『ちょっとbreak その2』



美汐:「やんやんやん♪」

名雪:「い、いきなりどうしたの? どこかで頭でも打った?」

美汐:「失礼なことを言わないで下さい。わたしは至って正常です」

名雪:「なら、どうして『やんやんやん♪』?」

美汐:「どうやらわたしは妄想キャラらしいですから、それ相応の行動を取ってみました」

名雪:「そ、そうなんだ」

香里:「アンソロジードラマCD Kanon水瀬さんち『秋子さんのあさごはん』
    同『秋子さんのばんごはん』。大好評発売中! みんな買ってね

名雪:「何故にいきなり宣伝?」

香里:「言葉どおりよ」

名雪:「わけわかんないよ」

美汐:「てなわけですので『やんやんやん♪』です」

名雪:「……ハァ。まあ、それはこの際どうでもいいとして」

香里:「流したわね。しかも思い切り呆れた様な態度で」

美汐:「そんな酷なことはないでしょう」

名雪:「……。そ、それはまあいいとして」

香里:「また流した」

美汐:「そんな酷なことは以下略」

名雪:「い・い・と・し・て!」

香里:「はいはい」

名雪:「なんでまた『ちょっとbreak』をやってるの? 一回限りじゃなかったの?」

美汐:「それは簡単です。前回が好評だったからですよ」

香里:「好評だったら続編を作るのは世の鉄則だからね」

名雪:「好評? そうなの?」

美汐:「はい。そうなんです」

名雪:「へぇ。もしかして結構反響あったのかな。ちょっとビックリ」

美汐:「なんと! 批判が一つも来ませんでした。これを好評と言わずに何と言いましょう」

名雪:「……そ、それって好評なの? ただ単に誰にも相手にされなかっただけだと思うけど」

美汐:「深く考えてはダメです」

名雪:「うーん。良いのかなぁ? そんなアバウトで」

香里:「良いのよ。
    所謂『内閣不信任案が否決』と『皆様から支持していただいている』をイコールで結んじゃう
    某国某首相理論ってやつだから」

名雪:「へ?」

美汐:「別名マシリト理論です」

香里:「早い話が物事を自分に都合よく解釈するだけなんだけどね」

名雪:「わー! わー! わー! そ、そういう危険なのはダメー! 政治ネタ禁止!」

香里:「……ハァ」

名雪:「な、なんで深いため息?」

香里:「ダメよ、名雪。もっと政治に関心を持たないと。そんな撥ね付ける様な態度は頂けないわよ」

名雪:「違う。一見正しい事を言ってるっぽいけど、それは何かが根本的に間違ってる」

美汐:「全くです。こんなことだから投票率が上がらないんですよね。ホント、嘆かわしいことです」

名雪:「そ、そんなことを言われても」

香里:「……ハァ」

名雪:「な、なんでまたまた深いため息?」

香里:「ダメよ、名雪」

名雪:「だ、ダメって言われても……。
    ううっ。わ、分かったよぉ。ちゃんと政治に関心を持つようにするから。
    投票出来る年齢になったらちゃんと票を入れに行くから」

香里:「そんなのどうでもいいの。あたしが嘆いているのは名雪のツッコミが甘々だからよ」

名雪:「つ、ツッコミ!? てか、政治や投票を『どうでもいい』扱い!?」

美汐:「その辺は所詮一過性の捨てネタですから。
    それに、誰が首相になろうが誰が知事になろうが結局は何も変わりませんし」

名雪:「うわ、ドライすぎ。加えて発言が危なすぎ」

香里:「いいのよ別に。それより問題は名雪のツッコミよ。
    ダメじゃない、もっとしっかり突っ込まないと。そんなのじゃメリハリが付かないでしょ。
    観客からブーイングの嵐よ」

名雪:「観客って誰!?」

美汐:「え? 水瀬さんには見えないのですか?
    ほら、そことか、あそことか。あと、あの辺にも」

名雪:「何が見えてるの!? 香里と天野さんには一体何が見えてるの!? あなたが知らない世界!?」

香里:「ま、仕方ないのかな。名雪は根っからのボケ役だし」

美汐:「ですね。水瀬さんにツッコミ役は荷が重過ぎるのかもしれません」

名雪:「綺麗にスルーされてる!?」

香里:「名雪は突っ込まれることに喜びを見出すタイプなのね、きっと」

名雪:「人を勝手にわけの分からないタイプに分類しないでよー」

香里:「でも当たってるんじゃない?」

名雪:「当たってないよー」

美汐:「ウソですよ。相沢さんに突っ込まれるの、お嫌いじゃないでしょ?
    特に、優しく突っ込まれたりなんかしたら、思わず『ふにゃ〜』ってなっちゃいますでしょ?」

