「あの……藤田さん。その……僕と付き合ってくれませんか?」

「……………………。
 ごめんなさい。お気持ちは嬉しいのですが……」







『断るのにはわけがある』




「あ、帰ってきた帰ってきた。どうだった琴美?」

「受けちゃった? OKしちゃった?」

「……ううん」

 琴美ちゃんが教室に戻ってくるなり飛び込んできた質問に、琴美ちゃんは少し顔をしかめて、首を横に振りつつ答えました。

「えーっ!? あんな格好いい人からの告白を断っちゃったのーっ!?」

「勿体なーい」

「琴美の贅沢もーん」

「そ、そんなこと言われても……」

 ちょっぴり困った表情で琴美ちゃん。

「――で? なんで断っちゃったの? 彼のどこが気に入らなかったわけ?」

「どこって言われても……わたし、彼のことよく知らないし……。
 ルックスはそれなりに格好いいかなぁとは思ったけど……でも……」

「「「そ、それなり!?」」」

「…………な、なに? どうかしたの?」

 突然大声を張り上げる友人たちに、琴美ちゃんはポカンとした顔で尋ねました。

「あの人のどこがそれなりなのよ!?」

「琴美……あんた、おかしいんじゃないの!?」

「変だよ! 琴美、絶対に変だよ!」

「え? え? え?」

 実は、琴美ちゃんが振った相手は、ルックス良し頭脳明晰スポーツ万能という、学校でもトップ3に入るほどの絵に描いたような人気者君だったのです。
 それを思えば、友人たちの声も妥当なものかもしれません。

「…………ま、あんたみたいに異常に目の肥えた娘から見たら『それなり』で済んじゃうレベルなのかもしれないけどさ」

 ひとしきり騒いだ後で、友達の一人がポツリと呟きました。

「あ、そうかも」

「……だね」

 その言葉に深く納得する周囲の面々。

「琴美の周りには多いもんね。高レベルな男の人が」

「「うんうん」」

「高レベルな男の人?」

 小首を傾げる琴美ちゃん。

「そうよ! 例えば……サッカー日本代表の佐藤さんとか」

「バスケットボールのオリンピック日本代表チームのプレイングマネージャーである矢島さんとか」

「人気漫画家の千堂さんとか」

「数々のヒット番組を手がけている名ディレクターの藤井さんとか」

「なるほど。そう言われてみれば……」

 琴美ちゃんは合点がいったという風に手をポンと打ちました。

 友人たちが指摘したように、琴美ちゃんの周りには非常に秀でた男性が多いです。ルックス的にも、また能力的にも。
 上記の四人以外にも、耕一さん,祐介さん,芳晴さん,健太郎さん等々まさに目白押しです。『いい男』の見本市でも開けそうなくらいです。
 それだけの男性に幼い頃から囲まれていれば、琴美ちゃんの目が肥えてしまっても無理はないでしょう。

「確かに、わたしの周りには凄い男の人が多いかも」

「「「でしょ〜?」」」

「うん。
 ……でも……」

「「「でも?」」」

「パパ以上に格好いい人はいないけどね☆」

 頬に手を添えて、ちょっぴり恥ずかしそうに琴美ちゃんが宣いました。

「…………でた、琴美の病気が」

「…………琴美のお父さんが格好いいのは認めるけどさぁ」

「…………さすがは真性ファザコン」

 額に大きな汗を貼り付けるフレンズ。

 それを後目に、

「ああっ、パパってば本当にす・て・き わたし、将来は絶対にパパのお嫁さんになるの。法律なんて倫理なんて愛があればノープロブレムよ」

「「「おいおい。問題ありまくりだろうが、それは」」」

 琴美ちゃんは絶好調。キラキラと瞳を輝かせて、早くも『あっち』に行きかけています。友達の綺麗にハモったツッコミも全く耳に入りません。

「わたし……パパが望むならあーんな事やこーんな事も、あまつさえ○○○な事だってOKなんだから……」

「「「……ハァ〜〜〜〜〜〜」」」

 琴美ちゃんの相変わらずっぷりに、ただただ溜息を零すことしか出来ない友人一同でありました。

「……って、なーんちゃってなーんちゃって」

 こんな琴美ちゃんですが、いつかは普通に恋愛が出来るのでしょうか?
 同年代の男の子に興味を持つ日は来るのでしょうか?
『春』は訪れるのでしょうか?

 甚だ心配です。



「キャーキャー、わたしってばエッチ〜☆」



 琴美ちゃん、何気に『常春』なような気がしないでもありませんが……それは言わない約束です。あしからず。



「やんやんやん♪」









< おわり >





 ☆ あとがき ☆

 自分の頭の中では、琴美って深窓のお嬢様風というか……

 可憐で儚げで清楚で……ってイメージがあったりするのですが……

 SSにすると、単なる『危ない』娘になってる気が……。

 ……あ、あれぇ?( ̄▽ ̄;;;




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