『わーるどかっぷ』



 日本国民総サポーター化。
 それは我が藤田家も例外ではなかった。

「フレー! フレー! ファイトですぅ〜!」

 あかりに作ってもらった小旗を手に、マルチがテレビに向かって大声で応援。

「行けーっ! GO! GO!」

 その声に、両腕を振り上げてレミィも続いた。

「この試合、引き分け以上だったら決勝に進めるんだっけ?」

「えっと……1点差までなら負けてもセーフやな」

「そうなんですか。でも、どうせだったら勝って1位で突破したいですよね」

 普段はスポーツ番組を滅多に観ないあかりに智子、琴音ちゃんもテレビの前に陣取って熱い視線を送っている。

 そんな俺たちの見ている前で、後半3分に先制点。そしてその27分後に追加点が入る。
 室内に沸き起こる大歓声。みんな、手を叩いて喜んでいる。

「これで決勝トーナメント進出はほぼ確実ですか。ま、当然の結果と言えますけど」

 強気な口調とは裏腹に、ホーッと深い安堵の吐息を零すセリオ。

「2点差。ここは守りを固めて確実にいきたいですね」

「なに言ってるのよ。攻撃は最大の防御。このまま攻め続けるべきよ」

 葵ちゃんの堅実な言葉。それを綾香が真っ向から否定した。
 二人の性格の違いが如実に出ていると思う。

「あと何分? ああ、早く終わってくれないかなぁ。うう、ドキドキするよぉ」

 理緒ちゃんがしきりに時間を気にする。視線がテレビと時計を行ったり来たり。

……ドキドキ、です

 呟く芹香。いつもの如く無表情チックだが、固く握りしめられた手が心情を思いっ切り叫んでいた。

 固唾を呑んでテレビに釘付けになる一同。
 その俺たちに『ピー! ピー! ピーーーッ!』という甲高い笛の音が届けられたのは、それから数分後のことだった。

「よっしゃーっ!」

 ガッツポーズを取って思わず声を張り上げる俺。
 それに、

「わーい。勝ちましたぁ〜!」

「イエーイ! ヴィクトリー♪」

 みんなが思い思いの歓声で続いた。

「よし! 今夜はお祝いだ、お祝い! パーッと景気良く騒ごうぜ!」

 興奮を隠そうともせずに俺が叫ぶ。

『オーッ!』

 腕を突き上げて応えるみんな。
 次いで、パチパチという拍手と共に、

『ニッポン! ニッポン! ニッポン!』

 日本コ−ルが自然に沸き上がった。

 それを見て俺は思った。

 みんなハイテンションになってるなぁ。
 こりゃ、今日の宴会は凄いことになりそうだ。絶対に酒も入るしな。

 ―――と。

 ま、これもワールドカップの醍醐味ってやつだよな。

 心の中で深く納得すると、俺もみんなの輪の中に入り日本の名を連呼するのだった。



 日本国民総サポーター化。
 それは我が藤田家も例外ではなかった。





 ちなみに、その頃佐藤家では、

「やった! 勝った! 勝った!」

 雅史がテレビの前で万歳をしていた。

「よ、良かったですね、佐藤さん。では、そろそろ……」

 その雅史に向かって、圭子が遠慮がちに声を掛ける。

「さて、次は韓国の応援をしないと」

 だが、雅史はそれに気付かず、続いて韓国応援モードに入ってしまう。

「さ、佐藤さん? あ、あのー、そろそろ構ってほしいな〜なんて……。佐藤さん? 聞いてますぅ?」

「やっぱり共催国だもんね。韓国にも決勝に進んでほしいよ」

「う゛。全然聞いてない。ていうか、聞こえてない。わたしのこと、完全に眼中に無いし……」

 綺麗に無視されてしくしくと涙する圭子。

「あーん! 佐藤さーん! 少しは相手して下さいよー!
 ふえーん、ワールドカップなんか嫌いだーっ!」


 日本国民総サポーター化。
 但し、ちょっぴり例外有り。



< おわり >






 ☆ あとがき ☆

 30分一本書き(^ ^;
 オチも何もありませんが……ま、お約束ってことで。

 頑張れニッポン!\(>w<)/




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