ユサユサ
「浩之ちゃんってば」
ユサユサユサ
「起きて。浩之ちゃ〜〜〜ん」
ユサユサユサユサ
「さっさと、起きんかい!!」
スパ〜〜〜ン!!
「ぐはっ!! いつもながらナイスなハリセンだぜ委員長。―――って、あれ? ここは?」
スパ〜〜〜ン!!
「ぶぐはっ!!」
「寝ぼけとるんやない!! ここは教室に決まっとるやないか!!」
「・・・きょうしつ」
そういえば6時限目の授業の時、つい我慢しきれずに寝ちまったんだっけ。
それも、どうやら爆睡しちまったみたいだ。いや〜、あんまりにも授業がつまらなかったもんだから。ははは・・・
スパ〜〜〜ン!!
「ほげぶっ!!」
「『ははは・・・』や、な〜〜〜い!!」
「だから、いい加減に俺の心を読むのはやめろって・・・」
「そんな事はどーでもええ!! あんたのせいで・・・あんたのせいで〜〜〜〜〜〜!!」
「ほ、保科さん。落ち着いて、冷静に冷静に」
今まで傍観していた(呆気に取られて立ち尽くしていた)あかりが委員長をなだめる。た、助かった〜。さすがあかり、ナイスフォローだ!!
「でも、保科さんの気持ちも分かるけどね・・・」
そう言うと、あかりはジトーーーーっと俺の方に視線を向けた。
「な、なんだよあかりまで。なんかあったのか?」
「聞きたいんか?」
「・・・へっ?」
「聞きたいんやろ」
「いや、なんか急に聞きたくなくなってきたんだけど・・・」
「遠慮せんでもええって」
い、委員長・・・。ハリセンを持つ手に力が入ってるんですけど。それに、顔がにこやかなのが余計に怖い・・・。
「保科さん、ほどほどにね」
「ちょっと待て! お前、見捨てる気か!?」
あっ、あかりの奴、そっぽを向きやがった。しかも、ご丁寧に耳まで塞ぎやがって・・・
くそっ、この際誰でも良い!! 味方はいないのか!?
クラス中を見渡してみると・・・・・・・・・ダメだ、みんなして楽しそうに見学してやがる。特に矢島を筆頭に男連中は嬉々としてるし。
そうだ、雅史! 雅史なら・・・・・・って、あれ? 雅史は?
「雅史ちゃんなら部活に行ったよ」
俺の考えを察したらしくあかりが教えてくれた。
「・・・・・・マジ?」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、そうそう、雅史ちゃんから伝言があったんだっけ」
「伝言?」
「えっとね。『もし生きてたら明日会おうね』・・・だって」
・・・・・・・・・友情っていったい(泣)。この世には神も仏もいないのか?
「さ〜〜〜て、もう覚悟を決めや」
「いや・・・その・・・だから・・・」
「たっっっっっっぷり教えたるさかいな!! ほな、いくで!!」
「待て!! 待てって!! おい!! ちょっ・・・・・・・・・」
そして、俺は星になった。
「―――ったく、えらい目に会ったぜ」
委員長との帰り道。つい、そんな言葉が口をついた。
「なに他人事みたいに。全部藤田くんのせいやんか」
「まあ、そうなんだけどさ・・・」
先程の委員長の怒り。どうやらその原因は、俺と、担任の放った『おやじギャグ』にあるらしい。
今日の6時限目は担任の受け持ちだった。したがって授業終了と同時にHRとなった訳だが、その時間になっても俺は爆睡していた。そうして、それを見た担任がとんでもない事を言いやがったんだ。
『なんだなんだ、藤田はまだ寝てるのか。おい、神岸、保科。お前たち、あんまり藤田を疲れさせるなよ。夜はちゃんと寝かせてやらないとダメだぞ』・・・と。
―――ったく、とんでもねー事を言いやがって。
その後の教室の様子は想像に難くない。『大冷やかし大会』と化していたのは明らかだ。
きっと、あかりと委員長の2人は真っ赤になっていただろう。
もっとも、あかりは純粋に恥ずかしくてだろうけど、委員長の場合は恥ずかしさ半分怒り半分と云ったところだろうな。
そこで鬱積された物が、先程、俺に向かって解き放たれた訳だ。いい迷惑だと言えなくもないが、原因が俺にあるだけに何も言えなかった。
「まあ、ああいった事はすぐ忘れるに限る」
「忘れられればええけどな」
冷たい視線を向けてくる委員長。
