どうだ、セリオ? ビデオの準備は?  はい。完璧です。100%です。怖いくらいに抜かりありません!  ……そ、そうか。  わたし……なんか、ドキドキしてきちゃった。  おいおい。理緒ちゃんが緊張してどうするんだよ。  そ、そうだよね。あはは。  もうすぐ時間だよ、浩之ちゃん。  おっ。そろそろ始まるな。  それでは、あいつの晴れ姿をじっくりと拝ませてもらうとしますか。



『知名度』






『みなさん、こんにちわ。司会進行役の辛島美音子です。  それでは早速、本日のゲストをお招きしましょう。本日のお客様はこの方。  格闘技界のスーパーアイドル。エクストリームのクイーン。来栖川綾香さんでーす♪』 『こんにちわ。来栖川綾香です』 『今日は、来栖川さんにビシビシ質問を浴びせちゃいますね。よろしくお願いします』 『あはは。お手柔らかにお願いします』  ほー。さすがは綾香。堂々としたもんだぜ。  ホントやな。全然緊張してないようやし。  ほえ〜。綾香さん、凄いですぅ〜。 『それでは、一つ目の質問です』 『はい』 『次のエクストリーム大会が1ヶ月後に迫りました。  綾香さんは当然優勝候補に挙げられているわけですが、自信の程は?』 『自信はあります。例え誰が相手であろうと負ける気はしません』 『それは優勝宣言と受け取ってもいいですか?』 『構いません。  優勝候補に挙げられている以上マークも研究もされます。  全試合厳しい戦いになるでしょう。  でも、それでもあたしは勝ちます。勝てると信じています』 『そうですね。来栖川さんは徹底的にマークされるでしょうね』 『はい。そう思います』 『では逆に、来栖川さんの側がマークしている選手というのはいますか?』 『そうですね。……………………一人だけいます』  え? 誰でしょう? 綾香さんがマークしてる相手って?  分からないかい、葵ちゃん。  はい。まったく見当も付きません。  ははは。葵ちゃんらしいな。  ……………………え? 『それは誰ですか?』 『それは……同門の松原葵です』  ええぇぇぇぇーーーーっ!? わ、わ、わたしですかっ!? 『松原……葵選手、ですか?』 『はい。近い将来、あたしの最強のライバルとなるのは間違いありません。  いえ、既になっているかもしれません。  もしも、次の大会であたしを倒す選手がいるとしたら……それは十中八九……葵でしょう』 『なるほど。松原葵選手……要注目ですね』 『はい』  そ、そんな。わたしが綾香さんのライバルだなんて。おこがましいです。  なに言ってんだよ。俺は綾香の言う通りだと思うぜ。  ……そうでしょうか?  そうさ。だから自信持ちなよ。『葵ちゃんは強い!』…………だろ?  …………くすっ。そうですね。  わたし、綾香さんを倒せるような選手になれるように頑張ります!  その意気だぜ。葵ちゃん。 『そう言えば……同門といえば、来栖川さんの高校からはもう一人選手がエントリーしてますね。  えっと……藤田浩之選手ですね』 『はい』 『藤田選手も松原選手と同様、今度の大会が公式戦初参加となるわけですが……  どのような選手なのですか?』 『そうですね。彼は良い選手ですよ。パワーもありますしスピードもスタミナもあります。  経験さえ積めば、必ずナンバーワンの選手になると確信しています』 『なるほどなるほど』 『……ただ……』 『ただ?』 『…………変な奴ですけどね』  こけっ!  あーやーかー!  誰が変な奴だ、誰が!?  ……って、みんなも納得するなっ!! 『へ、変な奴……ですか?』 『変な奴です』 『そ、そうですか。あはは。  えっと……ではでは、ここで一回CMに入りま〜す♪』  だーーーっ!!  きっぱり言うな! きっぱりと!  ったく。帰ってきたらたっぷりとお仕置きしてやる。  お仕置き…………たっぷりと…………。あーん、藤田さんってばエッチぃ〜。やんやんやん  ……………………あのねぇ。 『それでは、ここからは少し突っ込んだ質問をしてみましょう』 『あ、あはは……』 『では、まずは無難なとこから。  来栖川さんの趣味はなんですか?』 『趣味ですか? そうですねぇ。