『昼下がりの事件』



 とある日、昼も下がりすぎた感のある頃に、学校の教室でシクシクと泣く小柄な緑髪の
少女が一人。
「うぅ…うぅ…」
 肩を震わせて、涙をポロポロとこぼして泣いている。
 学校の授業はとうに終わり、放課後になっていてその教室にはその少女以外誰もいない。
 校庭からは、体育会系のクラブが熱心に練習を続け、キャプテンの号令がグラウンドに
響いていた。
 少女は教室の隅にうずくまり、まるで他人の目を避けるかのようである。
「どうしたらいいんですかぁ…このままじゃ帰れないですぅ…」



 藤田浩之は、今日も一日の授業を終え、鞄に荷物を詰め終わるとそそくさと帰ろうとし
ていたところに、彼の仇敵とも言える少女の長岡志保が現れて、なんだかんだで口喧嘩と
なった。 長々とそれを続けていると、気がつけばいつの間にか周りには彼と志保以外に
誰もいなくなっていた、と言う状況である。
 違った。 たった今、赤毛の少女が教室に入ってきていた。
「帰ろうよ、二人とも」
 何事もない穏和な表情でそう言ったのが神岸あかりである。
 おもわず浩之と志保、同時に顔を見合わせ―――そして全く同タイミングであかりの方
に向き直った
「え、え、な、なに?」
 あかりはその視線にたじろぎ、
「おまえ、タイミング良すぎ」
「あかり、タイミング良すぎ」
 二人の声がハモった。
「てゆーかお前、ずっと外で見てたんじゃねぇだろーなー」
「そんなことしてないよー」
 抗議の声をあげるあかりだったが、志保も浩之に同調したようで、
「そーよ、あかりってば、こういうときのタイミングは計っていたとしか思えないわよ」
 両者の非難を受けて、と言うかほとんど言いがかりなのだが、あかりは顔を伏せた。
「うぅ…そんなこと…」
 理不尽な言われように一瞬泣き顔をあかりは見せると、あわてたように浩之と志保は言
いつくろう。
「ま、まぁ、今日はいい天気だし、散歩てがら帰ろっか」
「帰り、あかりの好きなくまショップによって帰るか?」
 慌てふためく両者を尻目にあかりの目がキラーンと光った、ような気がした。
 そしてボソッと、決して二人には聞こえないように呟く。
「でも…そんなこと…あるんだなぁ、これが」
「ん、今なんか言ったか?」
「ううん」
 ブンブンと首を振って否定するあかり。
「そうか」
 浩之は気にも留めなかった。
「じゃあ!」
 志保は右手を振り上げて、人差し指で天を指した。
 その動作にはあまり意味がなかったのだろうが、まぁ、勢いづけ程度なのだろう―――
そして高らかに宣言する。
「決めた! 今日はカラオケで志保ちゃんリサイタルよ!」
「どーしてそうお前は一人で勝手に決めるかな」
 浩之はジト目で冷たく見やった。
「何よ、目つきの悪いその目は!」
「悪いか、生まれつきだ!」
「あたしの意見に反対なら対案を出しなさいよぉ。反対だけするなんて卑怯よぉ!」
「こ、この…減らず口だけは一丁前になりやがって…」
「あんたが煮え切らない軟弱な男だから、言いたくもなるわよ!」
「軽薄なお前に言われたくねー!」
「何よ!」
「何だ!」
「うー!」
「うー!」
 にらみ合って、終わったばかりの喧嘩が再燃する寸前だった。
「…………あの、二人とも…………帰るんじゃなかったの…………」
 あかりの呟きは二人には全く届いていない。
「はぁ」
 あかりはため息をついて、それから何かを決心したような表情をわずか一瞬だけ見せて、
少ししゃがみ込んだ。 その動作には浩之も志保も全く気づいていない。
「!?」
 ヒュウッと言う風を切る音とともに何か大きなモノが、両者の間に飛んできていた。
 がごん!ドンガラガッシャーン!!
 轟音を立て、派手にそれは転がった。
「は?」
「へ?」
 浩之と志保、何が起こったのか全く理解できていない。
 棒立ちのまま、ゆっくりと今飛んできたモノが転がって行った方向を眺めた。
 それは、机だった。
 何処の教室にもある一般的な、生徒用の机であるが、頑丈な作りで、かなり重いはずだ
った。
 なのに、それが空中を飛んでいた。
 通常ならあり得ないことであろう。
 そして、もしこれが自分たちに激突したらどうなっていたのだろうか?
「…………」
「…………」
 二人顔を見合わせて黙り込む。 そして、首をその逆側、つまり机が飛んできた方角だ
が―――ギリギリと曲げると、そこにはにっこりと天使のような微笑みを浮かべる神岸あ
かりが居た。
「わたし、くまショップに行きたいな」
 テヘッと、恥じらったように頬を赤らめる。
「…………」
「…………」
 また短い沈黙があって―――
「「はい」」
 同時に返事が行われる。
 そして、決定。
 今日の寄り道は『くまショップ』。



