『ほわくり』
12月26日の午後、街中で偶然にバッタリと出会ったセリオと圭子。
お互いに暇していた為、近くの喫茶店でお喋りをする事に。
「なるほど。佐藤さんとは相変わらず上手くいっているみたいですね」
セリオも圭子も彼氏持ち。しかも、恋の相談をしたりされたりする仲。
会話の内容がクリスマスの成果に関してのモノとなるのは至極自然な事であった。
「うん。……えへへ♪」
頬を染めてはにかむ圭子。
その姿に、セリオも我が事の様に嬉しさを覚えた。
圭子と雅史は未だに『手を繋ぐだけ、ホッペへのキス』だけで満足してしまう超純情カップルであり、そこにセリオは若干の物足りなさやもどかしさを感じないワケでもなかったが、それでも心底幸せそうな親友の笑顔を目にして「でもまあ、これはこれでアリですよね。微笑ましくて可愛らしいですし」と心の中でうんうんと納得気に首肯するのであった。
「ところで、セリオの方はどうだったの? クリスマス、藤田さんたちと一緒に過ごしたんでしょ?」
「ええ、もちろんです。皆さんと共にホワイトクリスマスを堪能しました」
興味津々といった顔で訊いてくる圭子に、セリオは口元に柔らかい笑みを浮かべて返す。
「ふーん、やっぱりねぇ。……って、ホワイトクリスマス?」
「はい、ホワイトクリスマスです」
「……雪なんか降ったっけ?」
「局地的に」
セリオからの答えを聞いて、一瞬「へぇ、そうなんだぁ」と納得しかけた圭子だったが、すぐさまハッと我に返った。
(そんなことあるワケないじゃない。24日も25日もずっと良い天気だったもの。昼間は雲ひとつ無く、夜になれば星が見える程に。佐藤さんと一緒に「綺麗な星空ですねぇ」とか言いながら夜空を眺めたりしたから間違いない。そんな天気の日に、局地的だろうが何だろうが雪なんか降ろうはずがないでしょうが。――だったら、何故にホワイトクリスマス? 雪以外の何か白い物でも降ってきたのかしら? まさかねぇ。怪奇現象じゃあるまいし、雪以外の白い物なんて……)
そこまで考えて、圭子は不意に唐突に突然にとある事に思い至った。
(ちょ、ちょっと待って。ひょっとしてひょっとすると……アレ? 雪じゃない『白いモノ』っていうのは……アレだったりしちゃう? 男の人が……そ、その……エッチな……ごにょごにょ……すると出ちゃうアレ? クリスマス。恋人たちの聖夜。しかも、ソッチ方面でいろいろと『有名』な藤田さん……)
ありえる。ありえすぎる。
圭子は己の思い付きに異様なまでの説得力を感じていた。
「そ、そっかぁ。なるほどねぇ。……え、えっと……あの……き、きもちよか……じゃなくて、楽しかった?」
アハハ、と些か乾いた笑いを零して圭子が尋ねる。
「ええ、とっても。すごく盛り上がりましたし。皆さん、ご近所迷惑になってしまうのではないかと心配してしまう程に大声出しちゃってましたね」
「そ、そうなんだ。そんなに声を出しちゃうくらいに……」
「はい。……思い返しますと少し恥ずかしいですね」
ほんのりと頬を染めてセリオがはにかむ。
「ふ、ふーん」
思い返すと恥ずかしくなってしまう。それほどまでに乱れたセリオやあかり、芹香たち。
その姿を想像して、圭子もまた顔を赤らめた。ドキドキと胸が高鳴る。
「や、やっぱりクリスマスだから羽目が外れちゃったのかな?」
「そうかもしれませんね。……いえ、きっとそうなのでしょう。それなら、浩之さんが勢いあまってしまったのも納得出来ますし」
どことなく疲れた表情で、ため息混じりにセリオがポソッと零した。
「勢いあまった? 藤田さん、何かしたの?」
「一言で言えば『出しすぎ』たのです。あれは正に大放出って感じでした」
「だ、大放出!?」
「はい。おかげであらゆる場所がベチョベチョになってしまいました。後始末に困るくらいに。ホント、浩之さんにも困ったものです」
言いながら、ふぅと吐息を漏らすセリオ。
その様が妙に艶かしくて――加えて、ついつい『現場』を脳裏に思い描いてしまい――圭子は全身を朱に色付かせてしまう。
挙句、
「べ、ベチョベチョ。大放出でベチョベチョ。……藤田さんが出しすぎてセリオが声を出しまくりでご近所迷惑であらゆる場所がベチョベチョで……あ、あうあう。せ、セリオたちってすごい」
ちょっぴり暴走気味に。
「? 田沢さん? どうかなさったのですか?」
目の前でいきなりトリップを始めた圭子にセリオは困惑顔。
「……どうしてしまったのでしょう? わたし、何か変な事を言いましたっけ?」
頬に手を添えて自問するセリオ。小首を傾げつつ、己の発言を思い返してみた。
『はい、ホワイトクリスマスです』
『(来栖川製人口降雪機で)局地的に』
『ええ、とっても。すごく盛り上がりましたし。皆さん、ご近所迷惑になってしまうのではないかと心配してしまう程に(はしゃいで)大声出しちゃってましたね』
『はい。……思い返しますと(子供みたいで)少し恥ずかしいですね』
『そうかもしれませんね。……いえ、きっとそうなのでしょう。それなら、浩之さんが勢いあまってしまったのも納得出来ますし』
『一言で言えば(人工降雪機で雪を)『出しすぎ』たのです。あれは正に(雪を)大放出って感じでした』
『はい。おかげで(庭の)あらゆる場所が(雪で)ベチョベチョになってしまいました。後始末に困るくらいに。ホント、浩之さんにも困ったものです』
「むぅ。別におかしな箇所はありませんよねぇ。なのに、どうして田沢さんは……」
「どきどきどきどき」
「変ですねぇ。謎、です」
顔を真っ赤にして固まる圭子と不思議顔で考え込むセリオという異様な組み合わせ。
暫しの間、喫茶店に於いて、なんとも表現し難い面妖な雰囲気を醸し出してしまう二人であった。
教訓、会話をする際は肝心な箇所を省略するのはやめましょう。
藤田家の面々の様な『誤解』を受けやすい人は特に。
< おわり >
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