あの人がいればどこだっていい。

          あの人がいれば何も要らない。

          あの人がいればどんな苦労にも耐えられる。

          だから私は決意した。

          私を縛る肩書きを捨てることを

 


  か・け・お・ち

       〜来栖川宗一郎side〜


 

 

   「大旦那様ーー!!」

   「騒々しい。どうしたというのだ、長瀬」

   セバスチャンの声の大きさに眉をひそめながら、来栖川グループの会長、来栖川宗一郎は部屋に入ってきた

   老執事に声をかける。

   「綾香様が、綾香様がーーー!!」

   「綾香か・・・」

   宗一郎は苦い思いでその名前を聞く。

   今から二ヶ月前、孫の綾香から結婚を前提に付き合いたいと一人の男を連れてきたのだ。当然の事ながら、

   宗一郎がその話を認めるはずもなくその男を追い返した。

   それから毎日のようにその男はやってきた。

   約一ヶ月前、宗一郎はその男を来栖川邸に入れないようにした。

   そして現在に至る・・・という訳なのだが。

   「落ち着け、長瀬。綾香がどうかしたのか?」

   長瀬はその言葉に少し落ち着いて−−普段と比べると、かなりあわてているが−−現状を述べた。

   「綾香様が駆け落ちなさいました!!」

 

 

 

 

   「今朝方より綾香様のお姿が見られないのでお部屋に行ってみたところ、 こんな物が・・・」

   長瀬はふるえる手で一枚の紙切れを宗一郎に手渡した。

   それには、「Good Bye 綾香」と書かれてあった。

   「長瀬、これだけで駆け落ちだとなぜ分かる?」

   宗一郎はふだんと変わらぬ表情で−−書き置きを持つ手は震えているが−−長瀬に尋ねる。

   「掃除係に聞いたところ、綾香様のお部屋からパスポートが無くなっていたそうです。

   それに二日ほど前、芹香様と綾香様がお話になっているのを聞きまして・・・」

   「芹香と? して、なんと言っておった?」

   「藤田様の件です」

   「藤田・・・あの男か」

   「どうやら芹香様も藤田様に想いを寄せていられたようでした」

   「・・・ほう」

   「その話の中で綾香様は、強硬手段に出るかもしれない、と、言っておりました」

   長瀬の説明に宗一郎はしばらく黙り込んだ。

   「・・・長瀬」

   「はい」

   「来栖川諜報部を出動させよ。目的は綾香の発見。見つけ次第、連れ戻せ」

 

 

 

 

 

   「え、浩之ちゃんのことですか?」

   神岸あかりは、通学途中で黒服の男に尋ねられていた。

   「さあ・・・数日前からどこかへ行っちゃったみたいで」

   「どこへ行くとか、それらしいことは何か聞いていませんか?」

   「いえ、何も・・・」

   あかりはそこまで言って、目をそらす。

   基本的にうそがつけない性格なのか、いかにも、何か知っています、と言わんばかりの態度である。

   「何か、知ってますね」

   「・・・学校に遅れますので」

   そう言って、黒服の横を通り抜けようとしたときだった。

   「やっほー、あかり!」

   「し、志保!?」

   突然の志保の登場に、うろたえるあかり。

   「ヒロが駆け落ちしたからって、落ち込んじゃだめだって! あんたも納得ずくなんでしょ?」

   「わっわっわっ、志保だめ!」

   あかりの様子を見て、志保はすぐ横に誰かがいるのに気づいた。

   「・・・ひょっとして、来栖川の?」

   志保の言葉に、うなずくあかり。

   「・・・」

   「・・・」

   「じゃーねー、あかり」

   猛スピードで学校へ向けて走り出そうとした志保の手をあかりが捕まえる。

   「は、離してあかり! あたし達、友達でしょ!?」

   「だったら見捨てないでよぉ!」

   もはやあかりは半泣きである。そんな様子を見て志保はため息を一つ。

   「まったく・・・これもみんなヒロのせいよ・・・」

   「話していただけますね」

   「仕方ないわね・・・実は・・・」

   頭をかきながら志保は知ってる情報を話す。

   が、黒服は知らなかった。志保の情報は仲間内で「志保ちゃん情報」というガセネタで成り立っていることを。

   その後志保は三十分もの間しゃべり続けた。

   志保とあかりが遅刻したのは言うまでもない。

 

 

 

 