 寄り道先が、話し合いにより実に民主的に決められたあと、
「そういや、マルチの奴もまだ学校に残っているかも知れねーな。 すぐそこだし、ちょ
っと呼びに行って来る」
「うん」
 あかりは頷き、浩之は駆けていった。
「マールーチー、まだ残ってるかぁ!」
 ガラッと教室の戸を開き、大声を張り上げても、そこには浩之の探す人物はいなかった。
「ん、もう帰ったのか?」
 一人ごちて教室に踏みいる。
 入って、視線をとある机に移す。
 そこには鞄がある。
「なんだ、もしかしてまだ掃除してるのか?」
 ツカツカと浩之はその机まで歩いてゆき、確認したが、まだ鞄の中身はそのまま残って
おり、それは持ち主がまだ学校の中にいることを表していた。
(しかしな、あかり達をあまり待たせるのもワリィし、まぁ、帰るか)
 と考え、踵を返し、歩み去ろうとしたとき、ふと耳に入ってくる声があった。
 それは教卓の前、教師用机の下から聞こえてきたのが女の子がすすり泣く声である。
「ん、誰かいるのか?」
 浩之の位置からはちょうど死角になっていて見えないのだが、確かに誰かがいる。
 ゆっくりと歩いて行き、そっとその場所をのぞき込む。
「…なにしてんだ、マルチ?」
「うぅ…浩之さん…見ないでください…恥ずかしいですぅ…うぅ…」
 そこには両耳を隠して、うずくまってシクシクと泣いている少女がいた。



 メイドロボットという存在。
 それは人ではない存在、機械の体と心を持つ工業製品としてのロボット。
 しかし、人に酷似した、今では外見上だけなら人間と全く見分けがつかないほどのモデ
ルすら有る。
 それでも、人とメイドロボットの区別が簡単につくようにと、本来人の耳がある部分に、
メイドロボットは大きく目立つセンサーをカバーとして装着することが義務づけられてい
る。別に罰則があるわけではないが、慣習としてそれはよく馴染んでいた。
 業界最大手である来栖川電工製のメイドロボットには最もその傾向が強く、どの種類の
機体にも特徴的なカバーセンサーが装着されている。
 人に使役されるためだけに生まれ出されたモノ、メイドロボット。
 それが、目の前の緑髪の少女―――HMX−12 マルチであるはずだった。
 けれど、浩之にとっては単なるドジな少女としか認識していない。
 それがマルチにとって幸せなことなのかどうかは、まだ誰も分からない。



