厄介事とは、本来は唐突に訪れるものであり、また頻繁にやって来る様なものでもない。

 だが、世の中には、それをあたかも恒例行事の様に抱えてしまう者もいる。

 例えばわたし、三輪坂真言美の様に……。






『望まざる役割』





 ―――それはとある月曜日の放課後。
 日曜日というリフレッシュ時間を経てパワー回復、「よし。今日からまた訓練を頑張るぞ」なんて意欲に燃えながら部室にやって来ると……

「「あ、三輪坂せんぱい」」

 二人の女の子がドアの前で途方に暮れていた。
 わたしと同じ天文部に所属する後輩たちだ。

「どうしたの二人とも? 中に入らないの?」

 不思議に思って訊いてみる。

「いえ……あの……その……」

「入りたいのはやまやまなのですが……」

 モゴモゴと含んだ物言いで答える後輩たち。その様を見て、わたしはピンときた。きてしまった。

「もしかして……また?」

 ややウンザリとした口調になってしまったわたしの問いに、彼女らはコクンとうなずいた。

「はぁ」

 思わずため息がこぼれ落ちる。

 彼女たちが部室に入らない、入れない理由。それは、とある人物が喧嘩してるからに他ならない。
 とある人物とは……天文部としての活動に於いても火者としての戦いに於いても絶対的な中心である二人のセンパイ、羽村亮さんと七荻鏡花さんの事である。

 センパイと鏡花さんは2年の時から恋人として付き合っている。普段はそれはそれは仲が良くて、見てる方が恥ずかしくなるくらいの熱々ぶりを発揮してくれたりもする。
 しかし、その一方で、このカップルはとにかく喧嘩が多い。しかも、双方ともに歯に衣着せない為に激しいこと激しいこと。『喧嘩するほど仲が良い』の言葉を見事なまでに必要以上に体現しているのだ。
 本人たちにしてみれば一種の愛情表現なのかもしれない。だが、周りの者は堪らない。尤も、わたしやモモちゃんなんかは半ば慣れてしまった面もある。でも、後輩たちはまだ残念ながらその領域に達していない。その為、センパイたちの喧嘩が始まると、そそくさと逃げ出すのが常となっていた。二人の喧嘩の一番の犠牲者と言ってもいいだろう。

「まったく、センパイたちもよく飽きないわね」

 普段の二人は『優しくて頼りがいがあって明るくて元気で……』と、全く文句の付け所がない存在なのだが喧嘩している時は話が別だ。はっきり言って迷惑なことこの上ない。ついつい愚痴が口を突いて出る。

「……って……あれ? それにしては妙に静かじゃない?」

 いつもなら廊下にまで怒鳴り合う声が飛んでくるのだが、今日はそれが聞こえない。ドアに近付いて聞き耳を立ててみるが結果は変わらなかった。

「おや?」

「あ……今は、羽村センパイはいません」

「さっき、どこかに行っちゃいましたから」

「……なるほど」

 中の様子を窺っていたわたしに後輩たちが教えてくれた。

「ところで……三輪坂センパイ」

「ん? なに?」

「あの……お願いがあるん……」

「イヤ」

 最後まで言い終わらないうちに、わたしはキッパリと答える。

「うっ。そ、そこをなんとか」

「七荻センパイだけでも宥めて下さいよ〜。このままじゃ、いつまで経っても部室に入れないです」

 だが、彼女たちは必死で食い下がってきた。

「気にしないで入ればいいじゃない。今はセンパイがいないんでしょ。だったら、少なくとも怒鳴り声が飛び交う事は無いんだし」

「そ、そうですけど〜」

「でも、不機嫌な時の七荻センパイって異様なプレッシャーを発してるんですもん。同じ室内に居づらいですよ〜」

「まあ、それは確かに」

 慣れたわたしやモモちゃんでさえ、機嫌が悪い時の鏡花さんが発する圧力には気圧されそうになる。1年生にそれに耐えろと言うのは酷であろう。

「仕方ないなぁ。それじゃ、こうしましょう。毎回わたしばっかり鏡花さんたちを宥めてるから、今回はモモちゃんにその役目を担ってもらいましょう。たまにはモモちゃんにも貧乏くじを引いてもらわないとね」

