『おやくそく』






 ある日の昼休み。  食事も終わってみんながのんびりと過ごしている時間。  そんな中、浩之たちは垣本が持ってきたグラビア系雑誌を見ながら盛り上がっていた。 「どうだよこの娘。すっげー可愛いと思わないか? 思うだろ? なあ? なあ?」  お気に入りのアイドルの写真を指差して、垣本が熱く語る。 「そうだね。可愛いと思うよ」  穏やかな笑みを浮かべて雅史が同意する。 「まあな。確かに良い線行ってると思う。  でもなぁ、そんなに騒ぐほどでもないような気がするぞ」  対照的に、浩之はやや冷めた意見を発した。 「おいおい。なんだよ藤田。お前の目は節穴か?」 「んなこと言われてもなぁ。俺には大したことないようにしか思えないんだよ」 「へいへい。さいですか。まあ、お前のような目の肥えまくったヤツに俺の感動を理解してもらおうと  思ったのがそもそもの間違いだったんだよ」 「はぁ? なんだよそれ?」 「いいんだよ。可愛い彼女がいるヤツには、俺の気持ちは解らないさ」  “やれやれ”といった感じで肩を竦める垣本。  そんな垣本を、雅史が苦笑しながら見つめる。 「……って、そういえば、お前も彼女持ちじゃないか。ちくしょう、佐藤も敵だ」  垣本が冗談めかして雅史に言った。 「よく言うよね。そんなこと、垣本には言われたくないよ」  イタズラっぽい笑顔を浮かべて雅史が返す。 「ん? それはどういう意味だ、雅史?」 「実は垣本はさ。このクラスのよし……」 「わーっ! わーっ! わーっ!」  不思議そうな顔で訊く浩之に答えようとした雅史。  しかし、それを垣本が大声を出して妨害する。 「そ、そんな話はどうでもいいんだよ! それより今は、この雑誌を思う存分堪能しようじゃないか。  なっ! なっ!」  強引に話を逸らそうとする垣本。  それを見て、浩之と雅史が苦笑いを浮かべる。 「わかったわかった。だから、そんなに必死になるなよ」 「そうだね。では、垣本についてはまた後日ってことで」 「だーかーらー! 後日にもしないって!  ……ったく。そんなことよりも、見てみろよ、この娘」  雑誌を指差して、垣本が強引に話を軌道修正した。 「Fカップだってさ。やっぱり、大きな胸の娘っていいよなぁ。藤田だってそう思うだろ?」 「まあ、そりゃーな。感触だって良いし…………う゛っ」  浩之の言葉が途中で止まった。否、止められた。  背中に、突き刺さるほどの視線が浴びせられたのだ。  おそるおそる振り返ってみると、そこには『ニッコリ』と笑顔を浮かべたあかりと理緒の姿があった。  背筋に冷たい汗が流れるのを感じた浩之は、取り繕うように言葉を続けた。 「い、いや……大きけりゃいいってもんじゃないぞ。  意外と、小さい胸の方が手に馴染んで良かったり……う゛う゛っ」  再度突き刺さってくる視線。  嫌々ながら再び振り返ると、綾香・智子・レミィ・芹香・セリオが浩之のことをジーッと見ていた。 「な、何と言うか……大きい方がセクシーではあるかも……う゛っ」  にっこり。 「で、で、でも……小さい方が可愛らしいというか……う゛う゛っ」  ジーッ。 「だ、だけど……大きいと大人っぽい感じがして……う゛っ」  にっっっこり。 「し、しかし……小さい方が清楚な感じが……う゛う゛っ」  ジーーーーーーッ。  フォローしようとすればするほどドツボに陥る浩之。既に、冷や汗で体中びっしょりだった。  そんな浩之を見ながら、 (家に帰ってから大変だろうなぁ。下手したらお仕置きされるんじゃないかな?)  雅史と垣本は共通の見解を抱いていた。 (……南無)  二人は、心の中で友に向かって手を合わせるのだった。  浩之が近い未来に味わうであろう責め苦に同情して。  ――と同時に、二人は肝に銘じていた。 “彼女が近くにいる時は、絶対に迂闊なことは言わないようにしよう”と。

< おわり >


 < おまけ >  ――次の日の昼休み。 「雅史。垣本。胸の大きさを気にするなんて間違ってるよな」 「う、うん。そうかもね」 「あ、ああ。まったくだ」  なにやら悟った様子で言う浩之に、二人は反射的にうなずいてしまう。 「そう。大きさじゃないんだ。大事なのは感度。感度だよ」 「「……は?」」 「昨日、そのことを改めて確認できる機会を得たんだ。……あれは、実に意義のある時間だったな」 「「…………」」  あまりと言えばあまりなお約束な展開に、二人は言葉を喪失してしまう。 (もしかして……今日、あかりちゃんと綾香さんと保科さんが学校を休んだのって……浩之の所為?)  そう思いながら視線を動かすと、机に突っ伏している芹香・レミィ・セリオ・理緒の姿が 目に入ってきた。 (浩之の所為……なんだろうなぁ、間違いなく。あ、あは、あはははは……)  いかなる逆境をも跳ね返してしまう浩之のたくましさ(?)を再認識し、乾いた笑いを零すことしか 出来ない雅史であった。  ちなみに、下級生組の中では琴音が欠席していたりしたのだが……それはまた別の話である。





< ホントにおわり >


 ☆ あとがき ☆  はい。お約束です(;^_^A  展開が読みまくれる話ですが……気にしないで下さい( ̄▽ ̄;

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