えっと……。
 ケーキ良し……紅茶の用意良し……準備オッケー、抜かりなし!!
 後は…………浩之くんたちが来れば…………


 ――ピンポーン!!


 ……って、あら? 噂をすればってやつかしら?


 とたとたとた……

 ――ガチャ!


「あらあら、いらっしゃ〜い♪ 良く来てくれたわ」





『母は強し』






 ―――ひかりさん その1


「うっわ〜。美味しいですぅ〜♪」
「ホンマやな。これで手作りなんて信じられんわ」
「……………………(美味しい

 わたしの作ったケーキを食べて、満面の笑みを浮かべるマルチちゃんたち。

 食べてくれる人の笑顔が一番の報酬、か。

「う〜ん」

 確かにその通りね。

「う〜〜〜ん」

 みんなの笑顔を見ているだけで、本当に幸せな気分に……。

「う〜〜〜〜〜〜むむむむむむむ」

 ……って、こら。

「そこの娘。何を唸っているのよ?」
「む、娘って……。お母さ〜ん、変な呼び方しないでよぉ〜」
「気にしない気にしない。娘であることは事実でしょ」
「う〜〜〜っ」

 だから、唸らないの。ホント、イヌみたいな娘なんだから。

 そういえば、浩之くんがあかりのことを……えっと……何て言ってたかしら?
 ………………あっ、そうそう。『犬チック』。
 何と言うか……ピッタリね。さすがは浩之くん。あかりのこと、よく分かっているわ。

 ま、それはさておき。

「……で? 何で唸ってるの?」
「う〜ん、何でだろう?」
「…………はい?」
「……あれ? 面白くなかった?」
「…………へ?」

 ……………………もしかして……今の……ギャグ?
 ……あかり……あなたって……あいっっっかわらずギャグのセンスが無いわね。

 わたしは、痛む頭を押さえながら、再度あかりに訊ねた。

「だ・か・ら・な・ん・で・う・な・って・る・の?」

 ―――にっこり

 極上のスマイル付きで。

「あうっ。ご、ご、ごめんなさい。ちゃんと……こ、答えます」

 よろしい。分かればいいのよ。
 ……でも、何をそんなに怯えているのかしら? 変な娘ねぇ。

「あのね……お母さんの作ったケーキなんだけど……」
「ケーキがどうかしたの? 口に合わなかった?」

 変ね。どこも失敗なんかしてないと思ったんだけど。

「ううん、そうじゃないの。ただ……」
「ただ?」
「ただ……どうしたら、こんなに美味しく作れるんだろうって思って……」

 あ、そういうこと。

「どんなに頑張っても、お母さんと同じ味には作れないの。だから……」
「どうしてなんだろうって、ずっと考え込んでたわけね」
「うん」

 なるほどねぇ。
 よしっ!! 可愛い娘の為だ。ここは、お母さんが教えてしんぜよう!!

「……ねぇ、あかり。そのわけを教えてほしい?」
「うん!! 教えてほしい!!」
「それはね」
「うんうん」
「な・い・しょ

 こけっ!!

「ちょっと〜〜〜、お母さ〜ん」
「冗談よ」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 あかりったら、そんなにジトーっとした目をしなくても……。

「ごめんごめん。今度はちゃんと教えるから、そんなに唸らないでよ」
「……………………本当にぃ〜?」
「ううっ、実の娘に信じてもらえないなんて……悲しいわ……しくしく」
「はいはい。それで?」

 ぐっ!! あ、あっさりと流したわね。
 まさか、あなたがそこまで成長していたなんて。もう、お母さんが教えることは何もないわ。
 うるうる、立派になったわね、あかり。

