「やっぱり喫茶店なんか良いんじゃないかな」
「喫茶店ですか?」
「ありきたりって気もするけど・・・」

 う〜ん、喫茶店ねぇ。

「それなら、たこ焼き屋なんてのはどないや?」
「そんなのつまらないヨ。どうせならイザカヤがグッドネ!!」
「居酒屋・・・良いですねぇ」
「はわわっ。セリオさん、ダメですよ〜。未成年がお酒なんて・・・」

 たこ焼き屋も良いな。
 個人的には居酒屋という意見に大賛成なんだけど、さすがになぁ。

「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? お化け屋敷ですか? それ、面白そうですね」
「・・・・・・(こくこく)」
「却下!! 姉さんにお化け屋敷なんてやらせたら本物を連れてくるわよ。それに琴音もダメ。あんた、絶対に超能力を使うから。そんなお化け屋敷なんか怖すぎるでしょうが・・・別の意味で」
「・・・・・・(しゅん)」

 ・・・・・・俺も綾香と同意見だな。

 えっと、さっきから何を真剣に議論しているかというと・・・っていっても、この内容じゃバレバレだよな。
 そう、『文化祭』で何を出店するかを決めているのだ。
 普通なら出店は各クラスごとに行われるのだが、俺たちは『藤田家』として出店することになっている。

 何故、こんな事になったのか。その理由は今日の昼にあった。





エトセトラin文化祭






 昼休み。俺たちはいつもの様に全員で飯を食っていた。
 その時、ふいに・・・

「そういえばさ。もうすぐだよね、文化祭」

 綾香がそんなことを言い出した。
 まあ、こいつは根っからのお祭り人間だからな。きっと楽しみにしているんだろう。
 話題としても今の時期ならごくごく自然だ。
 ・・・だから、ここまではいい。
 問題はこの後のセリフだ。

「どうせだったらさ、この面子で出店しない?」

 と、きたもんだ。
 おいおい、ちょっと待てよ。んなこと、出来るわけねーだろうが。クラスも学年もバラバラなんだぞ、俺たち。

 しかし・・・

「うん、それ良いね」
「グッドアイデア!! さすがアヤカ!!」
「綾香さん凄いです!! わたし、綾香さんのこと、ますます憧れちゃいます」
「でしょでしょ!! もっと褒めて褒めて〜」

 こ、こいつらは・・・

「さってと、そうと決まったら『善は急げ』よね」

 あのなー。何が、いつ、どのように決まったんだ!?

「あたし、校長に直談判してくるわ!!」

 本気か!?
   ―――って、あのバカ! マジに行っちまいやがった。


「許可貰ってきたわよ〜!!」

 ズルッ!

 俺たちは見事にずっこけた。

「なんやそれ!!」
「早すぎるネ!!」
「それだけ、あたしの手際が良いってことよ」

 ・・・違うと思うぞ。

「まあまあ、遅いよりも早いにこしたことはないでしょ」
「そうかもしれねーけどさ。しっかし、それにしても随分簡単に許可を貰えたもんだな。まさか、変な事はしてねーよな?」
「なによ? 変な事って?」
「賄賂を贈ったりとか、脅迫したりとか・・・」
「あんたね〜、あたしのこと、どういう目で見てるのよ!?」
「いや、綾香ならやりかねないかなぁと。意外に過激だし、目的の為なら手段を選ばないとこがあるしな」
「別に何もしてないわよ。失礼ねー」

 ジトーっとした目で俺を睨む綾香。
 そりゃそうだ。第一、そんなこと本当にやられてたまるか。

 けどなぁ、こうもあっさりと許可を貰えてしまうと話として盛り上がりに欠けるんだけど。
 こういう場合、やっぱり次の様な展開が・・・



 張り切っている綾香には悪いが許可をもらえる可能性は極めて低いだろう。
 出店する際の場所の問題もあるし、なにより学校にだって世間体があるからな。
 学校側にしてみれば俺たちはかなり煙たい存在のはずだ。なんたって不純異性交遊の見本みたいなもんだし。むしろ、退学にならないのが不思議なくらいだと思っている。
 まあ、そうならないのは『藤田家』の中に我が校のスポンサーである『来栖川家』のご令嬢がいるからだろう。そうじゃなかったら、きっと今頃は・・・

