何時いかなる時も常に一緒、常にベッタリだと思われている藤田家の面々。

 だが、もちろんそんな事があるわけはなく、休みの日などは、結構別行動を取っていたりする。

 例えば、この日の彼女たちの様に。





『休日の過ごし方』
< セリオ&綾香の場合 >






 午前10時ちょっと過ぎ。
 まだ、かろうじて朝と言えない事もない時間。

 セリオと綾香が商店街を並んで歩いていた。
 片や満足そうなホクホク顔で、片や不満を張り付かせた表情で。

「まったくもう。なんであたしがそんな買い物に付き合わなきゃいけないのよ」

 セリオが両手で大事そうに抱き締めている物に視線を送りながら綾香がぼやく。

「まあまあ。偶にはいいじゃないですか」

「……ま、いいけどね。……偶には」

 ニコニコと満面の笑みを浮かべてセリオが答えた。その邪気のない顔を見て、綾香は毒気を抜かれてしまう。

「それにしても……こんなに早い時間に来なくても良かったんじゃないの? 予約してあったんでしょ、それ?」

 セリオが手にした物を指差して綾香が言う。

「だったら、何も開店と同時に購入しなくても……」

「なに言ってるんですか。早く手に入れれば、それだけ長く楽しめるじゃないですか」

「そうかもしれないけど」

 セリオが持っているのは、商店街にあるアニメショップの袋だった。
 その袋の中には、『過疎レンジャー劇場版 フィギュア付き初回限定版DVD』が入っていた。

「でもさぁ、もう何度も映画館で観たんでしょ、その作品? 今更たいして楽しめないんじゃないの?」

「そんなことありません。良い物は何度観ても良いんですよ♪」

 至極もっともな綾香の問いに、セリオはニッコリと笑いながら返した。

「あ、そ」

 その答えを予想していたのか、綾香はさして気にした風もなく受け流した。

「映画館にだって、本当だったら、あと4,5回は行きたかったんですけどね。流石にお金がもたなくて」

「……4,5回って……あなた……」

「えっと……わたし一人で2回……良太くんと1回……マルチさんと1回……レミィさんと1回……綾香さんと3回。計8回ですか。うーん、やっぱりあと最低でも4,5回は観たかったですね」

 指折り数えてセリオが言う。
 それを聞いて、綾香が心底呆れた様な顔をした。

「そ、それだけ観といてまだ足りないの? よく飽きないわね」

「愚問です。何度観たって飽きることなんてありません」

「……ところで、なんであたしだけ3回も付き合わされてるのよ? それも無理矢理に。良太くんでさえ1回なのに」

 不思議そうな顔をして綾香が訊く。

「無理矢理って……酷いですね。それじゃ、まるでわたしが強引に……」

「強引でしょうが! 泣き落としをしたり、力ずくで引っ張っていったり……。どう好意的に解釈しても強引でしょうが!」

 セリオの言葉を遮って綾香が叫ぶ。

「まあ、もしかしたら、そうとも言うかもしれませんが……」

「そうとしか言わないわよ」

 冷たい声で一刀両断する綾香。

「でも、綾香さんだって、なんのかんの言っても、ヒーロー物嫌いじゃないですよね?」

「特に嫌いってわけじゃないけど、別に好きでもないわ」

 綾香がやや憮然とした表情で答える。

「そ、そうですか。…………ちっ。まだまだ調教が足りませんね

「セリオ〜? なんか今、いや〜な単語が聞こえた気がしたんだけど?」

「空耳です」

 ジト目をする綾香に、セリオが何喰わぬ顔でサラッと答えた。

「そんな事より、早く家に帰りましょう。今日はこれから一日中上映会。オールナイトなんですから♪」

「…………そう。ま、好きにしたら」

 釈然としない顔をしながらも、綾香が興味なさそうに言う。

「なにを他人事みたいに。綾香さんも一緒ですよ」

「……へ?」

 さも当然といった風情で返してきたセリオの言葉に、綾香の動きが思わず固まる。

「な、なんであたしが? 一人で観ればいいでしょ!?」

「まあまあ。そんな遠慮なさらずに」

「してない!!」

「まあまあ。……これも調教の一環ですし

 綾香の叫びを思いっ切り聞き流してセリオが言う。

「人の話を聞きなさいってば! つーか、また嫌な単語が聞こえたんだけど……」

「幻聴です」

 キッパリと言い切ると、セリオは綾香の手を取りグイグイと引っ張り始めた。

「そうと決まれば善は急げです。一刻も早く帰って上映会です。オールナイトです」

「ちょ、ちょっと!? なにするの!? 『そうと決まれば』って、勝手に話をまとめるんじゃないわよ! あたしは付き合わないってばーっ!!」

「いいからいいから」

「よくなーーーい! 人の話を聞けーーーっ!!」

 綾香が必死に抵抗するが、セリオはまったく気にせずに手を引っ張り続けた。

「だーっ! 手を放しなさいってば! そもそも! 誰かを同じ趣味に引き込みたいっていうあなたの気持ちは分からないでもないけど! それがなんであたしなのよ!? 他の娘でもいいでしょうが!!」

「なにを言ってるんですか。わたしが何かを企む際、その対象は綾香さんに決まってるじゃないですか。それが『お約束』というものです」

「『企む』って何よっ!? 『お約束』って何よーーーっ!?」

 身も蓋もないセリオの発言に、綾香が身を捩らせて絶叫する。

「そんな些細な事、気にしない気にしない」

「些細じゃない! ぜんっぜん些細じゃなーい!」

「気の所為です。うふふふふ。今日は寝かせませんからね」

「いやーっ! そんなのいやーーーっ!!」

 誤解を招きかねない不穏当な発言をするセリオに、綾香が半泣きになって抵抗する。

「綾香さんなら、すぐにはまりますよ。大丈夫、辛いのは最初だけですから♪」

「いやだってばーっ! あーん! ひろゆきぃー、姉さーん、誰か助けてーーーっ!!」

 商店街に、綾香の悲痛な叫びが響き渡った。
 だが、綾香に救いの手が差し伸べられることはなく、周囲からの奇異の視線を集めたのみであった。





 ちなみに、セリオたちが家に帰り着いた後、綾香がどの様な運命を辿ったのかは定かではない。





 ただ、綾香はこの日から暫くの間、『DVD』とか『オールナイト』という単語に異様なまでの拒絶反応を示すことになるのだが……、

「DVDはいやー! オールナイトはいやーーーっ!」

 その理由は謎に包まれていた。







< おわり >







 ☆ あとがき ☆

 通勤電車内執筆では、これが精一杯( ̄▽ ̄;

 時間欲しいの(;;)


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