「わーっ。お母さんたち可愛い〜♪」

「とっても似合ってるよ〜」

 あかりと名雪が手を叩きながら誉め称える。
 その賞賛を受けているのは、

「えへへ。ありがと♪」

「な、なんか照れくさいですねぇ」

 彼女たちの母、ひかりと秋子の年齢不詳コンビ。
 二人は、何故か名雪の通う高校の制服を身に纏っていた。
 理由は……何となく? みたいな感じ。

「浩之ちゃん、祐一くん、見て見てーっ」

「お母さんたち、すっごく可愛いよ〜」

 満面の笑みを浮かべてそう言いつつ、あかりと名雪は傍らにいる最愛の人へと目を向けた。
 ――瞬間、彼女たちの笑顔は硬直。二人の周囲の空気がピシッという音を立てて割れる。

「良い! 凄く良い! 俺は今猛烈に感動しているーっ!」

「何て言うか……萌え? 激萌え? 我が生涯に一片の悔い無し? とにかくそんな感じでござるよヤングメン」

 あかりと名雪の視線の先では、浩之と祐一が母親ズの姿に魅了されていた。百年の恋も冷めそうなデレーッとしただらしない顔で。

「あらあら。浩之ちゃんてば見取れちゃってるわ。うふふ、将来の息子を虜にしちゃうなんて、ひかりんって悪いお・ん・な♪」

「い、いやです、祐一さん。そんなにジーッと見ないで下さい。は、恥ずかしいです」

 娘の恋人たちからの熱い眼差しを受け、ひかりは嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべ、秋子は羞恥のために頬を染める。

「か、可憐だ」

「年下だけど……秋子さんにだったら“おじさま”と呼ばれたい」

「俺、今だったら花を出せるぜ」

「ああっ、あなたの心を盗みたい」

 年齢を感じさせない愛らしい二人の姿を見て、浩之と祐一はカリオストロ的謎会話を繰り広げつつ顔を更にデヘヘと瓦解させた。

「むっ。浩之ちゃんってば」

「うーっ。祐一、浮気者だよ〜」

 当然、あかりと名雪は面白くない。
 てなわけで、二人の恋する乙女――正確にはとっくに“乙女”ではないが――は、お仕置きを決定。
 あかりと名雪は顔を見合わせると、同時にコクンと頷いた。
 これだけで意志疎通完成。見事なまでの君に届けテレパシー。晴れた日はよく届くから。
 目だけで会話を成立させるその様、まるで南葛ゴールデンコンビの如く。
 ちなみに、この時背景を点描にしてしまうと途端に意味合いが変わってくる。女と女のキックオフになってしまうので注意されたし。尤も、それはそれで構わない気もしなくもないが。てか、個人的にはOK。もーまんたい。
 閑話休題。
 とにもかくにも、あかりと名雪はにやけ顔を晒している野郎共の方へ歩を進めると……何時の間に取り出したのか、各々の手にお玉とケロピーを構えて問答無用で奥義を放った。

「飛天神岸流! 地駆熊閃!」
「蛙突零式!」

 しかも見開きで。

「ひでぶっ!」

「あべしっ!」

 お前はもう死んでいる的叫びを上げつつ、豪快に空高く吹っ飛ぶ浩之と祐一。
 そして、暫く空中散歩を堪能した後、グシャッという嫌すぎる音と共に頭から帰還。嗚呼、車田浪漫。

「命には別状無いよ。逆刃だしね」

 お玉をしまいつつ宣うあかり。落下の衝撃だけで充分に致命傷だと思うのだが。
 てか、逆刃?

「悪・即・斬だおー」

 ケロピーを懐に収納しながら名雪が決めセリフ。こちらはあかり以上に容赦がない。

「今宵のケロピーは切れ味抜群なんだおー。でも、コンニャクだけはダメダメなんだおー」

 ……ケロピーではコンニャクは斬れないらしい。

 なんにしても、あかりと名雪の活躍によって悪は殲滅された。ありがとう、あかり、名雪。
 しかし、これが最後の浩之と祐一とは限らない。
 きっと何時の日か第二第三の浩之と祐一が……めんどくさいので以下略。



 少し離れた所から四人の戯れ合い――というには命懸けだが――を見ていたひかりと秋子。
 彼女たちは揃って「あらあら」という顔をしていた。

「わたしたちの制服姿、強烈な威力を持っているのねぇ。ビックリだわ」

「同感。祐一さんと浩之さんがあんなに反応するなんて思わなかったわ」

「今度、これを着て旦那に迫ってみようかしら。そしてそして……いやん、わたしってばエッチ〜」

「……ひかり」

 何を想像したのか、頬に手を添えて身をクネクネとよじらせるひかり。
 それを見て、秋子は漫画チックな大粒の汗を後頭部に貼り付けた。
 万年新婚バカップルという単語が脳裏に浮かぶ。

「ハァ。やれやれ」

 友人の年齢不相応な姿を直視させられ、思わず深いため息を零してしまう秋子であった。

 尤も、そんな秋子も心の中では、

(これを着て祐一さんに迫ったりしたらどうなるかしら。ちょっと試してみたい気がしますね。……ウソですけど。……たぶん)

 なんて事を考えていたりしたのだが。



 ちなみに、その頃、斬り捨てられた二人はと言うと……

「ひかりお義母さん……秋子さん……今度は是非ともスクール水着を……」

「体操着にブルマも捨てがたいぞ……スパッツ不可……」

 ピクピク痙攣しながらも、全く懲りずに罪深いことを呟いていた。

 煩悩は強し。






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