 我ながらナイスアイデアだと思い、二人に提案する。
 しかし、彼女たちは首を横に振ると……

「それは……無理です」

「百瀬センパイにも既にお願いしたんです。そうしたら『そういうのは三輪坂の仕事だから』と言って……どこかに……逃げちゃいました」

 言い辛そうに言葉を紡いだ。

「なっ!? ひ、酷い。モモちゃんってば酷い」

 二人の言葉と、モモちゃんに見捨てられたという事実にわたしは強い衝撃を受けた。

「ううっ、モモちゃんってばいつもそうだよ。面倒なことは全部わたしに押し付けて」

 顔を伏せてポソポソと呟く。

「……もう怒った。さすがに頭に来ちゃったよ。これはお仕置きしなくちゃね。謝ったって、絶対に許してあげないんだから!」

 わたしはゆっくりと顔を上げると、背後に黒い炎を纏いながら高々と宣言する。

「わーっ。落ち着いて下さい三輪坂センパイ!」

「センパイたちにまで痴話喧嘩をされたら、わたしたちはどうすればいいんですか!?」

「そ、そうかもしれないけど……って、痴話喧嘩ってなによ!?」

 後輩の発した単語に敏感に反応してツッコミを入れる。

「え? なにって……ねぇ」

「うん」

 お互いに顔を見合わせてうなずき合う二人。

「三輪坂センパイと百瀬センパイってお付き合いされてるんですよね?」

「へ? わ、わたしとモモちゃんが?」

 彼女の言葉にわたしの目が点になった。

「あれ? 違うんですか?」

 後輩がキョトンとした顔で尋ねてくる。

「ち、違うんですか、と訊かれても……」

 どう答えていいものか分からずに言葉を濁してしまう。

 わたしとモモちゃんって付き合ってると思われてたんだ。
 まあ、学校では殆ど一緒にいるし、最近は休日も二人で遊びに行くことが多いから、そう思われても不思議ではないけど。

「どうなんですか?」

「ねえねえ」

 わたしが言葉を詰まらせていると、二人が興味津々といった面持ちで追い打ちをかけてきた。

「だ、だから……えっと……。そ、そんなことどうでもいいじゃない。それよりも、今は鏡花さんたちの方をどうにか……」

 何とか矛先を逸らそうと、わたしは強引に話題を元に戻そうとした。

「えっ? どうにかして下さるんですか!」

「やった〜」

 ―――が、その言葉尻を取られてしまう。『待ってました』と言わんばかりの表情で。

「……うっ」

 どうやら、思いっ切り藪をつついてしまったらしい。

「さっすが三輪坂センパイ!」

「頼りになります」

 このままでは、鏡花さんを宥める役を押し付けられてしまう。でも、ここに残っていたら、間違いなく先程の話をぶり返されてしまうだろう。

「はぁ、しょうがない。分かった、分かったわよ、分かりました。行けばいいんでしょ、行けば」

 わたしは肩をガクッと落とすと、観念したようにドアに手を掛けた。
 そして、背後から届いてくる「がんばれー」「三輪坂センパイ、ふぁいとー」という声に押されるように部屋の中に入っていった。





○   ○   ○





「どもー。こんにちはー」

 いつもの様に声を掛けて入室する。

「やっほー」

 すると、明らかな作り笑いを顔に貼り付けた鏡花さんが、手を挙げて挨拶を返してきた。

「あら? どうしたんですか鏡花さん。なんかご機嫌斜めみたいですね。もしかして、センパイと喧嘩でもしたんですか?」

 自分でも白々しいと思いつつ、そう問い掛ける。
 その瞬間、鏡花さんの表情がブスッとしたふくれっ面に変わった。

「あいつが悪いの! 全部、あのバカが悪いんだから!」

「うわ。本当に喧嘩してたんですか」

「聞いてよマナちゃーん。あいつってば最低なのよー」

「は、はい。聞きます聞きます。……それでいったい何があったんです?」

 なるべく鏡花さんを刺激しないように、可能な限りの穏やかな口調で尋ねる。

「昨日さ、あいつと買い物に行ったんだけど……」

「買い物? ああ、デートですか」

「う゛っ。ま、まあ、そうとも言うわね」

 わたしの言い直しに、鏡花さんが少し頬を染める。
 鏡花さんは『恋人』とか『デート』といった言葉を指摘されると異様なまでに照れる。常日頃、人目も気にせずにイチャイチャしたりしているくせに、そんなことで恥ずかしがるなんて変な人だと思う。