「で、何処で無くしたんだ?」
 浩之は、手ぬぐいでほおかむりをしたマルチ、いわゆる俗に言う『泥棒ルック』である、
に問いかけた。
 マルチがあまりにも恥ずかしがるため、こうなったわけだが、浩之にしてみればこっち
の方がはるかに恥ずかしいだろうがと思ってはいた。
 マルチを見る。
 何かいつもと違う。
 ほおかむりをしているのは除くとして、それでも違う。
 理由は分かり切っている。
(しかしなぁ、どうしてセンサーなんか無くすかなぁ?)
 いつもの6の字を逆にした形のセンサーがないからだ。
「え、え、分からないですぅ…気がついたら無くなっていて…」
「どこかに置き忘れたとかは?」
「肌身離さず持ち歩いてますからそれはないですぅ」
「じゃあさ、やっぱり気づかないウチに落ちちゃったんじゃないの?」
「うーん、分からないです」
 シュンと落ち込むマルチだったが、その格好のせいであまり悲壮感とかは感じられない。
 むしろ喜劇じみているのだが、その場に敢えて突っ込む者はいない。
「それじゃあ、仕方ねえなぁ」
「ふ、ふええええーん!」
 浩之が呆気なく言いきるのを見て、ひときわ大きな声で泣くマルチだった。
 浩之はやれやれという顔で、後に言葉を続ける。
「探すしかねえだろ」
「へ?」
「マルチ、無くしたのは学校内でなんだろ?」
「は、はい。 多分…そうだと思います」
「よし」
 浩之はあかりと志保を見やり、告げた。
「手伝って貰う、ぜ」
「うん」
「しょうがないわねぇ」
 あかりは即座に、志保の方はやれやれしょうがないと言った感じに首をすくめて、返事
が返ってきた。
「と言うことでだ、マルチのセンサーを俺達で探すんだ」
「おー!」
「頑張る!」
 その乗り気な返答を聞くと浩之は、マルチの方へと向き直り、軽く微笑んだ。
「ちと、待ってな。 大丈夫、すぐに見つけてやるさ」
 しばしキョトンとしていたマルチであったが、ようやく事態を飲み込んで、いきなりあ
たふたしながらペコペコとうちわのようにお辞儀を繰り返した。
「あ、あの、す、すみません。 わ、わ、わ、わ、わわわ、わたしのために、そ、そそそ
そんなご迷惑をおかけしてしまって…」
 泣きながら、どもってろれつの回っていないセリフを発する。
 目の前の少女は超高性能のメイドロボットでありながら、能力的には普通の人間と変わ
らない、それどころか明らかに人間以下に劣っているモノも多い。
(だけど、感情をここまで素直に表せるヤツなんて、人間でもどれだけいるのかな?)
 浩之はそんなことを漠然と考えていた
「しかし、いくら校舎内に限定されると言っても、しらみつぶしに探すってのはちょっと
ねぇ?」
 志保は腕組みをしながら、左手の人差し指を頬に当てて考え込んでいた。
「とりあえず、適当にマルチちゃんの行ったところを手分けして探して見ようよ」
 その提案はもっともで、と言うよりはそれしかない様に思えた。
 マルチだけはまだ目を腫らして、オロオロとしている。
「仕方ねえなぁ」
 ほとんど自分に言い聞かせるように呟いて、女性陣を見回す。
「とりあえず、お前らは各自で捜索してくれ。 マルチは恥ずかしいんだろ? ここにい
ると良い」
(にしてもなぁ、どうして耳を見られるのがそんなに恥ずかしいかな?)
 マルチは耳を見られることに対して極度に恥ずかしがる。
 裸を見られても、それほど恥ずかしがらないのに、何故か耳を見られることに羞恥心が
働くのだ。
 浩之にはメイドロボットの気持ちがよく分からなかった。 もちろんそれは浩之に限ら
れたことではないだろうが。
 だが、どうであろうと、マルチが恥ずかしいというのならそれが全てなのだ。
 深い理由を詮索してもしょうがない。
 少なくとも今は、そんなことよりもやることがあるのだから。
「ヒロは、どうするの?」
「俺か?」
「そう」
「助っ人探してくる」
「助っ人?」
「人手が欲しいからな、ちょうど心当たりがあるし」
「オッケー」
 得心がいったようで、志保は即刻教室を出ていった。
「さっさと探して来ますかぁ!!」
 大声で一人ごちるのが廊下から聞こえた。
「あかりも、頼むぜ」
「うん、早く探して帰ろうね」
「おう」
「すみません…わたしのためにみなさんにご迷惑をおかけして…」
「気にすんな」
「そうだよ」
「ですが…」
「なぁ」
 浩之は、ポンとマルチの方に手を置き、言った。
「俺達はお前よりも年長者なんだぜ。 後輩の面倒くらい見させてくれよ、な」
 そして、浩之の手がゆっくりと動いてマルチの頭の上に乗る。
 その手がマルチの髪を優しくなぜるたびに、涙と鼻水でくしゃくしゃだったマルチの顔
が安らいでゆく。
「はぁ…」
 マルチは思わず目をつむって、浩之の愛撫を受けとめている。
 まるで赤ん坊のように安心しきった顔を見て、浩之は満足したように頷いた。
「じゃ、行くからな。 ここで大人しく待ってろよ」
「じゃ、あとでね」
 マルチは目を開いて、自分と違う存在である二人を交互に見て、
「はい!」
 元気良く笑った。
「お、元気になったじゃねーか」
「はい」
「良かったね」
(色々と表情の忙しいヤツだけど、やっぱ笑っている顔が一番だな)



