○月×日 晴れ

 今日は、浩之さんたちとゲームセンターに遊びに行きました。
 志保さんや岡田さんたちも一緒だったので、とっても賑やかです。




『マルチの日記ゲーセン編』




「よっしゃ、ヒロ! 勝負よ!」

 ゲーセンに到着するや否や、志保さんが浩之さんに指を突き立てました。

「いいぜ、受けてたってやる。ま、やる前から結果は見えてるけどな。しょーがねぇから胸を貸してやるよ」

「な、なんですってぇ! ヒロの分際で言ってくれるじゃない! その言葉、絶対に後悔させてやるわ」

「はんっ、やれるものならやってみやがれ」

「言われなくても!」

 顔をつき合わせて浩之さんと志保さんが睨みあいます。
 ケンカしている様にも見えますが、あかりさん曰く、これはお二人の『コミュニケーション』なんだそうです。雅史さんも『あれはケンカするほど仲が良いの典型なんだよ』って言ってました。

「それじゃ、ヒロ。まずは格ゲーから勝負!」

「おう!」

 確かにそういうものなのかもしれません。だって、激しい口調で言い合ってますけど、その割には浩之さんも志保さんも楽しそうに口元を緩ませてますから。

「えへへ。お二人は今日も仲良しさんですね。ちょっぴり羨ましいです」

「なっ!? なに言ってるんだよ、マルチ。どこをどうすりゃ仲良く見えるんだ!?」

「そ、そうよ。変なこと言わないでよね!」

「こんなのと仲が良いわけないだろ」

「こんなのと仲が良いわけないでしょ」

 口を揃えて、仲が良くないことを主張する浩之さんと志保さん。
 息ピッタリです。ユニゾンしちゃってます。
 うん、やっぱり仲良しさんですよね。えへへ。


○   ○   ○



「こらっ、保科! あたしの前を走るんじゃないわよ!」

「ふふんっ。悔しかったら追い抜いてみるんやな」

「ううっ。ふ、二人とも速いよぉ」

 大きな筐体が置いてあるスペースに行ってみると、そこでは智子さんと理緒さん、岡田さんが車のゲームをしてました。

「あー、卑怯者ぉ! 道を狭めるんじゃないわよ!」

「アホ。抜かせない為の必須テクニックやんか。卑怯者呼ばわりされるのは心外や」

「……マイペースで行こう」

 激しいデッドヒートを繰り広げている智子さんと岡田さん。それの勢いに気圧されて、理緒さんは若干引き気味になってます。

「よっしゃ。最終ラップの最終コーナー。ここまで来れば勝ち確定や」

「そうはいかないわよ。ギリギリまでアクセル全開で突っ込む! ふふっ、見える! 見えるわ! ここで一気に抜く!」

「甘い! それはさせんで!」

「ふん! 今更コースを塞ごうとしても遅いのよ! うおりゃぁぁぁぁ……あ……やば、ミスった」

「ちょ、な、なにするん!?」

 操作を誤ったらしく、岡田さんの車が智子さんの車に接触。二台の車は勢いあまってコースの外にまで飛び出てしまいました。

「……お、岡田ぁ!」

「わ、わざとじゃないわよ! っていうか、抜かせまいとして強引に無茶なコース取りをしたアンタも悪いんでしょうが!」

 筐体から立ち上がって文句を言い合う智子さんと岡田さん。
 それを横目に、

「あはは、なんだかよく分かんないけど勝っちゃった」

 理緒さんが1位でゴールです。

「こういうのを棚から牡丹餅って言うのかな。やっぱ、何事も堅実なのが一番だよね」

 ケンカする智子さんと岡田さんを困った笑顔で見つめつつ、観戦していたわたしに向けて小さくガッツポーズする理緒さんでした。


○   ○   ○



「ねえねえ、吉井さん、垣本さん。これ、お二人でやってみませんか?」

 琴音さんの言葉を受けて筐体へと視線を送る吉井さんと垣本さん。それを見た途端、お二人の頬が薄っすらと染まりました。