「で? そのデートでどうしたんです?」

 顔を赤くして固まってしまっている鏡花さんに話を進めるように促す。

「え、えっと……。そのデー……買い物に行った時の事なんだけどさ……。聞いてよマナちゃーん」

「はいはい。聞いてますってば」

「あの『バカ』ったら、浮気者なのよー」

「はい? 浮気者ですか?」

 そんなに『バカ』と強調しなくてもいいのに、と心の中だけで苦笑を浮かべながら訊いた。

「そうよ。亮ってば、あたしと二人でいる時に、他の女に視線を送ったりするんだから。しかも、長時間見取れることすらあったのよ。これは立派な浮気行為だわ」

「長時間、ですか? それってどの位なんです? 1分? 5分? まさか、10分以上とか?」

 返ってくる答えはなんとなく予想できていたが、それでも敢えて疑問をぶつけてみた。

「3秒くらいかしら」

 わたしの問いに、至極真面目な顔で鏡花さんが答える。

「……は、はあ。……3秒……ですか」

 前言撤回。ここまで短い数値は予想外だった。

「なによ、マナちゃん。随分と気のない返事ねぇ。ひょっとして、そんなことで怒ってるのか、と呆れてる?」

 鏡花さんがジトッとした目を向けてきた。

「他人事だと思うから大したことないと感じるの。自分に当てはめて考えてみなさいよ。マナちゃんが壮一とデートしてる時に、壮一のヤツが他の女の子に気を取られてたりしたら頭に来るでしょ?」

「それはまあ、そんな事になったら面白くはないですけど……」

 取り敢えず、モモちゃん云々の部分は聞き流すことにした。

「でしょ〜」

 わたしの解答に、鏡花さんが我が意を得たりといった顔をする。

「しかも! 亮ってば、その女の子に対して『あっ、あの娘可愛い』とか『美人だなぁ』とか『うわぁ、スタイルいいなぁ』なんて感想を抱いたりするのよ。さらにむかつくのが、事も有ろうにあたしと比べたりするのよ」

「うーん。それは確かに問題ありですね。ちょっとデリカシーに欠けてます」

「そう思うでしょ! いくら、亮の出す結論がいつも『鏡花には遠く及ばないけど』とか『やっぱり鏡花が一番だな』とかだったとしても、やっぱりむかつくわよね」

 鏡花さんが頬を膨らませて……でも、ほんのりと色付かせて同意を求めてくる。

「……そ、そうですね」

 一瞬、『はいはい、ごちそうさまでした』と言って帰ろうかと本気で思ったが、それでは問題が解決しないのでグッと我慢する。

「ね、マナちゃんも同感でしょ。でもね、それだけじゃないのよ! さらに許せない事にあいつってば!」

「はぁ……まだ何かあるんですか?」

 一人でヒートアップする鏡花さんに、わたしは気のない声を返す。

「ちょっとあたしが離れた隙に、あいつってば、逆ナンされたのよ!」

「逆ナン?」

「逆ナンパ。女の子の方から男を誘う事よ」

「ああ、なるほど」

 わたしはポンと手を打って納得した。

「……って、ん?」

 ―――と同時に、わたしの脳裏に一つの疑問が浮かんできた。

「あの……それって怒る様なことなんですか? 別にセンパイが悪いわけじゃないじゃないですか」

「怒る様なことよ。だって、亮のヤツ、デレデレしてたんだから」

「デレデレ、ですか」

「そうよ」

 真偽の方は定かではないが、とにもかくにも、鏡花さんにしてみればセンパイが他の女の人と話をしているだけで気にくわないのだろう。その気持ちは分からなくはない。いささか度が過ぎている様な気はするが。

「……にしても、声をかけてきた女も何を考えてるんだか。なんでわざわざ亮になんか。ちょっと探せばあいつ以上の男なんてゴロゴロしてるだろうに。趣味が悪いにも程があるわよね」

