青い空、白い雲、爽やかな風。

 そして・・・

「はい、浩之ちゃんのお弁当」

 とびきり美味いメシと最高に可愛い彼女たち。

 うーーーん、まさに極楽。

 でも、こういう至福の時って・・・・・・

「こらーーーっ!! ヒローーーーーー!!」

 ほらな。長続きしないんだよ。
 ・・・・・・はぁ〜〜〜、儚い幸せだったなぁ。

「ちょっと!! 返事ぐらいしなさいよ!!」
「うるせーぞ、志保!! ひとの優雅なランチタイムを邪魔しやがって!!」
「優雅〜〜〜!? あんたに一番似つかわしくないセリフね」

 大袈裟に「やれやれ」というポーズをとる志保。毎度の事ながらむかつく奴だな。

「ほっとけ!! それよりも何の用だ!? アホみてーにでっけー声だしやがって。あ、わりいわりい。『アホみてー』じゃなくて『アホ』そのものだったな、お前は」
「な、な、な、何ですってーーーーーーーーーっっっ!! 誰がアホよーーーーーーっっっ!?」
「志保」

 決まってるじゃねーか。他に誰がいるって言うんだよ。

「むっきーーーっっ!! あんたねぇーーー!!」
「まあまあ、志保。落ち着いて、ね」

 場の空気が殺伐としたものになりそうになった瞬間、サッとフォローを入れるあかり。この辺のタイミングは相変わらず絶妙だ。

「そうですよ浩之さん。あまり『本当のこと』を言っては失礼ですよ」

 ・・・セリオ。お前のはフォローになってないぞ、全然。

「・・・・・・・・・・・・えっと」

 あ、さすがの志保も言葉を失ってしまった。
 凄いぞ、セリオ。

「・・・コホン。ま、そのことはこっちに置いといて。とにかく、あたしが言いたいのはあんたら『藤田家』のことよ!!」

 どうやら、やっと本題に入ったらしい。長い前振りだった。
 そのことを突っ込んでやろうかとも思ったが、そうするとまた面倒な事になりそうなので、ここはグッと我慢しておこう。

「俺たちのこと?」
「そうよ!! なんなのよ!? なんで綾香や葵ちゃんが『2−B』の選手として競技に出てるのよ!?」

 競技・・・学生時代のクラス対抗の競技といえば・・・
 そう! 体育祭!!

 ここまできて、やっと明かされる事実!! なんと今日は体育祭だったのだ〜〜〜!!



 ・・・・・・・・・・・・前振り長いって、ホントに(汗)





心、結んで・・・






「お前には関係無いだろうが」
「大ありよ!! あんたたちのせいであたしたち『2−A』は午前の部終了時点で2位に甘んじているのよ!!」
「それって俺たちの責任なのか?」

 おいおい、何か無茶苦茶な気がするぞ。

「そうよ。だって・・・」
「だって?」
「だって、綾香とセリオは本当はうちのクラスなのにーーー!!」
「ええっっ!? あたしたちって志保と同じクラスだったのーーー!?」
「そ、そうだったんですか!?」

 ちょっと待て!! どうしてお前たちが驚くんだ!?

「綾香とセリオさえいれば・・・。今頃は『2−B』ともっと良い勝負をしてたのに・・・」

 確かに。午前の部での2人の活躍は凄かったからな。
 綾香はその運動神経の良さを存分に見せつけていたし、セリオに至っては100M走で9秒台の好タイムを・・・って、おい。

「セリオ。お前、午前の100Mって、もしかして・・・?」
「はい。モーリス・グリーンのデータをダウンロードしました」
「するな!!」

 反則だろ、それは。

「セリオ〜〜〜。『2−A』に戻ってきてよ〜〜〜。そして午後の部の200M走ではマイケル・ジョーダンをダウンロードしてさ〜〜〜」
「ジョンソンです」
「・・・・・・・・・・・・」
「ジョンソンですよ」



−−− 葵のスポーツ一言メモ −−−

「同じ『マイケル』でもジョーダンは元NBA(バスケットボール)のスター選手で、ジョンソンは陸上の200Mと400Mの世界記録保持者です。名前が似てますから間違えない様に気を付けて下さいね」