お茶とお華ですね』 『へ〜。凄い。それは随分と高尚な趣味ですねぇ』 『いえいえ。これくらい淑女の嗜みですよ。おほほほほ』  こけけけけけっ!!  ……アヤカ、いけしゃあしゃあとよく言うわネ。  ……………………うそつき。 『では、来栖川さんにとって、一番大切な物はなんですか?』 『それは……家族です』 『家族?』 『はい。あたしにとって一番安らげる場所ですから。  何があろうとも、絶対に失いたくありません』  そうやな。わたしも同じや。  わたしもです。以前の様なひとりぼっちには二度と戻りたくありませんから。  大丈夫だよ。ひとりぼっちになることなんて絶対にないさ。  だって、俺たちはずっと一緒なんだからさ。ずっと、な。 『そうですよね。やっぱり家族は大切ですよね。  えっと……それでは、次の質問です。  来栖川さんの理想の男性像は?』 『え? 理想の男性像ですか?  ……あの……パスってありですか?』 『無しでーす。特に、この質問に関しては絶対に却下です』 『あうあう』 『さぁ。きびきびと答えて下さいね』 『では……えっと……、  頼りがいがあって……優しくて……明るくて……格好良くて……  ときどきバカなことを言って笑わせてくれて……そして、一緒にいて安らぎを感じる人  ……ですね』 『な、なんか理想が高いですねぇ。そんな人そう簡単には見付かりませんよ』  そうだそうだ。そんな奴がいるなら見せてみろ。  ……………………浩之ちゃん、いつも見てるでしょ?  はぁ? 『心配ご無用です。だって、すでに見付けましたから…………って…………あ、やば』 『え!? も、もしかして……来栖川さん、恋人がいらっしゃるのですか!?  これって……す、スキャンダル?』 『あうあう』  へ? さっきの理想像って、俺のこと?  そうだよ。まさか、本気で気付いてなかった?  気付いてなかった。  …………浩之ちゃんって、変なとこで鈍感だよね。  ま、まあ、それはさておき。  セリオ、この番組って全国放送だったよな?  そうです。全国ネットです。  どうすんだよ、綾香。爆弾発言しちまって。 『もしかして……そのお相手って……藤田選手だったりして』 『……………………(ぼっ)』  こら! そこで真っ赤になるな!  あらら。あれじゃ肯定してるようなもんやな。  バレバレだネ。 『あら。本当に藤田選手が恋人さんなんですか♪』 『えっと……その……。  …………………………………………すーはーすーはー。  違います、浩之は恋人じゃありません』  おっ。何とかごまかすか。 『浩之はフィアンセです』  こけっ!  がんっ! 『ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?  ほ、ほ、ほ、本当ですか!?』 『はい。本当です』  ぴくぴく…… 『な、なんと、来栖川さんにフィアンセが!!  ……と、衝撃の事実が判明しましたところで残念ながらお別れの時間となりました。  本日のゲスト、来栖川綾香さんでした。ありがとうございましたぁ〜♪』 『ありがとうございました☆』 『それでは、また来週この時間にお会いしましょう。さよ〜なら〜♪』  ぴくぴくぴくぴく…………  ぴくぴくぴくぴく…………  ……………………藤田先輩、これで校内どころか、全国に敵を作ってしまいましたね。  浩之さん、有名人さんになっちゃいましたね。  藤田くん、ふぁいとっ、だよ。  …………ふぁいとっ、です。  ぴくぴくぴくぴく…………  ぴくぴくぴくぴく…………  ぴくぴくぴくぴく…………  この日以来、藤田浩之の知名度は抜群に上昇することになる。  また、エクストリーム公式大会初出場にも関わらず、  多くの有力選手に徹底マークされ、尚かつ目の敵にされることになるのだが……  それはまた別の話である。







 ☆ あとがき ☆  この話って、ある意味単なる伏線だったりして(;^_^A  ……予告編とも言いますが。  ……場つなぎとも言います。  つーか、  ごめんよー(;;)


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