「なぁ、頼む」
 合掌して拝み込む。
「ウチだって忙しいんよ、ヨソあたってくれへんか?」
「そんなこと言わないでさぁ。 人手が欲しいんだよ」
「一体なんやの? その探してくれって? ウチだって暇じゃないんやから、いきなりそ
んなこと言われても困るわ」
「だから言っただろ? マルチのセンサーが無くなって困ってるって」
「そんなもん無くてもいいやん」
 きっぱりとそう言いきった。
(確かにそうなんだけどさぁ)
「委員長からすればそうだろうけどな。 けれど、マルチのヤツにとっては、大切なモノ
なんだぜ」
 浩之は滅多に見せないまじめな表情を見せていた。
「…………」
 委員長と呼ばれた少女は、浩之の顔を見て考え込んだ。
 少女は三つ編みのおさげに、縁が広い眼鏡をかけている。
 目つきは鋭くてどこか堅そうな雰囲気の少女なのだが、実際その通りの人物で名が通っ
ていた。
 成績は優秀で非はつけられないが、人を寄せ付けないその態度は他人を近づけることも
容易にさせなかった。
 それが、保科智子である。
 真っ直ぐに浩之は智子の目を見た。
 瞳に含むモノはない。
「しょうが…あらへんなぁ」
 ふぅと、ため息をついた。
「じゃあ…」
「藤田君の頼みやし、しょうがないわ」
「サンキュー、恩に着るぜ!」
 それで、浩之が顔に喜色を浮かべると、それを見て、
「けど、条件が一つ」
「え?」
「今度の日曜暇なんや、ウチをどこか遊びに連れていってくれるなら、その頼み聞いてや
ってもええ」
 言った智子の頬は少し紅をさしていたが、あまり明るいとは言えない放課後の校舎によ
って隠されていた。
「ウチ騒がしいの嫌やから、二人きりで、やで」
「なんだ、そんなことオーケーに決まってるだろ」
 しれっとした口調で、答えた。
「…なら、手伝ってあげるわ」
「委員長…」
「なに?」
「ありがとよ」
 浩之は智子を見て闊達に笑った。
 それは、少女の動悸を速めるには十分な効力があったのだが、
「し、しらへん。 も、もういいやろ! ウチ行くから!」
 薄暗い明るさでは隠しきれない頬の赤みは、すたすたと去っていったせいで結局浩之が
気づくことはなかった。



 数十分後。
「見つかった?」
「見つからねぇ」
「志保ちゃんネットワークを駆使しているというのに、何で発見出来ないのよう!」
「色々と聞いてみたんやけどなぁ」
 それぞれ報告してみたが、結局実りはない。
 ただ、分かったことは授業が終わるまではマルチはいつもと変わりなかったらしい。
「そうなると、マルチが掃除しているときくらいしかないんだよな?」
「確かに、それしかないわ」
 けれども、それ以上の情報は何もなかった。
「み、みなさま、もういいです。 これ以上はご迷惑はかけられないです」
「アカン」
「ですけど…」
「中途半端が一番アカン。 少なくともこれだけのことをやったんや、何の収穫もなくこ
れで終われるわけないやろ」
 意志の強い眼がマルチを射抜く視線で見た。
「そのとおりだよ。 もうちょっと頑張って見ようよ」
「あたしの一番嫌いな言葉が、無駄な努力、なのよね。 これだけ頑張ってなんにもなら
なかったなんて、自分が許せないわよ」
 口々に言うが、そのセリフの中にマルチを責めるような部分は全くない。
「みなさま…有り難う御座いますぅ。 みなさまにここまでしていただけるなんて、わた
しは、わたしは、三国一幸せなメイドロボットですぅ」
 マルチは泣き笑いに顔をゆがめた。
「ほら、泣かない泣かない」
 あかりは持っていたハンカチで涙を拭って、ティッシュで鼻水を拭いた。
 子供をあやすお母さんのと言う光景がまったくもって似合っていた。
 浩之は何気にそれを見ていて、
(あかりが母親で、委員長が立派なお姉さん。志保が出来の悪い次女で、マルチは甘えん
坊の末っ子…じゃあ、父親は誰だ?)
 そんな疑問が浮かんで、さらにそんなことを考えた自分が馬鹿らしくなって、思わず苦
笑してしまう。
 けれど、前にいる少女達を見ていると、何故か家族という言葉がしっくりきてしまうの
も事実だった。
(まぁ、それはともかくとして)
「マルチ、今日はなんか変わったことはなかったのか?」
「はい?」
「いつもと変わった何か、特に放課後」
(こうなったら、マルチに聞き出すしかないな)
 何かヒントがあるかも知れない。
「手がかりが少なすぎるからな、マルチの記憶から、何かヒントでもつかめればいいかと
思ったんだ」
「ああ、そうですか…でも…なにかあったかな…」
「些細なことでも良いからさ」
「スズメさん達に餌をやりました」
「…関係ないと思う」
「志保、うるさい、黙ってろ。 マルチ、続けてくれ」
「みなさまにお別れの挨拶をしてました」
「他には?」
「レミィさんの流れ矢が飛んできました」
「…あまり…関係なさそうだな…多分…」
「これにも突っ込んだら駄目なのかしらねぇ?」
「弓道部、廃止になっても知らへんで、まったく」
「あと、猫さんとお話ししていたり」
「…次」
「窓ガラスがいきなり割れました」
「不思議なコトって有るんだねぇ」
「…何となく理由は想像つくから―――次」
「あ、そうだ」
 マルチはポンと手を叩いた。
「何だ、何か思いだしたのか?」
「そういえば今日、セリオさんが来ていました」
「セリオが? なんでだ?」
 学校も違うセリオが何故ウチに来たんだ?
「さぁ? わかりません。 ご挨拶はなされましたが、それだけです」
「挨拶だけ? …それは何かおかしいな」
 違和感があった。
 それに、何故セリオがウチに来たのか?
「なにか、ありそうやな」
「そう思うか?」
「当たり前やん」
 さも当然だという智子。
「セリオちゃん、そういえば最近よく見かけるね」
「フフフ、事件の核心はHMX−13にあり、ってわけね?」
「決まったワケじゃねー、偶然だってコトもあるが」
(やはり確認しておく必要は有るな)
「志保、ちと来栖川先輩のウチにかけてみてくれねーか」
「いいわよぉ」
 言葉の裏を察したのであろう。 颯爽と、鞄からPHSを取り出し、ボタンをプッシュ
する。
 数回のコール音が鳴ったあと、繋がった。
「あ、あのう、わたし長岡志保と言いますが―――」



