こみっくパーティー SS

 
 わたしだけをみつめていて







「ふわぁ〜〜〜あ……」

 大きなあくびをしながら、
和樹はリビングへと出てきた。

「おはよう、瑞希」

 そう言って、目を擦りながらソファーに座る。

「おはようって……あんたねぇ、もう昼過ぎよ。
いつまで寝てれば気が済むのよ?」

 そろそろ起きてくるだろうと思い、淹れていたコーヒーを
渡しつつ、わたしは和樹の隣に腰を降ろした。

「しょうがねぇだろ。〆切り今日で、昨夜はほとんど徹夜だったんだから」

 と、和樹はまだ眠そうな顔でコーヒーを啜る。

「分かってるわよ、そんなこと。
だから、こんな時間まで起こさなかったんでしょ?」

 起こしちゃ悪いと思って、今朝は掃除機だってかけてないんだから。

 本当は、掃除機くらいは毎日かけなきゃいけないのよ。
 部屋中、ホコリっぽくなっちゃうから。

「あれ? そういえば原稿は?」

 わたしの気配りに一言も礼を言わず、言う事は『それ』なわけ?
 まったく、呆れちゃうわね。

「午前中に取りに来たから、もう渡しといたわよ」

 ちょっと不機嫌に言ってやる。

「そっか。さんきゅな」

 そう言って、グイッと一気にコーヒーを飲み干す。

 わたしの機嫌が悪いことにも気付いた様子は無い。

 ……まだ、寝ぼけてるのかしら?

「さて……じゃあ、仕事も終ったことだし……」

 と、和樹はゆっくりと立ち上がる。

 もしかして……デートにでも誘ってくれるのかしら?

「どこか行くの?」

 ちょっとだけ期待しながら、訊ねるわたし。

「んにゃ……もっぺん寝る」


 
げしっ!


「あうっ!」


 次の瞬間、わたしの蹴りが和樹の背中にヒットし、
和樹は床に倒れた。

「なぁーんで、そうなるのよっ!? もう仕事は終って今日はヒマなんでしょ?!
だったらこの可愛い恋人に少しはサービスしようって気にはならないわけ?!」

「サ、サービスって……そんな朝っぱらから……それに、俺、疲れてるし……」


「そーゆー意味じゃないっ!!」


 
げしっ! げしっ!


「あうっ! あうっ!」


 倒れた和樹の背中を踏みつけるわたし。

 ったく、この色ボケ漫画家がっ!
 何考えてるのよ! もーっ!

「まったく、寝ボケてるから、そんなことばっかり考えちゃうのよ!
ちょっと待ってなさい! 今、朝ご飯……じゃなくてお昼ご飯作ってあげるから!
何か食べれば目も覚めるでしょっ!!」

 言い捨てるようにそれだけ言うと、あたしはキッチンに向かった。

 ……まったく、何で、わたしったらこんな男のこと好きになっちゃったんだろう?








 エプロンをつけて、わたしはキッチンに立つ。

 とりあえず、朝作った味噌汁を温め直せばいいわね。
 でも、ちょっと具が少ないかな?

 わたしは冷蔵庫の野菜室を開け、余っていた大根を取り出すと、
それを適当な分だけ短冊切りにしていく。

 ――トントントントン

 ――ぐつぐつぐつ

「…………?」

 何かしら?
 背中に視線を感じるわ。

 わたしは、包丁を動かす手を止めて、後ろを振り返った。

「……何?」

 ちょっと頬を赤くしつつ、わたしは和樹に訊ねる。

 だって、和樹ってば、ソファーに座ってわたしのことジーッと見てるんだもの。

「いや……エプロン姿も可愛いな〜って思って」

「バ、バカ! 何言ってるのよ!」

 プイッと手元に視線を戻す。

 い、いきなり恥ずかしいこと言わないでよ!
 ああ、もうっ、顔が熱くなってきちゃったじゃない!

 まったく、いっつもそういうセリフを唐突に言うんだから。

 でも、そんな一言が嬉しかったりして……。

「〜〜♪♪」

 さっきまでの不機嫌はどこへやら。

 背中に和樹の視線を感じつつ、
わたしは鼻歌を唄いながら、包丁を振るうのだった。

 ……ふぅ〜……わたしって、単純よね。








「……ごちそうさまでした」

「はい。おそまつさまでした」

 大袈裟に手を合わせる和樹を、可笑しく思いつつ、
わたしは食器を片付ける。

 それにしても、起きたばっかりのクセに、しっかり残さず食べるんだから……、

「…………フフ♪」

 食器を洗いながら、わたしは考える。

 自分が作った料理を残さず全部食べてくれると、なんか嬉しいのよね。
 それが、和樹だと特に……。
 フフ……どうしてかしら?
 それって、やっぱり和樹のことが……、

「……ンフフフフフ♪」

「何だよ、お前? さっきからニヤニヤして……気味が悪いぞ」

「えっ!? あ、ううん。何でもないの。
それより、もう目は覚めた?」

 わたしは慌てて誤魔化した。

 ああ、ビックリした。
 いつも間にか、和樹がすぐ傍まで来てるんだもの。

「ん? ああ、おかげさまでな。
でさ、お前、今日ヒマか?」

「え? うん」

 もしかして、今度こそ、デートの誘い?

「じゃあさ、洗い物終ってからでいいから、
後で俺の部屋に来てくれよ」

「う、うん……分かった」

 なんだ……違うのか。
 ちょっと残念。

 でも、和樹の部屋って……一体、何するつもりなの?








