通り道


「久しぶりだね、みんなに会うの」
「そうだな。でも久しぶりって言っても年に2,3回は必ず会ってるんだけどな」
「年に2,3回しか・・・でしょ」
「そうとも言えるな」
「あのね〜〜〜。でもみんな忙しくなっちゃったよね」
「みんな社会人になっちまったしな。それだけ時間が流れてしまったってことかな?」
「時間か。そうだね。初めてみんなと会った時からもう5年も経ってるんだもんね」

 5年・・・か。
 俺達がはじめて「こみパ」に参加した時から、もう5年の月日が流れていた。
 そして、彼女と・・・瑞希と正式に付き合い始めてから4年が経っていた。

「しっかし、大志の奴も相変わらずだよな。いきなりの呼び出しだぜ。・・・ったく、こっちの都合も考えろっていうんだ」
「確かに変わってないよね、あいつは」

 そう、今日は大志に呼び出されたのだ。
 午後6時までに「こみパ」会場の近くにあるホテル(由宇がよく泊まってたっけ)へ来いと。

 今は、そこへ向かっている途中という訳だ。

「大志、いったい何をする気だ?」
「さあ? でも、みんなも来るって言ってたからパーティーか何かだと思うけど」
「パーティーねぇ。あのメンツじゃどっちかって言うと宴会って感じだけどな」
「かもね」

 そう言ってクスクス笑う瑞希。
 きっと今、頭の中にはいろいろな奴の顔が浮かんでいるに違いない。

「そう言えば、由宇の奴、正式に旅館を継いだんだって?」
「うん、そうみたいね。この間電話で話した時にそんな事を言ってたよ」
「そのくせ、まだ同人は続けてるんだよな。大丈夫なのか?」
「仕事と趣味は別だって」
「なるほど。由宇らしい」
「それにね。婿探しも兼ねてるんだって」
「む、婿!? 「こみパ」会場でか?」
「うん。和樹みたいな男を探すんだってさ」
「へぇ〜〜〜。そ、そうなんだ」
「・・・満更でもないみたいね」

 あ、ちょっと睨んでる。

「ば、ばか。そんなことねぇよ」
「そう?」
「当たり前だろうが」
「ふ〜〜〜ん」
「あっ、そうだ。そ、そういえば詠美の奴、また巻頭カラーだったな。俺も負けてられないなぁ」
「無理矢理に話をそらしたわね」
「い、いや。そんなことは・・・」
「(くすっ)ま、いいけど。・・・でも本当に凄いよね詠美ちゃん。今や大人気作家だし」
「しっかし、何も俺と同じ雑誌に描かなくてもいいのにな」
「なに言ってるんだか。身近にライバルが居るって良いことじゃない。人気も実力も拮抗してるしね。張り合いがあるじゃない」

 気楽に言いやがって。むちゃくちゃプレッシャーなんだぜ。
 なにせ毎月の人気アンケートで負けた方は相手に寿司を奢らなきゃいけないんだぞ!!!
 そんなアホな賭に乗ってしまう自分も悪いんだけど。ちなみに戦績は今のところまったくの五分だったりする。

「ありすぎだって。その点、彩ちゃんは比較される事が無いから楽だな」
「そりゃそうよ。彩ちゃんは絵本作家だもん」

 そうなのだ。彩ちゃんは夢を叶えて絵本作家になったのだった。

「この間、雑誌に紹介記事が載ってたわ。今一番の注目株だって」
「うっ。実はなにげにこっちでもプレッシャーが」
「ふふふっ。頑張ってね和樹」
「さりげなく追い打ちを掛けるなって!」

 でも、本当にみんな頑張ってるよな。俺も気合い入れていかないとな。

「あっ、そうそう。そう言えば玲子さん、今度声優をやるみたいよ」
「・・・・・・・・・は?」

 せ〜〜〜ゆ〜〜〜?

「だ〜か〜ら、声優をやるの。確かあさひちゃんと共演だよ」
「まじ?」
「まじ」
「どっひゃ〜〜〜〜〜〜!!!」

 本気で驚いた。
 確かに最近の玲子ちゃんはテレビにでたり雑誌に載ったりと、ちょっとしたアイドルだったけど・・・。
 しかも、あさひちゃんと共演とは。

「歌って踊れるコスプレ声優を目指すんだって」
「なんじゃそりゃ!?」

 な、なんか凄いな。

 凄いと言えば、あさひちゃんもそうだな。
 あさひちゃんは今や押しも押されぬトップアイドルになっていた。
 それも以前のように作られた「桜井あさひ」でじゃない。
 極度のあがり症で不器用な「本当のあさひちゃん」でだ。
 よって、未だにフリートークなどはボロボロだが、そういったところが保護欲を誘うのか
 そして、そんな完璧で無いところが共感を呼んだのか、人気は衰えるどころか逆に急上昇したらしい。
 事務所はこのイメージチェンジ(?)を認めなかったらしいが、あさひちゃん本人が強引に押し切ったらしい。
 この事を大志から聞いた時は本当にビックリした。
 あさひちゃんって、凄く芯の強い子なんだなって再認識させられてしまった。