 不機嫌そうに言い捨てる鏡花さん。

 そのセリフに対して……

「その言葉を鏡花さんが言いますか。センパイにラブラブぞっこんな鏡花さんが」

 取り敢えずツッコミを入れておく。

「うぐっ。……あ、あたしはいいのよ、あたしは」

「そうですか。まあ、それはともかくとして……」

 何がどういいのかいまいち分からない鏡花さんの言い訳をサラッと流す。

「ねぇ、鏡花さん。素直にセンパイに謝っちゃいません? そうすれば、あっと言う間に万事解決できますよ」

「あ、謝る!? あたしが!?」

 わたしからの提案に鏡花さんが心底不満そうな顔をする。

「はい、そうです。だって、今回の喧嘩の原因は鏡花さんのヤキモチじゃないですか。確かに、センパイにも問題があるかもしれません。でも、非は圧倒的に鏡花さんの方にあると思いますよ」

「う゛っ」

 わたしの指摘を受けて、鏡花さんの表情がバツの悪いものに変わった。本人にも多少なりとも『自分の方が悪かった』という意識があるのだろう。
 ここがチャンスと判断したわたしは、さらに言葉を続けていった。

「鏡花さん。一度、センパイと落ち着いて話をしてみたらどうですか? きっと、すぐに仲直りできますよ」

「ひ、必要ないわ。別にあたし、亮と仲直りなんか……」

 プイと顔を横に背けて鏡花さんが言う。見事なまでの意地っ張り。正に筋金入りだ。
 ほんの少し自分に正直になれば瞬時に問題解決なのに、ちょっと歯がゆく思う。
 こうなったら、もう一押し必要だろう。

 そう思い、口を開こうとした瞬間……

「そんな事言わねーで、話くらい聞いてやってくれないか」

 部室のドアを開けてモモちゃんが入ってきた。センパイを連れて。

「少なくとも、センパイは姉ちゃんと仲直りがしたいみたいなんでな」

 そして、モモちゃんはセンパイの事を鏡花さんの方に押し出した。
 センパイはモモちゃんに対して一回小さくうなずくと、鏡花さんの方に向き直り真剣な口調で話し始めた。

「なあ、鏡花。少し、話をしようぜ。お互いに冷静になってさ。俺、お前に謝りたい事もあるし」

「…………亮」

 瞬きも忘れた様に見つめ合うセンパイと鏡花さん。

「そんじゃ、ごゆっくり。おい、三輪坂。俺たちは邪魔だ。外に出ていようぜ」

 そんな二人を後目に、モモちゃんはわたしに一声かけると、さっさと部屋から出ていった。

「あっ、ちょ、ちょっと! 待ってよモモちゃん! あ……え、えと……そ、それじゃ、失礼します」

 わたしも、モモちゃん同様にセンパイたちに軽く挨拶をすると、彼を追いかけるように慌てて退室した。





 わたしたちが部室から出て10分が過ぎた頃、室内から楽しげな笑い声が響いてきた。

「やれやれ、何とか仲直り出来たみてーだな。まったく、世話を焼かせやがって」

「本当だね」

 モモちゃんのつぶやいた言葉に、わたしは心の底から同意した。

「それはさておき。ありがと、モモちゃん」

「は? なにがだ?」

 いきなり感謝の言葉を贈られて、モモちゃんが当惑した顔になる。

「センパイのこと。モモちゃんがいろいろと動いてくれたんでしょ」

「んー。最初はそんなつもりは全くなかったんだけどよ。ウロウロしてたら偶然センパイの事を見かけちまってな。んでもって、気が付いたらセンパイの宥め役をやってた。まったく、なにをやってるんだか」

