何時いかなる時も常に一緒、常にベッタリだと思われている藤田家の面々。

 だが、もちろんそんな事があるわけはなく、休みの日などは、結構別行動を取っていたりする。

 例えば、この日の彼女たちの様に。





『休日の過ごし方』
< 琴音&葵の場合 >






 琴音ちゃんと葵ちゃん、今日は新しい水着を買うためにデパートに来ています。

「ねぇ、琴音ちゃん。これなんかどうかな?」

「うーん。悪くはないけど、いまいち色気に欠けるかな」

「……い、色気って……」

 あーでもないこーでもないと意見を交わしながら水着を物色しています。

「どうせだったら、こういうのにしようよ」

 そう言って琴音ちゃんが手に取ったのはストリング・ビキニ。しかもタイ・サイド・ボトム。
 いわゆる『ひもパン』です。

「そ、それは……確かに色気はあるけど……」

 あからさまに躊躇する葵ちゃん。
 そんな葵ちゃんを後目に、琴音ちゃんは一人でどんどん暴走していきます。

「こんなのを着たら……こんなのを着たら……きっと……きっと……。





『今日は、藤田さんの為に少し冒険してみました

『可愛いよ、琴音ちゃん。よく似合ってる』

『ありがとうございます。そう言っていただけると、恥ずかしいのを我慢して着てきた甲斐があります』

『うーん。それにしても……』

『? なんですか?』

『そういう水着を見ると……ついつい紐を引っ張りたくなるよなぁ』

『も、もう! 藤田さんのエッチ! なにバカなことを言ってるんですか!』

『あはは。ウソウソ。冗談だよ、冗談』

『…………でも…………藤田さんにだったら…………』

『えっ?』

『藤田さんが望むのでしたら…………わたし…………構いません』

『こ、琴音ちゃん』

『ほどいて…………下さい。藤田さんの手で』





 わたしの言葉を受けた藤田さんは、やや躊躇いを見せながらも手を水着の紐に伸ばしてきて……。
 羞恥に身を震わせながらも、わたしはその手を黙って受け入れるんです。
 やがて……わたしは輝く太陽の下、生まれたままの姿にされてしまって……それで……。
 や〜ん、藤田さんのえっちぃ〜♪」

 さすがは琴音ちゃん。妄想街道まっしぐら、今日も絶好調です。

 そんな琴音ちゃんの身悶えっぷりを唖然として見ていた葵ちゃん。
 しばらくポカンと呆けていましたが、なんとか気を取り直すと、ポケットから何やらをゴソゴソと取り出して……、

「いい加減に……『こっち』に帰ってきなさーい!!」

 それを琴音ちゃんに向かって勢いよく振り下ろしました。

 水着売場にスパーンという歯切れの良い音と「うきゃーっ!」という悲鳴が響き渡りました。

「な、なにするのよ葵ちゃん! いきなりヒドイじゃない!」

「時と場所を考えずに妄想に耽っちゃう琴音ちゃんが悪いんでしょ。こんなこともあろうかと、保科先輩から『携帯用折り畳みハリセン』を借りてきて正解だったわ。ホントにもう、琴音ちゃんってば恥ずかしいんだから」

 恥ずかしいという意味では、公共の面前でハリセンツッコミをする葵ちゃんも相当な物だと思いますが……。って言うか『携帯用折り畳みハリセン』ってなに?
 なんか、ツッコミどころが満載ですが……まあ、兎にも角にも、琴音ちゃんを『こっち』に呼び戻すという目的は達成したのですからノープロブレムでしょう。何せ、この世の中は『終わり良ければ全て良し』ですから。細かいことを気にしたら負けです、はい。