「な、なによこれ。相性占い? ど、どうしてわたしたちが……」

「そ、そうだよ。な、なんで俺と吉井さんなのさ」

「なんでって……それが一番自然な組み合わせだと思ったんですけど。葵ちゃんもそう思うよね?」

 からかい混じりのニヤニヤ笑いで琴音さんが葵さんに同意を求めます。

「え? う、うん。そうだね」

 その問いに、葵さんは苦笑しつつも首を縦に振りました。

「それに、わたしや葵ちゃんが垣本さんとの相性を占っても仕方ありませんし……吉井さんだって、そんなの占って欲しくないんじゃないですか?」

「……う゛」

 吉井さんが言葉を詰まらせました。どうやら琴音さんの指摘通りだったみたいです。

「そういうわけですから……ほらほら、吉井さん、垣本さん……どうぞ♪」

「わ、分かったわよ。占えばいいんでしょ、占えば!」

「やれやれ。ま、たまにはこういうのもいいか」

 ヤケクソ気味に筐体に向かう吉井さん、肩を竦める垣本さん。でも、その態度とは裏腹に、お二人とも満更でもなさそうなお顔をしているように思えるのはわたしだけでしょうか。

「えっと、わたしと垣本くんの名前と誕生日に血液型を入れて……っと」

「これでいいのかな」

 必要事項を入力して、待つこそ数十秒。結果が書かれた紙がプリントアウトされてきました。

「どれどれ……って、な、なな、なによ、これぇ!?」

 結果を見た瞬間、吉井さん絶叫。垣本さんは硬直。お二人とも顔が真っ赤です。
 因みに、紙にはこう書いてありました。『お二人の相性度は97。誰もが羨むカップルです』
 よかったですね、吉井さん、垣本さん。

「べ、べべ、別に、こんなの当てにならないわよ。所詮は占いゲームじゃない」

「そういうセリフを、大事そうにカバンの中へしまいながら言いますか。むちゃくちゃ喜んでるように見えますが」

「う、うっさい。そ、それはそうと、姫川さんたちはやらないの?」

 耳まで赤く染めつつ、吉井さんが尋ねました。話題を変えようと必死に誤魔化してるようにも見えますが、きっと気の所為です。

「わたしたち、ですか? そうですね。面白そうですし、やってみましょうか。ね、葵ちゃん」

「へっ? わ、わたしと? 女同士だよ!?」

「いいじゃない。ほらほら、葵ちゃん。お金入れるよぉ」

 楽しそうに笑って筐体の前に立つ琴音さん。葵さんは困惑顔です。

「入力完了っと。さーて、どんな結果が出るかなぁ♪」

 ニコニコと微笑む琴音さんを、葵さんがため息を吐きつつ見つめています。背中に哀愁が漂ってます。

「出てきた出てきた。結果は……『相性度100。今すぐ婚姻届を持って役所へ行きましょう』だって。葵ちゃん、どうする?」

「ど、どうするって言われても……どうすればいいの?」

 どうしたらいいんでしょう?
 取り敢えず、わたしと吉井さん、垣本さんからこの言葉をお送りしますね。
『おめでとうございます』

「みなさん、ありがとうございます。ねえ、葵ちゃん。新婚旅行はどこに行く? ハワイ? グアム?」

「……あ、あんまりおめでたくないんですけど。っていうか、琴音ちゃん、なんでそんなに嬉しそうなの?」

 だって、琴音さんですから。

「ちょ、ちょっとぉ、抱きつかないでよぉ」

「そんなに照れなくてもいいのにぃ♪」

「照れてなーい!」

 琴音さん、ですから。


○   ○   ○



「フフフ。足掻きなさい。逃げ回りなさい。……無駄だけどね。フフッ、決して許さないわ」

 レミィさんが鉄砲を撃つゲームをしています。
 ……あれ? あの雰囲気はカリンさんかな?
 カリンさんというのは、もう一人のレミィさんです。ハンターモード時のレミィさんの名前なんですよ。

