「な、な、なにやってるんだお前らはーーーっ!?」
 照明が完全に消された室内。カーテンさえ降ろされ、中に入っている光は今オレが開け
たドアからのだけ。そんな中、ゆらゆらと十本弱の蝋燭が揺れる。
「……その時っ!!」
 綾香の闇を裂くような声に後ろのあかりがビクッと反応する。と言うより、その前のオ
レの絶叫は聞こえなかったのか? そんなに綾香の語りは上手いのか!?
「……みるみるうちに少女が立っていた床が膨れ上がり、血のように紅い霧を……」
「きゃああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 あかりが悲鳴を上げたので、慌てて電気を点けて落ち着かせる。
「おい、何やってんだこれは!?」
「浩之ぃ〜、邪魔しないでよ」
「だからその前に、なにやってんのか説明せいっ!!」
「見ての通り、怪談や」
「何で朝っぱらからんなことしてんだよ!!」
「もう昼ですよ、藤田さん……」
 ……言われてみれば。時計は既に針を真上に揃えようとしていた。
「今日は暑くなりそうですから……」
「だから納涼怪談か!? だったら夜にやれってば!!」
「で、ですが……その……夜になってしまいますと……」
「お楽しみが減るネ!」
 なるほどな。確かにそうだ(納得するなっ!!)
「……で、葵ちゃん、マルチ、理緒ちゃん、大丈夫か?」
 やはりというか、最初に陥落していたのはこの三人だった。
「ううっ……先輩……」
「浩之さぁん……」
「ふ、藤田くん……」
 ……しかし、必死に涙と恐怖を堪える三人。
「何だ、怖かったらこっち来ても……」
「それはダメ」
「何でだよ、綾香」
「これを始めるに当たってな、いくつか決まり事をしたんや。
  1,蝋燭を吹き消すなどの基本ルールは一般的な怪談に準ずる。
  2,いくら怖くなっても、藤田くんに助けを求めてはならない。
  3,最後まで生き残った者は……その……」
「何だよ?」
「……本日の、藤田さんのお相手を特別に受けられる、です」
 それでみんな頑張ってるのか……
 しかし、あの三人は前途多難だな。委員長はまあ涼しげな顔だし、先輩は見たところこ
ーゆーのに慣れてそうだし、レミィに至っちゃ興味津々って感じの目つきだ。琴音ちゃん
も結構慣れてるようだし、セリオには全然応えてないみたいだ。こんな強者相手に、どう
なるんだろうか。
「……よ〜し、じゃ予定変更だ。オレが1つ、とっておきの怪談をやってやろう」
「へ? 浩之、怪談できんの?」
「おうよ!! 高校一の怪談王の腕前、披露してやろうじゃねえか!!」
「……ヒロユキ、そんな話、聞いたことないネ」
「気にすんなレミィ。で、見事オレの話に耐えられたら、さっきの3番のルールを適用す
る、ってのはどうだ?」
「でも、もし二人以上の人が耐えられたら……」
「安心しろ、誰もどうせ耐えられん」
 不敵な笑いを浮かべるオレ。しかし……
「ねえ、浩之ちゃん……」
「ん、何だ?」
「まさか、恐怖の怪談シリーズ、やるんじゃないよね?」
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………さすがはあかり」
「やるつもりだったんですか……」
 琴音ちゃんが溜息をつく。その勢いで前の蝋燭が消えてしまった。
「ねえ琴音、恐怖の怪談シリーズって何よ?」
「……あーおいちっ、です」
「……は?」
「……What?」
「なんやて?」
「と言いますと?」
「……?」
「浩之ちゃんの怪談は、オチがギャグなん……」
「待て待てあかり!! お前、オレを甘く見てもらっちゃ困るぜ!!!」
 確かに最初はあかりや雅史を笑わせるのが目的だったし、琴音ちゃんの時は元気付ける
のが目的だったが……だが、だがしかし!!
 オレには実際、身も凍るような怪談話が、たった一つだが存在するのだっ!!!
「覚悟はいいな? 電気消すぞ!?」
「あっ、待って浩之ちゃん……」
 あかりが言い切る前に、オレは部屋の電気を切った。再び部屋は漆黒に包まれ、頼りな
い蝋燭の灯りがちらほらと残るだけだ。
「どうせだから、オレは椅子には座んねーで、少しずつ動きながら喋る」
「……藤田くんが初めてやわ、そんなこと言い出すんは」
「この方が、声がどっから聞こえてくんのか分かんなくておもしれーだろ?」
 そしてオレはおもむろに、声の調子を落とす……

 昔々、あるところに……
「昔っていつ?」
「そういう落語なネタはやめい!!」
 ……ったく……

 昔々、ある村に一人の青年が住んでいた。青年はさほど格好いいというわけでもなく、
さほど頼りがいがあるというわけでもないと自分では思っていたが、何故だか色々な人に
頼られ、そしてそれに応えていた。
 特に彼を強く慕っている女性が十人いた。彼女たちは彼を心の支えにし、彼も彼女たち
に支えられながら、より頼れる男になろうと頑張って生きていた。青年はそのために、毎
朝の鍛練を欠かさなかった。
 その日もまた、青年は家から少し離れた空き地で朝の鍛練に励んだ。帰り際、青年は彼
を慕う女性の一人を見かけた。女性から今日は何の鍛練をしたのかと聞かれた青年は……
「「「「「「「「「「ダメ(です)〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」」」」」」」」」」
「うおおっ!? 何でだ!?」
「「「「「「「「「「三次創作だから(です)〜〜っ!!!!!」」」」」」」」」」
「しかし……絶対お前ら、冷や汗流して後ずさるって思ってたんだが……」
「だからって人のを使っちゃダメだよぉ〜〜」
「わーったわーった……次は本気だぜ?」
 オレはもう一度、声の調子を落とす……
 これからが本番だ。さっき綾香が霧が云々って言ってたし……それに……だもんな。
 よし、アレにするか。

