「な、な、なにやってるんだお前らはーーーっ!?」





 思わず、大声を上げてしまった俺の目の前には……

 ……そう、あんまり休みの日の朝っぱらからは見たくない顔が揃っていた。





「何って…………、お前が起きてくるのを待ってたんじゃないか、浩之」
 俺の絶叫に対して、(多分あかりあたりに淹れてもらったのであろう)コーヒーをのん
びりと啜りながら、耕一があっけらかんとした顔でそうのたまってくれる。
「あ、あのなぁ……」
「さて、面子も揃った事だし、そろそろ始めるか」
 何かを言い返そうとする俺を無視して、自分のカップの中身を飲み干した和樹がそう
言うと、「ああ」とか「そうだな」とかいいながら、同じようにソファで寛いでいた祐
一や誠達も一斉に立ち上がる。
「さて、じゃあ行こうか、浩之」
 って、おい、何でそこで俺の両腕を拘束する、浩平、健太郎!!
「頑張ってね〜〜〜〜」
 後ろであかりが笑顔を浮かべて無責任に手を振っている。
 お、お〜い、俺は人民裁判も強制労働も怪しげな人体実験も秘密の薔薇園(核爆)もご
めんだぞ〜〜〜〜〜〜
 等と心の中で絶叫を上げながら、さながら米軍に捕まった宇宙人かあるいはNKVD
の将校に連行される資本主義者のように(マテコラ両腕を捕まれて引き摺られていき…………





 …………………数分後、何故かエプロン姿で普段は滅多に立ち入る事の無い場所――
厨房――に立っていた。
「で、いい加減説明はしてくれんのか?!」
 予め準備されていたのであろう、大量の肉や野菜、米や小麦粉と言った様々な食材や
各種の調味料を手際よく取り出して並べていく。
「何って、お前、聞いてなかったのか??」
「だから、なにを?!」
 準備を進める手だけは休める事無く、だが俺の質問に訝しげな表情を浮かべて、耕介
が向き直る。
「お前さぁ……マジで覚えてない??この間の飲み会のときに、「次の休みは、普段迷惑
かけっぱなしの嫁さん達に、感謝を込めてご馳走作ってやろう」って話してたの」
「そうだったっけ??」
 俺のその言葉に、思わず額に手を当てて「はぁぁ」と溜め息を漏らす一同。
「お前、ほんっとに覚えてないわけ?!」
「ん〜、だってさぁ、俺、あんとき、祐一が持ってきた秋子さんとこの実家の地酒って
奴をを引っかけてからさき、どうも記憶が飛んじゃっててさぁ」
 俺のその言葉に、思わず引き攣った笑みを浮かべる祐一にちらっと視線を向けると、
「ま、まあいいわ……とにかく、作るメニューと役割分担はこのとおりな。まぁ、難し
い所は俺と耕治で担当するし、解らない所は聞いてくれればいいから」
 そう言いながら、事前に作ってあったお品書きと、役割分担表をマグネットで冷蔵庫
のドアに止めながら、手早く持参してきた白いコックコートに袖を通す耕介。う〜ん、
流石本職、様になってやがるな。
 そんなことを考えながら、周りを見ると同じく、店から持ってきたであろうコックコ
ートに着替えた耕治をはじめ、祐介・耕一・和樹・健太郎・芳晴・冬弥・誠・真一郎・
浩平・祐一の何れもがエプロン姿で臨戦態勢に入っている。
 そうなってくると……
 自分の記憶がぶっ飛んでる時に決まったことと言うのが少々癪ではあるが、そこはそ
れ、何時の間にやらすっかりやる気になってしまっている自分に気が付き、思わず(誰
にも見られないように)苦笑を漏らしてしまう俺であった。

「でもさぁ」
「なんだ??」
「何でうちでやってんだ??こんだけの大人数で作業するなら、うちよりキャロットの厨
房でも借りるほうがスペースだってあるだろうにさ」
 自分の割り当てパートのじゃがいもの皮剥きを熟しながら(無論、剥き終わると何故
かサイズが一回り小さくなってると言うのはお約束だ)、対照的に早いテンポと正確な
リズムでキャベツの千切りを量産している耕治にそう問いかける。
「ああ、別に料理だけならその通りなんだが、今の季節、家ん中に閉じこもってるのも
もったいないからな、どうせなら作った料理抱えて屋外で宴会てのも悪はないなってそ
う言う話になってな。
 それだったら、浩之んちならちょっとした公園ぐらいの広さの庭もあるし、丁度いい
んじゃないかってことになったんだわ」
「おいおい、そんなこと勝手に決めんなよな……まぁ別にいいけどさ……」
 まぁ実際、婚約と同時に来栖川が提供してくれた家の馬鹿でかさは半端じゃない。
 現に、今俺達が使ってる厨房だって、実のところ下手なレストランの厨房に匹敵する
くらいの広さがあって、しかも、それでいて一般家庭のキッチンらしく、実用性一点張
りの作りにはなっていない。
 しかし、それを言うなら俺と同じく大量の嫁さんを持っている他の面々の家だってよ
かったんじゃないのか??って気はするのだが……
「うちは使う人間が限られてるから」
「うちは小人数だし」
「別に聞かなくても解ってると思うが……」
「皆まで言わせるか?!」
「どうせ俺しか使わないし」
 という理由だそうだ。ちなみに誰がどの台詞かは各自で勝手に考えてくれ(笑)
 それにまぁ、確かに部屋数とか間取りとかはそこそこあるかも知れないが、オープン
テーブルを持ち出しての野外パーティが出来そうな庭があるとこってのは……確かにう
ちしかないわな。

 そんなこんなで、嫁さん達の好物を十二分に配慮しつつ、宴会向けにバラエティに富
んだメニューで男達の料理作りは、益々たけなわになっていくのであった。






<To Be Next.>

 え〜、取り敢えずネタはもう一本あるのですが、そっちの方は理由があって凍結中な ので先に出しやすいほうから出していきます。  それにしても……俺でも書こうと思えば超短編って書けるんだ(笑)  でわでわ、次の作家さん、宜しくお願いします。
文責:うめ☆cyan





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