『ザ・ジャパニーズ』



 藤田ルーミィ。愛称ルゥ。
 日本人の父と日米ハーフの母を持つクォーターである。
 だが、彼女にアメリカ人の血が流れていることを疑わしく感じる者は多い。
 何故なら、ルゥは生粋の日本人以上に日本人らしい存在であるから。

 例えば、

「うーん、美味しい〜♪ アサはやっぱりゴハンだよネ。一日のスタートはおコメじゃないと。パンじゃ力が出ないヨ」

 食事に関して言うと、ルゥは完璧に和食党である。
 特に、朝はその傾向が顕著になる。
 パンは絶対に食べたがらないのだ。その為、藤田家の朝食は“ご飯と味噌汁”がお決まりとなっていた。

「白いゴハンとトーフの味噌汁。そしてナットウと漬け物。焼き鮭。ニホンのアサはこうじゃないと」

 これはルゥの朝の決めセリフ。この一言からルゥの一日が始まると言っても過言ではない。
 ついでに、

「腐った豆なんてどこがええのやら。わたしには全然理解できんわ。お母さんもそうやろ?」

「まったくや。納豆なんて人類の敵やのに」

 某母娘のこの会話も朝のお約束だったりする。余談であるが。


 学校生活に於いても同様で、ルゥは生粋の日本人以上に日本人らしい一面を見せる。
 その最たる物がクラブ活動であろう。
 彼女は母と同じく弓道部に属していた。ルゥの通う学校にはアーチェリー部も存在するのだが、彼女は迷うことなく弓道部を選んだ。
 腕前はお世辞にも誉められたものではなかったが、毎日楽しそうに練習している。

「ルゥはさ、なんで弓道部に入ったの? ルゥだったらアーチェリーの方がイメージが合うのに」

 何時か、ルゥは友人からこんな質問を受けたことがある。
 それに対する解答はこうだった。

「ウィリアム・テルとかロビンフッドよりも那須与一の方が好きだからヨ」

 実に簡単明瞭。
 返答を聞いて、質問してきた友人が「あはは。ルゥらしいねぇ」と納得しつつも爆笑したのは言うまでもない。
 その友人の様子に「アレ? アタシ、なんか面白いこと言った?」と不思議に思いつつも、ルゥは更に続けた。

「那須与一みたいになるのが目標ネ。アタシも何時の日か、75メートル先にある扇を射落とせるくらいになってみたいヨ。その為にもレンシュウあるのみネ」

 話しながらだんだんと興奮してきたのか、ルゥの言葉に熱が籠もり始める。

「アシタの為にその1。撃つべし撃つべし。ヤワラの道は一日にして成らず。目標をセンターに入れてスイッチ、ヨ」

「え、えっと……なんか、全然弓道とは関係ないっぽいんだけど。と、とにかく頑張ってね。あ、あはは」

 燃え上がるルゥとは対照的に、思いっ切り退きまくりの友人。顔が見事なまでに引き攣っている。

「ウン! 頑張るヨ!」

 無論、そんなことに気付くルゥではなかったが。

 なにはともあれ、弓道云々はもちろんだが、コミックの知識量に関しても生粋の日本人以上の物を持っているルゥであった。


 生粋の日本人以上に日本人らしい一面をもう一つ。

「アハハ。まいったネ、こりゃ」

 頭を掻きながら豪快に笑うルゥ。
 彼女の手には『28点』と書かれた小テストの答案が。しかも、英語。

「笑い事じゃないんじゃないかな、これは」

……同感、です

 悲惨な点数を感じさせない笑い声を上げるルゥに、理子と恵理香がツッコミを入れた。

「あらら〜。これはまた随分と豪快な点を取ったわねぇ」

「やれやれ、ですね」

 答案を覗き込んで、沙夜香が苦笑を、琴美が深いため息を零す。

「ルゥ、小テスト用に勉強してたよね?」

「そのはずだよ。始まる前も教科書とか読んでいたし」

 小首を傾げながら疑問の声を上げるゆかりと、記憶を辿りながら応える藍。

「で、この点数かい。ルゥ、ホンマに英語がダメなんやなぁ」

 それを聞いて、智代は呆れたように肩を竦めた。

「アハハ。一応努力はしたんだけどネ。ま、今回はウォーターバルーンだったけど」

 ついつい顔を顰める周囲の面々とは対照的に、明るい口調でルゥが宣う。

『ウォーターバルーン?』

 ルゥが口にした単語を反復する一同。声が綺麗にハモッた。
 全員の頭に「ウォーターバルーンって何? 水風船?」といった疑問が浮かぶ。

「そう。ウォーターバルーン。つまり、水泡に帰すってやつヨ、アハハ」

 謎解きをするような口調のルゥ。その声はどこまでも楽しげだ。

「す、水泡って……」

「それ、違う。ぜんっぜん違う」

 開いた口が塞がらないといった表情になる藍と理子。

正しくは『It comes to nothing.』ですね

「そもそも、泡はバブル。バルーンは風船でしょうが」

 ガックリと肩を落としながら恵理香と沙夜香が訂正する。

「アア、そうとも言うネ」

 ポンと手を打ち鳴らしてルゥが平然と言ってのける。

『そうとしか言わない!』

 全員によるユニゾン再び。ただし、音量は先ほどよりも三割ほど増し。

「アハハ。そうだっけ? ま、気にしない気にしない」

 総ツッコミを受けても、ルゥはあくまでも脳天気な姿勢を崩さない。

「英語なんか出来なくても困らないし。アタシ、ニホンから出る気なんてないしネ」

 満面の笑顔で宣ってくれるルゥ。
 本当に、生粋の日本人以上にどこまでもどこまでも日本人らしかった。
 余計なところまで。



 藤田ルーミィ。愛称ルゥ。
 日本人の父と日米ハーフの母を持つクォーターである。
 だが、彼女にアメリカ人の血が流れていることを疑わしく感じる者は多い。

「いーの。だって、アタシはニホンジンだもーん」

 さもありなん。





< おわり >




 ☆ あとがき ☆

 ま、ルーミィはこんな娘ってことで一つ(^ ^;

 あと、ルーミィは長いですので、ルゥと呼んでやって下さい。
 ルゥですよ。間違ってもルーじゃないですよ。
 ルーじゃ、濃い〜某タレントになってしまいますから( ̄▽ ̄;


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