それは、名雪の悲鳴から始まった。





「うきゃぁーーーーっ!!
な、何これーーーーっ!!」






たさいシリーズ Kanon番外編

わたしだってまだ若い






「うおっ!! な、何だ、何だ?!」

 夕食までゴロ寝でもしようと、自室のベッドで横になっていると、
突然、下の階から名雪の悲鳴が聞こえ、俺は飛び起きた。

 ……名雪があんな悲鳴あげるなんて珍しいな。

 と、思いつつ、俺は階段を下り、悲鳴がしたリビングへと向かう。

 そこには、床にペタンと尻餅をついている名雪の姿があった。

「どうしたのよ、名雪? 大きな声だして」

 俺がリビングに来たと同時に、名雪の悲鳴を聞きつけたみんなも
ぞろぞろと顔を出した。

「どうしたの、名雪さん? 何があったの?」

「あ……あああ、あれ……」

 あゆに助け起こされつつ、名雪は声を震わせながら、
ある一点を指差す。

 ……何だ? ゴキブリでも出たのか?

 と、俺は名雪が指差す先に目を向けた。
 同様に、全員の視線がその一点に集まる。

 そこにあるのは、壁に貼られた例の添い寝シフト表だった。
 今日は名雪のところに印がつけられている。

「ああ……そういえば、今日は名雪の番だったな。
で、それがどうかしたのか?」

 と、訊ねる俺に、名雪はぶるぶると激しく首を振る。

「違うの! もっと下の方を見て!」

「あ? 下の方?」

 俺達は名雪に言われるまま、視線を下ろしていく。

 シフト表には以前決めた順番通り、
みんなの名前が上から順に書かれている。




 名雪……香理……あゆ……舞……栞……佐祐理……真琴……美汐……秋子……


 なんだ……何も変わったことなんか無いじゃ…………ん?

 今、何か違和感が無かったか?

 俺はもう一度、シフト表に目をはしらせた。


 名雪……香理……あゆ……舞……栞……佐祐理……真琴……美汐……秋子……


 …………一人、多くないか?
 確か、美汐で最後のはずだったぞ。
 じゃあ、この最後に書かれている名前は何だ?

 …………秋子。

 ……秋子

 秋子。








 ぶっ!!








『あ、秋子ぉぉぉーーーっ?!』


「呼びました?」

 俺達の驚愕の叫び声を聞きつけ、
キッチンにいた秋子さんがひょっこりと姿を現す。

「お、おおお、おかーさんっ!!」

 わたわたと両腕を振りながら、秋子さんに駆け寄る名雪。

「あらあら。どうしたの、名雪? そんなに慌てて」

 と、いつものように頬に手を当てて微笑む秋子さん。

「ど、どうしたもこうしたも……あれは一体何なの?!」

「……あれって?」

 名雪に促され、秋子さんはシフト表を見る。

「ああ、これのこと? これ、わたしが書いたのよ」

「…………どうして……ですか?」

 しれっと言う秋子さんに、俺は恐る恐る訊ねる。

 すると、秋子さんは俺の顔をジッと見つめ、
そして、瞳を閉じてフーッと息をつくと……、








「わたしだって、女なんですよ」








『…………』








「ダメかしら?」








『ぜぇったいにダメェーーッ!!』








「……そう……残念だわ」

 名雪達の絶叫を聞き、秋子さんはそう言うと、
シフト表にある自分の名前を消す。

 そして、再び俺を見ると……、

「祐一さん」

「は、はいっ!」

「安心してくださいね……ほんの冗談ですから」

 と、それだけを言い残し、
秋子さんはキッチンへと戻っていった。

 その姿を、俺は呆然と見送る。

 ……秋子さん……本気で冗談だったんだろうか?

 もしかしたら…………いや、何を考えてるんだ、俺はっ!!

 秋子さんは名雪の母親なんだぞ!
 そんなことあるわけないじゃないか!

 でも、秋子さんって、一応年齢不肖だし……、
 見た目若いし……、
 かなりの美人だし……、

 ……………………いいかも。(爆)

「……ゆういち」

 …………はっ!

 名雪の冷たい声に、俺は妄想から我に返った。

 気が付けば、みんなが俺をジト目で見つめている。

「祐一……今、すっごく鬼畜なこと考えてたでしょ?」
「そういうこと考える人、嫌いです」
「うぐぅ……祐一君のすけべ」
「祐一さん……三親等内は違法行為ですよ」
「これはもう、お仕置きが必要ね」
「……はちみつくまさん」
「あははははー。覚悟してくださいねー」
「祐一ぃ〜……ようしゃしないんだからね〜」

 ぐは……みんなの俺を見る目が怖ひ。

「お、お仕置きって……何するつもりだ?」

 顔を引きつらせる俺の言葉に、名雪達の目が妖しく光った。

「それはもちろん……」
「もう二度と……」
「鬼畜なことを考えられないように……」
「今夜は……」
「あたし達、全員を……」
「相手にしてもらいます」
「あはははー。今夜は寝かせませんからねー」
「祐一君……がんばってね☆」

 と、名雪達は俺に体を寄せてくる。

 その心底嬉しそうなみんなの表情を見ながら、俺は……、

 ………………俺……明日、生きてるかな?

 と、本気で不安を覚えたのだった。








 ――余談


 その夜、一階自室にて、ベッドに横になった秋子は、
天井を……正確にはその向こうにある祐一の部屋を見上げながら、ポツリと呟いた。

「あらあら……わたしと一緒に寝て、少し祐一さんを休ませてあげようと思ってたのに、
どうやら、逆効果になってしまったみたいね」

 そして、明日は精のつくものをたくさん作ってあげましょう、と思いつつ、
秋子は眠りについたのだった。








<おわり>


あとがき


 まみむめも!(これは流行らせたい挨拶)

 ……って、こんな細かいネタ、誰も分からんぞ!!

 ってなわけで、たさいシリーズのKanon番外編です。

 相沢家って、他の多妻家族と違って特殊ですよね?
 だって、秋子さんっていう保護者がいるんだから。
 でもって、その保護者が主役達よりも存在感があるんですよね。

 と、そんなことを考えながら、書いてみました。

 久々のギャグだったんですけど、どうですかね?


 おおっ!!
 そういえば、クロスオーバーじゃない投稿は久しぶりだっ!

 と、思いつつ……、


 でわでわー。




 うおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっ、秋子さーーーーーーん!!

 添い寝の相手、秋子さんだったら全然問題無いです!! 良い!! GOOD!!

 ……………………ぜえぜえ

 …………はっ(@◇@)

 すみません、取り乱してしまいました(^ ^;


 それにしても……

>「祐一……今、すっごく鬼畜なこと考えてたでしょ?」
>「そういうこと考える人、嫌いです」
>「うぐぅ……祐一君のすけべ」
>「祐一さん……三親等内は違法行為ですよ」
>「これはもう、お仕置きが必要ね」
>「……はちみつくまさん」
>「あははははー。覚悟してくださいねー」
>「祐一ぃ〜……ようしゃしないんだからね〜」

 藤田家の女性陣同様、ここの人たちも怒らせると怖いですねぇ(^ ^;

 特に佐祐理さん。笑いながら『覚悟してくださいねー』は怖すぎるって。


 ふと思ったんですけど、保護者の有無という違いはありますが、
 それ以外のところでは、藤田家と相沢(水瀬)家って、実は結構似ているのかも。

 女性が強いところとかね(^ ^;



 STEVENさん、楽しいSSをありがとうございました\(>w<)/



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