エイプリルフール。
その起源は諸説様々だったりする。
その昔、ヨーロッパでは3月25日を新年として4月1日まで春の祭りを開催していたが、16世紀半ばにフランスが1月1日を新年とする暦を採用。これに反発した民衆が4月1日を『偽りの正月』としてバカ騒ぎするようになったのが始まりとする説。
この日がキリストの命日であり、キリストがユダのウソで裏切られた事をいつまでも忘れないようにする為に設けられたという説。
インドでは春分の日から月末までは座禅を組んでの修行の日とされており、その間は悟りの境地にいる者が多い。しかし、それが終わるとまたすぐに迷いを生じさせるので、4月1日を『揶揄日』もしくは『揶揄節』と呼んでからかった。その事を起源とする説。
これら以外にもまだまだ色々な説があり、正しい起源は未だに分かっていない。
『ウソの日』
―――などという何の役にも立たない蘊蓄はさておき、とにもかくにも4月1日は大っぴらにウソをついてOKな日。俺にとってはその事実だけで十分だったりする。
てなわけで、俺もなにか一発ぶちかまそうと思う。
さてさて、どんなウソをつこうか。
洒落にならない悪質なもの、例えばみんなに「別れよう」なんて言ったりするのは絶対に御法度だと思うし、そんなことは例え冗談でも口にしたくない。従って、そういうのは問答無用で却下。
あまりにも荒唐無稽なもの、例えば「火星人が攻めてきた」「ネッシーが生け捕りにされた」「志保がお淑やかになった」等という『絶対にありえないであろう事・極めて可能性の低い事』はすぐにバレるので(マルチあたりは信じるかもしれないが)、これも却下。
やっぱり、それなりに真実味があって、尚かつウソだと分かったあとにお互いにクスッと笑い合えるようなのがベストだと思う。
さってと、どうしよっかな。
少しの間、俺は思案に暮れた。
幾つか案を出し、簡単に脳内シミュレーションしていく。
そして、暫しの後……
ま、こんなとこかな。
俺は妥当だと思えるものに辿り着いた。
よし、これでいこう。
ふっふっふ、みんなの驚く顔が楽しみだぜ。
俺は微かに口元を歪ませると、意気揚々とあかりたちの所へと向かった。
「みんな、ちょっと聞いてくれるかな」
俺の言葉に、リビングで談笑していたみんなが異口同音に『なに?』と答えて振り返る。
「あのさ……言いづらいことなんだけど……」
全員の視線がこちらに集まったことを確認してから、俺はみんなの顔を見回しながら切り出した。
「思うところがあって……今日から5日間、俺はエッチを断つから。そういうことで宜しく」
マジだと思わせる為に可能な限り真剣な表情で。
それを聞いたあかりたちが少しキョトンとする。言葉を失う女性陣一同。
室内が静寂に支配される。
―――が、次の瞬間、みんなは顔を見合わせると、
『そっか。今日は4月1日だっけ』
うんうんと頷きながら心底納得したようにそう宣って沈黙をうち破った。綺麗に声を揃えるオマケ付きで。
……おい、ちょっと待て。
あの発言を聞いて、全員がすぐに『4月1日』を思い出すってのはどういう了見だ?
俺のエッチ断ちってのはそんなに信じられないのか? しかも、たったの5日なのに? それなのにウソだと断定するのか? 俺って、エッチが関わるとそこまで信用をなくすのか?
まあ、実際ウソなんだけど……でも、なんか……すっごく納得いかない。
みんながエイプリルフールをネタに会話を弾ませ始めたその横で、俺は一人釈然としない気持ちを味わっていた。
もしかして、俺ってとんでもないケダモノだと思われてるのか? 色魔だと認識されているのか? そうなのか?
あかりたちを驚かせるつもりで、イヤな意味で逆に驚かされてしまった俺だった。
ちなみに、後日この事を雅史と垣本に言ったらこんな答が返ってきた。
「え? 浩之、自覚無かったの?」
「……藤田……お前、何を今更」
…………。
< おわり >
☆ あとがき ☆
エイプリルフール。一年で唯一ウソが許される日。
みんなで楽しく盛り上がれる日になるか。
全ての言葉がウソに思える、疑心暗鬼に陥る日になるか。
環境次第で天と地ほどの差が出そうです。
私の場合は……後者かも(;;)
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