「だ、大丈夫だって。そういえばさ、委員長といっしょに帰るのって 結構久しぶりだよな」
「・・・・・・・・・これはまた、ずいぶんあからさまに話を逸らしたもんやなぁ」
「そ、逸らしてなんかねーって。俺はただ・・・」
「はいはい。・・・でも、そやな。藤田くんといっしょに帰るなんて何日振りやろ? 2週間振りくらいやったっけ?」
「ああ、確かそんなもんだったな」
そうなのだ。いつも行動を共にしていると思われている『藤田家』だが、下校時だけは別だった。
現に今日だって、あかりは『お料理クラブ』、先輩は『オカルト研』で琴音ちゃんはそこの手伝い。葵ちゃんと綾香は近くの道場に出稽古。―――と、いった具合にみんなそれぞれにスケジュールが詰まっていた。
したがって、帰るのはみんな結構バラバラだった。
「そういえば、うちの人間ってクラブ参加者が多かったんやな」
「まあな。ところで、委員長はなんかやらねーのか」
「アホ。今から入ってどないするん。もう2年なんやで」
ははは。俺も同じような事を雅史の奴に言ってたっけ。
「でも、俺がクラブに入ったのも2年になってからだぜ。もっとも、『格闘技同好会』は1年の時には無かったけどさ」
「・・・そやけど」
「なんだったら、うちのクラブに入らないか?」
「ええっ!? わたし、格闘技なんかできへんって!!」
「そんな事は無いぞ!! 委員長だったらプロレスラーだろうがエクストリームの選手だろうがクマだろうが一発でKOでき・・・」
スパ〜〜〜ン!!
「どういう意味や!!」
・・・・・・こ、こういう意味なんだけど。
「わ、分かった。前言撤回。・・・よし、じゃあ委員長はテニス部がいいな」
「テニス?」
「そう、そのスイングスピードがあれば、世界ランカーでも・・・」
スパ〜〜〜ン!!
「結局それかい!!」
・・・・・・この振りだったらサンプラスも真っ青のサーブが打てると思うのだが。
「そ、それだったら野球でも・・・」
スパンスパン!! パンパンパンパパパ〜〜〜ン!!
8HITCOMBO!! KO!!
「まったく、いい加減に・・・あれ? 藤田くん? ちょっと?」
ペシペシ
「藤田くんってば! 藤田くん! 藤田くん!!」
・・・・・・・・・・・・青空。
真っ先に飛び込んできた風景がそれだった。
ここは・・・・・・公園?
どうやらベンチで寝ていたらしいが・・・なんでこんな所にいるんだ??
―――そんな事を考えていると・・・
「良かった。気が付いたみたいやね」
あれ? 委員長?
「ハンカチ濡らしてきたんやけど・・・必要無かったかな?」
ハンカチ? 必要って何に?
―――って、ああっ!!
「そうか。俺、委員長にKOされて」
そのまま失神しちまったのか。な、情けね〜〜〜。
「気分はどないや? まだ痛むか?」
「いや、大丈夫。そんな事より、どうやって俺をここまで運んできたんだ? まさか委員長がひとりで??」
「まさかってなんやの。わたし以外に誰がおるねん」
「そうなんだけどさ。でも、よく運べたよな。重くなかったのか?」
「それが・・・全然覚えてないんや。とにかく必死やったから・・・」
「そっか。サンキューな」
「べ、別に礼を言われる事やないって。そもそも、わたしのせいなんやし」
「俺のせいでもあるけどな」
「じゃ、両方が悪いって事で」
「だな」
俺たちは顔を見合わせて笑い合った。
その後、俺たちはいろいろな話で盛り上がった。くだらない内容ばかりだったけど、ボケたりツッコミを入れたりしながら延々と話し続けていた。
そんなこんなしているうちにすっかり日が傾き、公園が真っ赤に染まっていった。
「なあ、委員長?」
「なんや?」
「あのさ、ひとつだけいいかな?」
「な、なんやの、急に真面目な顔して。もしかして愛の告白でもしてくれるんか?」
「してやろうか?」
「いらん」
「即答かい!!」
―――ったく。第一、今更『愛の告白』なんかする訳ないだろうが。『愛の囁き』だったらするかもしれないけど・・・。
「ごめんごめん。それで、なに?」
「ああ。その・・・な。ひとつ聞きたい事があってな」
「聞きたい事?」
「いや、大した事じゃないんだけど・・・。委員長、なんであかりの誘いに応じたのかなって」
