夢には、見ているときに「これは夢だな」と自覚できるものがあります。

 そのような夢を見たとき、「なんだ、夢か」と冷めて(覚めて)しまう人もしれば、「せっかくだから」と夢の世界を楽しむ人もいます。

 このときのあかりちゃんはどうやら後者だったようです。

 無理もありません。

 だって、その夢には愛しの浩之くんが出てきたのですから。

 あまつさえ、「今からお前の願いを三つ叶えてやるよ」なんて言われてしまったのですから。






嗚呼! 素晴らしき(Ba)カップル
〜 藤田浩之&神岸あかり 〜





「三つのお願い? なんか童話に出てくるランプの精みたいだね」

「ふっ。ふっふっふ。なかなか鋭いな、あかり君」

 あかりちゃんの感想を聞いて、浩之くんが不敵とも言える笑みを零しました。

「鋭い? なにが?」

「実はな……何を隠そうこの俺様はランプの精だったのだ! さあ驚け! アラビアンナイトぱぱらぱ〜♪」

 バッと大見得を切って声高に叫ぶ浩之くん。
 端で見ている分にはちょっぴりアレっぽい空気が漂ってたりしますが、本人は『決まった』とか思っていることでしょう。

「へぇ〜、そうだったんだ。凄いね」

 派手なポージングを決める浩之くんに、あかりちゃんが思いっ切り素で返しました。

「……………………」

「……………………」

 あ。
 なんか、妙な沈黙が場を支配しています。

「……あかり」

「な、なに?」

 浩之くんの声に微かな剣呑さが含まれていることに気付いたあかりちゃんは、僅かに顔を引きつらせながら尋ねました。刺激を与えないようにそーっと。

 こんな時になんですが、頬を流れる一筋の冷や汗がラブリーです。

「ボケに素で返すなって何回言ったら分かるんだ〜〜〜」

 あかりちゃんの頭に拳を添えて、グリグリと動かす浩之くん。

「あう〜〜〜」

 その結果、あかりちゃんの夢空間に、そんな緊張感の欠片もない呻き声が響き渡るのでした。



 それからしばらく経ち、ようやくグリグリの刑から解放されたあかりちゃん。

「うう、ひどいよ浩之ちゃん」

 当然の如く、さっそく浩之くんに抗議しますが、

「うっさい。ボケに気付かなかったお前が悪い」

「ううう〜」

 物の見事にあっさりと返されて轟沈。
 あかりちゃんにとって浩之くんの壁は厚いです。まだまだ浩之くんの方が一枚も二枚も上手です。

「んなことより、いい加減に本題に戻るぞ」

「本題? アラブのランプがぱぱらぱ〜ってやつ?」

「そうそう。実は……俺様は何を隠そう……千夜一夜が空飛ぶカーペット、ターバン巻いてぱぱらぱ〜♪
 ……って、違ーーーう! 戻るところはそこじゃない!」

「うわ、凄いよ浩之ちゃん! 見事なノリツッコミだよ!」

「いや〜、それほどでも。はっはっは。
 ……じゃなくて!」

 浩之くん、言われた側からノリツッコミ炸裂です。根っからの芸人なのでしょうか。

「三つのお願いのことだ、三つのお願い」

「あ、そっか」

 合点がいったという風に、ポンと手を打ち合わせるあかりちゃん。

 予めお断りしておきますが、『普通はすぐに分かるだろ』といった無粋なツッコミは却下です。

「まったく。
 ……で? どうだ? なんか願い事はあるか?」

「願い事、ねぇ」

 人差し指を口元に添えて、小首を傾げるあかりん。

「なんでもいいんだぞ。……とは言っても、俺に叶えられる範囲の願いに限定はされちまうんだけど」

「本当になんでもいいの?」

「おう。なんでもいいぞ」

「ホントにホント?」

 やや上目遣いであかりちゃんが尋ねます。

「男に二言はない」

 その視線をしっかりと受け止めて、浩之くんがきっぱりと言い切りました。

「だったら……絶対に叶えてほしい願い事が一つだけあるの」

「一つでいいのか? 三つまでオッケーなんだぞ?」

「ううん。一つでいいの」

 首を横に振ってあかりちゃんが言いました。

