困ったことに……俺と綾香は根っからの勝負好きだ。

 休みの日など、一日中、二人で勝負事を繰り返すことも珍しくない。

 そう。例えばこんなふうに……。




勝ったり負けたり






 ―― 午前 ――  休みの日の習慣としている午前中のトレーニング。  その締め括りとして、俺は綾香とスパーリングを行ったのだが…… 「WINNER! 綾香さん!」  結果は、セリオが高々と宣言した通りになってしまった。 「へっへーん。当然っ♪」  満面の笑みを浮かべて勝ち誇る綾香。  いつもは綺麗に感じる綾香の笑顔だが、今は憎たらしいことこの上ない。 「くっそー、納得いかねぇ! 今のはまぐれだ。偶然だ。たまたまだ」  往生際が悪いとは思いつつも、ついついブツブツ言ってしまう。  それほど、負け惜しみを言いたくなってしまうくらい、今の勝負は紙一重だったのだ。  最後の瞬間。俺と綾香の間合いがあと3センチ離れていたら、綾香の反応が0.1秒遅れていたら……  勝ち誇っていたのはきっと俺の方だっただろう。  それだけ際どい対戦だったのである。 「ふふーん。まぐれ、ねぇ。まあ、そういうことにしておいてあげましょうか。  確かに、ラッキーだった面もあるしね。それは認めるわ。  でもぉ〜、まぐれだろうとなんだろうと、あたしの勝ちは勝ちよねぇ♪」 「……ぐっ」  余裕綽々の綾香のセリフ。  それを悔しく思いながらも、実際その通りなので何も言い返せない。 「やっぱ、運命の女神はあたしの味方をするようになってるのよ」 「きっと、性格の悪い女神なんだろうな」 「何とでも言いなさい。おーっほっほっほ」  うわ、すっげーむかつく。  それにしても、いつも思うのだが、本当はスパーリングで白黒つける必要ないんだよな。  スパーリングは、あくまでも実戦形式の練習なんだから。  なのに、毎回勝ち負けが決まるまで続けるんだよなぁ。  勝敗も着かないうちに闘いを終えるのは確かにスッキリしないけど、  でも、それじゃ練習じゃなくて、まんま実戦だって。文字通りのリアルファイト。  まったく、なにをやってるんだか。俺も綾香も。 「また今度、胸を貸してあげるわね。ふ・じ・た・く・ん♪」 「言ってろ。次は絶対に勝たせてもらうからな」  それもこれも、俺と綾香の負けず嫌いな性格が原因だな。間違いなく。  ま、楽しいからいいけどさ。  < 1日の通算結果:0勝1敗 >

○   ○   ○
 ―― 午後 ―― 「ねぇねぇ。ゲームしよ、ゲーム」  綾香がゲーム機とソフトを持って俺の部屋を訪れてきた。  どうやら、暇を持て余しているらしい。  同じく暇を満喫していた俺は、1秒で了承する。 「いいぜ。やろうか」 「うん♪」  嬉しそうに答えて、ゲーム機をセッティングしていく綾香。 「で? どんなソフトを用意してきたんだ?」 「えっとね。『ストライキファイター』の最新作でしょ。それにポリゴン格闘の……」  ゲームでも格闘ですかい。いや、別に好きだからいいけど。 「ふっ。格闘ゲームで俺に挑もうとは笑止。ぐうの音も出なくしてやるぜ」  伊達に志保のやつとゲーセンバトルを繰り広げている俺ではない。  その成果をイヤと言うほど見せ付けてやるぜ。 「ふ〜ん。それは楽しみねぇ〜」  俺の勝利宣言を、綾香は笑みを浮かべて受け流す。  むっ。なんだ、その余裕は?  まあいいか。すぐにギャフンと言わせてやる。 「それじゃ、始めようぜ」 「OK♪」  そして…… 「ギャフン」  数分後、俺の声が部屋の中に虚しく響き渡った。 「こ、こんなはずでは……」 「悪いわね、浩之。ゲームの格闘でもあたしの勝ちみたい」 「うぐぐ」  返す言葉がない。 「一試合一試合は割と全部接戦だったけど、でも、結局はあたしの全勝だったわねぇ〜」  そうなのだ。一回ごとの対戦は全試合接戦だったのだ。  それだけに余計に悔しい。 「しっかし、なんで綾香がそんなに強いんだよ?」 「だって、セリオに鍛えられてるもん」 「は? セリオに?」 「そうよ。あの娘、すっごく強いの」  そりゃあそうだろう。  超高性能なCPUを積んでるセリオにしてみれば、TVゲームなんて子供騙しもいいとこだろうからな。 「以前は下手だったんだけどね。あたしに連戦連敗してたし。  でも、それがよっぽど悔しかったみたいで猛特訓したのよ。自分専用のゲーム機を買ってきて。  おかげで、今では途轍もなく強くなっちゃったわ」  …………前言撤回。  セリオが強いのは努力の成果らしい。  それにしても、格闘ゲームにどっぷりとはまるメイドロボか。  何て言うか、相変わらず変なやつだよなぁ。まあ、非常にセリオらしいとも言えるけど。 「と・に・か・く。今の勝負は完璧にあたしの勝ちね」  心底嬉しそうに言う綾香。 「へいへい。仰るとおりで御座います」  ゲームの結果はもちろんだが、綾香の綺麗すぎる笑顔にも敗北を認めてしまう俺であった。  < 1日の通算結果:0勝2敗 >
○   ○   ○

