わたし……わたしたち……ちょっと困ってます。

 だって……毎朝毎朝……。

 本当に、本当に困っているんです。





『恋文』






 どさっ!

「はわっ!!」

 どさっ!

「わっ!!」

 どさどさどさっっっ!!

「きゃっ!!」

 朝。登校してきたわたしたちを出迎えてくれたのは、下駄箱から溢れ出してきた大量の手紙でした。

「はうぅ〜〜〜」
「……………………はぁ」

 いわゆる、ラブレターという物です。

 ここ最近、わたしたちの下駄箱には、必ずと言っていいほど、大量のラブレターが入っています。
 困惑してしまうくらいに……。

「またまた一杯ですぅ」

 両手に手紙を抱えてつぶやくマルチちゃん。
 マルチちゃんに対する手紙には―――もちろん、殆どは男性からの物なのですが―――上級生の女性からの物が異様に多いみたいです。
 しかも、それらの大半が、『うふふ、子猫ちゃん』なんて内容だったりします。
 ちょっと……怖いですね。

「……困っちゃうよねぇ」

 葵ちゃんは、心底困った様に言って、手の中の手紙を眺めています。
 ちなみに、葵ちゃんには、下級生の女の子からの手紙が多いんですよ。
 でもまあ……可愛くて、運動神経の良い葵ちゃんに惹かれる気持ちは分かります。
 けど……『お姉様ぁ〜』なんて書かれていると……やっぱり、これも怖いですね。




 しばらくの間、自分たち宛の手紙を見て途方に暮れていた葵ちゃんとマルチちゃんですが……
 ふいにわたしの方を向くと、ポツリとつぶやきました。

「でも……琴音さんよりは良いですけど」
「そうだね。琴音ちゃんは……凄いからねぇ」
「うっ」

 確かにそうかも。
 わたしの下駄箱から出てきた手紙の量は、ふたりよりもはるかに多かったのですから。

「毎度のことですが……」
「尋常じゃないよね、その量は」
「あ、あはは……」

 わたしには、苦笑いする事しか出来ませんでした。
 それにしても、ホントに凄い量です。
 これだけの人がわたしに好意を持ってくれている。それは……有り難いです。感謝しています。
 でも……………………正直言って……嬉しいとは……思えません。
 だって……どれだけ想いを寄せてもらっても……わたしには……わたしには……。


 だけど、さすがに、寄せられた想いを無視する事は出来ません。
 ですから、わたしに出来る精一杯の事をさせてもらいます。
 …………また今日も、いつもの台詞を繰り返させてもらいます。

 わたしに出来るのは、それだけなのですから。





「ごめんなさい。
 わたしには好きな人がいるんです。わたしには、その人以外の男性を好きになる事は出来ないんです。
 わたしが惹かれる男性は……愛する事の出来る男性は……この世に、ただひとりだけなんです。
 唯一……藤田浩之さん……だけなんです。
 もしあなたが、浩之さんより優れていたとしても……わたしの気持ちは変わりません。
 だから…………ごめんなさい」





 相手の想いを拒む台詞。

 …………だけど、わたしの……ウソ偽りのない……本心だけで構成された台詞。










 明日は……この台詞を言わないで済めば……いいな。










 ―――と、思ったのに……。





 どさどさどさどさどさっっっっっ!!!!!!

「き、昨日より増えてるぅ〜」
「こ、琴音さん……ファイトですぅ」
「あ、あはは……が、頑張ってね、琴音ちゃん」
「うにゅ〜〜〜(泣)」

 苦難の日々は……まだまだ当分続きそうです。









 ☆ あとがき ☆

 超々短編です(^ ^;

 いや〜、急に思い付いたんですよ、この話。
 (電波が飛んできたとも言ふ)
 出勤途中に(^ ^;
 思わず、通勤電車の中で手帳に書き殴ってしまいました。
 しかも、完成させてるし。
 我ながら……何をやってるんだか(;^_^A
 ま、いっか(おい

 ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/



戻る