分ける事ができます。
大きさ
水への溶解度
硬さ
粘度
比重
匂いの強弱
味
<釣り餌の条件>
上記の性質は釣りをするうえで大きな影響を持つものですが、釣り餌として使用するためには、次の幾つかの条件を満たせるものでなければなりません。
@餌の加工が容易
餌の大小、硬軟、粘度の加工が自由にできるなら、より多くの条件に適応する事ができます。
A集魚力がある
味覚・嗅覚を刺激し、広く拡散する性質のもの。
B食い込みが良い
柔らかい、軽い、小さい性質のもの。
C餌切れが良い
吸い込んだ時に餌と針が分離しやすいもの。
D餌持ちが良い
野鯉が食べるまで餌が残っているもの。
E餌の入手が容易
いくら優れた餌であっても、あまりに高価なものであったり、どこにも販売されていないものや、採取が困難なものでは釣り餌としては適していません。
F餌の保持・保存が容易
これも前項と同じように、餌の保持にあまりかさばったり、手間が掛かったりするものでは、やはり適当な餌とは言えません。腐りやすい生物や死にやすい活き餌の場合は、これが問題です。
G針への装着が容易
如何に食い込みの良い柔らかい餌であっても、針に付ける事ができなければ、そのままでは釣り餌として使えません。適度な硬さや粘りが必要です。
<釣り餌の選択方法>
以上のように、いろいろな条件を並べてみますと、実用的な釣り餌となるものは意外に少なく、特に自然の餌の場合には、季節の影響が強く、餌の入手も保持・保存が困難なものが多いようです。その中で実用的な餌といえば、ミミズ・ゴカイといった環虫類でしょう。寒期や降雨による増水時、濁りの出た時に効果を現します。
また、ジャミに強い餌としては、生きたザリガニが上げられます。特に、暖期のジャミの活性の高い時に効果を発揮するようです。
さて、釣り人が最も頭を悩ませるのは、いかに餌を選択し、どのように使うかという事でしょう。無数にある餌の中から、ダイナミックに変化する釣り場の条件に応じて、餌を使いこなすという事は、簡単な事ではありません。
自然の中では、野鯉以外の魚種も多く同じフィ−ルドに生息しており、むしろ野鯉は少数派であるため、野鯉だけを選択して釣り上げるという事は、独特の工夫が必要です。
そこで、野鯉と他魚の比率及び活性の程度により、餌の使い方を分類してみたいと思います。
@野鯉も他魚も活性が低い場合
晩秋から初春までの水温の低い季節に多い状態で、魚の動きが全体ににぶいので、匂いの強いものや拡散性の高い餌で誘い、食わせには食い込みの良い柔らかい小さい餌を用います。
集魚力の強いもの
食い込みの良いもの
A野鯉も他魚も活性が高い場合
春秋の好期に多い状態で、餌の使い方を最も問われるときです。集魚力は控えめに、餌持ちの良い餌でかつ食い込みの良い餌を用います。
餌持ちの良いもの
B野鯉が他魚より活性が高い場合
初夏や初秋の雨後もしくは晩秋の落ちの時期によく見られる状態で、理想に近い状態で大釣りのチャンス。集魚力の強い餌と、食い込みの良い餌を使用する。
C野鯉が他魚より活性が低い場合
いわゆるジャミが多いという状態で、集魚力の強い餌を用いますとジャミの猛襲にあって釣りにならない状態となります。そこで、ジャミを狂わせないように、匂いの強い餌や拡散性の高い粉末餌は低めに押さえ、餌持ちの良い粒餌を主体にじっくりと待ちます。
<代表的な餌と万能餌>
加工餌は自然の餌に較べると実用的な餌が多いようです。その中で、双璧とも言えるのがネリエサとサツマイモでしょう。この二つの餌は、日本全国どこでも使われている野鯉の万能餌と言えます。
ネリエサは、いろいろな材料を粉末にして水で溶き、釣り場で自由に加工できる特徴をもち、最も応用範囲の広い餌と言えます。また、材料の種類や大きさも自由に混ぜ合わせて使用できるため、目的に合わせて工夫しやすい利点があります。そのため、市販されている種類も多く、上記の釣り餌の条件をすべて満たしていると言えます。