 しっかし、その2人が共演とは。

「毎回ビデオに取っておかないとね」
「当然。なんだったらDVDで全話分買っても良いかな」
「こうして出費が増えていく訳ね」
「いや、まったく」

 思わず、顔を見合わせて溜め息をついてしまった。

「そうそう。出費で思い出したけど、千紗ちゃんの家、うまくいってるみたいだな」
「イヤな思い出し方ねぇ。でも、うん、そうみたいよ」

 千紗ちゃんの実家である印刷屋は一時倒産の危機に陥っていた。
 しかし、「こみパ」参加者達の協力もあって、今は完全に持ち直していた。
 それどころか、「こみパ」間近になると休む間も無い程の繁盛ぶりらしい。
「こみパ」は月1開催だから、つまりは年がら年中忙しいということになる。

「大変ですぅ、って言ってたな。まあ、量が尋常じゃないみたいだし」
「でも嬉しい悲鳴ってやつなんじゃないの?」
「そりゃそうだ。潰れるよりは忙しい方が良いに決まってるさ」
「そうね。また暇な時にでも手伝いに行こうか?」
「そうだな。・・・でも手伝いに行かなきゃいけないとこはもう一カ所あるけどな」
「南さんの所ね」
「あぁ」

 南さんは4年前の「春こみ」を最後に実家へ帰ってしまった。
 でも、自分で即売会を開きたいという夢は捨てていなかった。
 そして、去年その夢を実現させたのだ。
 その即売会には俺や詠美、由宇に彩ちゃんといった面々がサークルとして、瑞希・玲子ちゃん・大志にあさひちゃんまでもがボランティアとして参加した。
 そして、その即売会は「初めてにしては」なんて言葉がいらないくらいの大成功を納めた。
 南さん、凄く感激してたなぁ。

「次のも行くんでしょ?」
「もちろん、そのつもりだよ」
「じゃあ、その前に仕事は全部終わらせないとね。イヤよ、不安を抱えながらのボランティアなんて」
「ウグッ。が、頑張ります」

 その後も俺達はいろいろな人を話題にして盛り上がっていた。

 編集長は相変わらずキツイという事。
 その厳しさが愛情なんだという事。

 鈴鹿さんが、勤めている会社の御曹司と結婚して幸せに暮らしているという事。
 だけど、今でもドライバーを続けているという事。

 そして・・・

「そういえば、今日は郁美ちゃんも来るのかな?」
「来ると思うよ。暴飲暴食しなければ大丈夫だと思うし」
「あの兄貴がそんな事させないって」
「それもそっか」

 郁美ちゃん。
 心臓が弱く、4年前に渡米して手術をした女の子。

 手術の日は普段は信じてもいない神様に必死になって願ってしまった。
 たぶん俺だけじゃない。瑞希も由宇も詠美もみんなも。
 そのかいがあったのか、かなり成功の確率が低い手術だったが、無事に成功した。
 いまでは、激しい運動はできないものの普通に生活を送っている。
 この間も俺のサイン会に大きな花束を持ってきてくれたっけ。
 ・・・もちろん兄貴もいっしょだったけど。

「でも、本当に良かったよね。元気になって」
「そうだな」

 すぐには無理だけど、今に思いっきり走り回れる日が来る。
 俺はそう信じている。



  

      ○   ○   ○



 そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。
 時間は・・・5時57分。
 ギリギリセーフだな。

 さってと、大志はどこに・・・

「ようこそ、マイフレンド」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」

 ど、どこから現れやがった。

「しかし、時間ギリギリにやって来るとは。なかなか見事な演出だ、同志よ。不覚にも、間に合わんかと心配をしてしまったぞ。裏をかかれるとは我が輩もまだまだ未熟のようだな」
「い、いや。あのな、大志。別に演出とかそういうんじゃ・・・」
「分かっている。分かっているぞ、同志和樹!何も言う必要は無い」

 ・・・・・・・・・絶対に分かってないって。
 瑞希の奴、そんな俺達のやり取りを見て笑ってやがる。
 完全に人ごとだな。
 ま、実際そうなんだけど。

 大志の奴は大学を卒業した後、例のアニメショップの正社員となった。
 その傍ら、オタク評論家としてあらゆるメディアに進出していた。
 実に大志らしいと思う。


「そういや、大志。今日はいったい何があるんだ?」
「な〜に。すぐに分かるさ。ついて来たまえ」

 そう言うと、大志は俺達を連れて歩き出した。
 そして、大きな扉の前で止まった。
 ここって、結婚式とかでよく使われるホールだよな。
 そんな事を考えていたら・・・

「さぁ! 開けたまえ、ご両人!!!」

 俺と瑞希は顔を見合わせて、うなずきあった。
 そして、ノブに手を掛けて

 開けた。




 パーン!!!パーン!!!


 盛大にクラッカーが打ち鳴らされる。

 同時にみんなの声が響いた。



「「「婚約おめでとう!!!」」」








 パーティーの始まりだ。








Hiro



戻る