「うるっさいわね。どっちでもいいわよ、そんなの!!」

 あ、開き直りやがった。

「とにかく!! なんで『藤田家』の人間が『2−B』に集結してるのよ!? クラスも学年もバラバラでしょうが!?」
「いや、俺に訊かれても・・・」

 実は俺もよく知らないんだよな。
 なんか、いつの間にかこういう事になってて・・・・・・

「あたし知ってるわよ」
「本当か、綾香」
「それで? どうしてなの!?」

 思わず詰め寄る俺と志保。

「実はね・・・」
「「うんうん」」
「ここだけの話なんだけど・・・」
「「ふんふん」」

「あたしが校長にお願いしたの。テヘッ

 ズルッ!!

「またかい!!」
「テヘッ、じゃないわよーーー!!」
「だって〜〜〜。少しでも浩之のそばにいたかったから」

 おおっ、嬉しいことを言ってくれるじゃねーか。かなり恥ずかしいセリフだけど。
 でもまあ、男冥利に尽きるってもんだねぇ、うんうん。

「ちょっと!! なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわねぇ」

 気持ち悪いって・・・

「大方、『俺も綾香のそばにいたいぜ、ベイベー』とか考えてるんでしょ!?」

 何なんだよベイベーってのは!?
 ―――ったく、そんなこと考えてるわけ・・・・・・
 そうか。志保には俺の考えを読むことができねーんだ。
 うっ、なんか新鮮。最近は心の中を読まれるのが当たり前の様になってたからなぁ。

「なによ〜。なんか言いなさいよね」
「言わなきゃ分かんねーのか?」
「分かるわけないでしょうーが!!」

 そうかそうか、分からねーか。
 ま、志保には分からねーよな。志保には。

「浩之ちゃん、ダメだよ。そんなことを思ったら志保が可哀想でしょ」
「そうやで。藤田くんの考えとることは、わたしらにしか分からないんやから」
「・・・・・・・・・(こくこく)」
「ち、ちょっと。あんたたち、ヒロの考えてることが分かるの!?」
「当然!! 全部分かるわよ」

 綾香〜〜〜。そんなこと断言するなよ。それはそれですっげーイヤだぞ。

「なんで!? なんで分かるの!?」

 それは俺も是非知りたい。

「そんなの決まってるじゃない。あたしたちが浩之の『妻』だからよ。つ・ま

 答えになってねーって。
 あっ、志保の奴、硬直してやがる。心底呆れたって感じだな。

「もういい、勝手にしてちょーだい。あたしが悪かったわ」

 やっとのことでそれだけを言うと、志保はフラフラと立ち去って行った。
 大丈夫か、あいつ? 全身から思いっ切り疲労感が漂ってるぞ。
 ま、気持ちは分からなくもないけどな。
 でも、こんなもんで疲れてたら『藤田家』とは付き合えないぜ。

 修行が足りねーな、志保。



○   ○   ○



「ふーっ、喰った喰った。ごっそさん」
「ふふっ。お粗末様」

 志保の乱入というアクシデントがあったが、比較的穏やかにランチタイムを過ごすことが出来た。
 後は午後の競技が始まるのをのんびりと待つだけだな。

「のんびり待つなんて勿体ない。この時間を使ってウォーミングアップしようよ。ね、浩之」

 ウォーミングアップ? かったりーなぁ。そんなの必要ねーって。

「なに言ってるのよ。そういう油断が怪我の元なのよ」
「そうですよ、先輩。ウォーミングアップは大切です」
「少しは体を動かしておいた方が良いネ」

 それもそうか・・・・・・って、お前らモノローグと平気で会話するなよ。
 いい加減慣れたけどさ・・・・・・

「よしっ!! そうと決まれば早速、二人三脚の練習よ!!」
「張り切ってるな〜、綾香。そういえば俺の二人三脚のパートナーってお前だっけ?」
「そうよ。浩之のパートナー権を得るのは苦労したんだから。『藤田家』の中でまさに血で血を洗う争いが・・・」

 血で血を洗うって・・・お前ら、そんなことをしてたのか!?
 一体どんなことを・・・・・・

「『あみだ』だけどね」

 おい。

「ま、それはさておき練習練習!!」
「あいよ」
「それじゃ・・・足を結んで・・・っと。はい! OK!!」
「これで俺と綾香の体がひとつになった訳だな」
「ちょっと! その言い方やめてよ!!」

 真っ赤な顔で抗議する綾香。
 ―――ったく、こいつも変なところで純情なんだからなぁ。

「分かった分かった。ほんじゃ、練習をおっぱじめますか」
「まったくもう。ホントに分かってるんだか。・・・ま、いいわ。それじゃいくわよ。まずは右足からね」
「了解」
「「せーーーの」」

ビターン!!