「ふーん。偶然、ねぇ」

「なんだよ、疑ってるのか? 言っておくがマジで偶然だぞ。偶然に決まってるじゃねーか。誰が好きこのんで、んな面倒な問題に首を突っ込むか」

 イタズラっぽい笑顔で言うわたしに、モモちゃんは不機嫌そうな表情を顔に貼り付けて応える。

「はいはい。そういうことにしておいてあげる」

「……お前なぁ。俺の言ったこと、全然信じてねーだろ」

 呆れた様にモモちゃんが言う。

「うふふ。そうかもね」

「…………ったく」

 ふてくされる様に、モモちゃんがくちびるを尖らせた。

「ねえ、モモちゃん」

 その姿を微笑ましく眺めながら、わたしは言葉を紡ぐ。

「ん?」

「モモちゃんって優しいね」

「だーかーらー! 違うってーの!」

 声を張り上げて否定するモモちゃん。

 そんな彼の耳元にそっと口を寄せ……

「わたし、モモちゃんのそういうとこ、嫌いじゃないよ」

 早口で、そう呟いた。

「え? み、三輪坂?」

 モモちゃんの目が点になる。

「さってと。そろそろ訓練を始めようか。クラブの時間が始まってから随分と経っちゃったね」

 わたしは、モモちゃんから体を離して、いつもと同じ調子で言った。
 そして、彼の困惑に敢えて気付かない振りをして言葉を続ける。

「モモちゃん、今日は一緒に訓練しない? よかったら付き合ってほしいんだけど」

「あ、ああ。構わないぜ」

「良かった。それじゃ……行こ♪」

 言いながら、ギュッとモモちゃんの手を取る。

「お、おう」

 手に伝わるモモちゃんの温かさが、妙に心地よく感じられ……

 いつもの練習場所へと到着するまで、そのままその温もりを堪能し続けたのであった。



 わたし、やっぱりモモちゃんの事が好きなのかな?

 今日は、その事を真剣に考えた初めての日だった。





○   ○   ○





 ――― 一週間後

 日曜日というリフレッシュ時間を経てパワー回復、「よし。今日も訓練を頑張るぞ」なんて意欲に燃えながら部室にやって来ると……

「「あ、三輪坂せんぱい」」

 二人の女の子がドアの前で途方に暮れていた。
 わたしと同じ天文部に所属する後輩たちだ。

「……おや? この展開、確か丁度一週間前にも……」

 イヤ〜な予感を感じながら二人に訊いてみる。

「どうしたの? もしかして……また?」

「「はい。またなんです」」

 すると、あまりにも予想通りの解答が返ってきた。

 なるほど、確かに『また』だ。
 耳を澄ますと――澄まさなくても――部室の中からセンパイと鏡花さんが怒鳴り合う声が聞こえてきた。

「はぁ、まったく」

 わたしはガックリと肩を落とした。

「あ、あの、三輪坂センパイ」

「それでですね。この件について百瀬センパイから伝言を言付かってるんですが……」

「え? モモちゃんから」

「はい」

「なに? なんだって?」

 またモモちゃんが助けてくれるのだろうか?
 一抹の期待を胸に、その伝言とやらが語られるのを待った。

「えっと……。それでは、言いますね」

「うん。お願い」

「『二人を宥めるのは三輪坂の役目だ。今度こそ任せた』」

「…………へ?」

 思わず、マヌケな言葉が口を突いて出た。

「ですから、『二人を宥めるのは三輪坂の役目だ。今度こそ任せた』です」

「そ、それだけ?」

「はい。それだけです」

「…………そう。そうなの。…………先週、少し見直したけど…………どうやら、それは撤回する必要があるみたいねぇ」

 後に後輩たちは語った。その時のわたしは、まるで修羅の様であったと。
 とにかく、この時のわたしは、何かがプチッと切れてしまった。

「うふ、うふふ、うふふふふ。モモちゃんったら、まーたわたしだけに厄介事を押し付けようとして。こうなったら本当にお仕置きよ。徹底的にお仕置きしてあげるわ。可愛さ余って憎さ百倍なんだから。うふ、うふふ、うふふふふ」

「う、うわ」

「三輪坂センパイが壊れた」

「モモちゃーーーん! 絶対に逃がさないわよ! モモちゃーーーーーーん!!」

 そう叫ぶと、わたしはモモちゃんを求めてその場から走り去った。

「み、三輪坂センパイ!」

「ああっ。わ、わたしたちは一体どうすれば……」

 あとに残されたのは、事態に付いていけずに茫然としている後輩たちの姿のみであった。

「ど、どうしようか」

「ど、どうしよう」

 部室の中からは相変わらずの怒鳴り声。頼れる者はバーサーカーと化してしまった。
 そんな状況で出した答えは……

「取り敢えず、わたしたちだけでも訓練しよっか」

「そだね」

 非常に常識的なものであった。

 天文部のメンバーは、学年が下がるほどにまともになっていく様であった。

 天文部――火者――の未来は明るい。




 ちなみに、モモちゃんは次の日から3日間ほど学校をお休みした。

 その理由は……内緒である。

 めでたしめでたし。





< おわり >





 ☆ あとがき ☆

 真言美って、亮よりもモモの方がお似合いだと思うのは私だけでしょうか(;^_^A

 個人的には、かなり好きなカップリングなんですけどね。

 もちろん、『夜が来る!』私的ベストカップリングは亮&鏡花ですが(^ ^;







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