「ねえねえセリオさん。急用って何でしょうね?」

「なんでしょう? なにやら、新装備がどうとか仰ってましたけど……」

 わたしとマルチさんは、長瀬主任に呼ばれて来栖川インダストリーに来ていました。

「新装備、ですか?」

「ええ」

「ひょっとして、わたしにもセリオさんの様なサテライトシステムを組み込んで頂けるのでしょうか?」

「どうでしょう? でも、もしかしたらそうかもしれませんね。新タイプのシステムが完成したのかもしれません」

「それだったら嬉しいですぅ。そうしたら、わたしもセリオさんみたいにお料理が得意になれますね。それに、もっと上手なお掃除の方法が分かるかもしれませんし……それからそれから……」

 目を輝かせるマルチさん。

「うふふ、そうですね」

 わたしは、その様子を微笑ましく眺めながら、『本当にそうだったらいいな。マルチさんも喜ぶでしょうし』と思っていました。


 しかし、現実は無情でした。

 ……というか、滑稽でした。





『くるるん』




 ギュインギュインギュインギュイン。

「……………………」

「……………………」

「どうかね? どうかね? 素晴らしいだろう」

 ギュインギュインギュインギュイン。

「……………………」

「……………………」

「この音、この姿、この回転。まさに絶品。そうは思わないかい?」

 ギュインギュインギュインギュイン。

「……………………」

「……………………」

 回ってます。主任がわたしたちに披露した物体は唸りを上げて回転してます。

「あ、あのー、セリオさん?」

「な、なんでしょう、マルチさん?」

「目の前の物……わたしには『ドリル』に見えるんですけどぉ」

「き、奇遇ですね。わたしにも『ドリル』に見えます」

 イヤな汗をダラダラ流すわたしとマルチさん。

「こいつは素晴らしいよ。スタイル、サウンド、威力。全てが一級品。これを上回る『ドリル』はそうは無いよ」

 対照的に、喜色満面な長瀬主任。
 ちょっとお近づきにはなりたくない『マッド』な雰囲気がプンプンしています。

「え、えっと……しゅ、主任?」

「ん? なにかね、マルチ?」

「あの……ひょっとしてひょっとすると……新装備って……これですかぁ?」

「そうだよ」

 おそるおそる訊いたマルチさんに、主任はアッサリキッパリと答えて下さいました。

「わ、わたしにサテライトシステムを組み込んで下さるとか、そういうのじゃないんですかぁ?」

 ちょっぴり落胆した様子でマルチさんが更に尋ねました。

「はっはっは、何を言ってるんだい。マルチにそんな物は不要だよ。何でも出来るマルチなんてマルチじゃない。マルチはドジな所が『萌える』んじゃないか。そうだろ?」

 晴れやかな笑顔で宣う主任。

 ……この人、どこか壊れてるんじゃないでしょうか。

「そ、そうだろ?って言われましても……」

「はうぅ〜」

 呆れて上手く言葉が紡げないわたしと、ガックリと肩を落とすマルチさん。

「なにをガッカリしているんだい、マルチ。サテライトシステムは付けてあげられないけど、代わりにこの『ドリル』を……」

「いりませんですぅ!」

 主任の戯言をスパッと遮ってマルチさんが叫びました。

「う゛。で、では、セリオは……」

「絶対にいりません」

 わたしも断固とした口調で断ります。

「な、何故かね? こんなに素晴らしい『ドリル』なのに……『ドリル』は浪漫なのに……」

 素晴らしかろうが何だろうが『ドリル』という時点で既にアウトだということに、どうしてこの人は気が付いていないのでしょうか。

「あのですね、長瀬主任。『ドリル』が浪漫だというご意見には賛成します。よく分かります。すっごく理解出来ます。ですが、女性型ロボットに『ドリル』が似合うとお思いですか?」

「似合わないかなぁ?」

「似合いません!」

「そうかい? ピンクとかレモンイエローとかの『ドリル』だったら女性にも似合うと思うけどねぇ」

 色の問題ではないのですが……。
 というか、そんな可愛らしいカラーをした『ドリル』なんて別の意味でイヤすぎます。

「それでも似合わないんです! とにかく、わたしたちはそんな装備はお断りします。ええ、心の底から力の限りお断りしますとも」

「そうですそうですぅ」

 わたしの言葉にマルチさんも賛同して『うんうん』と何度もうなずく。

「むぅ、そうか。『ドリル』はそんなにイヤか」

「当たり前です」

「わたしもイヤですぅ」

「……ハァ……それじゃ仕方ないな。無理強いするわけにもいかんし……残念だけど……」

 ため息を吐きながら、さも無念そうに長瀬主任。

「分かっていただければいんです」

「ごめんなさいです、主任」

「いや、いいんだよ。まあ、冷静になって考えてみれば、確かにセリオの言うとおり『ドリル』は女性向けの装備ではなかったかもしれないしね。やはり『ドリル』は漢の浪漫。今度、男性型メイドロボを作り出した時に取り付けることにしよう」

 ……ですから、男でしょうが女でしょうが『メイド』に『ドリル』は必要ないのですが……。

 心の底からそうツッコミを入れたかったですが、話が堂々巡りになりそうなので必死に堪えました。


 なにはともあれ、『ドリル』なんて物を装備される事にならなくて本当に良かった。

 胸に手を当てて、ホッと安堵の吐息を零すわたしなのでした。








< おわり >






< おまけ >

 ―――その日の夜。

「そんなことがあったのか。……ったく、あのオッサンにも困ったもんだなぁ」

「本当ですよねぇ。だいいち、『ドリル』なんて間に合ってますのに」

「は? 間に合ってる?」

「はい。だって、わたしたちにはこんなに立派な『藤田家女性陣専用ドリル』が……。やっぱり、『ドリル』は女性よりも男性の方が似合いますよね」(ぽっ)

「……セリオ、お前、どこを見て言ってる」(汗)





< おまけ2 >

 ―――数週間後。

「マルチ、セリオ。今度の装備は完璧に女性用だよ。まさに、女性型ロボットにしか付けられない逸品。伝統美と表現しても過言ではないね」

「…………」

「…………」

「どうだい? 見事な『おっぱいミサイル』だろう」

「…………」

「…………」

 誰か、主任を止めて下さい。

 ホント、一刻も早く。








< マジでおわり >






 ☆ あとがき ☆

 電波です。それ以外の何物でもありません。

 長瀬主任、今までも壊れ要素は含んでいましたが、これで壊れ確定でしょうか(^ ^;

 こうして、まともな人が一人また一人と減っていく。

 ある意味ホラー( ̄▽ ̄;





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