 来栖川邸宅。
 来栖川財閥の豪邸である。
 その中の一室―――来栖川綾香の部屋。
「セリオ―――ねぇ、一体何してるの?」
「座っています」
「そんなことは見れば分かるわよ」
「どうかしましたか?」
「どうかしてるのはあなたの方! いったい何なのよ、その耳!」
 綾香はHMX−13 セリオ―――マルチの姉妹機を見た。
 そこにはいつもと違うセリオ、と言っても変わっているのはほんの一部。
「これは、マルチさんのカバーセンサーです」
「…何であなたが着けてるのよ?」
「なんというか…」
「なんなのよ?」
「マルチさんのを着けていると、背徳の香りがして興奮するというか…」
 確かに、心なしかセリオの表情は恍惚としたものになっていた。
 わずかに息も荒いようだ。
「セリオ」
 綾香はギラリと睨んだ。
「はい」
「返してきなさい。 い、ま、す、ぐ、に」
「…仕方有りません」
「当たり前でしょ!」
「ところで…」
「何よまだあるの?」
「綾香様もこれを着けてみませんか?」
 一瞬後、問答無用で綾香の拳がセリオにめり込んだ。
「ジョークなのに」
 それでも、殴られても顔色一つ変えないセリオだった。
「何処で覚えたのよそんなジョーク!」



 結局、

 セリオはこの騒ぎの主犯としてこっぴどく叱られたという。

 智子は、降って湧いたような充実した休日に喜んだという。

 志保は、相変わらず浩之とも喧嘩が絶えなかったという。

 あかりは、笑顔の奥に刃を潜ませていたという。


 浩之、そしてマルチは―――
「今日一日、お礼として浩之さん専用になりますぅ」
「ワリィなぁ、じゃあ、掃除頼むわ」
「はい!」
 人とメイドロボットの関係はただ使役されるだけでは無いのかも知れない。
 少なくともこの二人を見ていると、主従関係というモノが感じられないのだ。
 それが正しいことなのかは、まだ誰にも分からない。



「ありがとな、マルチ」
「喜んでもらえて嬉しいですぅ!」



―――(終わり)―――


あとがき
50000ヒット記念だというのに、どれだけ遅れたのでしょう(^^;
カウンタの増加、早すぎますよぉ。
で、今回のお話は、まったく暗くないです。
と言うか、記念小説に暗いモノを書くのはやめにしたっす。

それでは、Hiroさん、これからも頑張ってくださいまし。


 ほのぼの〜〜〜〜〜〜(´`)    なんか、みんなの雰囲気がすっごく良いですぅ〜。  こういったSSを読むと心があたたかくなりますねぇ。  あぁ、幸せ(笑   >「マルチさんのを着けていると、背徳の香りがして興奮するというか…」 >確かに、心なしかセリオの表情は恍惚としたものになっていた。   あうっΣ( ̄□ ̄  最近、セリオ萌え指数が急上昇している私にとっては、こんな恍惚とした表情などをされた日には……。  はっきり言って、ガード不能です(*^^*)  しかし……背徳の香り……かぁ(^ ^;     おーちゃんさん、とっても素晴らしいSSをありがとうございました\(>w<)/



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