アタシとあの娘は一心同体。
 だから、あの娘が好きな物はアタシも好き。
 あの娘が嫌いな物はアタシも嫌い。

 ……あの娘が愛する人は……アタシも愛する。

 だから、アタシは『アイツ』ともっと話をしてみたいと思っていた。
 触れ合いたいと思っていた。

 抱かれたいと……思っていた。

 だけど……

 だからと言って……

 情事の最中に交代されたら、いくらなんでも困ってしまう。




『レミィとアタシと』






 気が付くと、アタシはヒロユキの腕の中にいた。

 ……どうしろって言うのヨ、この状況。

 ヒロユキに抱かれている。……その事実は、アタシの胸を激しく高鳴らせた。
 ヒロユキに体中を優しく触られている。……その事実は、アタシの頬を朱に染めさせた。

 アア。ヒロユキの腕の中って心地良いナ。
 いっそのこと、このまま、ヒロユキに身を委ねてしまいたい。
 しかし、その衝動を、アタシはすんでの所で押しとどめた。
 それは、『ヒロユキが抱いているのは『レミィ』であって、アタシじゃない』という気持ちがあるからだ。
 だけど……この温もりを自分から手放す気にもなれなかった。

 どうしよう。どうしたら……どうしたら……。

「ん? レミィ、どうかしたか?」

 感情と理性のせめぎ合い。
 そんな、アタシの逡巡が表に出ていたのか、不思議そうな顔をしたヒロユキが不意にそんなことを言ってきた。

「ウウン。なんでもないヨ」

 『レミィ』の振りをして、アタシは、明るい声で答えを返した。
 アタシが『レミィ』じゃない事をヒロユキに知られたくなかったから。
 アタシが『レミィ』じゃないと知られたら、ヒロユキが離れてしまいそうな恐怖感を感じてしまったから。
 だから……つい、アタシが『アタシ』であることを偽ってしまった。

 でも、そんなアタシに対して、ヒロユキはサラッと爆弾を投下してきた。

「あれ? お前、もしかして……モード変わってる?」

 …………………………………………へ!?
 バレてる!?
 なんで!? どうして!?

「うん、間違いない。お前、『ハンターレミィ』だろ」

 アタシの目を見て言い切るヒロユキ。

「ち、違うワ。アタシは『ハンター』なんかじゃ……」
「違わねーって」
「…………」

 一言で切り捨てられ、アタシは言葉に詰まってしまう。

 ……フゥ、やれやれ。
 そんなに断言されるほど完璧にバレているのなら、いつまでもしらを切っても意味がない、か。
 まったく、コイツってば変なとこばっかり鋭いんだから。
 ……仕方ない。
 観念したアタシは、素直に正体を明かすことにした。

「アーア、バレちゃった。そ・う・ヨ。アナタの言うとおりヨ。よく分かったわネェ〜」

 前言撤回。
 『素直』には明かさなかった。

「そりゃ、分かるさ。なんたって『愛するレミィ』のことだもんな」

 しかし、ヒロユキは挑発的な言葉をサラッと受け流すと、アタシに対して優しく微笑みかけた。

 ズキッ!

「フーン。『愛するレミィ』ネェ」
「おう。心の底から愛しちゃってるぞ」

 ズキッ!

 ……ヒロユキが『あの娘』に対して『愛』という言葉を使うたびに、アタシの胸が小さく痛んだ。
 自分でも分かってる。ヒロユキが愛しているのは『レミィ』であって……『アタシ』じゃない。ヒロユキは、アタシのことなんか見ていない。
 分かっているし、とっくに分かっていた。
 それなのに、その事を自覚するたびに胸に棘が突き刺さったような痛みが走る。

 アタシは、その痛みを誤魔化すように軽い口調でヒロユキに言葉をかけた。

「ハイハイ。ご馳走様。ヒロユキは『レミィ』にべた惚れなのネェ」
「ははは。まあな」
「…………フーン。…………それじゃあ…………アタシは?」
「え?」

 え!?
 自分で口走ってしまった言葉に、アタシ自身が衝撃を受けてしまった。
 何言ってるのヨ、アタシは!?
 そんな……そんな……。
 アタシは激しく動揺した。おそらく、問われたヒロユキ以上に。

「お前のこと? うーん、そうだなぁ」

 ち、ちょっと! そんな真面目に考えなくていいわヨ!
 だいいち……答えなんて分かり切っているんだから。
 ヒロユキが、アタシのことを好きなわけがないんだから。
 だから、『NO』って即答してヨ。考えられたりしたら……期待しちゃうじゃない。
 そんなの……残酷だヨ。

 でも……もしも……もしかしたら……



 そして……数秒の後、ヒロユキの口から答えが発せられた。

「何度も言ってるだろ。俺はレミィの事が好きなんだって」

 ――と。

 ……………………。
 ……フフ。やっぱり、ネ。思った通りヨ。
 ヒロユキが好きなのは『レミィ』なんだから。アタシなんか、ただの邪魔者でしかないんだから。
 最初から分かっていたこと。笑っちゃうくらいに分かり切っていたこと。
 それなのに、ほんの僅かでも期待してしまったなんて…………アタシ……バカだ。
 心が、悲しみと落胆の気持ちで、黒く塗りつぶされていく。
 涙を零す事だけは何とか耐えたが、それでも、表情が沈んでいくことだけは止める事ができなかった。