「……えい……えい」

 レミィさん――カリンさん――の隣では芹香さんが鉄砲をバンバン撃ってます。とっても楽しそうです。

「ああっ!? か、カリン、芹香さん。今の人、民間人だよ。撃っちゃダメだってば」

 後ろから見ていたあかりさんが芹香さんたちに慌てて指摘しました。
 ――が、それに返ってきたのは、

「バカね。銃撃戦の現場に出てくる方がいけないのよ。撃たれたくないのなら大人しく引っ込んでるべきだわ」

「……戦場は無情なのです」

 なんともクールなお言葉でした。容赦ありません。

「それは……正論かもしれないけど……。でも、それじゃすぐにゲームオーバーになっちゃうよ。……って、言ってる傍から」

「むぅ、納得いかないわ」

「……不満、です」

 口を尖らせるカリンさんと芹香さんの姿に、アハハと苦笑するしかないあかりさんでした。

「ダメねぇ、カリンも姉さんも。あたしたちがお手本を見せてあげるわ。行くわよ、セリオ」

「了解です。見事、ミッションを遂行してみせましょう」

 入れ替わり、今度は綾香さんとセリオさんが筐体の前に立ちました。
 お金を入れて、ゲームスタートです。

「セリオ、右!」

「ラジャー。……綾香さん、左奥から敵が来ます」

「オッケー。まっかせなさい♪」

 息の合ったコンビネーションを見せる綾香さんとセリオさん。後ろで見ているあかりさんに芹香さん、戻ってきたらしいレミィさんから感嘆の声が上がりました。もちろん、わたしの口からも。

「さあ、セリオ! ラスト、決めるわよ!」

「はい!」

 全く敵を寄せ付けずにあっという間に最終面も突破。

「これで!」

「終わりです!」

 最後のボスキャラも見事な連携で撃破です。いつの間にか増えていたギャラリーから歓声と拍手が沸き起こりました。

「ふふっ。ありがと♪」

「お粗末さまでした」

 手を振って応える綾香さんと、ペコッとお辞儀するセリオさん。

「二人とも凄かったよ」

「ナイスなチームワークだったネ」

「かっこよかったです」

「そう? そ、そんなに言われると照れちゃうわね。あ、あはは」

「ところで、セリオさん? 今も何かのデータをダウンロードしてたのですか? まるで本物のガンマンさんみたいでしたけど」

 あかりさんたちに褒められて頭を掻いている綾香さんを見ながら、わたしはセリオさんに尋ねました。

「あっ、それはあたしも気になるわね。どうなの、セリオ?」

「……はい。反則かとは思いましたけど、かっこよく決めたかったものですから」

 些かバツが悪そうにセリオさんが首肯しました。

「ふーん。で、誰? ビリー・ザ・キッドとか?」

「オーソドックスにワイアット・アープかな?」

「いやいや、やっぱりワイルド・ビル・ヒコックよネ!」

「……ジェシー・ジェイムズ?」

「いえ、クリント・イーストウッドです」

 何故でしょう。セリオさんがそう言った瞬間、何とも言いがたい空気が流れました。
 みなさん、『……え?』って顔をしています。

「何か問題でも?」

「う、うーん。問題、有るような無いような」

「な、なんか、すっごく微妙、だよね」

 綾香さんとあかりさんが顔を見合わせて首を傾げています。
 なんかよく分かりませんけど、クリントさんが凄いガンマンさんなんだという事だけは理解できました。
 そうですよね、セリオさん。

「はい、その通りです、マルチさん」

 どうしてでしょう。みなさん、とても複雑な顔をしています。まるで、小骨が喉に刺さっているかの様な、すっきりしない顔を。
 ……不思議です。


○   ○   ○



「あーん、矢島さーん。少しは手加減してくださいよぉ」

「ふっふっふ。甘いぞ、田沢さん。勝負の世界は厳しいのだ!」

 矢島さんと田沢さんがエアホッケーをしています。
 田沢さんも健闘しているのですが、バスケ部エースである矢島さんの動体視力と反射神経には敵いません。
 結局、一ポイントも取れずに負けてしまいました。