「あの〜。いい加減、話を進めてほしいんだけど……」

 そうね、わたしも同感だわ。
 ほんのちょびっっっと引っ張りすぎた気もするし。

「ではでは……わたしとあかりのケーキの違いだけど……」
「うん」
「そのわけは……」
「そのわけは?」
「なんと……」
「なんと?」
「キャリアの差よ」
「……………………ほえ?」
「だから、キャリアの差」
「…………それだけ?」
「それだけ」
「……………………こ、ここまで引っ張っておいて?」
「そう」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「しくしくしくしく」

 何よぉ〜、泣かなくてもいいじゃない。
 世の中なんてそんなものよ。

 まだまだ甘いわね、あかり。





○   ○   ○





 ―――ひかりさん その2


「何と言いますか……ひかりさんと神岸先輩って、本当に似てらっしゃいますね」

 そうでしょそうでしょ。うふふ、よく言われるわ。

「わたしは……認めてないんだけどね……特に性格は……」

 そういうのを、無駄なあがきって言うのよ。
 さっさと認めちゃいなさい、あ・か・り・ちゃん♪

「認めてねーのはあかりだけだ。二人とも、ホントそっくりだぜ」

 そうそう。さっすがは浩之くん、良いこと言うわね。

「そっくり……かなぁ?」
「そっくり」
「う〜、断言しないでよぉ〜」

 ふっ、往生際が悪いわね、あかり。

「ウソだと思うんなら、そこらを歩いている人に訊いてみろよ。百人中百人はそっくりだって答えるから」
「百人中百人って……全員じゃない」
「それだけ、あかりとおばさんは似ているってことだよ」

 その通りよ!!
 ……………………。
 ……って……ちょっと待って。

「浩之くん」
「なんですか?」
「『おばさん』じゃないでしょ」
「……へ?」
「『おかあさん』……でしょ」
「……はい!?」

 何よぉ〜。そんなに驚かなくてもいいじゃない。

「『おばさん』なんて、他人行儀な呼び方しちゃダメよ。あなたは、わたしの息子になるんだから」
「いえ……あの……そ、そうですけど……まだ、それはちょっと早い気が……それに……唐突すぎ……」
「いいのいいの。全然問題無し」

 男の子が細かい事を気にするもんじゃないわよ。

「待って下さいよぉ」
「待たない ちゃんと『おかあさん』って呼んでね」
「うぐぐ……」

 照れちゃって、もう♪
 浩之くんったら、ホントにシャイなんだから。
 でも、そこが可愛いところなんだけど

「ほらほら、呼んでごらんなさい」
「うぐぐぐ……えっと……ですから……」
「さあさあ」
「…………お……おか……うぐぐ」
「早く早くぅ〜」
「…………お…………さん……ううっ」

 う〜ん、そんなに抵抗があるかしら?
 ふぅ、仕方ない。

「浩之くん。言えないのなら無理強いはしないわ」
「そ、そうですか……良かった」
「その代わり……『ママ』って呼んでね」
「いっ!?」
「なんだったら『ひかりちゃん』でも良いわよ」
「お、お、おかあさんと呼ばせていただきます!! そりゃーもう、喜んで!!」
「あらそう、嬉しいわ」

 浩之くんったら素直じゃないんだからぁ〜、うふふ。
 でもまあ、これでこの件は落着っと……。

 あ、そうそう。

「みんなにも、わたしのことは『おかあさん』……じゃ、区別がしにくいから……『ひかりおかあさん』って呼んでほしいな。いいでしょ?」

 わたしは、芹香ちゃんや葵ちゃんたちの方を見て、そうお願いした。
 そのわたしの言葉に、大きな反応を見せたのは、マルチちゃんとセリオちゃんだった。

「ひかりおかあさん……ですか?」
「わたしたちも……ですか?」
「もちろんよ。当たり前じゃない。……ひょっとして、イヤ?」
「イヤじゃないですぅ!! でも……」
「わたしたちは……メイドロボですから……人間の方をおかあさんだなんて……」