名雪:「ならないよー。
    確かに嫌いって事はないけど……だからと言って特別好きってわけじゃないし……」

香里:「なるほど。つまり、もはや名雪は優しいツッコミでは満足できないってことね。
    やっぱり数をこなすと慣れてしまうものなのかしら」

名雪:「そ、そういうわけでは……てか、なんか話が妖しい方向に進んでる?」

香里:「ふむふむ。ということは、名雪は激しいのが好みってことか。
    獣の様に荒々しく突っ込まれるのが好きなのね。ちょっと意外」

美汐:「は、激しいのがお好き!?
    きゃーっ♪ 水瀬さん、おとなしそうな顔して実は大胆なんですねぇ」

名雪:「な、なんでそうなるの!? そんなの勝手に決め付けないでよー。
    もう! 香里も天野さんもエッチだおー!」

香里:「は? エッチ?」

美汐:「何故です?」

名雪:「な、何故って……」

香里:「あたしたちは『ボケとツッコミ』の話をしてたのよ」

美汐:「それがどうしてエッチになるのです?」

名雪:「……あ、あう」

香里:「んん〜? なーにを想像したのかなぁ?
    名雪は『何を』『何処に』荒々しく突っ込まれる様を思い浮かべちゃったのかなぁ?
    お姉さんに言ってみなさい」

美汐:「わたしも是非とも聞かせていただきたいです。たいへん興味があります」

名雪:「そ、そんなの言えないよぉ!」

香里:「ふーん。口に出せないようなすっごい事を考えちゃったわけだ。
    名雪って『エッチ』ねぇ」

名雪:「ち、違うもん」

美汐:「本当ですね。ビックリしてしまう程の『エッチ』さんです」

名雪:「違うもん違うもん違うもん。わたし、エッチじゃないもん。
    香里や天野さんが誤解を招くような言い方をするのが悪いんだもん!」

香里:「人の所為にするのは良くないわよ」

美汐:「同感です」

名雪:「で、でもぉ」

香里:「それに、もう手遅れよ。名雪がエッチだというのは既に宇宙の真理となったから」

名雪:「宇宙の真理!?」

美汐:「はい。水瀬さんがえっちっち〜なのはもはや全宇宙の定説です」

名雪:「い、いい加減なこと言わないでよ〜」

香里:「いい加減なんかじゃないわよ」

美汐:「なんでしたら訊いてみましょうか?」

名雪:「誰に?」

香里:「宇宙のブラザー」

名雪:「宇宙のブラザー!?」

美汐:「そうだ。どうせならご自分でお尋ねしてみてはどうですか? 今からお呼びしますから。
    えっと……べんとらべんとらすぺーすぴーぽー……」

名雪:「いい! いいから! 呼ばなくていいから!
    どうしてそんなのが呼び出せるのか激烈に気になるけど、でも呼ばなくていいから!
    てか、お願いだから呼ばないで!」