 スタートと同時に豪快にこけた。なんてお約束な・・・

「いった〜〜〜い」
「いててて・・・。大丈夫か、綾香?」
「大丈夫じゃないわよ!! 右足からって言ったでしょ!!」
「んだよ。だから右足からスタートしただろうが」
「あ・た・し・が右足からなの」

 なんだそりゃ? だったら最初からそう言えよな、まったく。

「もう一回やるわよ。いい?」
「はいはい」
「「せーーーの」」

 ビターーーン!!

「もう一回!!」

 ドタッ!!

「次こそ!!」

 ズザザッ!!

「こなくそ!!」

 グシャッ!!


「はわわっ。とってもとっても痛そうですぅ〜〜〜」
「わたし、もう見てられません」
「しっかし、見事なまでに息合わんな」
「チームワークのかけらも無いネ」



○   ○   ○



「もーーーーーーイヤ!!」

 あれから何回転んだだろう。あたしはもう我慢の限界だった。

「いい加減にしてよ!! もう少し真面目にやってよね!!」
「やってるって!! 第一、足を引っ張ってるのはお前じゃねーか!!」
「なんですって!? ひとのせいにしないでよ!! 浩之がどんくさいのが悪いんでしょ!!」
「それはこっちのセリフだ!!」

 それから、ひとしきり文句を言い合った後、あたしは足を結んでいたリボンを解いた。

「顔・・・洗ってくる」

 それだけ言うと、あたしは浩之に背中を向けた。



○   ○   ○



「ちょっと浩之ちゃん。綾香さん行っちゃうよ」
「そうだな」
「早く追いかけて謝らないと・・・」
「なんで俺が謝らないといけないんだよ」

 冗談じゃないぜ。悪いのはあっちだ。

「のど渇いた。なにか買ってくる」

 俺も歩き出した。綾香とは逆の方向へ・・・



○   ○   ○



「なんで、こうなっちゃうんだろう」

 思わずため息が漏れる。

「浩之のバカ」

 心の伴わない、形だけの文句。

「あたしの・・・大バカ」

 そして、激しい自己嫌悪。


 ポンポン

 その時、不意に肩を叩かれた。

「誰!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「あっ、姉さん。えっ? 急に大声を出されてビックリしました? ・・・ゴ、ゴメン」
「・・・・・・・・・・・・」
「謝る相手が違います? そ、それは・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「言い過ぎたって思っているのでしょ? うん、まあ・・・一応は」
「・・・・・・・・・・・・」
「だったら意地を張らずに謝りなさい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「浩之さんと仲直りしたいのでしょ? そう・・・だけど・・・何て言っていいのか分からないし・・・それに、あたしの方から頭を下げるのって、やっぱりちょっと悔しいし・・・」

 なでなで

 ね、姉さん!?

「・・・・・・・・・・・・」
「綾香は浩之さんのこと嫌い? 嫌いなわけないでしょ!! あたしは浩之のことが好き!! 世界中の誰よりも好きなの!! 自分の気持ちに押し潰されそうになるくらい、あたしは・・・あたしは・・・って、えっ!?」

 ぎゅっ
 あたしは姉さんに強く抱きしめられていた。
 姉さん・・・暖かい。
 姉さんの腕の中であたしはどんどん穏やかな気持ちになっていった。

「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? それだったら大丈夫? ちゃんと謝ることが出来るから?」
「(こくこく)」

 姉さん・・・

「うん! ありがとう姉さん!!」



○   ○   ○



「どうしてこんなことに・・・」

 俺は自販機で買ったカフェオレを飲みながら激しい自己嫌悪に陥っていた。

「言い過ぎ・・・だよな。やっぱり」
「そうだね」
「どわっ!!」

 周りに誰もいないと思い込んでいた俺はその声に飛び上がらんばかりに驚いた。

「きゃっ!!」

 もっとも驚いたのは相手も同じだった様だが・・・

「なんだ、あかりかよ。ったく、驚かすなよ」
「ごめん、浩之ちゃん」
「それで? 何の用だ?」

 ま、どうせ綾香に謝れとでも言うんだろうな。

「わたしね、浩之ちゃんに訊きたいことがあって・・・」

 しかし、あかりの口から出たのは予想外の言葉だった。訊きたいこと? なんだそりゃ?