 昔々、ある村に一人の青年が住んでいた。青年はさほど格好いいというわけでもなく、
さほど頼りがいがあるというわけでもないと自分では思っていたが、何故だか色々な人に
頼られ、そしてそれに応えていた。
「浩之ちゃん……」
「いーから黙って聞いてろ」
 ……うぉっほん。
 ある日青年は、村の中でも特に親しい十人の女性たちから、ある依頼を受けた。とても
村の事に興味を持ち、色々と調べては言いふらしていた一人の娘……まあこの娘の言うこ
とは十中八九ガセであったので、殆どの者は信用していなかった……が、村の奥の霧屋敷
に入り込んだまま帰ってこないというのである。
 青年は少し気が重かったが、他ならぬ女性たちの頼みである、霧屋敷へと足を運んだ。
この霧屋敷というのは、村の一番奥にあり、風のせいか常に霧……しかも白ではなく、深
い赤みがかった霧……が立ちこめている屋敷のことである。村の者は死者の住まいとして
ここには絶対に近寄らなかったが、行方知れずとなったあの娘は村外の者だったから、恐
らく興味が勝ったのだろう。

 一週間後。その霧屋敷の前に、依頼主の十人の女性が勢揃いした。見つけたら真っ先に
自分たちの元を訪ねると言って出ていったあの青年が、未だ戻ってこないのである。女性
の中で最も気の強い一人が強硬に青年の捜索を主張し、十人はここへやって来たのだ。女
性たちは互いの手を取り、ゆっくりと屋敷に足を踏み込んだ。
 そして十人は、恐らくこの屋敷の奥座敷と思われる場所まで辿り着いた。十人のうちの
一人が、その奥座敷で青年の来ていた服を見つけ、それを手に取った……
「その時っ!!」
「きゃあっ!」
 ……これくらいで驚いてちゃダメだよ、理緒ちゃん……
 辺りの霧から次々と、人の顔が浮かび上がったのである! その沢山の顔はある者は笑
い、ある者は泣き、ある者は怒っていた。そして口々に甘い言葉を囁き、または女性たち
を嘲り、または警告を発して去っていく。次々と浮かんでは消えていく顔たちに、女性た
ちはもはや恐怖を超え、取り合った手は震えていたが、なおもそこに留まり続けた。
 そのうちに、顔の数も少なくなってきた。そして最後に浮かんだ顔は……
「……まさか……」
「そう、そのまさかだ。あの青年の顔だった」
「どうしてっ!?」
「まあ、聞いてろ」
 青年は甘い言葉を投げて女性たちを惑わせたが、最後に苦悶の表情を浮かべて、すぐに
ここから出ろと叫んだ。しかし……時は既に遅かった。突然辺りの霧が女性たちに向かっ
て集まったかと思うと、そこには……
「な、なに!?」
 ……そこには、女性たちの服があるばかりだった……

 それ以降も、あの青年この女性たちを捜して、多くの者たちが霧屋敷に挑み、二度と帰
ってこなかったという。そうして行方知れずの者が増える度に、霧はその濃さを増し、い
つしかその村が廃れて人が住まなくなると、霧屋敷に立ちこめた濃霧は堰を切ったように
溢れだし、村中を真っ赤な霧で埋め尽くしたという……
「……それで、おしまい?」
「ああ」
「けど、誰も泣かなかったですよ?」
「だってよ……お前らの泣き顔なんて、見たくねーよ」
 だからあまり怖くないのを選んだつもりだし。
「浩之ちゃん……」
「けどこれ、後からボディーブローみたいに効いてくるんだよなー。オレなんか、この話
聞いたとき、夢に見たもんな」
 見ると、全員の視線が完全に潤んでいる。
「そんな話しおって……」
「……(このままでは、夢に見てしまいます)」
「So……」
「今夜は……」
「悪い夢をみないように……」
「藤田さんの隣で……」
「一晩中……」
「寝かさないで……」
「お相手して下さい」
 ……………………プチッ
「よっしゃああああ〜〜〜〜〜〜〜っ!!! 夢なんか見らんねーくらい、可愛がってや
るぜえ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「「「「「「「「「「きゃああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♪」」」」」」」」」」
                          To Be Continued?







 後書き
 一大スランプ、脱出なるか? の竜山です。皆さん、既にお忘れでしょうが……(^ ^;
 まずHiroさん、途中でネタを使いかけたこと、お詫び申し上げますm(_ _)m
 納涼怪談、暑中見舞いも微妙に兼ねた(早い話が手抜き……)話です。私は怪談系は全
くと言っていいほど乗れないタイプでして、いまいち得意ではありませんが……多分、こ
の話も殆ど怖くなかったでしょう。
 この話の続きは……書ける方は書いても結構ですが、皆さん御自分でお考え下さいませ
(^ ^;;; とても私の筆力では書けませんので……
 では、失礼致します。
                               Aug/04/2001
                                 竜山 Wrote








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