 あらあら、そんなこと気にしてるの? おばかさんねぇ。

「マルチちゃん、セリオちゃん。あなたたちは、浩之くんのお嫁さんになるんでしょ」
「「はい」」
「浩之くんのお嫁さんは、わたしにとっては娘よ。人間だろうとロボットだろうと関係無いわ」
「「……………………」」
「わたしの……可愛い娘よ」
「「……………………」」
「ね♪ それじゃあ、呼んでごらんなさい」
「「ひかり……おかあさん」」
「はい、よく出来ました」

 それから、マルチちゃんとセリオちゃんは、何度も何度も『ひかりおかあさん』と呟いていた。
 大事そうに……嬉しそうに……その言葉を心に刻み込む様に……何度も……何度も……。

「それで? 理緒ちゃんや琴音ちゃんたちは? 『ひかりおかあさん』って呼んでくれる?」

「えっと……別に構わない……ですよね?」
「そうだね。ちょっと恥ずかしいけど」
「あたしも良いよ。姉さんもオッケーでしょ?」
「…………」(こくこく)
「どうやら、決まり……やな」
「そうですね」
「うんうん、MOTHERが増えるのは良いことネ」

「ありがと。嬉しいわ、とっても。……じゃ、早速で悪いんだけど呼んでみてくれない?」

『はい!! ひかりおかあさん!!』

 …………………………………………。

 …………………………………………。

 ううっ、良いわぁ〜。

 ゾクゾクっときたわ、ゾクゾクっと。

 な、なんか、癖になりそう。

 正に、至福って感じね。

 ああっ、生きてて良かったーーーっ!!





「それではでは、話が綺麗にまとまったところで……」
「ところで?」
「あかりに、わたしと似ているということを認めてもらいましょ〜っ!!」
「やめてーっ!! そこに話を戻さないでーーーっ!!」





○   ○   ○





 ―――ひかりさん その3


「そう言えば……みんなのお肌って綺麗ねぇ〜」
「……………………(そうですか?)
「うん。つやつやしてて、もの凄く綺麗」

 う〜む、やっぱり、若いからかしら。

 …………そ・れ・と・も。

「浩之くんに可愛がってもらっているからかしら?」

 ドガシャーーーン!!

「あらあら、みんなどうしたの? 豪快にずっこけたりして」
「『どうしたの?』じゃないでしょ!! いきなり、変なことを言い出さないでよっ!!」

 怒鳴らなくてもいいのに。

 でも……

「そんなにムキになるってことは……図星、ね」
『うっ』

 ……あかりたち、沈黙。

 あ〜らあら、みんなして真っ赤になっちゃって。かっわいいんだからぁ〜。

「それにしても、浩之くんも大変ねぇ」
「いえ……それほどでもないですよ」
「そう? だけど、相手が十人もいるんだし……やっぱり、疲れるんじゃない?」
「そうでもないです。ちゃんと力はセーブしてますから」

 ズガシャーーーーーーーーーン!!

「浩之……あれで、セーブしていたって言うの!?」
「藤田くんって……藤田くんって……」
「浩之さん……化け物です」
「性欲魔人の面目躍如やな」

 ……なんか、言いたいこと言われているわね。

 でも、浩之くんって、そんなに『夜の生活』が凄いのかしら?

「これは……もしかしてもしかすると、夢が現実になっちゃったりするかも」
「え? 夢、ですか? おば……おかあさん」
「うん」
「どんな夢なんですか?」
「聞きたい?」
「そりゃーまあ」
「だったら教えてあげる。それはね……」
「『な・い・しょ』なんて言うのは無しですよ」

 ……………………。

 うるうる、浩之くんのいじわる。

 ……………………。

 などという冗談は、こっちに置いといて。

「わたしの夢はね」
「おば……おかあさんの夢は?」


「三十代で孫を抱くことよ


 パグシャーーーーーーーーーン!!

 ……………………あら? また、みんなずっこけちゃった。

 しかも、そのまま再起不能に陥っているし。

 あっ、綾香ちゃんと智子ちゃんとレミィちゃんったら、ピクピクと痙攣してる。

 変ねぇ? どうしたのかしら?