 そんな訳だから、学校側が綾香の要求を呑むとはとても思えなかった。

「綾香さん、本気だったんですね」
「てっきりジョークだと思ってたヨ」
「・・・・・・(こくん)」
「許可、してくれると思う?」
「無理やと思うけどな」
「そうですよね、やっぱり」
「変な嫌みとかを言われていなければ良いのですが・・・」
「だ、大丈夫かな?」
「う〜〜〜、心配ですぅ」

 もちろん、みんなもその辺の事情はよく分かっているから、かなり心配そうな顔をしている。

「ね、浩之ちゃん。わたしたちも行こ」
「そうだな。味方は多い方が良いよな」

 俺たちはうなずき合うと一斉に立ち上がった。



 普通はこうだろ!? この方が盛り上がるだろ!? ドラマチックだろ!? そう思うだろ!?

「そうだけど。わたしは平穏無事な方が良いな」
「まったくや。無理に波風立てる必要は無いやんか」
「先生と仲が悪いのはいやですぅ〜」
「うん、わたしもイヤだな」
「・・・・・・(こくこく)」
「わたしも平和な方が良いです、先輩」
「・・・わたしもそう思います」

 ・・・・・・・・・・・・あのな。俺は一言も口に出してないだろうが。それなのに・・・
 いや、もういい。もう、考えを読まれるのにも慣れたよ。

「まあまあ、ヒロユキ」
「そんな、なげやりにならないで下さい」
「そういうこと。ね、浩之」

 ・・・・・・・・・・・・(汗)
 やっぱり、すっげーーーイヤかも。



○   ○   ○



 ―――と、まあ、いろいろあったが、文化祭当日を迎えた。
 途中を思いっ切り端折ってあるが、それはまあ、大人の事情というやつだと理解してくれ。

 という訳で当日。

 当然のことながら、校内は大いに賑わっていた。うちの文化祭は部外者OKなので尚更だ。

 で、俺たちだけど、結局はオーソドックスに喫茶店を出店することにした。とはいえ、そこは『藤田家』。ただの喫茶店で終わるはずはない。

 最高級の葉を使った紅茶。セリオがダウンロードした超一流のレシピを元にしたお菓子類。琴音ちゃんがデザインした凝りまくった内装。
 そして、そして、ウエイトレス(もちろんあかりたち)が着るのは『アン○ラ』も真っ青、『P○aキャロ』も裸足で逃げ出すという代物だ。(どんな物かは各自で想像してくれ)
 まさにパーフェクト! はっきり言って、他のクラスが出店する喫茶店なんか目じゃない。本物にだって負けやしないぜ!!

 ちなみに場所は俺の教室。カーテンで仕切り、三分の二を喫茶フロア、残りを厨房としている。
 場所の使用権についても既に交渉済みだ。
 交渉と言っても、クラスの連中に「使わせてくれないかな〜」とお願いしたら、快く承諾してくれた、という程度のものなのだが。

 もっとも、うちのクラスの連中はこうなる事を薄々予測していたらしく、端から何の予定も立てていなかったという程の用意周到(?)振りだった。
 雅史の奴がいるから、俺たちの考えが見抜かれても、おかしくも何ともないんだが・・・それにしても・・・
 まったく、しょーがねー奴らだよ。

 ま、そんな訳だから、俺たちは何の気兼ねも無くこの教室を使う事が出来た。

 これはきっと俺の日頃の行いの賜物だな。神様ってのは見ているもんだなぁ、うんうん。



 ごめん、俺が悪かった。

 ・・・・・・こほん。

 えっと、それでは、ここからは個別に行動を追っていくことにしてみよう。


−−− 綾香 & セリオ −−−

「いらっしゃいませ〜〜〜♪」
「こちらのお席へどうぞ

 うっわ〜〜〜、セリオの奴、張り切ってるな〜。

「あの娘、楽しくって仕方がないのよ」
「みたいだな。だけど、あの張り切り様は普通じゃないぜ」
「そうね。でも、しょうがないんじゃない。こんなイベント、セリオにとっては生まれて初めてなんだから」

 そっか。
 そうだよな、初めてなんだよな。

「おかげで楽できるわ〜」
「―――って、こら! そういえば、お前も今は接客だろうが!! なにサボってるんだよ」
「だ〜〜〜って、あたしの仕事無いんだもん。全部あの娘に取られちゃってさ」
「お前がとろいからだろ」

 ぺちっ。

「痛〜〜〜い。酷いわ、暴力を振るうなんて・・・うるうる」
「痛いわけないだろうが。それに『うるうる』って口で言うんじゃねーよ」
「ふ〜んだ、どうせどうせ・・・・・・いじいじ」