 洗い物を終え、わたしは和樹の部屋に入った。

「ちょっと、何を始める気よ?」

「いいから。ちょっと待ってろ」

 そして、用意したのは、デッサン様の道具一式と、真っ白なキャンバス。

「……ねえ、和樹。どういうつもり?」

 和樹が何をするつもりなのか察しがつき、わたしは訊ねる。

「ん……まあ、なんとなくな。
瑞希のエプロン姿見てたら、久しぶりに漫画以外の絵が描きたくなった」

「で、わたしにモデルになれ、と?」

「そういうこと……もしかして、イヤか?」

「ううん。いいわよ」

「じゃあ、そこの椅子に座ってくれ」

「うん」

 わたしは頷き、和樹が指差した椅子に向かう。

 と、そこでちょっとイタズラを思いついた。

「和樹、準備出来た?」

「おう」

 キャンバスを前に、木炭を構えて和樹は返事をする。

「じゃあ……」

 わたしはクスッと微笑んでから、スルリと上着を脱いだ。

「お、おいっ! 誰も脱げとは言ってねーぞ!」

 予想通り、和樹はうろたえまくる。

「あら? 違うの? あんたのことだから、てっきりヌードだと思ってたのに」

「お前な……俺のことどう思ってるんだ?」

「色ボケ漫画家」


 
ずるっ!


「あ、あのなぁ……」

「フフ……冗談よ、じょーだん。さ、始めましょ」

 わたしは、脱いだ上着を着て、椅子に座る。
 そして、和樹の方へ、視線を向けた。

「あ、ああ……じゃあ、ジッとしててくれよ。
疲れたら言ってくれ。その時は休憩にしていいから」

「ん……分かった」








 そして、和樹にとっては久しぶりのデッサンが始まった。

 最初は、二人で軽く談笑しながらやってたんだけど、
和樹は次第に無口になり、絵を描くことに没頭していく。

 そんな和樹を、わたしはただジッと見つめる。

 ――シャッシャッ

 ――ゴシゴシ

 ――シャッシャッシャッ

 キャンバスの上を滑る木炭の音と、それをパンくずで消す音だけが
静寂に包まれた部屋の中に微かに響く。

 何も言わず、黙々と手を動かす和樹。
 そして、時折、わたしを見つめる和樹。

 その表情は、怖いくらい真剣で……。
 その眼差しは、切れそうなくらい鋭くて……。
 でも、それはとても真っ直ぐで、純粋で……。

 そんなあなたを見て、わたしはほっとするの。
 そんなあなたを見て、わたしは胸があたたかくなるの。
 そんなあなたを見て、わたしは嬉しくなるの。

 そして、わたしの心は、幸せで一杯になるの。

 だって、今、あなたの瞳には、わたししか映っていないから。
 あなたは、わたしだけを見つめているから。
 ここには、あなたとわたししかいないから。

 時間も、空間も、気持ちも、全てをあなたと共有しているから。

 あなたと、一つになっていると実感出るから、
わたしは幸せな気持ちになれるの。








 ねえ、和樹……あなたは知ってる?

 わたしはね……、

 絵を描いてる時の、あなたを見て……、
 絵を描いてる時の、あなたの表情を見て……、
 絵を描いてる時の、あなたの瞳が見て……、
 絵を描いてる時の、あなたの純粋な心を知って……、

 ……最初は気付いていなかった。

 ただ、興味があっただけだった。

 でも、ある時、気付いたの。

 いつもあなたの姿を目で追っていることに。
 あなたの心に惹かれていることに。
 そして、あなたが好きなのだということに。








 ……和樹。

 わたしは、いつだってあなたを見ているよ。
 わたしは、いつだってあなたを思っているよ。

 だから……ね、和樹。

 あなたも、わたしを見ていてほしい。
 あなたも、わたしを思っていてほしい。

 ずっと……、

 ずっと……、

 わたしだけをみつめていて……。








<おわり>








====
あとがき====

 どもっ! STEVENです。
 Hiroさんには、いつもお世話になっております。

 今回は、18000Hit突破記念(うわ、半端……)ということで、
『こみパ』SSを投稿させていただきました。

 いや、以前『幸せの作り方』を送っていただいた時に、
お返しのSSを書こうと思ってはいたのですが、
なかなかネタが思い浮かばず、こんなに遅くなってしまいました。

 ホントは、クロスオーバーのお返しってのを考えたのですが、
他の方のHPにウチの子達出すのはマズイだろうと思い、
結局、ボクにとっては初の『こみパ』SSということにしました。
 もしかしたら、同ネタ多数かも、と思いつつ……。

 まあ、短いお話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 でわでわー。

                        
by STEVEN



 瑞希…………可愛い…………
 はっ!! 思わず呆けてしまいました、Hiroです(^ ^ゞ
 いや〜、良いですねぇ。
 個人的には……

「お前な……俺のことどう思ってるんだ?」

「色ボケ漫画家」

 この掛け合いが最高!!
 瑞希、容赦無いなぁ(^ ^;;
 でも、こんな軽口を言い合える関係って良いですよね。微笑ましいです。

 ところで、クロスオーバーSSも読んでみたかったです。
 ま、これは次の機会に(^ ^;;

 STEVENさん、素晴らしいSSを本当にありがとうございました\(^▽^)/

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