○   ○   ○





 多少の脱線はありましたが、なにはともあれ、二人は水着選びを再開しました。

「ねぇ、琴音ちゃん。わたし、これにしようかな。なんか清潔なイメージがあるし」

 葵ちゃんは白いセパレートタイプの水着を手に取ると、琴音ちゃんに示しました。

「そ、それにするの? わっ、葵ちゃんってば大胆なんだ〜。えっちぃ〜♪」

「え? え? なにが? なんでエッチ?」

 琴音ちゃんの指摘に、葵ちゃんの目が点になりました。

「だって、白い水着って濡れると透けるじゃない」

「…………は?」

「そんな姿を白日の下に晒そうなんて。葵ちゃんって、意外に……」

「な、な、なにを考えてるのよーっ! これを着るんだったら、ちゃんとパッドは着けるってば!」

「えー!? そうなのー!? なーんだつまんない」

 心底残念そうに言う琴音ちゃん。

「……………………あ、あのねぇ」

 その言葉に、体中の力が抜けていくような感覚を味わってしまう葵ちゃんなのでありました。

「せっかく白い水着を着るんだったら…………うふふ♪」

 そんな葵ちゃんを後目に、琴音ちゃんは一人でどんどん暴走していきます。

「う゛っ。この展開は…………ま、またぁ?」

「敢えてパッドをしないで……





『こ、こ、琴音ちゃん!』

『どうしたんですか、藤田さん? そんなに慌てた声を出して』

『透けてる! 水着が透けてるって!』

『え? 水着が……透けてる?
 …………………………………………。
 キャーーーーーーーーーーーーッ!! パッドをしてくるのを忘れちゃいましたーっ!』

『今すぐタオルを持ってくる。ちょっと待っててくれ!』

『はい』

『……って、こんな姿の琴音ちゃんを置いて行けるわけないか』

『なんでです?』

『この辺にはナンパ野郎がうようよしてるんだぜ。狼の群に子羊を放すようなもんだろ』

『ううっ。子羊はイヤです』

『だよな。……ふぅ、仕方ねぇ。こうなったら……。
 わりぃ、琴音ちゃん。ちょっとの間だけ我慢してくれ』

『へ? ふ、藤田さん? いったいなにを?』

『こうするのさ(ギュッ)』

『きゃっ』

『こうして俺が抱き締めていれば、誰にも見られないだろ?(ギュッ)』

『…………そ、そうですね』

『少し恥ずかしいけどな(ギューッ)』





 ああん。藤田さんに強く抱き締められて、わたし……わたし……幸せですぅ

 頬を朱色に染めて、『やんやん』と身をよじる琴音ちゃん。

「琴音ちゃーん! こーとーねーちゃーん!!」

 先程のハリセンを用いながら葵ちゃんが何度も呼び掛けますが、今度の妄想は余程深い所まで潜ってしまっているのか、全く反応を示しません。
 それでも、しばらくの間は努力を続けた葵ちゃんですが、やがて、手に負えないと判断したらしく、

「……一人で選ぼうっと」

 琴音ちゃんを放って、その場から離れていきました。

「あーん。藤田さんってばそんなことまで〜。やんやんやん♪」

「…………はぁ〜〜〜」

 背後から聞こえてくる幸せそうな声に、思わずふかーいため息を吐いてしまう葵ちゃんでした。





○   ○   ○





「ホントにもう。琴音ちゃんにも困ったものだわ。あの妄想癖さえ無ければすっごく良い娘なのに」

 ブツブツと愚痴りながら歩く葵ちゃん。

「……って、あれ? な、なにここ?
 っっっ!! うわ、うわ、うわー」

 考え事をしながら歩いているうちに、奥まった所に来てしまっていたようです。
 葵ちゃんがやって来たのは……いわゆる『SEXY系』のコーナー。
 着るのが躊躇われるような、きわどい水着がズラッと並んでいました。

「す、凄い。こんなの……どんな人が着るんだろう?」

 布面積の異様に少ないビキニを手に取って、葵ちゃんがポツリとつぶやきました。

「これって……水着っていうよりは紐だよね、紐。とてもじゃないけど、わたしには着られないなぁ」

 顔を染めながら、まじまじと水着を眺め続ける葵ちゃん。

「でも……わたしがこれを着たら……藤田先輩、喜んでくれるかなぁ?





