ホワイトデー。

 恋人たちにとっては愛を確認する大切な日であり、それ以外の者たちにとっても無視することは出来ない一大イベントです。

 ここでは、そんなホワイトデーに於ける注意点をまとめてみました。





『白でー』




(1)雅史&圭子の場合

「あ、あの……圭子ちゃん。こ、これ……」

「あ、ありがとうございます。嬉しいです」

「い、一応、僕の手作りなんだ」

 照れくさそうに頭を掻いて雅史くんが言いました

「え? 手作りですか?」

 それを聞いて、圭子ちゃんはビックリ。

「うん。クッキーなんて焼いたの久しぶりだからあんまり上手く出来てないけど……」

「そ、そうですか。クッキー、ですか」

 クッキーという単語を聞いて、圭子ちゃんの顔が少し翳りました。

「あれ? どうかした? もしかして、迷惑だった?」

「そんなことないです!」

 慌てて首を横に振る圭子ちゃん。

「ただ……」

「ただ?」

「できれば……キャンディーの方が嬉しかったかなって……。す、すみません、ワガママ言って」

 圭子ちゃん、そう言ってペコリ。

「ううん。別にそれはいいんだけど。でも、なんでキャンディーの方が良いの? クッキー嫌いだっけ?」

「そ、それは……あ、あの……その……」

「?」

「一般に……ホワイトデーの本命へのお返しは……キャンディーってことになってるんです。だ、だから……わたし……」

 顔を赤く染めて圭子ちゃんが答えました。

「そ、そうなんだ!? ごめん! 僕、そんなの知らなかったから!」

 その答を聞いて慌てる雅史くん。

「いえ! いいんです。わたしの方こそすみません。せっかく佐藤さんが手作りして下さったのに贅沢なこと言っちゃって……」

「うーん、失敗したなぁ。そっか、そういうルールがあったんだ。もっとよく調べるべきだったよ。ホントにごめんね」

「佐藤さん、そんなに気にしないで下さい」

 雅史くんに頭を下げられて、圭子ちゃん恐縮。

「まあ、そう言ってもらえるとありがたいけど……でも、このままで済ますのも何だし……。だから、圭子ちゃん」

「はい?」

「お詫びってわけじゃないけど……」

「え?」

「これで……勘弁してよ」

 そう言いながら、チュッと、圭子ちゃんのホッペにそっと触れるだけのキス。

「……………………っ!」

 圭子ちゃんの顔が、ボンッという音を響かせて一気に真っ赤に染まりました。

「許して、くれるかな?」

「…………は、はいぃ。も、もちろんですぅ」

 ポーッと夢見るような表情で圭子ちゃんがコクコク。

「うん。ありがとう、圭子ちゃん」

「こちらこそありがとうございます。……えへへ」

 圭子ちゃん、ふにゃふにゃ顔。

 ちょっとしたミスもイチャイチャのスパイス。結局、いつもどおりにラブラブな二人でした。



注1:ホワイトデーのお返しは、本命にはキャンディー(関西ではマシュマロ),義理にはクッキーと言われています。
   間違えないように気を付けましょう。





(2)垣本&吉井の場合

「はい、吉井さん。これ、お返し」

「ん。ありがと」

「なんか素っ気ないなぁ。もうちょっと派手に喜んでほしいところだけど」

 苦笑する垣本くん。

「そう? これでも思いっ切り喜んでるつもりだけど?」

「ま、いいけどさ。照れ隠しの一種だと理解しておくよ」

「……はいはい。そういうことにしておいてね」

 あくまでもクールに答える吉井さん。
 しかし、頬が赤く染まっているところを見ますと、実はかなり嬉しいみたいです。

「ところで……」

「ん?」

「垣本くんって結構マメなんだね。すっごく綺麗にラッピングされてるし、メッセージカードまで添えるなんて」

 手の中の包みを見ながら、吉井さんが感心したように言いました。

「そうかな? 別に普通だろ?」

「普通ではないと思うけど。でも、悪い気はしないわね」

 顔を綻ばせる吉井さん。

「そりゃどうも」

「ねえ。カード、今ここで読ませてもらっても構わない?」

「もちろんいいよ」

「うん、それじゃ…………っっ!?」

 カードに目を通した瞬間、吉井さんの表情が一変しました。
 例えるならば、聖母の微笑みから悪鬼羅刹の憤怒へと。

 そして、

 グシャ!