「そっか。ま、あかりが構わないって言ってるんだからいいけどな。
 ……そんで? その願い事ってのは?」

「……浩之ちゃんが何時までもわたしのそばにいてくれること」

 浩之くんの問いに、あかりちゃんは至極真剣な面持ちでそう答えました。

「え?」

「それが……わたしの願いだよ」

 あかりちゃんが浩之くんに唯一望むこと。

『何時までもそばにいてほしい』

 言い換えるなら……愛してほしい、そして愛させてほしい。
 控えめで傲慢な……一点の曇りも存在しないほどの純粋な……願い。

「……叶えてくれる、かな?」

 どことなく自信なさげに訊くあかりちゃん。

「なに不安そうな声を出してるんだよ」

 その問いに、浩之くんは、あかりちゃんの華奢な身体を胸の中に抱き入れるという行為で応えました。

「そんなの当たり前じゃねーか。叶えてやるよ。お前が嫌になるくらい叶えてやる。今の発言を後悔したくなるほどに叶えてやるさ」

「……うん。ありがと」

 安堵の色に満ちた声で呟くと、あかりちゃんも浩之くんの背に手を回しました。

「てか、そんなのは願い事以前の問題だっつーの! デフォだ、デフォ!」

 照れ隠しか、些かぶっきらぼうに言い放つ浩之くん。

「……うん。そうだね」

 その声を心地よく感じながら、あかりちゃんは浩之くんの温もりを身体全体で堪能するのでした。



 わたし、何時までも浩之ちゃんにそばにいてもらいたい。何時までも浩之ちゃんのそばにいたい。

 このあたたかさだけは絶対に手放したくない。

 誰に何を言われたっていい。ワガママな女だと後ろ指差されても構わない。

 だって……わたしは……浩之ちゃんのことが……









< 了 >
















 ウソです。

 なんか、お約束のモノローグモードが出てきたりしましたが、この話はもうちょっとだけ続くんです、はい。

 ―――てなわけで続劇。










「だろ?
 ……でも、この場では却下な」

 先程までの話の流れをどきっぱりと無視した発言をかます浩之くん。
 ちょっぴりズッコケてるあかりちゃんがキュートです。

「先に言っとくけど誤解はするなよ。さっきのお前の願いは間違いなく叶えてやるんだからさ」

「う、うん」

 体勢を立て直しながら頷くあかりん。

「だけどな、さっきも言ったけど『そばにいる』なんてのはデフォなんだよ。つまりは、ぶっちゃけた話、願い事でもなんでもないんだ。俺の言ってる願い事ってーのは……なんつーかこう……もっと即物的というか……普段だったら『ワガママ言ってんじゃねーぞ、ウラ!』とか言いかねない事というか……」

「……は、はあ」

 熱く語り出す浩之くんに、あかりちゃんは押され気味。完璧においてきぼりを喰らってます。

「とにかく、そういうのだ!」

「あー……んっと……よ、よく分からないけど……なんとなく分かった……気がする」

「そうか! ならば良し!
 然からば早速……今日の一発目!
 ……もとい、一つ目の願い事をプリーズ・フォー・ミー。スマイル・フォー・ユー」

 どこまでもテンションが無駄に高い浩之くん。何か悪い物でも食べたのでしょうか?

「……え、えっと……じゃ、じゃあ……」

 それに必死に追いつこうとしているあかりちゃんが健気すぎて泣けてきます。

「だったら……うん、あれがいいかな。よし、そうしよっと」

 何かを思い付いたらしく、あかりちゃんがパンと手を打ち鳴らしました。

「おっ、決まったようだな。して、あれとは?」

「なでなで」

「へ? なでなで?」

 簡潔なあかりちゃんの答えを聞いて、浩之くんの目が少し丸くなりました。
 どうやら、完全に予想外だったみたいです。

「うん、なでなで。浩之ちゃん、マルチちゃんやセリオちゃんによくしてあげてるでしょ? 実を言うと、わたしも一度体験してみたかったんだ。だって、あれをされてる時の二人って凄く幸せそうで本当に気持ちよさそうなんだもん」