『ふ、藤田先輩。ど、ど、どうでしょうか?』

『葵ちゃん!? そ、その格好は!?』

『あ、あの……に、に、似合いますか?』

『う、うん。似合ってる。バッチリだ』

『そ、そうですか』

『お、おう』

『……………………』

『……………………』

『せ、先輩?』

『ん?』

『わたし…………せ、せ、せ、セクシーですか?』

『そ、そりゃーもう! 思わず飛びかかりたくなるくらいに!』

『本当ですか?』

『もちろんだとも』

『でも、わたしって胸が小さいし……お尻も……』

『なに? 俺がウソを言ってるとでも思ってるの? もしかして疑ってる?』

『そういうわけじゃ……ないんですけど……』

『俺はウソなんか言わないぞ。だから、今からその証拠を見せてやる』

『え? ちょ、ちょっと先輩! な、なにを…………せんぱ…………』





 なんちゃってなんちゃって。やんや…………」

 琴音ちゃんの『決め台詞』を言いそうになったところで、葵ちゃんがハッと我に返りました。

「な、なにしてるのよ、わたしってば。これじゃ、琴音ちゃんと同じじゃない」

 妄想を振り払う為、顔を思いっ切りブンブンと振る葵ちゃん。

「こんなところを琴音ちゃんに見られたら何て言われることやら」

 早くここから離れよう。
 そう思い、ビキニを戻そうとした時、

「あーっ。葵ちゃんってばこんな所にいた」

 琴音ちゃんがやって来ました。

「探したんだよ。葵ちゃんってば、わたしが『ほんのちょっと』考えに耽っている間にいなくなっちゃうんだもん。ビックリしちゃった」

「あ、あはは。ごめんね」

 乾いた笑いを浮かべながらも、葵ちゃんは素直に謝りました。
 内心では『あれがほんのちょっと?』と疑問を感じていましたが。

「別に謝らなくていいよ。どちらかと言えば、悪いのはわたしの方だろうし」

 そんな葵ちゃんに、琴音ちゃんも苦笑を浮かべて応えると、キョロキョロと周りを見渡して言いました。

「……それにしても凄いコーナーだね、ここ」

「そ、そうだね」

「さすがに、ここに置いてあるのは着る勇気が無いかな、わたしも」

「わ、わたしも」

「……だけど、藤田さんの前でだけだったら……着てもいいかも」

「わ、わたしも……って……ほえ?」

「こういうのって、何も着ていないよりも、かえってエッチだったりするんだよねぇ」

 陳列してある商品を、胸の前で手を組みながら、どこか恍惚とした表情で見つめる琴音ちゃん。

「こんなのを着たら……藤田さん、メロメロになっちゃうんじゃないかな?」

「め……めろめろ?」

「うん。それでねそれでね。きっと、藤田さんってば…………。

 (検閲により削除)

 や〜ん。やんやんやん♪」

 琴音ちゃん、今日三回目の妄想タイム突入。これでハットトリック達成の猛打賞です。





 ―――その頃、隣では、

「藤田先輩がめろめろ。で、でも……こんなエッチな水着を買うなんて……。だ、だけど……めろめろ……だし。うーーーん」

 葵ちゃんが、ビキニに付けられた値札を見ながら、激しい葛藤を繰り広げていました。










 結局の所、二人がエッチな水着を買っていったのかどうかは、ご想像にお任せします。





 次の日の朝、疲れ切りながらも、妙に満足気な顔をした琴音ちゃんと葵ちゃんの姿が確認されていますが……その理由は一切が謎に包まれています。










< おわり >







 ☆ あとがき ☆

 最近、葵ちゃんが壊れかけてるなぁ(;^_^A

 うーん、気を付けよう(^ ^;

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