 思いっ切りカードを握りつぶしました。それはもう見事なまでに。

「ああっ!? なんてことするんだよ!?」

「か・き・も・と・くーん」

 イヤすぎる笑みを浮かべて、吉井さんは垣本くんの方にグッと顔を寄せました。

「な、なんでしょう?」

 迫力に押され、垣本くん、ついつい敬語に。

「これ、わたし宛てなのよねぇ?」

「そ、そうだよ」

「わたし……田中涼子って名前じゃないんだけど……」

「へ?
 ……げげっ! 間違えた!」

 顔を真っ青にして叫ぶ垣本くん。

「間違えた……じゃなーーーい!」

 ドゲシッ!

 吉井さん、容赦のないアッパーカットを垣本くんに炸裂。
 手にメリケンサックがはめられている様に見えたのは目の錯覚でしょうか。

「ぶはーーーっ!!」

 垣本くん、豪快に車田吹っ飛び。

「ふんっだ! 垣本くんのバカ! スケコマシ!」

「ち、違うんだ。それは部活でマネージャーをしてくれている娘への義理返しで……」

「問答無用!」

 メキャ!

 床に這い蹲りながら言い訳する垣本くんに、吉井さんトドメのフットスタンプ。

「ぐふっ!!」

「本命と義理を渡し間違えるなんて……さいってー!」

 プンプンとお怒りモードの吉井さん。

 その横……もとい、下では、

「…………あうあう」

 垣本くんがお花畑で戯れていました。ピクピクと痙攣しながら。



注2:渡し間違いには気を付けましょう。特にカードなどを添える際には細心の注意が必要です。





(3)矢島&松本の場合

「松本さん、はい」

「……なにこれ? どうしたの〜?」

 差し出された包みを見て、松本さんハテナ顔。
 そして、その問いを聞いて矢島くんも同じく困惑。

「どうしたのって……今日はホワイトデーじゃないか。だからお返しを……」

「あれ〜? わたしぃ、矢島くんにチョコあげたっけ〜?」

 アゴに人差し指を添えて考え込む松本さん。

「……おい」

「ぜ〜んぜん憶えてないや〜」

「お、憶えてないって……松本さんにとっては、俺ってば簡単に忘れ去られちゃう程度の存在なのか……」

 矢島くん、ちょっぴりブルー。

「ま、いっか〜。仕方ないよね〜。あはは〜」

 気にしないことにしたらしく、松本さんはあっけらかんと大笑い。

「……松本さん……ひでーよ」

 対照的に、縦線を背負いつつガックリと崩れ落ちる矢島くん。

「おや〜? どうしたの矢島くん? なにがそんなに悲しいの〜?」

 キョトンとした顔で松本さんが尋ねました。

「な、なんでもないよ……そう、なんでも。……ううっ。ちくしょう、泣いてなんかない。泣いてなんかいるもんか。これは涙じゃないんだ。これは青春の汗なんだ。……えぐえぐ」

 天然も時には罪。



注3:忘れるのは御法度です。絶対に憶えておきましょう。渡した側も渡された側も。





(4)藤田浩之の場合

「ホワイトデー、か。バレンタインデーにはみんなにいろいろと『サービス』してもらったから、今日はたっっっぷりとお返ししてやらないとな。3倍返しくらいじゃ済まさねーぜ。くっくくく」


注4:……ほどほどに。





(5)坂下好恵の場合

「これは後輩の木村、こっちは隣のクラスの井上、そんで、こっちのは……。
 うがーっ! なんで私がこんなことをしなければいけないんだ! 私は女なのよ! なのに! なのに、なんでホワイトデーにお返しする側になってるのよーーーっ! 納得いかなーーーい!」


注5:……運命は素直に受け入れましょう。





 それでは皆様。

 注意事項に気を付けて楽しいホワイトデーをお過ごし下さい。


 


注6:くれぐれも『全国飴菓子工業協同組合』の陰謀などというドライな捉え方はしないように。


 ……事実ですけど。








< おわり >






 ☆ あとがき ☆

 遅れた、かっこわるぅ(;;)

 閑話休題。

 本命・義理には諸説様々あるようです。

 地域によって

 本命:マシュマロ 義理:クッキーORキャンディー

 本命:キャンディー 義理:クッキー

 本命:クッキー 義理:キャンディー

 のように変わるみたいです。

 ……ホワイトデーって難しい(^ ^;




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