『(Ba)カップル Light 〜浩之&綾香〜 第3話』



「さて、そろそろ出るか」

 言いながら、浩之くんが立ち上がりました。

「……うん。そう、ね」

 頷く綾香ちゃん。どことなくポーッとしています。
 ほんのりと朱に染まっている頬がそこはかとなく色気を醸し出しています。

「よいしょ、っと」

 テーブルに手をついて、綾香ちゃんが腰を上げました。

 ですが、その瞬間、

「あ、あれ?」

 綾香ちゃんの体がカクッと崩れ落ちました。

「綾香? なにやってんだ?」

 不思議そうに浩之くんが尋ねます。

「あ、あはは。なんか……力が抜けちゃって……」

 ちょっぴり照れくさそうに答える綾香ちゃん。

「もう。浩之があんな事するからよ」

 からかう様な口調で綾香ちゃんが咎めました。
 どうでもいいですが、『あんな事』ってどんな事なんでしょうか? 少しだけ気になります。

「おいおい、俺だけの所為かよ。……お前だってノリノリだったくせに」

 綾香ちゃんの抗議を受けて、浩之くんが口を尖らせて不満気に呟きました。

「それは……まぁ……否定はしないけどぉ……」

 綾香ちゃん、人差し指を突っつき合わせて小声でポソッと。

「そもそも、先に仕掛けてきたのは綾香の方だし」

 浩之くん、追撃。

「そ、そうだけどさぁ。でもでも、あたしがこんなになっちゃったのはやっぱり浩之の所為だと思うわ。
 ……指はピチャピチャと舐めまくるし、舌はこれでもかってくらいに絡めまくるし……」

 自分の言葉に恥ずかしくなったのか、もしくは行為を思い返してしまった為か……顔中を見事なまでに赤く色付かせながら、綾香ちゃん必死に反撃。
 最後の部分が殆ど聞き取れないほどのポソポソ声だったりするのが、ギュッと抱き締めたくなる程の愛らしさを醸し出していて非常にグッドだったりします。

「いや〜、だってさぁ。やられたら倍にしてやり返すのが俺の流儀だし。それに……」

「それに……なによ?」

「あんまりにも綾香が可愛らしいから、ついついその気になっちまって……」

 カリカリと頬を掻きながら浩之くんが言いました。

「…………ばか」

 言葉とは裏腹に、綾香ちゃんの表情に嬉しそうな色が浮かびました。

「ま、まあ、それはさておき。
 どうだ? 全く立てなさそうか?」

 綾香ちゃんから微かに視線を逸らせて話を変える浩之くん。
 輝かんばかりの綾香ちゃんの微笑みを目にして、どうやら照れてしまったみたいです。

「うーん。暫くは無理みたい」

 綾香ちゃん、苦笑。

「そっか。じゃ、ちっと待ってろ」

 そう言うや否や、テーブルの上をテキパキと片づけ始める浩之くん。
 そして、二人分のバーガーの包装紙等をゴミ箱に、トレーを所定の場所に置いてきました。

(ファーストフード店で、トレー等を片付けないでそのままにして帰ってしまう人がたまに見受けられますが、それはマナー違反なのでやめましょう。
 ―――以上、公共○告機構からのお願いでした)