サツマイモは、そのままでは使えず煮たり蒸したりしたものを適当な大きさに切って使用します。また、一度煮たものを擦り潰してもう一度蒸し上げたイモヨウカンも、良く使われます。市販されているものもありますが、ネリエサに較べ種類は少なく、多くの釣り人は自分で加工している事が多いようです。上記の釣り餌の条件を満たす餌に加工するためにはかなりの経験と手間が必要になります。
このサツマイモの餌の中で変わり種が干しイモです。これは冬場に八百屋やス−パ−で販売されているお菓子の一種ですが、切り干しと丸干しがあり、どちらもサツマイモを蒸したものを天日に干して乾かしたものです。非常に粘りと弾力があり、水の中に入るとふやけて柔らかくなり、理想の食わせ餌になります。
この二つの餌を較べますと、圧倒的にネリエサのほうが野鯉釣りに適しているように思われるのですが、実績を見ると単品であるサツマイモが遜色の無い結果を出しているばかりか、流れのある川などでは逆に良い実績を上げています。例えると、いろいろな材料の連合軍に単品のサツマイモが匹敵している訳です。
実は、ここに野鯉釣りの餌の適性の秘密が隠れているのです。今まで、釣り人はそれを野鯉の好物であるからだとか、ジャミに強いからだとか幾つかの理由づけをして来ましたが、何故そうなのかという問いには答えられないで来ました。学者はそのことに関心を示さず、釣り餌メ−カ−もその答えを持ってはいないようです。
この答えを解く鍵は、野鯉の食性と他魚の食性との違いにあったのです。すなわち、サイハと咽頭歯の形状により野鯉は固形の餌を食べるのに適しており、しかも魚体の大きさがジャミより大型の餌を食べる事ができるために、サツマイモの角切りが野鯉釣りに適していた訳です。したがって、別にサツマイモでなくても、今の条件を満たす材料であれば十分大鯉に適した餌となるのです。そして、この考え方は後に述べる餌のロ−テ−ションに大いに役立つものとなるのです。
いろいろな応用範囲の広いネリエサを野球で言えば変化球とすれば、サツマイモは豪速球と言えるかも知れません。それでは、消える魔球は何でしょうか。
<大型を狙う釣り方>
小型の針掛かりを避ける方法としては、以下のような方法があります。
@大型が来るまで寄せ餌だけを入れて針をセットしない方法
この方法としては、ポイントが近い場合、餌を手で投げ入れても構いませんが、そうでない場合にはラセンをハリスの先に付けそれに餌を付けて投入します。
この場合、問題になるのは、いつ大型が寄ったという事が解るのかという事です。これを見分ける方法としては、寄せ餌を幾つも同じポイントに投げ入れてしばらく待ち、ハネやモジリそして泡付けを見る方法があります。大型ほど泡付けもモジリも大きいので小型とは見分けがつきます。
別の方法としては、寄せ打ちを繰り返した後そのままラセンに寄せ餌を付けた状態でアタリを見る方法です。小型のアタリはブルブルと小刻みに震えたり、ガツガツと性急に穂先を揺するアタリで、大型のアタリはトントンとかクイクイというような柔らかいゆったりとした感じのアタリのため、見分ける事ができます。
また、小型のアタリが出た後、アタリが無くなる時があります。この場合は、大型が小型を追い払った場合が多く、この時は狙い目です。
A餌と針を小型の食べることのできない大きさにする方法
すなわち、口の大きさに合わせて、大きなエサやハリを使い分ける訳です。例えば、食わせ餌では大きなイモヨウカン、ザリガニの1匹掛け等。吸い込み式では、大針と大エサといった具合です。
B餌の中に集魚力の強いものを入れない方法
ジャミや小型の鯉は、若いものが多いため、本能的です。そのため、匂いの強いエサや溶けやすいエサに敏感に反応し、大型より早く集まる習性があります。そこで、匂いの強いものや、早く溶けて拡散しやすいものを、寄せ餌・食わせ餌どちらにも入れないで、小型をあまり多く寄せないようにする方法です。
C寄せ餌と食わせ餌を別に分け、小型には寄せ餌だけを食べさせる方法
