『えーっ!? お姉ちゃん、お正月も家に帰ってこないんですか!?』
「……声が大きいわよ、栞。耳が痛いわ」
我が妹、栞のあまりの大声にあたしは思わず携帯を耳から離してしまう。
『まったくもう。そんなに祐一さんとイチャイチャしていたいんですか?』
「あのね、栞。ワケの分からない事を言い出さないでくれる。あたしと相沢くんは別に……」
『そんなだからバカップルって言われるんですよ』
聞けよ、人の話。
そう怒鳴りたくなった気持ちをグッと抑える。大人げない大人げない。
「バカップル、ねぇ。困ったものだわ。どうしてそんな根も葉もない噂が広まるのかしら」
『なに言ってるんですか。根や葉どころか、実や花もありまくりじゃないですか』
「上手いことを言おうとしたんだろうけど、大して面白くないわよ」
『……うぐぅ』
妹。それ、キャラ違う。
「まあ、なんでもいいけど、とにかく変な誤解だけはやめてね。迷惑だから」
『誤解、なんですか?』
「決まってるでしょ。何度もそう言ってるじゃない」
『……クリスマスだって二人っきりでラブラブだったくせに』
栞がポツリと零す。
それを聞き、あたしはついついため息を一つ。
「なに勘違いしてるのよ。そんなことあるわけないでしょ」
確かにクリスマスは相沢くんと二人で過ごした。
しかし、それはあくまでも『たまたま』でしかない。
『どういうわけか』あたしも相沢くんも『偶然にも』24日が空いていた。仲の良い友人たちが催したパーティーにも、『なぜか』あたしと相沢くんは誘われなかった。全く以って友達甲斐の無い連中である。
『……裏から手を回してたくせに』
うるさい。モノローグに余計なツッコミを入れてこないように。
――閑話休題。
故に、一人で過ごすよりは退屈しないであろうという至極おざなりな理由で時間を共にしたに過ぎない。他意は無い。全く無い。単に余り物同士だったからそうしただけ。
クリスマスの為に何日も前からケーキ作りの練習をしていたとか、カレンダーに印を付けてウキウキワクワクしていたとか、彼へのプレゼントとしてセーターを編んだりなんて事は絶対にしていないので勘違いはしないでいただきたい。
あまつさえ、相沢くんからプラチナの指輪をプレゼントされて嬉しくて泣いてしまった、なんてことは天と地が引っ繰り返ってもありえないということをここで強調させていただく。
ついでに、その指輪を左手薬指に填めてしまった、などという恥ずかしい事は100パーセントありえないので変な妄想もご遠慮下さい。
『お姉ちゃん、必死すぎです』
やかましい。
『……ハァ。もういいです。分かりました。これ以上突っ込むのはやめにします。激しく時間の無駄っぽいですし』
なぜかしら。ものすごくバカにされてる気がするわ。
そんなこと言うと、後でクキッとやっちゃうわよ。クキッと。
『とにかく、お正月も家には帰ってこないということですね。了解です。お父さんたちにもそう伝えておきます』
「ええ、宜しくね」
『はい、それでは』
「それじゃあね。よいお年を」
電話を終え、携帯を机の上に置きながらあたしは小さくため息を零した。
まったく、どうして誰も彼もあたしと相沢くんをカップル扱いしたがるのやら。
本当に困ったものだ。迷惑千万である。
どうしたらこの誤解が解けるのか――
「香里? どうしたんだ、難しい顔をして」
「別に。なんでもないわ」
相沢くんの膝の上で、彼にギュッと抱き締められながら思案に暮れるあたしであった。