『察しの心は日本人の美徳』



 人には誰しも『察する』という能力が備わっている。

 いわゆる、『一を聞いて十を知る』。

 特に、日本人は、この『察する』という事に非常に長けている。
 日本の社会は、言うなれば『察し合いの社会』とすら表現できる節もある。
 それは、学校生活でも例外ではない。

 もちろん、浩之たちにとっても……。



 休み時間、いつものように浩之のクラスに遊びに来た志保。

「あら?」

 浩之たちのことを軽く見渡してから、

「ねえヒロ。あかりは?」

 そう尋ねた。

「あいつは今日は休み。ちょっと体調を崩しちまってな」

 浩之が答える。
 それを聞いて、志保は『察した』。表情に呆れの色が浮かぶ。

「ハァ。あんたねぇ」

「なんだよ」

「『元気』なのは結構だけど……少しは手加減してあげなさいよ。
 ベッドから起きあがれなくなるまで『する』なんて可哀想じゃない。
 ヒロってば本当に性欲魔人なんだから」

「なんの話だ!? てか、わけわかんねぇ誤解してるんじゃねーよ!!」

「誤解ぃ? 理解の間違いじゃないのぉ?
 ね、みんなもそう思うでしょ?」

 志保がクラス中に同意を求める。
 それを受けて、『うんうん』と深くうなずくクラスメート達。

「ほら見なさい」

 勝ち誇ったように志保。

「だーっ! あかりは風邪をひいて休んでるんだよ! 俺が何かをしたわけじゃねーっ!」

「ヒロ、往生際が悪いわよ。素直に認めなさいよね」

「だから違うっつーの! いやホント、マジで!
 ……な、なんだよお前ら、その目は?」

 必死に誤解を解こうとする浩之。
 しかし、周囲からは責めるような呆れたような冷たい視線が。

「ちっがーーーーーーう!! 違うんだ! 違うんだってばよーーーーーーっ!!」





 さて、浩之が咆吼している頃、葵たちの在籍する2年生の教室では、

「今日、姫川さんが休んだのって……やっぱり……」

「藤田先輩にダウンさせられちゃったのかな?」

「きっとそうよ。だって、藤田先輩ってすっごく『パワフル』らしいし」

「だよねぇ。それしか考えられないよねぇ」

「うんうん、同感」

 琴音が休んだ理由について憶測が飛び交っていた。
 尤も、殆どの者が同様の『察し方』をしたらしく、方向性は非常に限定されていたが。

「あ、あのー。琴音ちゃんが休んだ理由は……」

「あかりさんの看病をする為なんですけどぉ」

「またまた〜。そんな取って付けたようなウソをついちゃって〜」

「だいじょぶじょぶ。みんな、ちゃーんと分かってるから」

「そうそう」

 何とも表現しがたいニヤリ笑いを浮かべるクラスメート達。

「……い、いや……だから……その……違うんだってば」

「全然……分かってないと思うんです……けどぉ」

 前例が無いわけではない為、強く否定できない葵とマルチ。
 その二人を後目に、周りの憶測はどんどん過激な方向にエスカレートしていく。

「「……ハァ」」

 それを聞いて、思わず深々とため息を吐いてしまう二人であった。





 二つの教室で行われた誤解劇。
 この場合、責められるべきは、間違った方向に解答を見出してしまった者達か、はたまた浩之の普段の行いか。





 とにかく、

 上記の事柄からも分かるように、日本人は『察する』という事に非常に長けている。



 ただし、『分かっているけど敢えて言わない』といった思いやりの心の伴っていない『察し』は、時と場合によっては凶器になりかねないので扱いには注意されたし。



 まあ、



「違うんだっ! 今回はマジで違うんだって! 信じてくれよっ!」



 彼の場合は非常に自業自得っぽいが。



「言い掛かりだっ! 冤罪だっ! 無実を、無実を主張するぞっ!!
 俺は潔白だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」








< おわり >





 ☆ あとがき ☆

 ふと思いました。

 通勤電車の中で、この話を真面目な顔をして執筆している私って、端からみたら相当に『アレ』だなと。

 まあ、ニヤけながら書いていたら、それこそ正真正銘で『アレ』ですが……( ̄▽ ̄;




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