「ありがと。ごめんね」

 戻ってきた浩之くんに綾香ちゃんが申し訳なさそうに言いました。

「いいっていいって。立てないんだからしょーがねーよ。気にすんな」

 それに手を軽く振って応える浩之くん。

「さて、そんじゃ出ようぜ」

 言いながら、浩之くんは綾香ちゃんに背を向けてしゃがみ込みました。

「乗れよ。歩けないんだろ」

「え?」

「おぶってやるって言ってるんだよ。ほら、早くしろよ」

 ぶっきらぼうな……それでいてどことなく照れくさそうな口調で浩之くんが促しました。

「あ、ありがと」

 そう応えて、綾香ちゃんが浩之くんの肩に手を添えました。
 ―――が、そこで綾香ちゃんの動きがピタッと止まりました。

「ん? どした?」

 浩之くんが怪訝な顔をして振り返ります。

 すると、そこには、

「ねぇ、浩之。一つ、リクエストしてもいいかな?」

 何やらイタズラっぽい表情を浮かべた綾香ちゃんが。

「は? リクエスト?」

 嫌な予感を感じつつも浩之くんが尋ねます。

「うん」

 満面の笑みで頷く綾香ちゃん。

「……まあ、いいけど」

 その顔に負け、浩之くん承諾。

「それで? 何なんだ?」

「あのさ……おんぶもいいんだけど、どうせだったら抱っこの方がいいな♪」

 邪気のない笑顔で宣う綾香嬢。

「……はい?」

「だから、抱っこ♪」

 もっとも、浩之くんには小悪魔の笑みに見えたでしょうが。

「……マジかよ」

 浩之くんの額に大粒の汗が一つ。

「うん、大マジよ。ね、いいでしょ」

「いいでしょって言われてもなぁ」

 おさらいしておきますが、ここはヤクドナルドの店内です。他にもお客さんは沢山います。かなりの混み合いを見せています。あまつさえ、先程から注目の的だったりします。
 そんな場で、おんぶならまだしも、さすがに抱っこは恥ずかしい模様。……今更って気もしますが……。

 浩之くん、あからさまに尻込みしています。

「ねぇ、いいじゃない。抱っこぉ〜」

 そんな浩之くんを面白げに見つめながら、綾香ちゃんが甘ったる〜い声を出してお願いしてきます。

「で、でもよぉ」

「抱っこぉ」

「別に背負うだけでいいじゃねーかよ。なんでわざわざ……」

「だ〜め。抱っこがいいの。ほらほら、早くぅ〜」

 浩之くんの抵抗を綺麗に受け流して急かす綾香ちゃん。
 どうやら浩之くんに拒否権は認めないみたいです。



 それから暫しの間、実に激しい攻防が繰り広げられました。

 しかし、やがて……

「ハァ。……ったく、しょーがねーなぁ。分かった分かった」

 ため息を吐きつつ、浩之くん、毎度のセリフをポツリ。

「ほら。来いよ」

 そして、観念したように、浩之くんは綾香ちゃんに向けて大きく両手を広げました。

「うん☆」

 嬉しげな顔をして飛び込む綾香ちゃん。
 浩之くんは、綾香ちゃんの体をしっかりと受け止めると、背中と膝裏に腕を添えて、ゆっくりと立ち上がりました。
 俗に言う『お姫様抱っこ』の体勢です。

「じゃ、行くか?」

「うん

 浩之くんの首に腕をかけて、綾香ちゃんはご満悦の様子。今にもゴロゴロとノドを鳴らしそうです。

 周囲からの興味津々な視線を受けて恥ずかしさを感じながらも、ニコニコ顔で喜ぶ綾香ちゃんを見て、『ま、いっか』といった気持ちになる浩之くん。

 俺って綾香に甘いなぁ、ホントに。

 そう思い苦笑を浮かべつつも、浩之くんは満更でもない気分。



 結局は、綾香ちゃんの幸せそうな笑顔を見るだけで、自分も満足してしまう浩之くんなのでありました。










 ちなみに、散々ラブラブっぷりを見せ付けた二人が立ち去った後……

「あ、あの二人凄かったね」

「そ、壮絶なものを見てしまった気がするわ」

「あー、恥ずかしかったなぁ」

「でもでも、羨ましくもあるよね」

「いつかはわたしもあんな風に……きゃっ♪」

「ゆ、ゆびなめ……でぃーぷきす……おひめさまだっこ」

「……す・て・き(ぽっ)」

 店内では残された人々が共通の話題で異様なまでに盛り上がったりするのですが……


 それはまあ、余談ということで。





< つづく >





 ☆ あとがき ☆

 お姫様抱っこ……浪漫ですよね(^ ^;

 浩之と綾香だったら絵的にかなり決まると思うのですが、どうでしょう?

 もちろん、原作にあった浩之&あかりもOKなんですけどね(^^)



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