香里:「ハァ、やれやれ。
    異文化交流に対してすぐに怖気付くなんて、あなたって古い時代の日本人そのものね
    視野を広める良いチャンスなのに」

名雪:「怖気付くに決まってるでしょ! 異文化交流だって限度があるじゃない」

美汐:「怖がることなんてありませんよ。人類皆兄弟ですから」

名雪:「それは地球内限定だよー。いくらなんでも異星人なんてイヤだよー」

香里:「え!?」

名雪:「どうしたの、香里? わたし、そんなに驚くようなこと言った?」

香里:「な、名雪……あなた、レズだったの!?」

名雪:「……は? なんでそうなるの? 話が飛び過ぎて理解不能だよー。脈絡が無さ過ぎだおー」

香里:「だって、『異性人』はイヤだって言ったじゃない。と、すると……」

名雪:「わー! そのボケはいくらなんでも無理矢理すぎるよー!」

美汐:「なるほど。水瀬さんは同性しか愛せない人だったのですね」

名雪:「天野さんも納得しないで!」

香里:「ときどき名雪から妙に熱い視線を注がれてると思ってたんだけど……道理で」

名雪:「注いでないってばぁ」

美汐:「わたしも気を付けないといけませんね」

名雪:「心配しなくても大丈夫だよー!
    それより、お願いだから微妙な距離を取るのはやめて。何気に傷つくから」

香里:「でも、おかしいわね。同性愛者のくせに相沢くんと付き合ってるだなんて」

名雪:「はうっ。か、かおりぃ。そのネタまだ引っ張るの?」

香里:「うん。もうちょっと」

名雪:「う゛う゛」

美汐:「カモフラージュじゃないんですか?
    相沢さんと交際することでノーマルだと偽ることが出来ますから」

香里:「それだわ! 天野さん、冴えてるわね」

名雪:「ねぇ。まだぁ?」

香里:「あと少し」

名雪:「あう〜」

美汐:「つまり、偽装カップルということですか」

香里:「そうよ。これは許しがたい事実だわ」

美汐:「全くですね。これは相応の手段を講じるべきではないかと思います」

香里:「ええ、あたしも同感」

名雪:「ま〜だ〜?」

香里:「もうちょっとだけ」

名雪:「それ、さっきも言ったおー。香里ってばお蕎麦屋さんの出前みたいだおー」

香里:「失礼ねぇ」

名雪:「だって〜」

香里:「そ、そんな恨みがましい声出さないでよ。
    分かったわ。あんまり伸ばすのも可哀想だから、結論だけをサクッと言うわね」

名雪:「お願い」

香里:「では……コホン。
    レズっ娘の名雪に相沢くんは相応しくないわ。だから、あたしに頂戴♪」

美汐:「みっしぃ♪でも可です。むしろ推奨」

名雪:「……散々引っ張って期待を煽った割には普通すぎる要求でガッカリ。それも物凄く」

香里:「……」

美汐:「……」

名雪:「……」

香里:「もちろん、ただで頂戴だなんて図々しいことは言わないわ!」

美汐:「ええ、言いませんとも!」

名雪:「わっ! 都合の悪いことは見事なまでにシカトするし!」

香里:「栞と交換しましょ。これなら文句ないでしょ?」

美汐:「真琴がお望みならそれでも構いませんよ」

名雪:「い、妹と親友をそんな簡単に売っていいの!? 二人とも、極悪人だよー」

香里:「いいのよ」

名雪:「なんで!?」

香里:「栞があたしと同じ立場だったら絶対に言うから。
    『代わりにお姉ちゃんを差し出しますから祐一さんを下さい』って」

美汐:「真琴がわたしと同じ……以下同文」

名雪:「し、姉妹って……親友って……」

香里:「ま、そんなものよ」

美汐:「やっぱり友情よりは愛情が優先ですし」

名雪:「ううっ。人間の汚れた部分を見せ付けられた感じがするおー」

香里:「というわけで交渉成立ね」

名雪:「なにが『というわけ』なの!?」

美汐:「そんな細かいことは気にしちゃダメです」

名雪:「細かくないよー。ぜんっぜん細かくないよー」

美汐:「うふふ。なんにしても、これで相沢さん……否、祐一さんはわたしの物になるのですね」

名雪:「ならないってば」

美汐:「うふふ、うふふふふ」

名雪:「……あ、あのー。天野、さん? わたしの言ってること聞いてる?」

香里:「あらら。入っちゃったみたいね。この状態の天野さんには何を言っても無駄よ」

名雪:「入ったって……何に?」

香里:「妄想,白昼夢,脳内生活,K・Hフィールド。どれでも好きなの選んでいいわよ」

名雪:「みんな同じじゃない。最後のがいまいち意味不明だけど」

美汐:「『大好きだよ、みっしぃ♪』
    『わたしも祐一さんのこと好きです
    『そっか。
     だけど、みっしぃ♪が俺のことを想っている以上に俺はみっしぃ♪の事を想っているぞ』
    『そんなことありません。わたしの想いの方が大きいです』」

香里:「それにしても……何と言うか、絶好調?」

名雪:「……うん、そうだね。圧倒されちゃうよ」

美汐:「『俺の方だってば』
    『いいえ、わたしの方です』
    『俺だって』
    『わたしです』」

香里:「よくもまあ、ここまで自分だけの世界に入り込めるわね。感心するわ」

名雪:「若さゆえ、ってやつなのかな」

美汐:「『むぅ。そこまで言うなら証拠を見せてやろうじゃないか』
    『え? 証拠ですか?
     ……って、な、なにを!? ひゃんっ!』
    『ん? 証拠だけど?』
    『こ、こんな……ところで……ああ、ダメです』」

香里:「なんだかなぁって感じね。でも、素直に凄いとは思うけど」

名雪:「……同感」

香里:「『ん』が付いた。名雪の負け」

名雪:「何故に!? て言うか、いつのまにシリトリに!?」

美汐:「『みっしぃ♪に俺の想いの強さを分かってもらわなければいけないからな。本気で行くぞ』
    『ああん! ゆ、祐一さーん
    なーんて展開になっちゃったりして。
    きゃーきゃーきゃー! やんやんやん♪」

香里:「そして、全てを有耶無耶にして一行目に戻る」

名雪:「ループオチ!?」

香里:「ちっとも落ちてないけどさ」

名雪:「……最悪だね。ダメダメじゃん」

香里:「『ん』が付いた。また名雪の負け」

名雪:「……!?」







< 強引におわる……でも気が向いたら続くかも(汗) >



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