 わざとらしく拗ねる綾香。
 ―――ったく、しょーがねーなー。

「俺が悪かったよ。よしよし、いーこいーこ」

 そっと、綾香の頭を撫でてやった。

「うふふっ、分かればいいのよ」

 なーにが「分かればいいのよ」だ。うっとりした顔しやがって。これじゃマルチと変わらねーじゃねーか。
 しっかし、人前でなにやってるんだか、俺たち。こんなことばっかやってるから『藤田家の人間は・・・』なんて言われて呆れられちまうんだよな。

 そんなことを考えていたら、ふとセリオと視線がぶつかった。そうしたら・・・
 セリオの奴、「やれやれ」といったジェスチャーをしながら深〜〜〜〜〜〜い溜め息をつきやがった。
 呆れているのは外部の人間だけではないようだ。そのことを強〜く実感した瞬間だった。




−−− 葵 & 琴音 & 智子 & レミィ−−−

「いらっしゃいませっ!!」
「いらっしゃいませ〜

 ふたりの可愛い声が同時に響く。
 片や元気ではつらつとした声。
 もう片方は清楚で可憐な雰囲気の声。
 まったく正反対の印象を与えるが、このふたりの声は不思議と綺麗に調和する。

「「きゃーーーーーーーーーっっ!!」」

 ほら、悲鳴まで見事に調和して・・・・・・って、悲鳴!?

「なにがあったんだ!?」
「ヒップを触られたのヨ!! チカンネ!!」
「なに〜!! ふざけやがって!! どこのどいつだ!?」
「ちょい待ち!!」

 思わず駆け出そうとした俺を委員長が制止した。

「なぜ止める!?」
「少しは落ち着きぃや。藤田くんが出ていくまでもあらへんって。触られたの誰やと思うとるんや?」
「あっ」

 その一言で冷静になった。
 確かに委員長の言う通りだ。

「そうだヨ。ヒロユキのしなきゃいけないことはチカンを殴ることじゃなくて、この騒ぎが終わった後でふたりを抱きしめてあげることネ」
「その通りや。バカの始末はあのふたりにまかしとき」

 始末・・・か。
 俺の目の前でその始末がいままさに行われようとしていた。

「「お尻を・・・触りましたね?」」

 静かに、感情を消した声でポツリと呟く葵ちゃんと琴音ちゃん。
 いつもは温厚なふたりがこういう声を出す時・・・・・・それは、本気で怒ってる時だ。

「わたしたちのお尻に触っていいのは・・・」
「藤田先輩だけです」

 い、いかん。こういう状況にも関わらず顔がにやけてしまった。
 まったく、嬉しいことを言ってくれるぜ。

「ほんま、幸せ者やなぁ〜、藤田くんは」
「ヨッ!! このイロオトコ!!」

 いや〜、はっはっは・・・

 ―――と、外野がほのぼのとしている間に、当事者たちはまさに一触即発の状態になっていた。

「・・・滅殺です」

 うわっ、ボソっとそんな怖いセリフを・・・

「本気でいきます」

 本気でいっちゃダメだって!! 相手は素人なんだから!!

「サァ!! 始まりました!! アオイ&コトネ組VSチカン2人組の特別バトル!! ワタクシ実況の宮内レミィです」

 ・・・・・・おいおい。

「結果は見えとるけどな。解説の保科智子です」

 い、委員長まで・・・

「おっと、アオイ早速仕掛けたっ!! いきなりの大技ジャンプキックだーーーっ!! そこから連続攻撃に入る!! 着地と同時にボディーブロー&アッパー!! そして、それをキャンセルしての決裂拳だーっ!!」

 キ、キャンセル!? 決裂拳!?

