『アエン・キリカの事情』




 キリカ。

 凛とした強さと、優しさと、気高さを兼ね備えた……あたしの自慢の妹。

 しかし、あの娘は変わってしまった。

「アエン姉様、今日も一緒にお人形遊びを致しましょう」

 今では、すっかりお人形遊びに夢中になってしまっている。はっきり言って堕落もいいところだ。

 え? 人形遊びくらい大目に見てやれ?

 巫山戯たこと言ってんじゃないわよ。冗談じゃないわ。

 だって……

「うふふ。たくさん……可愛がってさしあげますからね」

 キリカのお人形って……『あたし』なんだもの。

「準備もすっかりと整っているようですし」

 ……まあ、確かに準備万端でしょうよ。

 どういうわけか、あたしの手足はベッドに縛り付けられてるし。

 何故か、目隠しと猿轡なんかされてるし。

 そもそも、今のあたし何も着てないし。

 ……って、そういえば、あたしってば何時の間にこんな状況に?

 盾と訓練して……シャワーで汗を流して……その後キリカと一緒に夕食を食べて……

 …………。

 そ、そこで記憶が途切れてるし。

「いやですね、アエン姉様」

 あたしの疑問まみれの心中を察したのか、キリカが穏やかに声を掛けてきた。

「姉様が意識を失っているうちに下拵えを済ませたに決まってるじゃありませんか。
 ちなみに、料理に一服盛るのは基本です」

 き、基本って……。
 そんな外道なことを嬉しげな声で宣われても……。

「まあ、そんな細かいことはどうでもいいのですけどね」

 細かくない。全然細かくない。

「些事には拘らずに……楽しみましょ」

(楽しめるかーっ!)

 猿轡をされている以上『うううーっ』としか声は出せないのだが、それでもあたしは叫ばずにはいられなかった。

「そうですよ。楽しみましょ、アエン様」

 ……え?
 な、なに? キリカ以外にも誰かいるの?
 というか、この聞き慣れた声って……ま、まさか……。

「うふふ」

 あたしの驚愕の表情に気付いたキリカがイタズラっぽい笑い声を浮かべる。

「これだけは外してさしあげますね。見えていた方がアエン姉様もいろいろと楽しめるでしょうから」

 言いながら、キリカがあたしの目隠しを外した。
 その瞬間、あたしの目に……

「……あ、あ、あなたたち」

 春風、盾、鹿の子、クルスとよく見知った顔が幾つも飛び込んできた。

「アエン様。春風ね、こうしてアエン様を可愛がるのが夢だったんです」

 あたしの胸に手を添えながら春風が言う。

「ちょ、ちょっと……んっ……は、春風……や、やめ、なさい」

「えへへ。娼館で培ったテクニック、アエン様に全部ぶつけちゃいますね。えへへ、えへへへへへへ」

 ひ、ひえ〜〜〜。
 春風ってば、目がイッちゃってる〜〜〜。
 こ、これは説得は無理っぽいわね。

「…………」

 た、盾! 何してるのよ!? 主人のピンチなのよ、ボケッとしてないで助けなさいよ!

 あたしは必死になって盾に目で訴えた。

「…………」

 それを受けて、盾があたしの方に近付いてくる。

 ……って、ちょっと待ってよ。
 なによその、用途が限りなく限定されそうないかがわしさ炸裂なアイテムは!?
 そんな物、どうしようって言うのよ!?

「…………」

 な、なんか、妙に楽しそうな顔してない? あんた。

「面白そうですね〜〜〜。私も仲間に入れて下さい〜〜〜」

 こら、鹿の子! なんであんたまでどさくさに紛れて混ざってるの!?

「アエン様、美味しそうです〜。ドリアンよりも美味しいかもしれないですね〜〜〜」

 ど、ドリアン〜? んなもんと比べるんじゃないわよ。

「クセになっちゃったらどうしましょ〜〜〜」

 …………。
 うううっ。ならないで、お願いだから。

「潔く諦めて下さい、アエン様」

 く、クルス……。まさかあんたまで。
 この中では唯一まともな常識を持っていそうなヤツなのに。

「全てはアエン様が総受け体質なのがいけないのですから」

 あたしの所為かい!? てか、総受け体質って何よ!?
 さも当然のようにサラッととんでもない事を言うなっ!

「さて……それではアエン姉様も納得できたことでしょうから……」

 してない! ぜんっっっぜん、これっぽっちもしてない!

「そろそろ楽しみましょうか」

 そう言いながらキリカがあたしに触れてきた。

「……あ、あふっ。……き、キリカ……っ……ダメ……」

「さあ、皆さんもご一緒に」

 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てーーーっ!
 皆さんって……皆さんって……。まさか、全員一遍にあたしを弄ぶ気!?
 キリカ一人にされるだけでも堪らないのに……そ、そんな……。

「うふふ。今晩は楽しくなりそうですね」

 楽しいことあるかーーーーーーっ! やーめーれーーーーーーっ!



 そんなあたしの叫びが届くことは……届いたところで聞き入れられるわけは……なく、



 あたしは、全員にこれでもかってくらいに『可愛がられて』しまうのだった。



 …………マジで死ぬかと思った。










 次の日、あたしは悪司に泣きついて、部屋に鍵を幾つも幾つも取り付けてもらった。

 南京錠に電子ロック、果ては網膜・指紋照合まで導入した。






「さあ、アエン姉様。今日もお人形遊びを致しましょう」



「なのに、何事もなかった様にアッサリと入ってくるなーーーーーーっ!!」








< おわる >





 ☆ あとがき ☆

 作品タイトル、正確には『アエン・キリカの情事』かも(^ ^;

 主人公の悪司はSSでは扱いにくい気が(個人的には)しますが、他のキャラは結構弄れそうです。

 特にアエンとキリカの姉妹はいろいろと(邪な)ネタが浮かびます。


 取り敢えず……

 性格が正反対な姉妹って良いよね……とか言ってみたり。

 それと……

 普段気の強い娘が完全に受けに回ってしまうエッチシーンって燃えるよね……とかも言ってみたり。



 ……賛同者求む( ̄▽ ̄;



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