「はぁ? あかりの頭を撫でてやったことくらい何度もあるだろ?」

 呆れたように浩之くんが言いました。

「そうだけど……わたしにした様なライトなのじゃなくて、マルチちゃんたちにしている様なディープなのをしてほしいの」

「ディープ? こってり濃厚なのがお望みなのか?」

「うん。濃厚なのがいいの」

「そっかそっか。濃い〜のがいいのか。
 よっしゃ、分かった。了解ッス」

 そう言うと、浩之くんはあかりちゃんの頭に手を添えました。

「そんでは、思いっ切り濃厚ななでなでをしてやろう。ねっぷりねっとりじっくりと、な。くっくっく」

「ひ、浩之ちゃん。なんか言い方が卑猥だよぉ」

 浩之くん、どうも悪い魂が入り込んでいるみたいです。
 悪党モード、もしくはオヤジモードになってます。

「気の所為だ。ああ、気の所為だとも」

「絶対に違うと思うけどなぁ」

「思い過ごしだ。
 ……じゃ、そろそろ始めるぞ。本気でやるからな。どうなっても知らんぞ〜。うけけ」

 嫌すぎる笑いを浮かべて浩之くん。
 ですが、その口調とは裏腹に、浩之くんの手は非常に優しく動き出しました。

「…………あ」

 それを受けて、最初は苦笑を貼り付けていたあかりちゃんの顔に、だんだんと心地よさが、陶酔とも表現できる色が浮かんできました。

「ここかぁ? ここがええのんかぁ?」

 手とは対照的に、浩之くんの口は相変わらずオヤジですが。

「…………はふぅ」

 目を細めて、うっとりとした表情になるあかりちゃん。

「どうした、あかり? 気持ちいいのか?」

「……うん。……すごく……気持ちいいよ」

 あかりちゃんが夢見るような顔で答えました。既に意識は半分ほど飛んでいるようで、反応がかなりにぶにぶです。
 しかし、夢の中で夢見る表情とは……あかりちゃん、器用ですね。



 それからしばらく間、ボーッとした顔でなでなでを受けていたあかりちゃんですが、

「……ん。ありがと、浩之ちゃん。もういいよ」
 
 頃合いと判断したのか、多少名残惜しそうな表情をしながらも浩之くんにストップをかけました。

「え? もういいのか?」

「うん。これ以上されたら病みつきになっちゃうもん」

 照れくさそうに言うあかりちゃん。

「そうなのか? うーん、俺のなでなでって中毒性があるのかな?」

「あると思うよ、絶対。だって、浩之ちゃんのなでなでって本当に気持ちいいんだもん」

 冗談めかした浩之くんに、あかりちゃんが頬を染めつつ返しました。

「浩之ちゃんってテクニシャンだよね。女の子の悦ばせ方を熟知してる感じ。これじゃ、マルチちゃんもセリオちゃんもメロメロになっちゃうわけだよ」

「……待てこら。誤解を招くような事を言うんじゃねーよ」

 滝のような冷や汗を流して浩之くん。

 どうでもいいですが、あながち誤解とは思えなかったりするのですが……それは言わない約束なのでしょう。

「だって、ホントのことだよ。女性の扱いに慣れてるっていうか、ツボを心得ているというか……」

「だーっ! いいからやめんか!
 終わり、もう終わり。泥沼になりかねんから、この話はここで終了!」

 汗に加え、血涙までもを流して浩之くんが絶叫。

 気持ちは分かります。

「えー? 浩之ちゃん横暴〜」

「やかましいわい。何と言われても終わり。ダメだこりゃ、だ。
 てなわけで、次だ、次! 次に行くぞ! 次いってみよう!」

 やけくそ気味に浩之くんが叫びました。
 何気にド○フが混ざってる時点で、まだまだ余裕が感じられますが。

「ほら、あかり。さっさと次のお願いを言え。否、言ってくれ。
 そら言えやれ言え早く言え」

「……え、えっと……」

 浩之くんの自棄ゆえの迫力に、あかりちゃんちょっぴり困惑。
 にも関わらず、浩之くんの言うとおりに願い事を考えているあたり、本当に律儀です。

「別に悩むことなんかねーだろ。俺に今してほしい事を素直に言えばいいんだから」

「浩之ちゃんに今してほしい事、か。……そっか。そうだよね。
 それじゃ……うん、決めた。
 わたしの二つ目のお願いは……」

「願いは?」

「わたしの目をしっかりと見つめながら『愛してる』って言ってほしい」

 首筋まで赤く染めて、うつむき加減で恥ずかしげに呟くあかりちゃん。

 片や、言われた方の浩之くんは、

「ぶっ!」

 それを聞いて、思いっ切り吹き出してしまいました。

「な、な、なんなんだよ、その願い事は!?」

「なんなんだって言われても……素直に、してほしい事を言っただけだよ。
 だって……浩之ちゃんって、滅多にそういう事を口にしてくれないじゃない」

 少しくちびるを尖らせてあかりちゃんが言いました。

「あ、当たり前だろ。んな恥ずかしい事、ポロポロと口に出せるわけねーだろーが。
 てか、俺の気持ちなんか言わなくたって分かってるだろ」

「うん、分かってるよ。……でも、わたしは聞きたいの。言ってほしいの。だから、お願い。
 ……ダメ?」

 上目遣いで訴えるあかりちゃん。思わずギュッと抱き締めたくなってしまうくらいの、反則的なまでに愛らしい姿です。
 しかも、最後の『ダメ?』の部分では、僅かに小首を傾げたりまでしています。その為、愛らしさは更に増加。