「浩之ちゃんは綾香さんのこと好き?」
「は? いきなり何だって言うんだ?」
「好き?」

 あかりらしからぬ反論を許さない迫力。俺は不覚にも少したじろいでしまった。

「・・・あ、ああ。それはまあ・・・その・・・好きだぜ」
「じゃあ、愛してる?」
「へっ!? なんなんだよ、いったい。そんなこと訊いてどうしようってんだ?」
「お願い、答えて」
「言わなくても分かるだろ」
「ダメ。ちゃんと言葉にして」

 真剣な表情のあかり。
 ―――ったく、しょーがねーな。そんな顔をされたら、こっちもマジに答えざるを得ないじゃねーか。

「愛してるよ。心から愛してる」

 俺の答えに満足したのか、あかりが満面の笑みを浮かべた。

「うん。そうだよね」
「でもな、あかり。俺はお前のことも・・・」
「うふふっ。分かってるって。なんたってわたしは『藤田浩之研究家』だもん」

 悪戯っぽい表情で俺の言葉を遮るあかり。
 しかし、『藤田浩之研究家』か。看板に偽り無しだな、こいつの場合。

「ありがとう、浩之ちゃん。それじゃ、わたしは先にみんなの所に戻ってるね」
「えっ? 訊きたいことって、もういいのか?」
「うん。あれで充分。浩之ちゃんなら大丈夫だって確認できたから」
「確認? 確信じゃなくてか?」
「うん、確認。分かりきってたことを確かめただけだから」

 分かりきってたこと・・・か。
 そうか、そうだよな。俺たちは既にお互いのことを理解し合えているんだよな。
 なのに、変に余計なことを考えるからおかしくなっちまうんだ。
 あかりの奴、そのことを伝えようと・・・。まったく、遠回しなやり方しやがって。

「サンキュー、あかり。悪いな、気を使わせちまって」
「ううん、気にしないで」
「だから、これは感謝の気持ちだ」
「えっ!? ち、ちょっと浩之ちゃん。こんなところで・・・んんっ」

 それから暫くの間、俺たちの影はひとつに重なっていた。



○   ○   ○



 二人三脚の競技が始まった。あと、5組程であたしたちの番だ。
 あれから、あたしと浩之は一言も言葉を交わしていない。
 謝らなければいけないとは思っているのに、どうしても、あとちょっとの勇気が出ない。ほんの少しでいい。なにかタイミングがあれば・・・

「綾香」
「な、なに?」

 やった!! 浩之の方から話しかけてきてくれた。これをきっかけにして・・・

「さっきはゴメンな。つまらねーことでムキになっちまって」

 えっ!? 浩之!?

「本当に悪かった。この通りだ」

 そう言うと、浩之は深々と頭を下げた。

「ち、ちょっとやめてよ、そんなこと。あたしだって悪かったんだし。変に意地張っちゃったりして。・・・ゴメン、浩之」
「いいって。気にするなよ」
「・・・うん」
「これで仲直り、だな」
「うん!!」
「ハハハ、良かった。俺、綾香に嫌われたら生きていけないからな」
「またまた〜〜〜。調子いいんだから」
「もちろん、冗談だけどな」
「一言多いわよ!!」

 あたしと浩之は顔を見合わせると「プッ」と吹き出した。どうやら、いつものあたしたちに戻れたみたい。
 でも、いまいち面白くないのよね。何かイニシアチブを握られちゃったみたいで・・・
 謝るのだって先手を打たれちゃったし・・・
 よーーーし!! 見てなさいよ!!