「神岸さんの誘い? もしかして『いっしょに暮らそう』ってやつ??」
「そう。なんて言うか、委員長がそれに応じたのって、ちょっと意外な気がしてさ」
「そうかな? そんなに意外かな?」
「少し・・・な」
「そっか。ま、そうかもな」
「それで? どうして応じたんだ?」
「ずいぶん野暮な事を聞くんやなぁ。藤田くんの事が・・・その・・・す・・・好きやからに決まってるやないか」
うっ、そういうストレートな答が帰ってくるとは思わなかった。て、照れくさい。
「ア、アホ! 自分で聞いといて赤くなるんやないって!!」
「いや、その、ははは・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・憧れていたっていうのもあるかもな」
暫しの沈黙の後、委員長がポツリと呟いた。
「憧れていた? 何に?」
「気心の知れた連中との共同生活・・・かな。毎日賑やかに楽しく過ごせそうやん。実際そうなっとるしな」
「だから、あかりからの誘いを受けた・・・ってか」
「まあな」
「そうか」
「でも、やっぱり一番の理由は藤田くんの事が好きだから、やな」
「・・・委員長」
「嫁に行くんなら無茶苦茶惚れとる男のとこに行きたい。女の子やったら誰しもが思う事やないかな」
早口でまくし立てる委員長。その顔が真っ赤に染まっているのは夕日のせい・・・だけではないだろう。
「な、なんや、恥ずかしい事を言ってもうたな」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、あのな。さっきのはいわゆる一般論というやつで・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「な、なんか喋りぃや。わ、わたしひとりでアホみたいやんか」
「・・・・・・・・・綺麗だな」
ボッ!! そんな音が聞こえるかの勢いで委員長の顔がさらに真っ赤になった。
「な、な、な、なんやそれ! ど、ど、どうせ『夕焼けが』とかオチを付けるつもりなんやろ? その手には・・・」
「確かに夕焼けも綺麗だな。けどよ、委員長はそれ以上に綺麗だぜ」
「まったく、この男は。よくもまあ、そんな恥ずかしいセリフを言えるもんや」
「お互い様、だろ?」
「・・・・・・そやな」
俺は委員長の肩を強く抱き寄せた。
「藤田くん」
「委員長」
「もうっ。こんな時は『委員長』はやめて欲しいわ。『智子』って呼んでや」
少し潤んだ目で懇願してきた。
智子の甘えた表情。俺しか知らない、そして、他の男共には決して知られたくない表情。
その顔には弱いんだよなぁ。はっきり言って反則だぜ、それ。
「わかったよ。・・・・・・委員長」
スパ〜〜〜ン!! スパン!! スパ〜〜〜ン!!
3HITCOMBO!!
「言ってる側からあんたは〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ま、待て!! 冗談だ、冗談!!」
「冗談は・・・『TPO』をわきまえて使わんか〜〜〜〜〜〜い!!」
スパ〜〜〜ン!! パンパンパパパ〜〜〜ン!!
6HITCOMBO!!
「ぐぼは〜〜〜っ!!」
「ぜーはーぜーはー」
「わ、悪かった。ゴメン、謝るよ」
「ふんっ!!」
「智子があんまり可愛いから、つい・・・な」
「・・・・・・・・・ス」
「え?」
「・・・・・・キス・・・・・・してくれたら許したるわ」
「・・・・・・へ?」
「イヤなら・・・別に・・・」
「イヤなわけないだろ。それじゃ、思いっ切り激しいやつでいくからな」
「えっ!? ち、ちょっと・・・待って・・・待・・・」
俺は、智子の体を抱きしめ、そして・・・・・・
地面に映った俺たちの影は、いつまでもいつまでも重なり合っていた。
−−− 追記 −−−
浩之は知らなかった。公園での様子が一部始終覗かれて、さらには写真にまで撮られていた事を・・・
翌日、学校にて『―――ちゃん情報』として大々的に報じられる事を・・・
これにより、浩之&藤田家はさらに有名になるのであった。めでたしめでたし・・・??