 ただでさえあかりちゃんに弱い浩之くんがそれに抗えるはずもなく……

「いえ、言わせていただきます」

 耐える間もなくアッサリと陥落。

「うん♪」

 期待通りのセリフを引き出すことに成功し、あかりちゃんはニコニコ顔。

 その笑顔を眩しそうに見つめながら、

「……そんじゃ……言うからな」

 浩之くんが宣言しました。既に耳まで真っ赤です。

「うん」

「…………てるよ」

 満面の笑みを浮かべているあかりちゃんから視線を逸らして、ボソボソと言う浩之くん。
 浩之くんにとっては、かなりの勇気を要する発言だったことでしょう。

「むっ」

 しかし、あかりちゃんはご不満の様子です。表情が一転しました。

「浩之ちゃん、やり直し」

 容赦なくあかりちゃんが告げます。

「げっ! マジかよ!?」

「当然でしょ。
 言ったよね、『わたしの目をしっかりと見つめながら』って。けど、浩之ちゃんは目を逸らしていたよね。
 それって、願い事を叶えたことにはならないんじゃないかな?」

「……」

 あかりちゃんの指摘に浩之くんは言葉を詰まらせました。
 見事なまでの正論。

「だから、やり直しなの」

「……」

 しかも、浩之くんは『なんでもいい』『男に二言はない』等々の発言もしています。
 反論の余地も逃げ道もどこにもありません。

「そうだな。確かにあかりの言うとおりだ」

 アッサリと観念して、自分の非を素直に認める浩之くん。

「そんなんじゃ願いを叶えたことにはならねーよな。俺が悪かった。言い直すよ」

 そう言って、浩之くんはあかりちゃんの目をしっかりと見つめました。

「……あかり」

「はい」

 やや緊張した面持ちで浩之くんの言葉を待つあかりちゃん。

「好きだよ。世界で一番、な。誰よりもお前が大事だ。
 俺は……藤田浩之は……神岸あかりを心から愛している。
 お願いなんて関係ない。これは、俺の本心だ」

 そんなあかりちゃんに、浩之くんはきっぱりと言い切りました。

「浩之ちゃん……ありがとう、嬉しいよ。
 わたしも浩之ちゃんが好き。大好き。
 神岸あかりは、藤田浩之を心から愛しています」

 あかりちゃんも浩之くんの目を見つめ、ハッキリと宣言しました。

「ああ。サンキュな、あかり」

「……浩之ちゃん」

 シリアスなのに甘い。
 そんな空気が一帯に漂いました。

 しかし、

「……さ、さて、これで二つ目も終わりだ! 次でラスト! オーラス!
 てなわけでサクサクと行くぞ!
 あかり、三つ目のお願いカモーン!」

 それを浩之くんが木っ端微塵に砕きました。
 照れ隠しなのが見え見えだったりしますが。

「え〜? もう〜? 少しは余韻を楽しもうよぉ〜」

 不服そうにあかりちゃんが文句を言いました。

「うっさい。そんなのは後で一人で満喫してくれ。
 んなことより、さっさと三つ目のお願いをゴー!」

「んもう。しょーがないなぁ」

 苦笑を浮かべてあかりちゃん。

「それじゃ三つ目。
 えっと……あのね……ここに……欲しいな」

 自分のくちびるを指差して、あかりちゃんが顔を朱に染めながら言いました。

 自分から要求したものとはいえ、愛しているとのセリフを聞かされて気分が盛り上がってしまったのでしょう。
 あからさまにキスをせがんでいます。

「了解」

 いままでと違い、サラッと受け入れる浩之くん。

 慣れている行為、というのもあるのでしょうが、浩之くん自身も望んでいるのでしょう。
 気分が盛り上がっているのは浩之くんも同じでしょうから。

「あかり」

 あかりちゃんの肩に浩之くんが手をかけました。

「浩之ちゃん」

 顔を少し上げて、あかりちゃんが応えます。

「三つ目の願い……叶えるぞ」

 肩をゆっくりと引き寄せながら浩之くん。

「……うん」

 つま先立ちになるあかりちゃん。

 二人の距離が除々に縮まっていき……

 そして、もう少しでゼロになるという瞬間、

 浩之くんは急に顔を横に背けました。

「? 浩之ちゃん? どうしたの?」

「ふえ……」

「ふえ?」

「ふえ……ふえ……ふえっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」













「……………………あ」

 目を開けたあかりちゃんの目に、見慣れた天井が飛び込んできました。
 ここで『知らない天井だ』とかボケてほしいところですが……それをあかりちゃんに求めるのは酷というものでしょう。