「ふえーん。佐藤さーん」

「あはは。残念だったね、圭子ちゃん」

 田沢さんが、応援していた雅史さんに泣きつきます。雅史さんは慰めるように田沢さんの頭を撫でました。

「……え、えへへ」

 すると、田沢さんの頬がポッと染まり、泣きそうな顔は途端に笑顔へと変わりました。
 田沢さんも『なでなで』されるのが好きなんですね。わたしと同じです。

「ふふふ。アイム、ナンバーワーン。俺は誰の挑戦でも受けるぜ」

「なら〜、次は〜、わたし〜」

 高らかに吼える矢島さんに応え、松本さんが名乗りを上げました。

「わたし〜、エアホッケーは〜得意なんだよ〜」

「そ、そうなのか?」

 意外そうな顔をする矢島さん。無理もないと思います。
 松本さんとエアホッケー。どう考えてもミスマッチですから。

「うん。大得意だよ〜」

「そ、そっか。なら、お手並み拝見させてもらおうかな。サーブ権はそっちからでいいぜ」

「わかった〜。それじゃ、いっくよ〜」

 松本さんはパックを手に取ると、気合を込めて叫びました。あんまり篭ってる様には聞こえませんけど、でもきっとたぶん篭ってるんです。

「ひっさ〜つ、どらいぶさ〜ぶ〜」

 のんびりとした声とは裏腹に、意外にも素早い動作で松本さんはパックを打ちました。
 白いパックが宙を飛び、矢島さんの顔めがけて一直線。

「お、おい!? ちょっと待て!」

 矢島さんが慌てて避けます。――が、次の瞬間、信じられない光景がわたしたちの目に飛び込んできました。
 松本さんの放ったパックは空中で軌跡を変えて急降下。そのままゴールへと突き刺さったのです。
 ――呆然。

「……す、凄い! 凄い凄い! 凄いですよ、松本さん!」

 田沢さんがピョンピョン跳ねて、パチパチと拍手しながら松本さんを褒め称えます。

「い、いや、確かに凄いけど……あれって有りなの?」

 苦笑を浮かべつつ、微かに冷や汗を垂らして雅史さんが零しました。
 有り、なんでしょうかね? わたしには分かりません。

「お! おおっ! おおおっ! や、やってくれるじゃないか、松本さん! かーっ、燃えてきたぜぇ!」

 矢島さんは何やら闘志を掻き立てられてました。妙なスイッチが入ってしまった模様です。

「こうなったら俺も真の実力を見せてやるぜ。燃え上がれ、俺のエアホッケー魂よ! 届け、神の領域まで!」

「ふっふっふ〜。わたしも〜、負けないよ〜。え〜い、さんだ〜あた〜っく」

「なんの! 奥義、鳳凰の舞い!」

「た〜っ、ろ〜りんぐしゅ〜と〜」

「ぬん! 秘技! ヤジマックスペシャル!」

 もはや何が何やら。

「キャー♪ キャー♪ 矢島さんも松本さんも凄いです! どっちも頑張れぇ!」

「……ねえ、マルチちゃん。あれってエアホッケーなのかな?」

「……わ、わたしに訊かれましても。少なくとも、わたしの知ってるエアホッケーとは違う気がしますけど……エアホッケーって奥が深いんですね」

 歓声を送っている田沢さんの横で、盛大に顔を引き攣らせてしまうわたしたちでした。


○   ○   ○



『――といった感じに、皆さんと遊びました。
 とっても楽しかったです。
 また、浩之さんたちとゲームセンターに遊びに行きたいです』

「ふぅ」

 小さく息を吐き、わたしはペンを置きました。
 日記を閉じ、机の引き出しの中にしまうと、わたしは大きく「うーん」と伸びを一つ。
 これで今日すべき事は終わりです。

「では、寝ましょうか」

 電気を消すと、わたしは布団へと潜り込みました。
 ふかふかあたたかで気持ちいいです。

 それでは、おやすみなさい。
 明日もいい日でありますように。