 そんな時だった。

「お前さぁ。なんか大きな勘違いしてるだろ」

 アタシの頭を撫でながら、ヒロユキが優しい口調で話し掛けてきた。

「告白を拒絶されたみたいな顔しやがって。ったく、しょーがねーなぁ」
「なに言ってるのヨ!! アナタが好きなのは『レミィ』なんでしょ!? アタシじゃないんでしょ!? それって、立派な拒絶じゃない!!」

 ついつい、アタシは強い口調でヒロユキに噛みついてしまった。
 だけど、ヒロユキは、アタシの言葉を軽く受け流すと、逆にアタシに問い掛けてきた。

「じゃあ、お前は『レミィ』じゃないのか?」
「……………………へ?」

 その問いに、アタシは思わずマヌケな声をあげてしまう。

「さっきから何度も言うように、俺は『レミィ』が好きなんだよ」

 アタシの頭を優しく撫でながら言うヒロユキの言葉を、アタシは黙って聞いている。

「長所も短所も全部ひっくるめて『レミィ』が好きだ。そして、その『全部』の中には、当然お前も含まれてる」

 ヒロユキの声を耳に心地良く感じながら、アタシは無意識のうちにヒロユキの体に身をすり寄せていた。

「つまりさ……その……なんつーか……。上手く言えねーんだけど……俺にとっては、お前も『レミィ』なんだよ。俺の可愛い『レミィ』なんだ。
 だから、俺が『レミィ』に対して『好きだ』とか『愛してる』と言ってる時はさ、同時に、お前にも言ってる事になるんだよ。少なくとも、俺はそう思っている」
「……そ、それじゃあ……ヒロユキは……アタシのこと……」

 震える声で、アタシは問い掛けた。
 微かな不安と、大きな期待を胸に。

 そんなアタシに、ヒロユキは真剣な顔で答えた。

「好きだぜ」

 その言葉を聞いた瞬間、アタシの涙腺は壊れた。

「……………………ひ、ヒロユキ」

 止まらない。
 さっきは流すことを我慢できた涙が、今度はまったく耐えられない。

「おいおい。そんなに泣くなよ。お前って、実はかなりの泣き虫か?」
「う、うるさいわネ! 見るんじゃないわヨ!!」

 泣き顔をヒロユキに見られるのが無性に恥ずかしい。
 でも……涙を流す事自体は悪い気はしなかった。

 心をあたたかさで満たしてくれる涙がある事を、この夜、アタシは初めて知った。

 しばらく、アタシは涙を流し続けた。
 その間、ヒロユキは、ずっと優しく頭を撫で続けてくれていた。
 子供扱いされているみたいで少し照れくさかった。
 だけど、嬉しい気持ちの方が何倍も大きかった。

 数分後、ようやく落ち着いたアタシは、

「ネェ、ヒロユキ? ホントにアタシのこと、好き?」

 再び、この質問をヒロユキにぶつけた。

「ああ。好きだぜ」
「ホント? ホントにホント?」
「本当だって」
「だったら……」

 そこで一回言葉を切ると、アタシはイタズラっぽく微笑んだ。

「な、なんだよ?」
「証拠を……見せてほしいナァ」
「証拠?」
「ウン♪」
「証拠、ってなんだ? 俺には何のことかさっぱりわからねーぞ」

 ニヤニヤと笑いながら、とぼけたセリフをのたまうヒロユキ。
 こ、コイツは……。

「まあ、証拠になるかどうかはわからねーけど、取り敢えず、俺の気持ちを態度で示させていただくとしますか」

 そう言うと、ヒロユキはアタシの上に覆い被さってきた。

 エッ!? エッ!? ち、ちょっと!?
 アタシはそこまでしろとは言ってないわヨ!
 ただ、少しキスをしてほしかっただけで……。
 ……って、コラ! どこを触ってるのヨ!

 アーン、ヒロユキのエッチィ〜〜〜!!





 その後の事は、おぼろげにしか覚えていない。


 覚えているのは、

 恥ずかしいくらいに乱れてしまったこと。

 何度も弾けてしまったこと。

 ヒロユキの目が……手が……凄く優しかったこと。



 そして……



 『よかったネ♪』

 頭の中で響いた『レミィ』の声。





 あの娘……まさか、わざとあのタイミングで交代したんじゃないでしょうネ。

 ウーン。『レミィ』だったらありえるかも。

 まったく、お節介なんだから。

 でも、今回だけは、あなたのお節介を感謝しとくワ。



 ありがとうネ。もう一人のアタシ。















 『クスクス。いつもこれくらい素直だったら可愛いのにネ』

 『ほっとけ』










 ☆ あとがき ☆

 リハビリ作品です。

 ここのところ、娘の話ばかり書いていましたからね(;^_^A

 ……とはいえ、今回のヒロインは、半ばオリキャラ化している『ハンターレミィ』。

 うむむ。もしかしたら、あんまりリハビリになってないかも(^ ^;

 ……ま、まあ良し。あまり深く考えないようにしよう(をい

 ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/



戻る