   「二年B組、保科智子。二年B組保科智子。至急、職員室まで来るように」

   休み時間、委員長こと保科智子は職員室へ呼び出しをくっていた。

   「保科。お前、藤田とは親しかったよな」

   「ええ。そうですけど」

   「なら話が早い。藤田に最近、妙なそぶりは無かったか?」

   「そう言うことなら、神岸さんに聞いた方が早いと思いますが」

   智子はまったく表情を崩さずに即答する。

   「うーん、確かにそうだが・・・保科から見て変なところは無かったか?」

   教師が困った顔をして智子を見る。

   「そういえば、一週間ほど前」

   「一週間ほど前?」

   「何か気落ちした様子で考え事してました。その時相談に乗ったんですが」

   「ほう。」

   ここまで言って智子は変わらぬ表情で教師を見る。

   「・・・先生。何でそないこと聞くんですか?」

   「え、それはだな・・・」

   「これ以上は藤田君のプライベートに関わるんで、ここから先は言えません」

   「うーん・・・その藤田がどこへ行ったか分からないから聞いてるんだが」

   「どういうことです?」

   「つまりな、藤田がいなくなったんだ」

   「・・・本当にやりよった」

   智子はしばらく硬直していたが、しばらくの後、ぽつりとそう言った。

   「保科。何か知ってるのか?」

   教師が目を輝かせて言う。

   「さっきの話がそれに当たります。駆け落ちするかもしれない、とか言ってましたが」

   「うーん・・・どこへ行ったか聞いてないか?」

   「ウチは知りません。まあ来栖川のお嬢さんとなら、どこだっていけると思いますが」

   その言葉に、教師は思いっきり動揺する。

   「ほ、保科、お前、藤田が誰と駆け落ちしたのか知ってるのか?」

   「ウチらの中じゃ、当たり前の話ですし」

   「ほ、他にも誰か知ってる人がいるのか?」

   「神岸さんに長岡さんに佐藤君。あと松原さん、姫川さん」

   教師は智子の挙げた名前を頭の中で反芻する。

   「・・・他に何か?」

   「ん?いや、もういいぞ、保科」

   「それでは」

   そう言って智子は職員室を出る。

   それからすぐに、教師は電話をとる。

   「もしもし、北山です。どうやら何人かは例の件について、事前に知っていたようです。 名前は・・・」

 

 

 

 

 

   昼休み。食堂内にて

   「えっと、姫川さんに松原さんだよね」

   いかにも軽薄そうな男が二人に声をかける。

   「ええ。そうですけど」

   「何のご用でしょうか」

   「藤田の奴を捜してるんだけど、何か知らないかな?」

   男がその名前を出したとたん、二人の表情が曇った。

   「あの・・・あなたは?」

   琴音が男の顔を見ながら訪ねる。

   「三年の橋本って言うんだけど」

   「橋本先輩・・・どこかで聞いたような・・・」

   葵が何かを思い出すかのように、頭に手を当てる。

   「長岡さんから聞いています。スケコマシで評判のようですね」

   わずかに笑いながら言う琴音の言葉に、橋本の顔が引きつる。

   「・・・ち、長岡の奴・・・それで藤田のことなんだけど、どこにいるか知らないか?

