バカップル。
自覚のないままに、他者に多大なるダメージを与えてしまうカップルの総称です。
今回は、そんな傍迷惑な存在の行動をとある二人を例にして、周囲の人々の証言と共に見てみたいと思います。
証言2:祁答院マコトの場合
羽村と鏡花、か。
……………………。
何と言ったらいいのか……。
「鏡花、お前昨晩も羽村の部屋に泊まっただろ?」
「……え?」
部室でたまたま二人きりになった時、マコトちゃんが鏡花ちゃんに尋ねました。
「な、なんで分かったの?」
驚愕の表情を浮かべる鏡花ちゃん。
「以前にも言わなかったか? お前の『声』は大きいと。こう言っては何だが、イヤでも分かる」
言葉通りに、マコトちゃんは心底イヤそうな顔をして答えました。
「う゛っ」
鏡花ちゃん、沈黙。
「するな、なんて野暮は言わない。しかし、もう少し学生らしい抑えた付き合い方をしたらどうだ?」
「学生らしい?」
「そうだ」
鏡花ちゃんの問い返しに、マコトちゃんが深く首肯しました。
「例えば、羽村の部屋に泊まるのを控えるとか。せめて週末だけにしたり……」
「ごめん。それ無理」
マコトちゃんの言葉を遮って鏡花ちゃんが謝罪しました。
「無理? 何故だ?」
「だって……」
「だって?」
恥ずかしそうにモジモジしている鏡花ちゃんを不思議に思いながらマコトちゃんは訊きました。
「あたし……亮の部屋に住むことになったの」
「…………は?」
頬を朱に染めながら小声で囁く鏡花ちゃん。それを聞いて、マコトちゃんは目が点。
「つまり……正式に同棲することになったのよ」
「…………う…………ウソ…………だろ?」
「ウソじゃないわ。両親にも許可を貰ってるし、姉さんも応援してくれてるし」
「……………………」
「それに、あたしの荷物だって既に亮の部屋に運び終わってるしね」
「……………………」
「……って、マコト? 聞いてるの? マコト!?」
「……………………」
鏡花ちゃんの同棲発言から数日後、マコトちゃんとキララちゃんは近くにある別のアパートに引っ越していっちゃいました。
この件について、マコトちゃんから一言。
「あいつらの隣の部屋になんか住めるものか。発情期の猫の群に囲まれているようなものだ」
言い得て妙かも。
マコトちゃんが去った後、あの部屋には何人かが入居したらしいですが……全員2ヶ月保たなかったとか。
今では噂が噂を呼び、例の部屋は『夜な夜な女の啜り泣きが聞こえてくる呪われたワンルーム』と呼ばれているとかいないとか。
証言3:火倉いずみの場合
亮くんと鏡花ちゃんはいつも仲が良くて、見ていて微笑ましくなります。
でも……でも……
時と場所は考えてほしいかなぁとは思いますけど……。
狭間に潜っていた時の事。
亮くん、鏡花ちゃん、いずみちゃんの3人は光狩の群と遭遇しました。
各々の武器・パートナーである『ナイトオブナイト』『チロ』『カイリ』で次々と撃破していく3人。
数々の修羅場をくぐり抜け、技術面も体力面も高いレベルに達している亮くんたちにとっては狭間に出てくる雑魚など敵ではありません。
しかし、その事実が気の緩みを……油断を招きました。
「鏡花! うしろ!」
「え?」
何時の間に回り込まれていたのか、鏡花ちゃんの背後から光狩(飛金剣)が襲ってきました。
亮くんの叫びに反応して振り向く鏡花ちゃん。
その目に飛び込んできたのは、光狩から放たれた鋭い刃と……それから愛する少女を守るために凄まじい勢いで間に割って入ってきた亮くんの姿でした。
亮くんの身体に突き刺さる鋭利な剣。
「りょ、亮!」
鏡花ちゃんの口から、甲高い悲痛な叫びが上がりました。
ですが、亮くんはその悲鳴に……襲ってきているであろう激痛にも……一切の反応を示さず、手にした武器で目の前の光狩を一刀両断にしました。
「…………ふぅ」
そして、光狩の消滅を確認すると、亮くんは気が抜けたようにその場にへたりこみました。
「……ってて、いててててて」
攻撃を受けた腹部を抑えて顔をしかめる亮くん。
「亮! 大丈夫!? 痛い!? 痛い!? ねえ! 大丈夫なの!?」
鏡花ちゃん、亮くんの肩を掴んでガックンガックンと揺らしました。
心配のあまりなのでしょうが、怪我人に対する行動としては誉められるものではありません。
でも、亮くんは不平の一言も洩らさずに鏡花ちゃんに笑いかけました。安心させるように穏やかに。
「平気だって。大した傷じゃないよ。そんなに深手じゃないしさ」
「……ホント?」
「本当だって。だから心配すんなよ」
「そ。良かった」
ホッと胸をなで下ろす鏡花ちゃん。
「まったくもう。なんであんな無茶をするのよ! 死んじゃったらどうするつもりなの!?」
「仕方ないだろ。身体が勝手に動いちまったんだから。そもそも、俺が無茶する原因を作ったのは油断した鏡花だろ」
「う゛っ。そ、それはそうだけど……」
亮くんのツッコミに鏡花ちゃんが苦い顔になりました。
「今後はもっと気を付けるように」
「……………………はい」
反論の余地もなく、シュンとした表情で鏡花ちゃんが返しました。
「うむ。分かればよろしい」
それを見て、鷹揚にうなずく亮くん。
「はい。
…………って、なんでそんなに言い方が偉そうなのよーっ!?
亮のくせに生意気!!」
「お、おい。なに逆ギレしてるんだよ、お前は」
「うっさい! この! この! このーっ!」
鏡花ちゃん、グリグリと亮くんの頭に攻撃を加えます。
「こ、こら。痛いって。俺、これでも一応怪我人なんだぞ。少しは労りの気持ちを持てよな」
「やかましい! どこが怪我人よ!? 思いっ切り元気じゃないの!」
「やめんか! マジで痛いっつーの!!
……って……あたた、あいたたたたたたた」
「……へ?」
「さ、叫んだら……傷口が……」
「……………………。
キャーーーーッ! ごめん! ごめんなさーーーい!」
「だ、だから……揺するな。…………死ぬる」
いつものような夫婦漫才を繰り広げる二人。
その様子を横目に見ながらいずみちゃんが呟きました。
「あ、あのー、まだ光狩は沢山残ってるんだけど……。
イヤになるほど残ってるんだけど……。数えるのが面倒になるほど残ってるんだけど……。
……………………。
イチャイチャしている余裕があるんだったら少しは手伝ってほしいなぁなんて思ったりして。
でも、こっちのことなんて眼中にないんだろうねぇ。
……………………ハァ。
仕方ない。わたしたちだけで頑張ろっか。ねっ、チロ」
「しゃっしゃー」
この時、一人と一匹の額には見事な『汗』が浮かんでいたとか。
狭間から出た後、亮くんと鏡花ちゃんの二人が、いずみちゃんには近くのラーメン屋で激辛ラーメンとキムチ炒飯、チロには大量のメロンパンをご馳走して、苦労をねぎらいつつ必死にご機嫌取りをしたのは言うまでもありません。