釣りの書には、寄せ餌には食わせ餌と同じものを混入させる必要があると、良く書かれていますが、ここでは逆に、寄せ餌の中には食わせ餌と同じ成分は混入しないようにします。寄せ餌の成分は小型やジャミの食べやすい粉末状の溶けやすいものを多く混ぜ、食わせ餌には固形の匂いの少ないものを用いるようにするのです。
但し、この場合ジャミや小型の多い所では、それらが多く集まり過ぎて逆効果になる場合もありますので、比較的それらの少ないところで用いると効果を発揮するようです。
D寄せ餌を使わずに、じっくり食わせ餌だけで、大型が廻って来るのを待つ方法。
この場合のエサは、集魚力の少ないものが効果的で、植物性の穀物類や殻付きの甲殻類そして貝類などが適しています。
この方法を行う場合は、ポイントが比較的に狭くはっきりしている時に効果的で、ジャミや小型の多い場所で特に有効です。
ワンポイントレッスン
D野鯉には、最高のエサも究極のエサも無い
釣り人というのは、野鯉釣りに限らず誰もが、何時でも何処でも釣れる最高のエサや究極のエサを夢見がちですが、それは錯覚というものです。
特に野鯉においては雑食性であるため、無数に近い種類のエサを食べますので、その中からたまたま良く釣れたエサに出会うと、そのエサをつい最高のエサだと思いやすいのです。例えば、大鯉には角イモが一番であるとか、吸い込み仕掛けはバラケエサでないと大鯉は釣れないと言うように。中には、大鯉は長時間過ぎたエサしか食わないから、長時間持つエサが一番であると力説するものもいます。
しかし、実際にはミミズでも赤虫でもザリガニでも大鯉は釣れていますし、中にはパンやチクワそしてウィンナでも大鯉が釣れています。私が以前吸い込み仕掛けで上げた95aの鯉は、仕掛け投入後僅か1分でアタリが出ました。釣り上げた鯉の口を見るとすべての針が掛かっていたのです。大団子を一口で飲み込んだのです。そのとき、前出の釣り人はこう反論するでしょう。その鯉は、養殖鯉であると。
<発想の転換>ベストの餌から適した餌へ
今までの餌に対する考え方を支配していたのは、最高の餌・絶対の餌・ベストの餌を求めるというものでした。しかし、実はこの考え方が、餌の体系的な発展を阻害する元となっていたのです。
そこで、発想の転換をして、ベストの餌を求めるのではなく、目的に応じて適した餌であればよいという考え方に改めますと、この問題はスム−ズに解決します。
すなわち、一つの究極の餌の存在を仮定して考えるのではなく、それぞれの条件をクリアすれば、それ以上のものをその餌単体に求める必要は無いということなのです。
餌というものは、釣りをするうえでは非常に重要な要素ですが、それだけですべてをカバ−するという事はできません。
餌に過大な期待や幻想を抱くのでは無く、いかに使うかを考えるべきでしょう。
E自然なエサより不自然なエサの方が釣りやすい。
釣りの書には、イモヨウカンを自然に見せるためには仕掛けの長さはこれくらいが良いとか、コマセには同じ材料を混ぜろとか解説しているものがありますが、イモヨウカンの自然な状態というのはどんな状態でしょうか。
もともと自然には無いイモヨウカンですが、このエサで結構野鯉が良く釣れます。というより、野鯉釣りでは最も代表的なエサであると言って良いでしょう。他に、吸い込み式やウキ釣りで良く使われるネリエサも、自然には無いエサです。こうして見ますと、野鯉釣りを代表する双璧とも言うべき、両方のエサが自然には無いエサです。
逆に、自然に多くある貝類や甲殻類そして環虫類のエサの方が、意外と使われていません。それは手に入れにくいこともあるでしょうが、実際に使用しても釣れない時の方が多いからです。この理由は、自然にあるエサは、野鯉にとって見慣れているため、不自然な状態を見分けやすいからです。反対に、自然に無いエサは、野鯉にとっては自然な状態を判断することが出来ないため、釣りやすいのです。ここに野鯉の知能の限界があります。