『こだわり』



 あかりはくまが好き。部屋中に大小様々なくまが置いてある。
 葵ちゃんはキツネが好き。俺に土産で貰って以来ハマっているみたいだ。
 琴音ちゃんはイルカが好き。犬も猫も好きなのだが、イルカは別格らしい。

 くま、キツネ、イルカと多少の差はあれど、みんな非常に女の子らしい趣味をしていると言える。

 それに比べると、

「相変わらず、右を向いても左を向いてもヒーローと怪獣ばっかり。怪獣王国って感じ? てか、佐竹?」

 セリオの趣味は“女の子らしさ”からは些か遠かった。

「い、いいじゃないですか。好きなんですから」

 ちょっぴり口を尖らせるセリオ。
 僅かな気恥ずかしさを感じているのか、頬がほんのりと朱に染まっている。

「まあな」

 それに、俺は軽く頷いて応えた。
 顔を染めたセリオを見て「うむうむ、めんこいのぉ。良きかな良きかな」とか思っていたのは俺と君だけの秘密だ。

「しっかし、それにしても凄い数だよなぁ」

 部屋の中を見回して、俺は感心したように零した。

「え、えへへ。つい買ってしまうんですよね。特にこういうのは」

 セリオは、小さな怪獣を一つ手に取って俺に見せてくる。

「行きつけのアニメショップにガチャガチャが置いてあるんですよ。ですから……」

「思わずコインシュート(byあらし)をしてしまう、と」

「そうなんですよ」

 もう条件反射ですね、と続けてセリオはペロッと舌を出した。

「ったく、しょーがねーなぁ」

 言いつつ、俺はセリオが持っている怪獣のフィギュアに目を向ける。
 最近のガチャガチャ人形は実に出来が良い。細かいところまでしっかりと作られている。
 ちなみに殆どがメイドinチャイナ。侮りがたし、メイド国家中国。

 こりゃ、セリオの様なマニアにはたまらないな。惹き付けられるわけだ。
 俺はマリファナ海溝よりも深く納得した。……と、こういうとこでもさり気なくボケておくのがジェントルマンの心意気というもの。

「ところでさ」

「なんです?」

「さっきから気になってたんだけど、どうして同じやつを何個も飾ってるんだ?」

 俺の視線の先には複数のバルタン星人がフォッフォッフォッフォしていた。
 おそらくダブったのだろうけど、わざわざ律儀に全部飾らなくても。一つだけ置いて、残りは仕舞っておけばいいのにと思う。

「はぁ? 何を言ってるのですか、浩之さん」

 その問いに、セリオが呆れ返ったような声を返してきた。

「何って?」

 訳が分からずに尋ね返す俺。

「よく見て下さい。どこが“同じやつ”なんですか」

「え? どこって……」

 言われて、改めて人形――バルタン軍団――を見直す。
 どれもこれも頭が尖っていて手がハサミみたいになっていて、尚かつ蝉で……

「同じ、だろ? やっぱり」

 俺は、再度その結果に達した。
 それを聞いたセリオが「ハァ〜」と長いため息を零す。肩を竦めた態度が「これだからトーシロは困るぜ、ベイベー」と如実に語っていた。

「ち、違う、のか?」

 おそるおそる尋ねる俺。

「当然です」

 キッパリと答えると、セリオは一つずつ指し示して、

「左から……初代、二代目、三代目、ジュニアこと四代目、五代目、六代目です」

 そう教えてくれた。

「な、なるほど。言われてみれば違う……様な気がする……かもしれない……たぶん……おそらく……」

「たぶんでもおそらくでもなくて、違うんです!」

 声を大にして断言するセリオ。

「さ、さいですか」

 よく分からないが、セリオがそう言うからには違うのだろう。
 つまりあれだ。
 佐山と三沢と金本とみちのくタイガーの違いとか。そういうやつだな、うん。

「まあ、バルタン星人が違うのは分かった。でもさ、あれはさすがに同じだろ?」

 俺は、とある人形を指で差して問うた。
 そこには、厳つい顔をしたナイスガイが二人。言うなれば兄貴。もしくはブラザー。

「違います! どこをどうしたら同じに見えるんですか!? 浩之さん、おかしいです! これの違いが分からないなんてどうかしています!」

「おかしいと言われてましても……。俺には同じにしか見えないのですが」

 セリオの勢いに押されながらも、俺は口答えなんかしてしまう。
 無理もないさ、反抗したいお年頃だからな。
 もっとも、口調は非常に弱々だったりしたが……まあ、そんなのは些細なことだ。

「ち・が・い・ま・す! 右のは初代レッドキング、左のは二代目レッドキングです。全然同じじゃありません!」

 分かるか、んなもん! 俺にはア○ンとサム○ンを見分けるスキルなんて備わってないんだよ!
 セリオからの解答を受けて、俺、心の中で魂のシャウト。

「まったくもう。浩之さん、情けないです。これくらいは世間の常識ですよ。嗜みというものです。それなのに……。ハァ、仕方ないですね。このままでは浩之さんはダメダメちゃん。ですから、わたしがしっかりと教育してさしあげねば」

「へ? 教育?」

「はい、教育です。では、早速。まずは……」

 なんか、有耶無耶のうちにセリオによる教育が始まった。つーか、展開早すぎ。加えて、俺の意思がサラッと無視されているのが素敵すぎ。
 ちなみに、

「先生!」

「なんですか?」

「頭がパンクしそうです。ひでぶ、しそうです」

「大丈夫です。問題ないです。シナリオの範囲内です。我慢して下さい」

「……鬼」

 セリオの教育方法は、とにかく知識を問答無用で詰め込むという、典型的な受験対策方式だった。
 その指導法を迷うことなく選んだセリオを見て俺はしみじみと思った。
 ああっ、やっぱりセリオは日本製だなぁ、と。

「先生、トイレに行っていいですか?」

「ダメです。却下します」

「……鬼……貧乳長女」



 それ以降のことは何故かあまり憶えていない。記憶が非常に曖昧になっている。
 ただ、ハッキリと頭にインプットされていることもある。
 それは、

『マニアってヘビィだぜ』

 ということだった。

 取り敢えず、今後はセリオに怪獣の話題は振らないようにしよう。


 ところで、俺の脳裏に微かに残っている黒髪貧乳の……


 以下自粛。







< おわる >




 ☆ あとがき ☆

 なーんも考えずに勢いだけで書いたらこんなん出ましたって感じのSSです。
 もう少しはっちゃけても良かったかも。





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