   さっきから探してても全然見つからないんだけど」

   「先輩に何のご用でしょうか」

   葵がいぶかしげな表情で橋本を見る。

   「ある人に手紙を渡してくれって頼まれたんだけど」

   「手紙?」

   「そ。なんか大変なことが書かれてるみたいだけど」

   「藤田さんはいませんよ」

   琴音が淡々と言う。

   「藤田さんは宮内さんの所に遊びに行くって言ってました。たしかカリフォルニアだったと思いますけど」

   「姫川さん!?」

   琴音の言葉に葵があわてて声を上げる。

   「か、カリフォルニア?」

   「ええ。なんかそのまま居着くみたいなことを言ってましたから、たぶん戻ってこないと思いますよ」

   「・・・まじかよ」

   「他に用がないのでしたら、私はこれで」

   そう言って琴音が席を立つ。

   後を追うように、葵も席を立つ。

   「そうそう、足下には気をつけて下さいね」

   「え?」

   瞬間、橋本が思いっきり足を滑らせて転ぶ。

   「・・・だから言ったのに。行こ、松原さん」

   「う、うん。それではお大事に・・・」

   二人が去っていった後、橋本がのろのろと起きあがる。

   「つつつ・・・何なんだよ、あの二人。それに藤田の奴、彼女同伴でカリフォルニアだと?いい気になりや

   がって・・・思い知らせてやる。くっくっくっ・・・」

   どうやら狂気の扉を開いてしまったらしく、橋本は不気味な笑いを漏らしながら妄想にふけっていた。  

   その様子を見て、周りの生徒達は何かを話し始める。

   「ねえ、あれ、三年の橋本さんじゃない?」

   「ホントだー」

   「なんでも、女をだまして食い物にしてたらしいよ」

   「あ、それ私も聞いたことがある。長岡さんがその現場を見て、蹴り飛ばしたそうよ」

   「へぇー。でも、なんかやばくない?あれ」

   「うんうん。なんか、そばにいるのもやだなー」

   「いこ。二人とも」

   「そだね」

   話していた数人の生徒が席を立つ。

   それに続くように、一人、また一人と食堂を去っていく。

   「くっくっくっ・・・みてろよ、藤田。お前の幸せ、俺が引き裂いてやる」

   一人残った橋本は、不気味に笑いながらイスに座っていた。

   その様子を入り口から見ていた黒服は、黙って食堂を後にした。  

   あわれ、橋本。

 

 

 

 

   放課後。グランドにて

   「佐藤雅史様ですね」

   黒服の男が雅史の側にやってくる。

   「そうです。あなたは来栖川の?」

   「ええ。来栖川諜報部の遠山ともうします」

   「いいんですか?名乗っちゃっても」

   悪意のかけらも含んでいない笑顔で遠山を見る。

   「手段を選んでいる状況ではないので」

   遠山は無表情で言い返す。

   「・・・浩之と綾香さんの居場所でしょ」

   「話が早くて助かります」

   「どこへ行くかまでは言ってなかったけど、たぶん外国だと思いますよ」

   「・・・」

   「一週間くらい前だったかな。パスポートをとったって言ってましたから」

   「なぜです?」

   遠山が不思議そうに訪ねる。

   「・・・?」

   「私たちの目的は察しが付いてるのでしょう。それでもなお、私たちに利をなすようなことをするのか、その

   あたりが理解しかねるのですが」

   「長いつきあいだからね」

   「?」

   「長いつきあいだから、浩之が本気になるとだれにもどうしようもないのは、僕が一番よく知ってますから。

   つまり僕がこうして話しても、浩之は絶対見つからない、っていう自信がありますから」

   そこまで言って雅史は、遠い目をして空を見る。

   「ずいぶん我々を見くびっておられるようですが」

   「まあ、そのうち分かると思いますよ」

   「・・・それでは」

   遠山がその場を去ろうとしたときである。

   「もし、僕が黙ってたらどうしてました?」

   雅史の言葉に、遠山の動きが止まる。

   「想像にお任せします」

   その返答に、雅史はにこやかに笑う。

   「そのあたりのことも、浩之は予想済みです。だから僕たちに、聞かれても黙ってないでくれって言い残して

   行きましたよ」

   「・・・」

   「浩之から伝言があります。『芹香も綾香もあんたの人形じゃない、そのあたりをわかってやれ』

   だそうです」

   「・・・確かにお伝えします」

   遠山はそう言って、グラウンドを後にした。

   「いいんだよね、浩之」

   雅史は浩之と綾香に最後に会った日の事を思い出していた。

 

 

 

 

   「以上が藤田浩之の身辺を調査した結果です。さらに調査した結果、一ヶ月ほど前、藤田浩之と思わしき

   男がパスポートを作ったそうです。空港にも問い合わせたところ、二人がカリフォルニア行きの飛行機に

   乗ったのも間違いないようです」

   「分かった。下がってよい」

   宗一郎のことばに、遠山は一礼して部屋を出る。

   「長瀬。今の話をどう思う?」

   「はい。藤田様らしいと」

   「どういうことだ?」

   「あの方は、根が優しいので。自分のために誰かを傷つけたくないと思う方ですから」

   「・・・」

   部屋の中を、静寂が支配する。

   「旦那様。芹香様をお連れしました」

   「入れ」

   部屋のドアが開き、そこから芹香が入ってくる。

   「お呼びでしょうか、お爺さま

   「うむ。綾香のことだ」

   「・・・・」

   「二人がどこへ行ったのか、知っているな?」

   「言う気はありません

   表情をかえずに、しかし断固とした意志を込めて言う。

   「なぜだ?お前は悔しくはないのか?」

   「大切な人と大切な妹ですから

   「その二人がいなくなったんだぞ?」

   「・・・だれのせいだと思ってるんですか?