 わたし……そんなにおかしなことを言ったっけ??





○   ○   ○





 ―――その日の夜


「今日は……疲れた。とにかく疲れた」
「ホント。わたしも、もうくたくただよ」

 特に、精神的に、ね。

「やっぱり、おばさん……もとい、おかあさんには敵わねーよなー」
「……うん」
「あーぁ、マジで疲れた。今日は、もう寝ちまおうぜ」
「そうだね」
「さっさと、することを済ましてな」
「そうだね」

 …………って……はい?
 す、すること?

「もしかして……浩之ちゃん……今晩も……するの!?」
「当然!! 決まってるじゃねーか」
「えぇっ!? だってだって……疲れたって言ってたのに!!」
「『夜』の分の体力は別だ。『甘い物は別腹』って言うだろ? それと同じことさ」
「同じじゃないよぉ〜」

 ううっ、浩之ちゃんってば、やっぱり性欲魔人だーっ!!

「気にするな」
「気にするってばぁ〜」

 わたし、疲れてるのにぃ。寝たいのにぃ〜〜〜。
 しくしく。

「何も泣かんでも……」
「だってぇ〜〜〜」
「……………………」
「……………………」
「えっと…………あのさ……ひょっとして、本気で嫌がってるか?」

 ……ほえ?

「イヤならイヤだってはっきり言ってくれよ。俺……無理強いだけは絶対にしたくねーし……」

 ……………………。

 ずるいなぁ、浩之ちゃん。
 そんな真剣な目で見つめられたら……わたしが断れないの知ってるくせに。

 ホント、ずるいんだから。

「………………よ」
「え?」
「イヤじゃ……ないよ」

 浩之ちゃんにだったら……何をされても……イヤじゃ……ない。

「……あかり……」
「……浩之ちゃん
「……………………」
「……………………」
「よーーーっし!! だったら、ご期待に応えて本気で行くぜーーーーーーっ!!」
「それはやめてーーーっ!!」

 『何をされても』は撤回!!

 ふえ〜〜〜ん、本気だけはイヤーーー!!





○   ○   ○





 ―――ひかりさん その4


 わたしの本当の夢は……子供と孫が同級生になることよ。

 だから、浩之くんには頑張ってもらわないとね。

 そして、お父さんには、もっともっと頑張ってもらわないと。

 ……わたしといっしょに、ね♪





 なんちゃって。

 冗談ですよ、冗談。

 うふふ。





 うふふふふふふふふふふふふふふふふ。











 ☆ あとがき ☆

 どもども、Hiroです(^ ^ゞ

 今回はひかりさんメインでございますぅ〜!!
 これで、『たさい』版ひかりさんのキャラクターを掴んでいただけたら嬉しいです(^ ^ゞ
 尤も、既に『了承学園』で大活躍してますからねぇ。今更、説明の必要は無いと思いますけど(笑

 でも、キャラを描くことに気を取られすぎて、散漫な内容になってしまったなぁ。
 いくら、顔見せが目的とはいえ。
 …………反省(−−ゞ


 『おかあさん』ネタも再登場です。
 リメイクってやつですね。……流用とも言いますが(^ ^;
 ストーリー上、必要だったんです。
 決して手抜きでは……。


 ひかりさんには、これからも活躍してもらおうかなぁと思っています。
 ……適度に(^ ^;

 あ、そうそう。
 ひかりさんの年齢ですが、38歳ということにしておいて下さい。
 若っ!!(^ ^;;;;;
 だってねぇ〜、PS版でお顔を拝見できますが……どう見ても40代とは思えませんので。
 ちなみに、オフィシャルの年齢とは違うと思いますが、気にしないで下さいね(^ ^;
 ……そもそも、ひかりさんのオフィシャルデータってあるのかな? 情報求む!!


 ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/



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