「覚めちゃったんだ」

 残念そうに言うあかりちゃん。

「わりぃ。起こしちまったな」

 その呟きに応えるように、すぐ横から申し訳なさそうな声が聞こえてきました。
 あかりちゃんがそちらへ顔を向けると、そこにはバツの悪そうな顔をした浩之くんがいました。

「いや〜、豪快にクシャミしちまってさ。……ホントわりぃ」

 あかりちゃんは浩之くんに腕枕されて眠っていました。
 その状態で浩之くんにクシャミされれば、当然あかりちゃんにも衝撃が来ます。
 目が覚めるのもやむなし、ですね。
 それにしても、夢の中と現実で同時にクシャミをしているとは……ザッツ・シンクロニティ!

 ちなみに、どうしてかは謎ですが二人とも素っ裸です。
 これではクシャミするのも無理はありません。

「そんなに謝らないでよ。全然気にしてないから」

「そっか? それならいいんだけど。
 でもさ、たぶん、すっげー楽しい夢でも見てたんじゃねーか? 起きたとき、お前ってばガッカリしたような顔をしたしな」

「う、うん。それは、まあ」

 浩之くんの問いに、あかりちゃんは首を縦に振りました。

「あー、やっぱりかぁ。そうじゃないかと思ったんだ。ほんっとーに申し訳ない」

「だから気にしなくていいってば。確かに楽しかったけど、夢は何時かは覚めるものなんだし」

 苦笑を浮かべるあかりちゃん。

「まあ、あかりがそう言うのなら……。
 けど、やっぱり釈然としないな」

「もう。浩之ちゃんってば〜」

 変なところで意固地な浩之くんの態度にあかりちゃんの苦笑が深くなりました。
 目が『しょーがないなぁ』と語っています。

「うーん……そうだなぁ……。
 よし! こうしよう。
 お詫びって言うと大袈裟だけど……安眠を妨害した罰として、あかりの願い事を三つ、なんでも叶えてやるよ」

 さも名案といった風情で浩之くんが言いました。

「え? 三つのお願い?」

 ちょっとビックリした顔になるあかりちゃん。
 それも当然でしょう。つい先程までそのキーワードに関わっていたのですから。

「なんか、童話に出てくるランプの精みたいだね」

 あかりちゃんは、夢の中と同様の感想を述べました。

「ふっふっふ。なかなか鋭いな、あかり君。
 実はな……何を隠そうこの俺様はランプの精だったのだ! さあ驚け! アラビアンナイトぱぱらぱ〜♪」

 そして、夢の中と同じボケをする浩之くん。

「なんでやねん!」

 ただし、夢の中とは違って即ツッコミ。

「おおっ!? あかりがツッコミを!? い、いつのまにそんな高度な技を!?」

「えへへ〜」

 あかりちゃん得意気です。『えっへん』とでも言いたげです。

「わたしだって成長してるんだよ」

「なるほどなぁ。
 でも、その割にはここはそれほどでは……いえ、なんでもありません。ごめんなさい」

「……よろしい」

 浩之くんの言った『ここ』とは一体どこの事なのでしょうか?
 あかりちゃんの浮かべた『ニッコリ』とした笑いが異様に怖いです。

「え、えっと……それはともかくあかり姫様。願い事をどうか仰って下さいませ。ささ、どぞどぞ。何なりとお申し付け下され」

 場の空気を和ませる為か、浩之くんが強引に話題を戻しました。
 妙に腰が低かったりするのがそこはかとなく哀れを誘います。

「そう? そこまで言うのなら、願い事を叶えてもらっちゃおうかな」

「ええ、それはもうオーケーですぞ。プリーズ・フォー・ミー! カモンカモン!」

「うーんと、それじゃ……まず一つ目はね……」

「一つ目は?」










「ここに……チュッてしてほしいな










< おわり >





 ☆ あとがき ☆

 02年の一発目〜☆

 てか、一発目が『(Ba)カップル』……か。

 何かが激しく間違ってるような気がする今日この頃( ̄▽ ̄;

 ちなみに……『もうちょっとだけ続く』と表記されてからの方が長いのは世のお約束です。




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