   うつむいた様子で淡々と言う。

   表情こそ変えないが、親しい者なら芹香が怒っているのに気が付くだろう。

   むろん、宗一郎にセバスチャンも例外ではない。

   「芹香?」

   「芹香様・・・」

   「お爺さまが二人を認めていればこんなことにはならなかったはずです

   「・・・」

   「部屋に帰ります

   芹香はそう言って、部屋を出た。

   「・・・長瀬よ」

   「はい」

   芹香が部屋を出た後、宗一郎が口を開いた。

   「私は間違っていたと思うか?」

   「・・・お答えいたしかねます」

   「そうか」

   「ですが・・・」

   セバスチャンはそこで一度言葉を区切る。

   「藤田様のことを、もう少しお知りになった方がよろしかったかと」

   「・・・少し下がっていてくれ」

   「かしこまりました」

    宗一郎はしばらくその場から動かなかった。

 

 

 

 

   四年後・・・

   「大旦那様」

   セバスチャンが宗一郎に声をかける。

   「ああ、長瀬か」

   「もうじき鶴来屋に着かれます」

   「分かった」

   黒塗りのリムジンが鶴来屋へと向けて走っている。

   鶴来屋と来栖川家の提携を結ぶために、現会長の柏木耕一に会いに行くのである。

   浩之と綾香が駆け落ちして以来、何をするにしても相手を偏見なしに見るようになった。

   二人は未だ見つからない。来栖川の情報網にも引っかからないのだ。

   「綾香の夢を見ていた」

   「大旦那様・・・」

   「あの時、藤田浩之という男をしっかり見定めておくべきだったな」

   「後悔しておいでですか?」

   「ああ。もう同じ事は二度とせん」

   そう言う宗一郎の目は、以前より穏やかに、そして鋭くなっていた。

   「そういえば、鶴来屋の会長だが・・・」

   「柏木耕一、25歳。柏木耕平様の孫にあたります」

   「耕平の孫か・・・この話は芹香が取り付けたのだったな」

   「はい。左様でございます」

   芹香は来栖川グループの副会長になっていた。

   綾香がいなくなってからも、芹香は変わった様子もなく日々を過ごしていた。

   時々、ふっとどこかへ行くことをのぞいては。

   宗一郎が後を付けるように命じても、その足取りはまったくつかめなかった。

   「柏木耕一か。どのような男かな・・・」

 

 

 

 

 

 

   耕一と宗一郎の対談は滞り無く進んだ。

   と言うのも、宗一郎が一目で耕一を気に入ってしまったのだ。

   「・・・君は耕平の若いときに似てるな」

   「え?祖父をご存じですか?」

   その言葉に耕一は驚いたように宗一郎を見る。

   「ああ。雰囲気からして耕平によく似ている。ある時、ふっとどこかへ行ったしまったから心配はしていたが、

   君を見て何か安心したよ。耕平はよい孫に恵まれたな」

   宗一郎は遠い目をして耕一を見る。

   「はあ・・・ありがとうございます」

   どう返答していいのか困った耕一は、頭をかきながら礼を言う。

   「それではこのあたりで・・・」

   「あ、もう一つ話があるんです」

   席を立とうとした宗一郎をとどめるように、耕一が声をかける。

   「ん?何かな?」

   「これは柏木耕一、個人としてですが・・・」

   「うむ」

   「綾香さんの事をどう思ってます」

   「な・・・!」

   驚いた様子で耕一を見る。

   「なぜ君が綾香のことを?」

   「まあ、いろいろありまして」

   苦笑しながら耕一が答える。

   「・・・後悔しておるよ。あの時もっと、話をちゃんと聞いておくべきだったと」

   「藤田浩之のことは?」

   「何ともいえんな。願わくばもう一度会って、ちゃんと話をしたいと思ってる」

   「そうですか・・・少し失礼します」

   耕一はそう言って、室内の電話をとる。

   「あ、足立さん。耕一です。話がまとまったんで、こちらまでお願いします」

   「耕一君?」

   「直に、わかりますよ」

   電話を切った後、耕一は宗一郎に笑顔で言う。

   その数秒後、突然ドアがノックされる。

   「足立です」

   「どうぞ」

   ドアが開き初老の男−−足立が入ってきた。

   その光景を見て、宗一郎は凍り付いた。

   「連れてきたよ、耕一君」

   足立がそう言って、横によける。

   足立の後ろには一組の男女がいた。

   「お久しぶり、お爺さま」

   「綾香!!」

 

 

 

 