「まだまだ、こんなもんやない。もっと続くで〜〜〜!!」
「ナント!! 決裂拳をさらにスーパーキャンセル!! 真・決裂拳炸裂〜〜〜!!」

 あのーーー、もしもし・・・

「片やコトネは? OH!! 既に超能力が発動中ネ!!」
「これでもう、相手はピクリとも動けんな」
「でも、コトネは容赦しな〜〜〜い!! ここで超必殺技が炸裂!! 『瞬○殺』がヒット!!」

 ・・・・・・・・・え〜〜っと。

「勝負あり、やな」

 ・・・それはまあ、そうだろう。

「うーーーん、白熱したバトルだったわネ」
「どこがだ!?」
「マアマア。とにかく、アオイたちの役目は終わり。次は、ヒロユキの番ダヨ」
「そういうこと。わたしらは今からこの『ゴミ』を捨ててくるから、後は・・・」
「ああ、任せとけって」

 俺の言葉に笑顔で応えると、委員長とレミィは『ふたり組』をズルズルと引きずって出て行った。
 あいつら、無事に解放されるのかな? もしかしたら第二・第三の地獄が待ち受けているのかも・・・
 ま、自業自得だな。・・・合掌。

 ―――と、奴らの冥福を祈っていると、葵ちゃんと琴音ちゃんのふたりが俺に勢い良く抱き付いてきた。

「藤田せんぱーーーい!!」
「怖かったですーーーっ」

 張り詰めていた気持ちが一気に緩んだのだろう。ふたりの目元には涙が浮かんでいた。

「よしよし。よく頑張ったな」

 俺は葵ちゃんと琴音ちゃんの体を強く抱きしめた。

 うーーーん、実に感動的なシーンだ。

 その場にいた俺たち以外の人間が、全員ずっこけてさえいなければの話だが・・・

 こんなことばっかやってるから『藤田家の人間は・・・』なんて言われるんだよな。

 あれ? これ、さっきも言わなかったか? あれ?




−−− あかり & 芹香 & マルチ & 理緒 −−−

「ふあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁぁぁっっっ」
「うわっ、浩之ちゃんってば、大きな欠伸」
「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? 疲れましたかって? うーーーん、少しね」

 確かに疲れた。なんのかんの言って朝から動きっぱなしだし。
 だけど、それよりもどっちかって言うと腹の方が・・・

 ぐ〜〜〜〜〜〜っ。

 ほらな。

「くすっ。お腹空いたみたいだね。ちょっと待っててね、浩之ちゃん」

 そう言うと、あかりはテキパキと食い物と紅茶の用意をして持ってきてくれた。

「わりいな。サンキュー、あかり」
「ふふっ、いいからいいから。さあ、召し上がれ」

 言われるまでもない。俺は速攻で食い始めた。
 その様子を暖かい眼差しで見つめているあかりと先輩。うむ、まさに至福のひととき。

 しかし、幸せとは長続きしないものである。

 ガッシャーーーン!!

「うおっ!? 何だ何だ!?」
「フロアの方からだね」
「今、フロアに出ているのって誰だっけ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「『マルチさんと雛山さんです』・・・って、マジ?」
「という事は今の音は・・・」
「・・・・・・だよな」
「・・・・・・・・・・・・(汗)」

 ドガッシャーーーン!!

 二度目の音が響いた。―――って、なんか最初の音より派手になってるんだけど。
 ハァ〜、このまま放っておくわけにはいかないよな、やっぱり。
 俺たちは顔を見合わせると恐る恐るフロアへ出ていった。
 すると・・・・・・

「はわわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」

 ゴン! ズデッ! ガシャーン!!

「や〜〜〜ん、どうして〜〜〜!?」

 ゴゴン!! ズデデッ!! ドンガラガッシャーーーン!!

 そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

「・・・・・・えっと」

 あかりの奴、完全に言葉を失っている。

「・・・・・・・・・・・・」

 先輩もなんか茫然自失って感じだ。
 ふたりの気持ちは痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜い程よく分かるぞ、うん。

 で、でもまあ・・・

「あう〜〜〜っ」

 グシャッ!!

 マルチと理緒ちゃんだって・・・

「あ〜〜〜ん!!」

 ズビュシャ!!

 わざとやってる訳じゃ・・・

「あう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」

 ドガシャーン!!

 ないんだから・・・

「え〜〜〜ん、なんで〜〜〜!?」

 ズンガラドッシャーーーン!!

 ―――って、おい!!

