『みずぎであそぼ』



「ふぅ」

 水面へと顔を出し、浩之は一つ大きく息を吐いた。
 藤田邸にあるプール。
 そこで藤田家一同が涼を楽しんでいた。

「よっと」

 浩之はプールサイドへと腰掛けると、周りで遊んでいる女性陣へと目を向けた。
 無邪気に水を掛け合う者、綺麗なフォームで泳ぎを堪能している者、ビーチボールでバレーをしている者。

「うむ。皆、楽しそうでなりよりだ」

 腕を組んで「うんうん」と満足気に頷く浩之。
 彼にとっては、家族の笑顔を見るのは何よりの喜びだった。
 尤も、今は違った意味でも喜んでいたが。

「あかりさんって結構大胆ですよね」

「そういう琴音ちゃんだって。それにマルチちゃんも」

「えへへ。ちょっと頑張っちゃいました」

 際どいビキニを身に纏っている三人。
 ボディに若干メリハリは欠けているものの、それ故に却って『冒険してみました』という雰囲気が感じられて微笑ましい。

「智子さんってスタイル良いよね。羨ましい」

「本当ですよねぇ。胸は大きいし腰はキュッと締まってるし」

 露出度の少ないワンピースで身を包んだ理緒と葵が、布地面積の少ない白ビキニを着た智子へと羨望の眼差しを向ける。同時に零れた「ハァ」という吐息が痛々しい。

「……人の胸を掴みながらため息吐くのはやめて欲しいんやけど」

 上手い慰めの言葉も思い付かず、ちょっぴり途方にくれてしまう智子だった。
 
「きゃっ。やったわね、姉さん。えいっ、反撃!」

「……!?」

「大丈夫ですか、芹香さん。加勢します。二人で綾香さんを亡き者にしましょう」

「サラッと物騒なことを言うなぁ!」

 笑いながら水を掛け合う来栖川姉妹プラスセリオ。
 実用性重視の競泳水着を着た綾香対胸元にフリルが付いたタンキニの芹香セリオの連合軍。
 時折ほんのちょっぴりだけ本気風味な殺気が混ざるっぽいのはご愛嬌か。

「うん。眼福眼福」

 悲喜交々あるが、とにもかくにも華やかな水着姿の女性陣。
 浩之にとってはまさに『目の保養』だった。
 一番好きなのは何も身に着けていない姿だったりするが、これはこれでまた乙なもの。
 隠すことにより生ずる色気というのも確かに存在するのであるから。

「……あれ? そういや、レミィは?」

「呼んだ?」

「うおわっ!」

 背後から急に声を掛けられて浩之が驚きの声を上げた。

「び、ビックリした。脅かすなよ、レミ……」

 そして、振り返って更に驚き。
 目を丸くして、言葉を失ってしまう。

「ン? どしたの、ヒロユキ?」

「い、いや、どしたのって、おまえ……そ、その格好……」

 藤田家で一番のプロポーションを誇るレミィ。
 藤田家で一番のバストサイズを誇るレミィ。
 そんな彼女が選んだ水着は――

「エ? どっかヘン?」

「変じゃない。変じゃないけど……」

 スクール水着だった。ご丁寧に『れみぃ』と書かれた名札付き。
 しかも、どう見てもワンサイズ小さい。
 そのおかげで、それはもう凄いことに。レミィの豊かな胸がいつも以上に激しく自己主張していた。
 一言で表すなら『ぱっつんぱっつん』。
 あまりの視的刺激に、思わず鼻を押さえて首の裏をトントンと叩いてしまう浩之だった。

「あ、あれって反則ですよね」

「神様って不公平だよぉ」

「はうぅ」

 滂沱する葵と理緒、マルチの貧乳組。

「浩之ってああいう格好が好みなのかしら。すっごい反応してる」

「変態やな」

「マニアックです」

「……」こくこく

 浩之の様子を呆れ半分興味半分で観察しながら好き勝手に論評し合う綾香に智子、セリオと芹香。

「……ま、浩之ちゃんだしね」

 悟った表情で理解を示すあかり。
 及び、

「浩之さん、スク水がお好きなのなら言ってくれればいいのに。浩之さんの為ならわたし、ワンサイズどころかツーサイズ小さい水着だってオッケーです。そして、そんな水着でキュウキュウに締め付けられたわたしの身体は、更に浩之さんにもギューッと抱きしめられて……それでそれで、あんな事とかこんな事を……やんやん♪」

 本日も実に絶好調な琴音。

「……What?」

 周囲の反応にキョトンとした顔をするレミィ。

「なんかよくわかんないけど……ヒロユキ、あそぼ!」

「うわっ。こ、こら、抱き付くな! 当たる! 埋もれる! ちょ、ちょっと待っ……暴れるなって……おうわっ!」

 大きな大きなレミィの胸に顔を埋めて浩之が悶える。
 しかし、彼のそんな窮地を助けようとする者はいなかった。
 羨望だの呆れだのが入り混じった異様に生温かい視線が注がれる中、幸せな苦しさに一人悶絶する浩之だった。


 ちなみに――
 この日以降、藤田家の洗濯物の中にスクール水着が散見されるようになるのだが、何に使われているのかは定かではない。