 ―― 夜 ―― 「ピンポンピンポン♪ 大正解!」  俺と綾香は、テレビのクイズ番組を見ながら正解数を競っていた。  この番組は常に5問出題する。問題数が奇数というのは、こういう場合には都合がいい。  正解同数という事が起こらずに、勝ち負けがはっきりするからな。  3問が終わった時点で、俺が1問、綾香が2問正解している。  俺が勝つには、残りの問題を連取するしかないわけだ。  基本的に、俺は雑学系、綾香は教養系が強い。  あとの問題で雑学系が出れば、まだまだ逆転は可能だ。  俺は祈るような想いでブラウン管に目を向ける。 『さて、次は3択問題です。お菓子にはいろいろありますね。洋菓子や和菓子、スナック菓子。  それでは、次に挙げる3品。  1:ショートケーキ  2:月餅(げっぺい)  3:ポテトチップス  このうち、最もカロリーの高いお菓子はどれでしょう?』  よっしゃ! やった。雑学問題だ。  俺は、チラリと視線を横に向ける。  そこでは、綾香が真剣な顔で考え込んでいた。 「ショートケーキは如何にもすぎよね。だから、これはパス。  月餅は甘ったるいけど中に入ってるのが餡子だから、カロリーはそんなに高くないわね。  というわけで、これもパス。  だとすると……よしっ、決めた! 3番よ」 「あっそ。じゃあ、俺は2番だ」 「本気? 多分、一番カロリーが低いわよ」 「いいからいいから」 「気になるわねぇ」 「まあまあ。そんなことより……ほら、そろそろ答えを言うぞ」  余裕綽々の表情で答える俺に怪訝な顔をしながらも、  綾香はテレビに視線を向けて司会者が解答を言うのも待つ。 『それでは解答です。正解は……2番の月餅です!』 「よしっ!」  思わずガッツポーズなどを取ってしまう。 「う、うそでしょ」  反対に、綾香は愕然とした表情になる。  自信を持って答えただけにショックも大きいようだ。  確かに、月餅は餡子を使った菓子だからカロリーが低く感じるが、それは実は大間違い。  同じ餡子でも、日本の餡子は低カロリーなのだが、中国の餡子はカロリーがバカ高なのだ。  そして、元々中国菓子である月餅には当然のように中国の餡子が使われている。  それに加えて、月餅にはクルミや塩漬け卵などが入れられている場合が殆ど。  そのカロリーの高さたるや、ケーキやポテチなど足下にも及ばないのである。 「ふっふっふっ。雑学だったら任せなさ〜い!」 「く、悔しいぃ〜〜〜!」  よしよし。流れが向いてきたぜ。  最後の問題……雑学系カモーン!! 「5問中3問正解、か」 「うん。あたしがね」 「うぐぐぐぐ」  何故だ!? 俺は流れを掴んだはずなのに!  それなのに、なんで最後の問題が教養系なんだ!?  その問題は当然のように綾香が正解した。  ……で、結果は前述したように綾香の3問正解。  俺はまたしても綾香の前に敗れ去ってしまったのである。 「やれやれ。一時はヒヤッとしたけど、終わってみれば順当だったわね」 「く、くそー」  輝くような笑顔でのたまう綾香とは対照的に、悔しさでいっぱいの俺なのであった。   < 1日の通算結果:0勝3敗 >

○   ○   ○

 ―― 深夜 ―― 「これも、今日こそは勝たせてもらうからね」 「へいへい。言うだけならタダだからな」  そして、いろいろあって……  ようやく、俺と綾香の激しい1日が幕を閉じるのであった。   < 1日の通算結果:0勝3敗1大圧勝 >

< おわり >
  ―― 追 ―― 「ねぇ。ひろゆきぃ〜」 「ん?」 「負けっ放しじゃ終われないわ。だ・か・ら、リターンマッチよ」 「りたーんまっちぃ〜? ふっ、無駄なことを。返り討ちに遭うのは目に見えてるぜ」 「なによぉ。やってみなければ分からないじゃない。少なくとも、今度はそう簡単には負けないからね」 「いいだろう。そこまで言うのなら相手になってやるぜ」 「うん」  どうやら、俺たちの1日は、まだまだ終わらないみたいだった。



 ☆ あとがき ☆

 40万HIT&綾香嬢ご生誕日(1/23)記念…………の超短編おばかSSです(^ ^;;;  てなわけで、ヒロインは綾香です。  「また綾香?」と思われた方も多いでしょうが……またです(;^_^A  『たさい』の実質的なメインヒロインってもしかしたら綾香なのかも(^ ^;  私の中ではメインヒロインはあかりんなんですけどね(説得力ゼロ)( ¨)オヨグメ  ま、いっか。綾香も大好きだから(;^_^A  ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/  (あとがきでも追)  深夜の勝負……二人はいったい何をしてたんでしょ?  ベッドの中で……指相撲かな?(^ ^;

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