 さすがに堪忍袋の緒が切れかけた時・・・

「いいかげんにしなさい!!」

 滅多に聞けない、先輩の一喝が炸裂した。

「あう〜〜〜っ、ごめんなさいですぅ〜〜〜」
「ご、ごめんなさい、芹香先輩」
「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? 後は、わたしが接客をしますって?」
「・・・・・・・・・(こくん)」
「そっか。それじゃ頼むわ。えっと、だったらマルチと理緒ちゃんは・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「どこか余所へ行ってなさい? それっていくら何でも・・・」
「・・・・・・(ふるふる)」

 厳しい顔で首を振る先輩。

「あうっ、わかりました」
「本当にごめんなさい」

 肩を落としてトボトボと出ていったふたり。
 うーーーん、ちょっと可哀想な気もするな。

「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? 『お騒がせして申し訳ありません』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『でも、厳しくしなければいけない時もあるのです』」
「・・・・・・・・・・・・」
「『あの娘たちのお姉さんとして』」

 お姉さんとして・・・か。
 先輩、マルチと理緒ちゃんの事を『家族』だと思っているからこそ、あんな厳しい態度を・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『わたしは嫌われてしまったでしょうか?』だって?」
「・・・・・・(こくん)」

 寂しそうな顔でうなずく先輩。

「何言ってるんだか。そんなことある訳ねーよ。あいつらだって先輩の気持ちは分かってるよ。な、あかり」
「うん、そうだね。安心して下さい。マルチちゃんと雛山さん、ふたりとも絶対に芹香先輩のこと大好きですから」
「そういうこと。まあ、不安に思う気持ちも分かるけどさ。でも、それはたぶんお互い様だぜ。あいつらもきっと今頃『芹香先輩に嫌われちゃったかなぁ?』って不安がってるだろうから。だからさ、あいつらを安心させてやってくれよ。もちろん、お灸を据えた後でいいからさ」
「わかりました」

 はっきりと大きな声で答えた先輩。その顔はいつもの穏やかなものに戻っていた。

「それよりも、ほらほら仕事仕事。お客さんが待ってるぜ」
「あっ、いっけない!!」
「あかりは厨房。先輩は接客。頼むぜ!!」
「任せて!!」
「・・・・・・(こくこく)」

 張り切って持ち場へ向かうふたりを見ながら俺は思った。

 こいつら、本当に仲間を・・・いや、『家族』を大切に思ってるんだな。

 そんな奴らと『藤田家』になれて良かった。

 あかりと、先輩と、そしてみんなと『家族』になれて良かった。

 俺は心の底からそう思っていた。







 ・・・・・・・・・??






 −−− 蛇足 『藤田家』のリビングにて−−− 


 今回、俺たちが出店した喫茶店は多少のトラブルがあったものの、おおむね好評だった。
 お客にも満足してもらえた様だし、尚かつ、俺たち自身も楽しむ事が出来たのから大成功だったと言っても良いだろう。

 だけど、その何というか、正直なところ、もうちょっと文化祭を満喫したかったよなぁって気がしないでもない。
 俺にとっての文化祭はただただ忙しいだけで終わっちまったし。結局、他の所なんて一カ所も行けなかった。
 聞いた話によると、志保がライブステージ(というか、ワンマンショー)を行ったらしいが、それすらも・・・
 せめて、冷やかしぐらいには行きたかったよなぁ。

 ・・・・・・はっきり言って不完全燃焼だった。

 その時・・・

「浩之ちゃん」

 うしろから声をかけられた。
 振り返ってみると、そこには・・・

「おわっ!!」

 『藤田家』のメンバーが勢揃いしていた。・・・例のウエイトレス姿で。

「な、なにやってんだ、お前ら? そんな格好で」
「なにって。今から文化祭をやるんだよ。浩之ちゃんのためだけの文化祭
「藤田くん、今日はいろいろと大変やったやろ? だから、そのご褒美や」

 満面の笑みを浮かべて口々に労ってくれるあかりたち。
 ・・・なんか、無茶苦茶感動したぞ。

「タップリ、サービスするからネ」
「朝まで寝かさないわよ。覚悟してね、浩之」
「・・・・・・(こくこく(ぽっ))」

 そういう意味のサービスかい!!
 でも、嬉しいことには変わりはない。それどころか・・・

 全然OK!! 問題無し!! ベリーグッド!!

 うーーーん、今日は文字通り『オールナイト』になりそうだなぁ。い、いかん、思わず顔がにやけてしまった。

 ただ、一つ問題が・・・

 過労死しないかな、俺??

 ま、いいか。こいつらに埋もれて過労死するなら、それも本望だ。



 やっぱり、俺って恵まれてるよなぁ。他の奴らに恨まれる訳だ。




 可愛い妻たちに囲まれて幸せの味を噛みしめる浩之であった。




 その夜、『藤田家』の明かりが消される事は無かった・・・・・・

    





今度こそホントに



Hiro



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