   「綾香、お前今までどこに・・・いや、いつの間に日本に・・・」

   宗一郎の言葉に綾香は思わず吹き出す。

   「浩之、お爺さま、気がついてなかったみたいよ」

   綾香が横に立っている浩之に顔を向けて言う。

   「君は・・・藤田君」

   「お久しぶりです」

   浩之が軽く頭を下げる。

   「実は二人とは知り合いでして。四年前、駆け落ちするから、しばらく置いてくれって頼まれたときはびっくり

   しましたよ」

   耕一が笑いながら言う。

   「耕一君・・・」

   「浩之。宗一郎さんに言いたいことがあるんだろ?」

   「ああ。もちろん」

   浩之はそう言って、宗一郎へ向けて姿勢を正す。

   「爺さん!俺に綾香をくれ!」

   「・・・」

   宗一郎は浩之の目を真っ正面から見る。

   浩之も視線を逸らさない。

   「綾香」

   唐突に宗一郎が綾香に声をかける。

   「何、お爺さま」

   「今、幸せか?」

   「もちろん!!」

   宗一郎の問いに、綾香は笑顔で答える。

   「浩之君・・・」

   「はい」

   「綾香を頼む」

   「お爺さま!!」

   その言葉が出るとすぐに、綾香は宗一郎に抱きついた。

   「綾香・・・それに浩之君。あの時は済まなかったな」

   「爺さん・・・綾香、結構不安がってたみたいだぜ。だめだって言われたらどうしよう、とか」

   「そうか・・・」

   それを聞いて宗一郎は綾香の頭をなでる。 

   「先輩もよかったな」

   「浩之さんこそ。嬉しそうな顔をしてますよ

   「芹香?!」

   宗一郎が驚いたように声のした方を見る。

   「ううっ・・・姉さん」

   「よかったですね、綾香

   芹香の言葉に大きくうなずく綾香。

   「なぜ芹香がここに?」

   「芹香さん、時々こちらに来ていたんですよ。気づきませんでしたか?」

   耕一が笑顔でそう言う。

   「そうだったのか・・・」

   「コーイチさん。気づくわけないって。なにせ・・・」

   「浩之さん

   芹香が何かを言いたげな表情で浩之を見る。

   「っと、そうだったな。まあ何にせよ、これで全て丸く収まったわけだ」

   浩之が笑顔で言った。

   「綾香、芹香、浩之君に耕一君・・・本当にありがとう・・・」   

   宗一郎も目から涙を流しながら、心から思っていたことを言葉にした。

   部屋の外で話を聞いていたセバスチャンが、大泣きしていたのは言うまでもない。

 

 

 

   −−三ヶ月後、結婚式場にて

  「長瀬よ・・・」

  「はい、大旦那様」

  「綾香が出ていったとき、もう二度とあえないのではないかと思っていたが・・・こうして晴れ姿を見ることができる

  とはな」

  「藤田様に感謝しなければなりませぬな」

  「うむ」

  『それでは、新郎、新婦の入場となります』 

  浩之と綾香が共に式場へ入場するのを見る宗一郎の顔は、

  今までだれも見たことがないような、幸せな顔をしていたという。

 

 

 

 

                          宗一郎Side FIN

 

 

 

 

 

 

 

   あとがき

 

    ども。滝月十夜と言います。

    これが私の処女作となりましたが、いかがな物でしょうか。

    この話は、もし宗一郎−−綾香の祖父ですが、二人の仲を認めなかったらどうなるか

    と言うのを想定して書いてみました。(けっこうベタなネタかもしれませんが)

    書き終わってみて思ったこと、綾香の出番が少ない。(汗 )

    というか、雅史の台詞を書いた時点で、すでに暴走していました。

    耕一が出てきた事から分かると思いますが、これはLF後の話です。

    四年もの間、どうやって来栖川諜報部の目をくらましてきたか、などについては

    別の作品にて語らせていただきたいと思います。

    今後の予定としては、あかりSide、浩之Sideなどを予定しています。

    それでは、今後ともよしなに、。



 どもども。Hiroです(^ ^ゞ

 大旦那様SS、サンクスです\(>w<)/
 出だし部分で一瞬、綾香SSかな? と思わせておいて実は爺さんSS(笑)

 うむ、GOOD!!(笑)

 やっぱり、大旦那様はこうでなくてはいけませんね。
 大旦那様は頑固で石頭でなければならないのです。

 障害が大きいほど、それを乗り越えられた時の感動も大きいのですから。
 最後の綾香の様子がそれを物語っていますよね。

 いやー、堪能させていただきました。
 今後の作品にも期待大ですね\(^▽^)/

 滝月十夜さん、本当にありがとうございました♪


 追記(^ ^;

 それにしても橋本先輩……

 >「くっくっくっ・・・みてろよ、藤田。お前の幸せ、俺が引き裂いてやる」

 さすがは、ToHeart界でのNO.2の狂言回しですね(笑)
 言うまでもありませんが、NO.1は当然矢島です(^ ^;



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