 そんなことを考えているうちにあたしたちの番が回ってきた。
 今がチャンス!! あたしは計画を実行した。

「ねえ、浩之」
「ん? ・・・・・・!!」

 浩之がこっちに顔を向けた瞬間、あたしは彼の体を強く抱きしめ、唇を合わせた。
 触れるだけのキス。でも、効果は絶大だったみたい。
 ふふっ、浩之ったら真っ赤な顔しちゃって。
 この来栖川綾香・・・ううん、藤田綾香はそう簡単に主導権を握らせてはあげないんだから。

 周りが騒いでいるけど、それは全部無視。だって意識すると・・・急に恥ずかしくなって・・・

 ちょっと後悔したりして・・・・・・



○   ○   ○



 あ、綾香の奴。いきなりとんでもねーことしやがって。
 それより、自分から仕掛けておいて真っ赤な顔してるんじゃねーって。
 まったく、しょーがねーな。
 それにしても、俺にこんなことをするとは良い度胸だ。こりゃ、後でたっっっっぷりとお仕置きだな。うけけ・・・

「えっち」
「なんだよ。なんにも言ってねーだろ」
「言わなくても分かるの。えっちな顔してたもの」
「どんな顔だ!?」

「あの〜〜〜」

「なによ!!」
「なんだよ!!」

「そろそろスタートさせたいんだけど・・・」

 ・・・・・・あ。
 もしかして俺たち、競技の進行を止めてた?

「「す、す、すみませ〜〜〜〜〜〜ん」」

「いいんだけどね別に・・・『藤田家』だし・・・」

 おいおい、どういう意味だ!?

「それでは・・・位置について・・・よーーーい・・・」


 バーーーン!!



○   ○   ○



 それから後の事は語るまでもないのだが・・・まあ、少しだけ。
 二人三脚は結局、俺たちの圧勝だった。
 練習の時はメロメロだったのに何故、と思うだろうが、その理由は至極簡単。
 あの時の俺たちはいつもの俺たちではなかったということだ。
 相手に合わせなければいけないという意識が強すぎて、それが力みとなってしまった。そして、一度失敗するとその意識がさらに大きくなって、ますます力む。そうするとまた失敗する。この繰り返しだ。まあ、俺も綾香もお互いに変に気を使っちまったってことだな。まったく、らしくないぜ。言うなれば完璧な自滅ってやつだった。
 だから、俺たちは本番では普通に走った。打ち合わせも掛け声も無い。ただただ普通に走った。
 その結果、俺たちは速かった。他の誰よりも速かった。
 ま、当然だな。俺たちは参加者の中で一番息が合っているのだから。

 ちなみに、志保がこだわっていた学年優勝も俺たちの圧勝だった。
 志保は最後の競技である『6人制男女混合リレー』にメイクドラマを期待していた様だが、世の中はそんなに甘くないということだ。
 第一、俺・綾香・葵ちゃん・セリオ・雅史(そしておまけの矢島)というメンバーが揃ってて負ける訳がない。
 志保の奴、ホントに悔しそうな顔してたっけ。今、思い返しても気分が良いぜ。


「ん? どうしたの浩之?」
「別に。ただ、昼間の事を思い出してただけさ」
「そう」
「ああ。昼間の綾香は可愛かったなぁって」
「なっ!? ・・・・・・・・・もう、バカ」

 拗ねた様な声を出すと、綾香は俺に体をすり寄せてきた。

「どうした? また、して欲しくなったか?」
「あんたねぇ。あれだけしておいて、まだ足らないの!? まったく、どんな体力してるのよ!?」
「普通だと思うけどな」
「全然普通じゃないわよ。ホントに性欲魔人なんだから」
「ほ〜〜〜。そういうことを言うか。あ、そういえば昼間のお仕置きもまだだったよなぁ〜」
「ち、ちょっと・・・ウソでしょ? あたし、もうクタクタなんだから・・・」
「聞こえない聞こえない。うりゃ!!」
「あ、ちょっとやめて!! あ〜〜〜〜〜〜ん、もう、バカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



 ・・・こうして、『藤田家』の体育祭はまだまだ続くのであった。

 ふぅ、やれやれ。





−−− 蛇足 −−−

 次の日、全身を襲う筋肉痛に悶え苦しんでいる藤田浩之の姿があった。

 ・・・・・・自業自得だって(汗)









Hiro



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